Thu.

satan 8  

 カウフマン。
 かの貴族が男達を雇い、親を人が食べたように見せかけて子供をさらうように命じた――そんな驚きの証言を吐いた男は、しかし”ヴァニラ”と言う男の目的や詳細を話そうとした瞬間、事切れた。
 時限式の魔法・・・・・・呪法に近いものだが、それが黒ローブの男の胸部を吹き飛ばしたからである。

25satan

 それでも、現場から真っ直ぐ治安局に戻り、冒険者たちはバイゼルや局員たちと共にカウフマン邸へと向かった。
 バイゼルは消極的であったが、軍の要人であるカウフマンを証拠の無いまま拘束することが出来たのは、彼が冒険者と共に屋敷へ踏み込んだ直後に起きた、裏口における惨劇のおかげとも言えた。
 8人の治安局員が【炎の玉】のような呪文で焼き殺された跡――そして、得物の短剣を裏口に残したままのミーナの不在。

「どこだ!!ミーナをどこに連れて行った!!」

26satan

 激昂したラングがカウフマンの喉元を掴みあげて詰問したが、それはアレクが羽交い絞めにして止めた。

「止めろ、ラング!」
「ウ・・・・・・ゲホゲホッ・・・・・・無礼者が・・・・・・」
「カウフマン殿」

 形式だけは恭しく「殿」と付けながらも、バイゼルの目は怒りに燃えていた。

「あなたの家から逃亡した者がいる。これはどういうことですか?」
「・・・・・・・・・さぁな?」
「どこへ逃げた!!答えろ、カウフマン!!」
「・・・・・・・・・愚民が。証拠があるなら咆える前に出せ。裏口で誰が野垂れ死のうと私には関係ないことだ」
「・・・・・・・・・クソッ。連れて行け」

 こうして治安局は彼の身柄を拘束したのである。
 しかし、カウフマンはそのふてぶてしい態度を改める事もせず、このままでは金による伝手を持った彼を拘留し続けることが出来ない。
 何かの証拠が残っていないかとカウフマン邸での調査をするも、無為に終わり苛ついた冒険者達が重い足取りで街中を通りかかると、そこには市民たちが妙に集まっている場所がある。

27satan

「魔王だ!魔王が蘇ったんだ・・・・・・!数日も立たない内にザンダンカルは悪魔で満たされ・・・・・・血の海に覆いつくされるであろう!!」
「この事態に、今の議会は何の手も打てずにいる!!ただ市民に事態を隠しているだけだ!」
「なっ・・・・・・!」

 話している内容にアレクは驚愕した。事件はある程度伏せられているのに、その話を持って市民を暴徒化しかねない扇動を行なう者がいるとは。

「我々は今こそ立ち上がり!議長の更迭!!更には全権限を軍に委ねるようにしなければならない!!」
「そんなこと・・・・・・!」

 前の圧政に戻るだけじゃないかと、ミナスがカッとなって進み出ようとするのを、慌ててエディンが襟髪を掴んで引き戻した。
 あそこに集っている市民は頭に血が上っている。よそ者でしかも亜人であるミナスが否定を唱えたら、どんな事をするか分からない。

「魔王を信じる市民にとっては街の破滅ってわけね」
「俺たちには理解できない話だがな」
「でも・・・・・・!」

 ジーニとギルが殊更静かな声で話していたのに、ラングが異を唱えた。

「もう誰も・・・・・・殺させない。ミーナだって・・・・・・・・・」

 だがちょうどその頃。
 貴族派の政敵たちによって更迭される危険性を重視した議長は、その伝手を使われる前にカウフマンの釈放をバイゼルに命じていた――。

「・・・・・・・・・すまん。もう尋問は出来ん・・・・・・・・・すまん・・・・・・」

29satan

 治安局にたどり着いた一行の前で、バイゼルは頭を抱えて落ち込んでいた。ミーナの捜索やカウフマンの調査に当たりたいだろうに、その人手を全て暴動と化しそうな市民の鎮圧へ回すようにとも命じられてしまったからである。
 アレクは静かに発言した。

「・・・・・・暴動の鎮圧も分かる。俺も途中で見てきたしな・・・・・・だが、だからこそ、カウフマンから情報を引き出すべきだ」

 暴動を起こしている市民は、まるで魔王が復活するとでも思っているようであった。多分、それこそがカウフマンの狙い。
 市民から選出した議長をこの騒動によって更迭させ、悪魔退治の名目で軍に全権限を預けさせる――クーデターである。
 それを聞いたバイゼルは、しかしもう議長は自分と話し合うつもりが無いのだと告げた。既にこれ以上、彼が打つ手は残っていない。

「ミーナのこと・・・・・・頼んだぞ・・・・・・」

 部下の事を案じているバイゼルは、最後までそれのみを口にして冒険者たちの前から去ったが、”金狼の牙”たちは目の輝きを失っていなかった。

「いずれにしろ、今はカウフマンから情報を聞き出すのが第一よ」
「・・・・・・・・・だな」

 アレクによるジーニへの同意に、ラングが焦りから口篭りながら訊ねる。

「で、でも、どうやるんですか!?もう釈放じゃ・・・・・・」
「すでに選択肢は無いわ。あとは決断しだいよ。・・・・・・でしょ、リーダー?」
「うん。よし、やるぞ。まずは・・・・・・・・・頼む」

 ギルが目を向けたのは、普段と変わらず眠たそうなエディンの顔である。
 「わかった」とだけ告げると、エディンはその場から音も立てず奥に消えていった。

「な、何をするんですか?」
「・・・・・・。ラング。冒険者にとって必要なのは何だ?」

30satan

「え?やっぱり・・・・・・いざっていう時に重要な決断が出来る事だと思います。僕には欠けてるけど・・・・・・」
「・・・・・・その通りだ。今必要なのは決断力」

 なら今からすべき事も分かるだろう、とアレクは落ち着いた様子で言った。

「すでに俺達に残された選択肢は多くない。つまり、目的達成の為には、やばい橋を渡る必要がある」

 それでも、自己犠牲を承知の上でミーナを救う覚悟がお前にあるのかと、アレクはラングに問うた。
 彼の返答はごく短かった。

「・・・・・・・・・勿論です」
「わかった」
「・・・おい」

 静かにエディンが舞い戻ってきた。

「奥の客間だ。もうすぐ釈放とあって警備も居ない。予想通りだな」
「よし」

 ギルが皆に頷く。
 バイゼルが先に渡しておくと卓上へ置いていった報酬を回収すると、彼らは颯爽と歩き出した。
 その後――それなりに見栄えのするよう整えられた客間から、釈放されてバイゼルへの仕返しを脳裏に描いていたカウフマンが消えた。

2013/04/11 18:10 [edit]

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Thu.

satan 7  


 ”金狼の牙”たちは、ミーナやラングと共に西南地区の周回に当たっていた。
 1時間ほど前から突然豪雨が降り出したために、全身がずぶ濡れになっている。視界は雨のせいで十数メートル先は見えない状態だ。
 酷い雨だな、と愚痴りつつ周回を続けていると・・・・・・。

「・・・・・・何か・・・・・・聞こえなかったか?」

 エディンが眠たげな目をじっと雨の向こうに据えて言った。

「え?」

 ミーナがぽかんとした表情で聞き返す。
 その隣で、ジーニも柳眉をしかめつつ「いえ、何も・・・・・・」と否定しようとしたが、そのとき犬の吠える声が全員の耳に届いた。
 アウロラが呟く。

「・・・・・・犬!?」
「・・・・・・行くぞ!!」

 ギルの号令で、全員が犬の声の方角へと走り出した。
 途中から犬が悲しげな咆哮をあげて静かになる。
 事態の切迫していることに嫌でも気づかざるを得ない・・・・・・”金狼の牙”たちは、泥はねにも構うことなく足の速度を更に速めて一軒の家になだれ込んだ。
 奥には血まみれの男女と、恐らくその子供らしき黒髪の幼児が倒れているが、こちらからでは生死の区別まではつかない。傍には息絶えた犬が転がっていた。
 その少し手前に、怪しげなローブ姿の男が二人。

「チッ・・・・・・何たることじゃ・・・・・・」

 年長らしき男の方が、冒険者たちをじろりとねめつけ舌打ちした。
 仲間たちですら滅多に聞かないような底冷えした声で、ギルが詰問する。

「・・・・・・何をしている」
「・・・・・・・・・」

 男たちからの応えは無い。

「何をしているかと聞いてるんだ!」

 ミーナはその声の怖ろしさにぶるりと身を震わせた。
 彼女は知らない――ギルには、”月姫”と呼ばれた少女との約束があることを。子供に愛情を与え、守ってやる大人になると彼は約束したのである。

「お主らには関係無いことよ。しかし、見られた以上、生きて帰すわけにはいかんな・・・・・・」
「・・・・・・それはお前らだ」

 言うなり、ギルの斧が唸りをあげて風をも切りうる斬撃を年長の男へと放ったが、その一撃は手前に立ち塞がった黒ローブの男に邪魔される。
 咄嗟に、横から踏み込んでいったエディンが【花散里】を放ち、ローブの男たちの身体を氷の花弁で切り刻む。
 たたらを踏んだ彼らに向かい、

「イフリートよ、その吐息の一部をここに!」

と言って、ミナスの小さな手の平から業火が迸り、ついに黒ローブの男が倒れる。
 しぶとく残っていた年長の男が、彼らに抵抗しようと何かの印を結び始めた瞬間に、アレクは熟練の舞い手のように躍りかかり≪黙示録の剣≫から不可視の風圧を放った。
 風の刃によってぼろぼろになったローブを握り締めつつ、年長の男は呻き声をあげる。

「な、なんじゃこいつら・・・・・・こんな手練れが居るとは、予想外じゃ・・・・・・」
「さあ、おとなしく捕まってもらおうか」

 でなければ殺す――言外にそれだけの意味を込めて、ギルが一歩踏み出した。

「クゥ・・・・・・かくなる上は・・・・・・」

 男の右腕が微かに動き、ルーン文字による簡易詠唱を呟く。すると、年長の男と倒れていた子供の姿が薄れていく・・・・・・。

「・・・・・・!?消えた!?」
「ど、どこだ!?どこにいった!?」

 ギルとラングが驚きの声をあげる。
 どうやら転移の術を使ったのだろうと、アウロラは苦々しげに言った。
 厳しい顔つきになったアレクが、そっと血まみれの男女の方へと近づく。
 エディンもそれに気づいて彼らの脈を取るが、既に手遅れであった。

「でも・・・・・・昨日の事件とは明らかに異なるな。父親は酷い状態だが、母親は一突きで殺されているだけだ」
「母親を食べる前に、俺たちが来たって事か?」

 残っている黒ローブの男をふんじばりつつ、ギルが訊ねる。

「・・・・・・わからないが、恐らくは・・・・・・」
「ちょい待って」
「ジーニ?」
「父親をもう少し詳しく調べて。少し気になる点が・・・・・・」

24satan

 エディンはそれ以上無駄口を利かず、父親の遺体を改め始めた。

「・・・!・・・・・・一見、食われている様に見える。が、散らかしているだけでどこも無くなっていない」
「つまり、食べたように偽装しているということですか?」

 アウロラのあげた声にエディンは小さく首肯し、髑髏の杖を顎に当てている仲間へ向き直った。

「なぜ、わかった?」
「こいつの口元を見てみて、エディ」
「・・・・・・そうか。血で濡れていない」
「最初の事件も偽装だった可能性は無い?」
「今となってはあまり自信は無いな」

 大人組みの静かなやり取りに、震えを抑えた声でラングが横槍を入れた。

「しかし、何故・・・・・・です?何故、こんな事する必要が・・・・・・」
「わからない・・・・・・わからないことだらけよ。それにまた子供をさらっていったわ。何故なの?」
「それは、この人から聞くとしよう」

 すっかり身動き取れないように縛り上げられた男へ、アレクは冷たい一瞥をくれた。

2013/04/11 18:06 [edit]

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Thu.

satan 6  

「・・・・・・大丈夫か、ラング?」

 アレクはそっとラングに声をかけた。
 彼は子供の遺体を見て軽い貧血をおこしたのである。
 ミーナから手渡された水を飲んで少し生気を取り戻したらしいが・・・・・・。

「先ほどは・・・・・・すみません・・・・・・動揺してしまって・・・・・・」
「・・・・・・しょうがない」

 あの現場ではな、とアレクは呟いた。

「だが、次は無いぞ。何を見ても、動揺だけはするな」
「わ、わかりました!」

 ラングは元々、他の仲間たちを引っ張っていく立場である。リーダーの責務を負う者が動揺しては、気づくはずの事にも気づけず、仲間の命を落とす原因を作るかもしれない。

「それで・・・・・・何かわかりましたか?」

 ミーナが遠慮がちに質問した。
 バイゼルが首を縦に振る。

「とりあえず、一から順を追って話そう」

 まず死体の状態は死後から大分経過しているようである事。このことから、子供はさらわれてすぐ殺されたのだろうと思われる。
 次に殺人現場。大量の血痕から言っても、発見された場所がそうと睨んで間違い無さそうだ。
 そして・・・死因。

「エディンが、非常に重要な点を発見してくれた」
「な、何ですか?」

 ラングが勢い込んで尋ねる。

「重要というか・・・・・・おぞましい話でもあるんだが・・・・・・」

と注釈を付けておいて、エディンは死体にはある痕跡があったと短く指摘した。

21satan

「・・・・・・恐らく食べられてる」
「なっ・・・・・・」

 流石に絶句したラングに、エディンは腹や太ももなどの柔らかい場所を中心に、子供の肉がなくなっていた事実を説明した。
 そして、人が食べたのであろう痕跡があるということも。

「人が、人を食べるなんて・・・・・・そんな事あるわけない!!あれは・・・・・・あれは、魔王の仕業です!!」

 激昂したラングに、エディンは苦い顔で答える。

「俺もそう思いたいところだがね・・・・・・だが、二つの証拠がそれを示している」

 1つ目は子供の連れ去り方。野犬やその類ではあり得ない・・・・・・少なくとも、人と考えるのが妥当である。
 2つ目は足跡。現場に大量の出血により、不完全ながら足跡が残っていた。足のサイズは人と同等。そして何より、二足歩行で歩いている・・・。
 バイゼルが口を開いた。

「問題は動機だ。それが全くわからん。あれじゃあ、まるで・・・・・・・・・」
「食べたかった・・・・・・」

 ぎょっとした顔でラングがエディンを見つめた。バイゼルの言葉尻を奪ったエディンの台詞が、まるで犯人の自白のように聞こえたからだ。
 エディンは顎に微かに残っている髭を弄りつつ、真っ直ぐにラングの碧眼を見返した。

「そうとしか考えられない・・・・・・」
「狂ってる・・・・・・」

 苦悩から頭を抱え込んでしまったラングをそのままに、ジーニはバイゼルにこれからどうするのかと問う。

「そうだな・・・・・・まずは、現場付近の家を一軒ずつ聞き込む。犯人がまだ近くに潜んでいるかもしれないし、何か目撃情報があるかもしれん」
「妥当なところね」
「局員もなるべくこっちの担当に回す。失踪事件から、凶悪な殺しになっちまったからな・・・・・・・・・」
「じゃあ、あたしたちも聞き込みに回る?」
「いいのか?俺がお前たちに頼んだのは、子供の捜索だ。犯人の確保じゃない」

 バイゼルの言葉に、ふんと鼻を鳴らしてジーニは言った。

「何を言ってるの。依頼を受けた時点で、犯人の確保まで当然含まれているわ」
「じゃあ、少しだけ待っててくれ。人員を整理した後で、担当区域をミーナに知らせる」

 ・・・しかし、割り当てられた担当区域の調査ははかばかしい結果を生むことは出来ず、一行は他の区域の報告を治安局で待つことになった。
 すでに時刻は夜となっている。

「! 戻ってきたか!?」

 バイゼルが駆けてくる足音にハッと顔をあげる。
 一人の治安局員が、息を切らしながら戻ってきた。深刻な表情をしている。

「た、大変ですっ!新たに行方不明者が出てます!」
「な、なんだとぉ!」
「また子供がさらわれたのか!?」

 アレクがそう問い詰めると、治安局員は激しく首肯した。

「は、はい。子供です!しかし、今度は両親が・・・・・・・・・殺されています」

22satan

「クソッ!なんて事だ!」

 犯人への憤慨を露にするバイゼルを余所に、ジーニは現場の状況を説明するよう治安局員へ促した。
 子供の両親は寝室で殺されており、部屋中が血の海になっていると言う。
 昨日の夕方頃には被害者の目撃証言があった事から、犯行は恐らく昨日の夜から今朝にかけて行なわれたことが分かっている。

(最初の犯行が一昨日の夜・・・・・・そして、昨日か・・・・・・ペースが早い・・・・・・・・・)

 ジーニは心中でそう呟きつつ部屋の物色跡があるかを訊ねたが、めぼしい金品が残っている事から物取りとは思えないと返答があった。
 周辺捜索はまだ行なわれておらず、これからすぐ捜索を開始するそうだ。
 死体の状況などから見ても、恐らく同一犯で間違い無いだろう。

「・・・・・・・・・わかった。とりあえず、現場に案内して。まず、状態を見てみたいわ」
「ああ、そうしよう・・・・・・」

 そう、バイゼルが頷いた時。
 また別の治安局員が、子供の失踪を知らせに来て――――結局、ザンダンカルで計三名もの子供が失踪していることが判明した。
 驚愕の事実から水を打ったように静まり返った治安局内で・・・・・・まず発言をしたのは、ギルであった。

「バイゼル」
「・・・・・・な、なんだ!」
「わかっているとは思うが、今すぐ動く必要がある」

23satan

 犠牲者が急激に増え、しかも犯行はいずれも恐らく夜。今この時間帯に再び事件が起こっている可能性は高い・・・・・・。

「今すぐ、西南地区の各所に治安局員を配備し、警戒に当たらせた方がいい」
「わ、わかった」
「・・・・・・冷静にな、バイゼル。上の動揺は下に伝わる」
「・・・・・・そうだな。悪ぃ」

 そして彼らも動き出す――。

2013/04/11 18:05 [edit]

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Thu.

satan 5  

 紆余曲折はあったものの、結局ラングと”金狼の牙”たちは危険手当と拘束期間の二つについて再確認を行い、その依頼を引き受ける事にした。
 例によってラングは感情論と彼個人の正義感で引き受けようとしていたため、アレクは依頼の内容をよく吟味し、自分の能力と照らし合わせた上で引き受けるよう進言していた。
 だが、他の者達もまた、子供の安否を気遣っていたのである。
 ミーナの案内で子供が失踪したバッカス家に移動する。
 ほとんど有益な情報を持たない両親から話を聞いた後、一行は息子の部屋から何か得るものがないかと探索を開始した。

「まず・・・・・・エディンさんの意見を伺いたいです。この部屋に侵入する経路は?」
「・・・・・・そうだな」

 エディンはラングの言葉にさっと眠たげな目を部屋に走らせると、小さく頷いて言った。

17satan

「目の前に見える窓・・・・・・俺たちが入ってきたドア・・・・・・この2箇所以外は考えられないな」

 そして、「ちょっと待ってくれ」と言うと窓に近づき、手慣れた手つきで調べ始める。

「鍵は外れている」
「外れている・・・・・・という事は?」

 きょとんとした様子のミナスに、間髪いれずエディンは答えた。

「ここから侵入した可能性が高いな。それに・・・・・・・・・」
「それに?」
「何かを引きずった様な跡がある」

 エディンは窓に残った微かな痕跡を指でなぞりながら呟いた。
 ジーニが柳眉を顰める。

「・・・・・・子供を?」
「恐らくな」
「・・・・・・・・・手慣れた者の犯行ですか?」
「いや、違うな」

 やや青ざめた感のあるラングに否定の回答をし、有能な盗賊の指がするりと窓に付けられている鍵を撫でた。

「ここの鍵は幼稚なもので、軽い衝撃で簡単に外れる。お前でも外せるよ」

 他に手がかりがないかどうかを確かめるため、くまなく部屋中を調査するも、そのほかに分かったのは、争った形跡がないために寝ている所を襲われたのだろうと言う推測くらいであった。
 考えられる線としては子供浚いか、怨恨か・・・・・・ジーニの言葉に顔を見合わせた一行は、ラングの主導で近所の聞き込みも行なったが、精々がバッカス家は仲のいい家庭であることが裏づけされた程度だった。

18satan

 有力な手がかりも得られぬまま宿に帰り、翌日5日目。
 事件は大きく動いた・・・・・・・・・最悪な形で。

19satan

「ゆ、行方不明の子供が見つかったようです!」
「何だと!?どこで見つかった!?」

 冒険者達が途中経過を報告しに来た治安局にて、突然飛び込んできた治安局員の一人がバイゼルに叫んだのは、もう昼も過ぎた頃のことであった。

「西南地区16番街の裏通り!特徴が酷似しているとの事です!」
「無事なのか!?」
「い、いえ、まだそこまでの情報は・・・・・・見つかったというだけで・・・・・・」

 舌打ちをしたバイゼルは、ミーナや”金狼の牙”たちを引き連れて現場へと急行した。
 傍らにいる、母親の代わりに小さな甥を心配して治安局に訪れた若い叔母を放置して・・・・・・。

「この辺りだな・・・・・・」

 バイゼルと冒険者たちは路地裏に到着した。日が出ている時間帯にもかかわらず、非常に薄暗く、辺りの視界がはっきりしない。
 遠めに2、3人の人だかりが見える。

「あそこか!」

 バイゼルの言葉と共にその場へ駆けつけると、治安局員の一人が青ざめた顔でこちらを振り向いた。
 皆が絶句する。目の前にあったのは――。
 一面を覆う血痕と・・・・・・散らばる内臓と肉片・・・・・・。

「な・・・・・・な・・・・・・・・・」

 言葉を失ってラングが口を戦慄かせる。碧眼である彼の目は、地面に無造作に置かれた子供の首に注がれていた。

「こんな・・・・・・・・」

 こんな無残な結果に終わるとは、という言葉を辛うじてアレクは飲み込む。
 子供が見つかったとすっかり興奮した若い叔母が、子供の母親を引っ張って現場にやってきてしまった事に気づいたからだ。

「ここよ!ここよ、姉さん!」
「デューク!デュークはどこ!?」
「なっ!だ、駄目だ!」

20satan

 慌てて彼女たちから酷い状態になっている子供の姿を隠そうとするも、時は既に遅く――。
 子供の空ろな眼と、母親の眼が合う。

「デュー・・・ク・・・・・・?・・・キャーーーーーーーッ!!!」

 母親の悲痛な叫びが、その場に木霊した。
 冒険者たちも、その場に立ち尽くす以外無かった・・・・・・。

2013/04/11 18:04 [edit]

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Thu.

satan 4  

 史跡局の調査の変化は、3日目に現れた。

「!!おい!!」

 エディンの指摘に皆が注目すると、今までとは違い、本ではなく真っ暗な小さな穴が見えている。
 本をどかしてもう少し穴を広げると、降りる階段の続く道が拓けた。決して広くはないが、人が2人ほど並んで通れる。
 ラングが小さな歓声を上げた。

13satan

「やったっ・・・・・・」
「よし。ようやく先に進めるな」

 ギルが小さく笑うと、仲間たちを先へと促した。
 数十メートル下ったところにある突き当たりに、扉を発見する。

「・・・・・・さぁどうする、ラング?動揺は死を招く、落ち着けよ」

 ギルが再び主導権を彼に渡した。
 この先に魔王がいるのかも知れないと緊張していたラングであったが、ギルの台詞に数回深呼吸をして冷静さを取り戻すと、

「・・・・・・無いとは思いますが、まずは罠の確認をしましょう」

と言って、エディンに調査を依頼した。
 承諾した盗賊が繊細な指の動きで扉やドアノブ、扉前の床などを調べていくが、やがて「・・・大丈夫だ。何も無い」と言って報告する。
 それを聞いたラングは唾をひとつ飲み込むと、やや上ずった声で言った。

「じゃあ、態勢を整えて、突入しましょう」

 扉を開ける役をミーナに任せ、その瞬間に冒険者達が突入する事となった。
 ぴりりとした空気が彼らを包み込む。
 前衛で戦うものは得物を構え、魔法を使うものたちは皆、杖や指輪に意識を集中して魔力を高め始めた。
 そしてラングの合図で呼吸を合わせ、部屋に飛び込んだ一行だったが・・・・・・。

「どこだ!?魔王!!」

 舞台上の勇者もかくやというタイミングと見得で入室したラングだったが、そこにあるのはひたすら古い本棚が2つだけであった。
 無言のまま気配を探っていたギルだったが、構えていた斧をゆっくりと下ろす。

「・・・・・・特に危険は無さそうだな」
「・・・・・・なーんだ。拍子抜けですね」
「油断は禁物だ。本棚を確認してみよう」

 一応は先輩格としてそうラングに注意したギルであったが、彼も少々肩透かしを食らったような気分であった。
 その後、部屋全体を確認したが、特に気になる点は見当たらない。単なる本置き場のようである。
 (議長が喜びそうな結果ね・・・・・・)と思いながら、ふっと肩をすくめてジーニが向き直る。

14satan

「ここはどうやら外れだったようね、ミーナ」
「・・・・・・その様ですね・・・・・・」

 案内役治安局員も張っていた気が抜けたようで、なんとも頼りなげな声を発した。
 史跡局の調査は、念の為に今日一杯を使って通ってきた通路を含め確認してみたものの得るものも無く、夜の訪れと共に帰宿した。
 その日の夜は、ミーナを交えて一杯だけというささやかな酒宴を開いた。なんといっても、片方の調査は済んだのだから。
 まずはラングが音頭を取る。

「じゃあ・・・・・・・・・乾杯!」
「・・・・・・だから、何か一言付け加えろよ・・・・・・昨日も言っただろ?」

 呆れたようにアレクが言うと、ラングは「そ、そう言われても・・・・・・何も思い浮かばないですし」と困惑したように頭を掻いた。
 そんなラングの様子を見て、にやりと嫌な笑みを浮かべたジーニが、

「ミーナのために!とかでもいいのよ」

とからかい出す。
 たちまちラングが赤面して抗議を始めるのに、ミーナはやや朱の入った顔でクスリと笑った。
 アレクが話を振ってみると、ミーナは生まれも育ちもザンダンカルで、この街から離れた事がないという。
 リューンのような大都会に憧れる気持ちはあるようで、どんなところなのかとラングや他の者たちに訊いてる。
 そんな中、アウロラは40年前にあったという革命について、宿の亭主にさり気なく尋ねてみた。

「当時、ここザンダンカルは、有力貴族のカウフマン家が支配していてな・・・・・・とにかく、やりたい放題だった」

 重税による貧困層の拡大、賄賂が招いた治安態勢の腐敗、貴族のみが儲かる制度の構築・・・・・・。
 市民たちは長い間、そんな腐りきった政治体系に苦しんでいたのだが・・・とうとう耐え切れず、40年前に革命を起こしたのだという。
 通常であれば、何の後ろ盾も持たない市民が革命を起こしたところで成功するはずもないのだが、ザンダンカル市民たちは幸運だった。
 彼らの後ろ盾には、カウフマンの圧政を苦々しく思っていた聖北教会がついたのである。
 その甲斐あってか無血革命が成功し、カウフマンは政治の表舞台から失脚を余儀なくされた。
 以降、ザンダンカルでは市民による議会制度が導入されている。

15satan

「ただし・・・・・・ここ2~3年の話だが、カウフマンの息子が軍の騎士団で台頭してきた。ようは金で爵位を買っているんだが」

 恐らく、その息子とやらが調査2日目に邂逅したカウフマンなのだろう。

「まあ。呆れた話ですね」
「うむ、失脚した父親の死がきっかけになったのかもしれん。政界に返り咲く事を夢見ているんだろう・・・・・・」

 今はまだまだ小さい影響力だが、何かをきっかけにクーデターを起こす力を得るかもしれない・・・と語る宿の亭主の目は、今の生活を手に入れてくれた者たちへの畏敬と、将来起こり得るかもしれない凶兆に揺れていた・・・。
 翌日の朝――。
 治安局からの依頼も4日目に入った。ラングが今までの史跡局での調査結果をバイゼルに報告し終わると、彼は厳つい顔をしかめる事もなく首肯した。

「そうか」
「これで、史跡局の調査は終了と言う事になりますが・・・・・・次の調査は・・・・・・・・・どうしますか?」
「その事なんだが・・・・・・」

 バイゼルは語尾を濁すようにしばらく言いづらそうにしていたが、ため息を一つつくと、教会の調査権をいよいよカウフマンに取られてしまったと告げた。

「悪ぃな・・・・・・」
「・・・・・・・・・別に俺達に謝る事じゃない」

16satan

 ギルはそう言ってバイゼルの腕を軽く叩く。
 そこまでは昨日の段階で覚悟していたことだったが、なんとバイゼルは他に頼みたい事があると言い出した。

「・・・・・・・・・別な仕事?」

 ミナスが小首を傾げてバイゼルに問いかけると、彼は子供の捜索についての依頼である旨を説明し始めた。
 昨日の朝から、両親が寝ている間に姿を消した子供がおり、今でもその行方は知れないままなのだと言う。
 現段階において、目撃証言もなければ有力な情報もなく、人手が足りないためにろくに捜索すらできていないらしい。

(失踪した子供の捜索・・・・・・こいつはちょっと厄介そうだな・・・)

と、ギルは思った。

2013/04/11 18:03 [edit]

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