Sun.

ネルカ城砦跡 1  

 ”憩いの滝”から≪森のオカリナ≫という友好の証を持ち帰った”金狼の牙”たちは、懐かしの我が家である≪狼の隠れ家≫に戻り、ゆったりと疲れを癒した。
 その2日後、彼らはとある建物へと向かった。
 春の装いになった交易都市リューンは、花売りの女性たちやら、新装開店した店舗の宣伝やら、ニューモードの衣服やら、とかく様々な色彩に溢れている。
 人通りも雪に閉ざされていた季節とは比べ物にならない。
 ともすれば人ごみに流されそうになってしまう華奢なアウロラやミナスを、アレクとエディンで保護しながら目的の場所へと進んだ。
 
「早くいらっしゃいよ!」
「皆、大丈夫かー?」

 白に近い灰色の石段に足をかけた2人が残りの仲間を呼ぶ。
 全員が集まったところで、ギルが樫の重いドアに手をかけた。
 小さな鈴が鳴る――久々の音だった。
 部屋の奥に腰掛け、たくさんの地図に埋もれている男がこちらを向いた。
 誰であるかを即座に認めたのだろう――地図作製組合の主任は、満足げな微笑みを口に浮かべつつ、ドワーフ製の丸眼鏡をくいっと指で上げて言う。

ネルカ城砦02

「ルーンディア支社から、皆さんへ探索ポイントが届いていますよ」 

 ギルが苦笑いを閃かせながら、羊皮紙の束を取り出した。

「ずいぶん待たせたようで悪かったな。これ、あっちの地図とレポート」
「助かりますよ、なかなかこちら方面の報告は少なくて」

 ついでに、神精族とその巫女たちと出会うこととなった事件で立ち寄った、真紅の都市――ルアーナでのポイントも入っていると言うので、”金狼の牙”たちは黒曜石とポイント交換をしてもらった。

ネルカ城砦01

 黒く硬い鉱石をいそいそと荷物袋に収めるジーニを横目に、アレクは何か変わった遺跡の情報でも入っていないかと主任に声をかけた。
 クレーマーは腕を組み、しばし考え込む。

「うーん・・・・・・ああ、そうだ。”金狼の牙”の皆さんは、不滅城砦のことはご存知ですか?」
「不滅城砦・・・?」

 ギルとアレクが首を傾げる。
 遠い昔、不滅城砦の名で恐れられていた砦があった。
 幾度崩しても再生する城壁、何度倒れても蘇る兵達、西国の民にとってそれは悪夢以外の何物でもなかった。
 誰が如何にしてその砦を攻略したのか歴史は語らない。
 今はただ、砦の躯が横たわるのみ――。

ネルカ城砦03

「そういう城砦跡があるそうです。ただ、不滅の元となった魔法石だか何だかを狙った冒険者が何名か、行方不明だとか・・・」
「・・・そいつは物騒な話だな」

 エディンは軽く顎を撫でつつ感想を述べた。
 しばらく話をじっと聞いていたジーニが、ふと紅唇を開く。

「ねえ、それってフィネルカの近くの城砦のこと?」
「おっと、ご存知の方がいらっしゃいましたか」
「不滅城砦なんて名前じゃ分からなかったけど・・・。ネルカ城砦でしょ?賢者の搭からも何名か探索隊を派遣したとは聞いてたのよ。そういや、帰って来たって報告は耳にしてないわね」

 ジーニによると、あの土地には高度な魔法文明の名残がいくつも残されているらしい。
 だからこそ魔術師学連の上層部も、少々遠いために手を出しかねていたその周辺の調査について、今頃手を出し始めたのだろうが・・・芳しい成果が聞こえてこないのは、何やら行方不明の事件と絡んでいるのだろうか。

「ふーん・・・ってことは、もうちょっと待てば賢者の搭から正式依頼が来るかな?」

 ミナスがそう仰ぎ見ると、アウロラは「むしろ・・・」と考えつつ言った。

「今のうちに我々で調査をしてしまえば、まだ眠っているであろう魔法文明の遺産により多く出会えるかもしれません」
「そいつぁなかなかいい考えだが・・・。魔術師学連で囲ってる遺跡じゃねえのかい、ジーニ?」
「あら、その辺は大丈夫よ。別に、遺跡調査をするとネルカ城砦のある国に正式に申請したわけじゃないから」
「正式申請すべき遺跡かどうかの判断をするための、隊派遣だったのか・・・。いなくなったという冒険者の何名かも、案外その辺りから依頼を受けたのが混じっている可能性がありますね」

 時に聡過ぎるほど聡い僧侶兼吟遊詩人の言葉に、一同は顔を見合わせた。
 アレクがジーニに問いかける。

「その、魔法石とやらだが・・・。何の力を持つものなんだ?」
「神の秘蹟に近い力があるんだって。それも1個で複数の作用があるとか・・・だから高く売れるのよ」
「なるほど。同業者が狙いそうな代物だな、確かに」

 魔法的な力を持つ傷薬が、一夜の宿代よりも高くつく昨今である。
 そんな秘蹟と同等の力を持つ石があれば、確かに冒険者が採掘を狙うのも無理はない。
 きらりと眼鏡を光らせたクレーマーが、

「もし行くのなら、あそこの周辺地図もお願いします」

と彼らに頼んだ。

「たった今いいものを貰ったばかりだし、ノーとは言えないな」

 苦笑したアレクがちらりとギルを見た。
 幼馴染は視線の意味に気付き、小さく首肯する。

「じゃ、ちょっと行ってくるとするか。クレーマーさん、悪いけど他のパーティには黙っておいてくれよ、この話」
「えこひいきは不味いんですが・・・こればかりは早い者勝ちですからね。仕方ないでしょう」

 不承不承といった態で頷いたクレーマーだったが、新しい地図の予感に口の端が上がっていたことは、皆読み取っていたのであった。

2013/05/05 05:24 [edit]

category: ネルカ城砦跡

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