Tue.

月光に踊る長靴 2  

「こちらです、ご主人様」

 一行を一室に待たせたジュビアが案内してきたのは、中年も後半に差し掛かってきた風貌の男性である。
 どこか控えめに、先ほどの少女も付いてきている。

「皆様、こちらはカファール候グルナード様でございます」
「ああ、よろしく」

 鷹揚に挨拶したその男の身分を聞いて、ジーニとエディンは驚いた。
 カファール候と言えば、領地の堅実な治め方で有名な侯爵である。
 文弱そうだが、それは見かけだけなのだということが、候の意志の強い瞳を見ると理解できた。

「君達のことは、そこのジュビアから聞いたよ。旅路の途中、引き留めてすまない」

 一行は別に構わない、と返事をして、さっそく少女―――カファール候の令嬢プルクラの依頼内容について聞き出した。
 なんでも、数日前から彼女の飼い猫がいなくなってしまったという。
 雪のように真っ白なその猫は名前をコーシカといい、村中を探し回ったが、まだ見つかっていないらしい。
 たかが猫とは、候やプルクラの真剣な眼差しを見ると、言うことはできなかった。

ScreenShot_20120920_001647531.png

 ジーニが報酬を確認すると、なんと銀貨2000枚を出すという。
 猫探しとは厄介だが、リスクの小さそうな依頼で銀貨2000枚。相当美味しい仕事と言える。

「わかりました。お手伝いしましょう」

 エディンが力強く請合うのを見て、ギルとアレクが苦笑した。
 ジュビアが配った飲み物を手に候の話を聞いてみると、この村には避暑の時にしか訪れないそうだ。
 コーシカを拾ったのは2年ほど前で、プルクラが見つけたという。
 すっかり衰弱していたのを必死で看病し、育てたというのだから、いなくなってどれほど心配か、想像に難くない。

「ところが2、3日前のことだ。ふい、とコーシカがどこかへ消えてしまったのだ。屋敷中どこを探しても見当たらない」

 候は深くため息をついた。

「あれだけ娘になついていたのが、どこかへ去ってしまうとは考え難い。何か事件に巻き込まれたか、と娘は心配の極みで村中を今も探し回っている」
「妹や弟のように思っていたなら、そうでしょうな」

 ギルが頷くのを、驚いたようにアウロラが見やる。
 この猪突猛進なリーダーが、プルクラ嬢や候の繊細な気持ちに理解を示すとは意外だった。
 実は、ギルは内気で人見知りだったために、アレクという親友が出来るまで、身近な小動物たちを可愛がっていた過去があるのだが、それを知る者は少ない。

「なるほど。事情は概ね解りました」

と頷いたエディンが、候やプルクラ、ジュビアから事件に関係するかもしれない事柄を、順序良く聞いていく。
 コーシカではないとは言え、村の近くの森で他の猫を見かけた、というプルクラの証言を得た一行は、村ではなく森を重点的に探してみようということになった。

 そして一夜が明ける・・・・・・。

2012/11/06 05:12 [edit]

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Tue.

月光に踊る長靴 1  

「んー・・・短期の依頼、立て続けに引き受けたから疲れたわねえ」
「だよなあ。みんな、今日は野宿じゃなくて村で宿でも取ろうか?」
「あら、ギル。この先に村があるんですの?」
「あるある。親父さんから聞いた話が確かなら、この辺で見えてくるはずだぜ」
「あ!ねねっ、ギル。もしかしてあれ?」

 それは、一行がフォーチュン=ベルの依頼を終えたばかりの話。
 ゴブリンや海賊を退治した彼らは、リューンへの道中、ミナスが発見した小さな村の宿でその晩を過ごすことにして、就寝前の一服、と洒落込んでいた。

「あの・・・・・・」

 そこに声をかけたのは、まだ年端もゆかぬ少女だった。
 簡素だが上物の服装が、興味をそそる。

(デザインはシンプルだけど、この桃色は珍しい染料ね。よほどの金持ちじゃなきゃ、こんな布使わないわよ・・・。)

 ジーニの鑑定眼が密かに光る。
 横に座る魔法使いの思惑には気づかず、まず少女にエディンが応えた。

「どうしたんだい、お嬢ちゃん」
「あの・・・・・・。みなさんは、冒険者の方々・・・・・・ですよねっ」

 手の中の酒杯をゆっくり置いたアレクが、少女の勢い込んだ口ぶりに何を感じたのか、眉をひそめる。

「そう、だけど。何か?」
「あの、みなさんにお願いしたいことがあって・・・・・・」
「・・・・・・お願い?」

 この依頼はもしかしたら金になるかもしれん、と判断したエディンが用件を反復する。
 アウロラとミナスは、エディンの後ろで甘い菓子を分け合いながら、事の推移を見守っていた。
 リーダーであるギルは、珍しく押し黙っている。

「ええ。報酬がお要りならわたし―――」

 少女は持っていた可愛らしい、大事にしているのであろう陶製の貯金箱をかちゃかちゃと鳴らした。
 ずっと貯めているのだろうか、それなりに量があるように貯金箱の銀貨は唄う。
 金貨の澄んだ独特の音ではないことに気づいたエディンとジーニが、心持ちがっかりした顔になる。
 代わりに、少女の真剣さに心を打たれたらしいアレクが、身を乗り出して少女を促した。

「こんなので果たしてみなさんの報酬に足るかはわかりませんけど、でもどうしてもお願いしたいんです」
「真剣なんだな」

 すかさず頷く少女に、エディンがうーんと腕を組んで唸った。
 少女はさらに声を高めて言い募る。
 必死、というより何か大切なものへの愛情で瞳が潤んでいる。

「不足なら、将来必ずお渡ししますからっ―――」
「―――話を聞こう」

 それまで黙っていたギルが、とうとう口を開いた。
 少女の態度に、何か思い当たる節があったらしい。
 ギルの発言に頷いたアレクが、自分の隣の席から椅子を一脚拝借し、少女に勧めた。

「詳しく聞こうかな。まぁまず、座って落ち着いて・・・」
「お嬢様!こんなところにいらしたのですか!」

と、話に割って入ってきたのは真面目そうな青年だった。
 どうやら少女を知っているようだ。

「お父様が心配しておいでです、帰りましょう。コーシカもいなくなってその上、お嬢様まで、など・・・・・・」

(コーシカ?)

 初めて出てきた名前に興味をそそられたらしいジーニの横で、青年と少女の話しは続く。

「ジュビアさん・・・・・・。ごめんなさい。わたし、そんなことも考えられなくって・・・・・・」
「まあ、こんな夜遅くだしね」

 ミナスが、肩をすくめて言う。
 ジュビアと呼ばれた青年が、それに同意するように頷いて言った。

「いいですよ。謝るならお父様に言ってあげて下さい」

 そして姿勢を正して、一行に向き直った。

「貴方がたにもご迷惑をおかけして申し訳ございません」

 そうジュビアは一行に深々と頭を下げ、この場を去ろうとしている。
 少女も一行にぺこりとお辞儀をしてから、大人しくジュビアに従う。
 事情をもっと知りたいと思った一行は、2人を引き留めた。
 良家の子弟然とした態度で、アレクがジュビアに声を掛ける。

ScreenShot_20120919_235845703.png

「それは構いませんよ。ところで、お嬢さんに何があったのです?差し支えなければお教え下さい」
「・・・・・・・・え?」

 そのアレクの肩に、ひょいとギルが左ひじを乗せて、戸惑った態のジュビアに笑いかけた。

「俺たちはこれでも、何でも屋稼業の端くれさ。もし、俺たちで力になれることがあるんなら協力する」
「・・・・・・もちろん、それなりに戴くものは貰うけどな」

 ギルの宣言にぽそりとアレクが付け足すと、周りの仲間が笑った。
 彼らの快活な様子に、すっかり毒気を抜かれたジュビアは、

「あ―――ありがとうございます」

と言った。

「そう、ですね。それではどうぞ、ご案内いたします。詳しい話は、お屋敷でいたしましょう」

2012/11/06 05:10 [edit]

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