「あのさー、僕知りてぇことあるんだけど」

 ある日の朝、もぎゅもぎゅと胡桃入りパンを頬張っていたテーゼンが問うた。

「ウィルって、どうして魔術師学院だかって所を辞めたの?」
-- 続きを読む --

2016/02/04 14:11 [edit]

category: 小話

tb: --   cm: 0
 ぶん、と勢いよく振られたスコップを辛うじて避けて、シシリーは目の前の家族同然の男から身を離した。
 幼い頃から、彼の膂力が常人とはかけ離れていることは承知している。
 ただの棒切れでも痛打を与えられるロンドが、見かけこそスコップに過ぎなくても、切れ味が良いだけの魔剣以上に恐ろしい武器を手にしているのだから、手合わせとは言え、必死に回避し続けなければならないのは自明の理だ。
 一合一合を真っ当に受けようとしたら、こちらの腕がイカレてしまう。
-- 続きを読む --

2016/02/04 12:59 [edit]

category: 小話

tb: --   cm: 0

Sat.

金狼の牙と碧の街3  

 さて、その頃――。
 緋色の髪を編みこんでまとめ、司教用の帽子に押し込んだアウロラは、まだ年若い可憐な容姿の修道女へと指示を飛ばしていた。
 マリスという名前のその修道女は、本来リューンにて冒険者として活動しており、たまたま依頼を受けていなかったために運悪く(?)聖海教会の司教から呼び出されたものである。
 よく日に焼けた健康そうな美少女なのだが、今は聖堂の端から端を、裾を翻しながら走り回らされている。

「あ、その花飾りの追加分は、すべて窓辺に飾るためのものです。白と黄色の二種類がありますから、交互になるように飾ってくださいね」
「は、はい!」
「それが終わったら、こちらにいる奏者の皆さんが飲み終わった杯を片付けること」
「わかりました~!!」

 ふう、と息をついた修道女は、自分の裾を踏みつけそうになって慌てつつ、どうやら知り合いらしい竪琴を抱えた青年がからかってくるのに、あくまで真面目に応答していた。
 その様子を眺めていたアウロラは、苦笑しつつ司教に声をかける。

「…よく働いてくれる娘さんですこと」
「ええ…これから先が楽しみです。たくさんのことを、外の世界で学んできてくれると良いのですが」
「さ、私どもも怠けてはいられませんね。これを広げてしまいましょう」

 アウロラ自身は、式の進行を今一度聖海教会の司教と確認しつつ、聖北教会と聖海教会の冠婚用クロスを祭壇へバランスよく飾り付けていた。
 本来はここまであわただしくない筈なのに、リューンから来るはずの荷が遅れて到着したので、足と頭をフル回転させて式に間に合わせようとしているのであった。
 彼女の邪魔にならないよう聖堂の隅にしゃがみ込んでいたミナスは、視界の端に大剣を背負った同じ年か少し上くらいの少年と、ほっそりした体躯の魔法使いらしき少女が、教会のほうを向いて佇んでいるのを見つけた。
 しばらく観察していると、向こうでもこちらを見つけたのであろう。やや照れくさそうな表情で小さく手を振っている。
 ちょうど誰かと話したいと思っていたミナスは、ウサギが飛び跳ねるかのような足取りで彼らのほうへと向かった。

「はじめまして!……だよね?」

 急に自信のなくなったような言葉に、ぷっと二人は吹き出した。
 杖を抱えた少女のほうが、安堵させるような微笑とともに応える。

「ええ、はじめましてよ。私はサラ。こっちは…」
「オレはハーロ!よろしくな」

 明るい笑顔とともに差し出された手をミナスが握ると、年不相応に皮が分厚く硬いことがわかる。
 片眉を上げたミナスの反応に気づき、サラという少女は自分たちもリューンから訪れた冒険者なのだと語った。

「今日は、仲間の一人がここのお手伝いに呼ばれてね。ついでに、私たちも結婚式の見物をしようと思ってやって来たの」
「オレは護衛も兼ねてね」
「そうなんだ。実は今日結婚するの、僕の仲間なんだよね。パーティのリーダーなの」
「ええっ!?」

 サラとハーロは軽く驚いたらしい。
 しかし、目を見張り口を開けていた彼らは、やがてゆっくりと笑みを浮かべてそれぞれに祝辞を述べてくれた。

「ありがとう。…正直、いつ結婚するのかと思っていたから、やっとって感じだよ」
「あはは、そんなに長い付き合いなのね」
「うん。ギルが賊に襲われた後の村から、エセルだけを何とか助け出したんだってさ。それで≪狼の隠れ家≫に連れてきて、彼女の世話を親父さんに頼んだんだよね」

 ミナスはギルから聞いていた事情を、疑うことも無く素直に二人へ説明した。
 へえ、という顔になったハーロが感心したように頷く。

「運が良かったんだな、一人だけ生き残れたなんて。神様のご加護かな」
「僕には宗教のことはよく分からないけど、そうかもしれないね。エセルは優しくていい人だから。…たまにジャガイモが絡むとちょっと様子が違うんだけど」
「……なんか面白い人なんだね…」

 ≪星の道標≫という宿から来たと言う人の良さそうな彼らは、その後もしばしミナスの話に付き合ってくれたが、やがてエディンが彼を探しに来たのを機に、仲間が待っているという場所へと移動して行った。

 ……静かな聖堂に、荘厳な弦楽器の調べが満ちていく。
 教会の開かれたドアからは、サラとハーロたち以外にも式を見ていこうとした人たちがいるようで、赤い絨毯に白い花の鉢が置かれている中を進む二人の姿に見入っていた。
 さすがに緊張した面持ちの花嫁へ、彼女だけにわかるようギルが囁く。

「大丈夫、俺がついてるって。…これからもずっとな」
「……これからよろしく、旦那様」

 エセルの脳裏に、かつての村のことが思い浮かぶ。
 全てが終わった後、自身が望んだとある男の結末も……それを成し遂げ、自分をギルと呼ぶように告げた、目の前の青年の手の熱さと優しい瞳も。
 これからは命尽きるまで、エセルの隣にある。
 やっと肩に入っていた力を抜いたエセルが、まさしく花のような笑みを浮かべた。
 二人は祭壇で待つアウロラの方へ、迷いのない足取りで進んでいった。

---------------------------------------------------------------------
 ということでギルとエセルの結婚式でございました。
 あえて書かずに済ませた部分については、各自そうぞう(想像・創造)してください。(笑)
 今回はリンクを繋いでいる「星の道標様(環菜様)」より、サラ一行にゲスト出演をしていただきました。
 本当は他のお三方にも登場して貰いたかったのですが、そうするととんでもない絡み方になりそうだったので回避しました。…Fさんみたいな美青年とかね、ジーニに目をつけられたら大変だからね…。(笑)
 ただ、弦楽器の奏者に誰かさんがいたかもしれないし、もしかしたらサラ一行以外にも誰か式を外から眺めていたかもしれません。
 もしどなたかクロスオーバーなさりたいという方がいらっしゃいましたら、ガンガンしてもらいたいと思います。

 当リプレイはGroupAsk製作の『フリーソフトCard Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
 また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/09/07 10:10 [edit]

category: 小話

tb: --   cm: 1

Thu.

金狼の牙と碧の街2  

 年老いてもなお黒々として濡れたような瞳が、《狼の隠れ家》の親父さんのごつごつした顔を射るかのように睨み付けている。
 顔立ちはさっぱりギルには似ていない。
 どちらかといえばオリエンタルな雰囲気を漂わせた女性で、未だにしゃんとしたしなやかな肢体は恐ろしいほど爆発的な筋力を隠していることを、≪狼の隠れ家≫に所属している者や、或いは彼女と面識のある者は知っている。

 トレトは傭兵をしていた際に雇い主と関係し、その子どもを身篭ったため出産後に冒険者へ鞍替えしたという経歴を持っている。数々の冒険で成功し、一財産を築いてから冒険者現役時の仲間だった少女を養女として迎え、雇い主との間にできた子――ギルを当時預けていた妹夫婦から引き取って鍛え上げた、≪狼の隠れ家≫の生ける英雄の一人だ。
 親父さん自身も一応にらみ返してはいるのだが、長い付き合いの――それこそ、現役の時を含め20数年にはなる――彼女には、なかなか敵わないことが多い。
 何しろ、《狼の隠れ家》の名前を一時的にしろこのアレトゥーザにて広めてくれたのは、彼女達のいたパーティーだったのだから。

「…その…睨むのは止めてくれんか」
「うちのバカ息子に嫁いでくれるっていう貴重なお嬢さんのエスコートが、なんで見慣れた禿げ頭なのよ。うっかりステンドグラスが反射して式場中が眩しくなったら、台無しじゃないのさ」

 付き合いが長い分だけ口も悪くなるのは、かつてツケ返済やとんでもない依頼で悩まされた意趣返しか、それとも昔のドレスのサイズが合わなかったことの八つ当たりなのか…傍らでギルの母であるトレトと親父さんとのやり取りを聞いていた娘さんには判断がつかなかった。
 なんといっても、娘さんはトレトと直接の面識はない。

 妙に緊迫した親(代理含む)たちを放置して、娘さんは視線を今日の主役に向けた。
 親友としても妹分としても可愛がっているエセルの纏っているのは、金狼の牙のギルの結婚話を聞いたかつての依頼人から贈られてきたウェディングドレスである。
 水色の絹地の上から、幾重にも蜘蛛の糸のように繊細なレースを重ねた贅沢な品で、清楚なエセルによく似合っている。娘さんは営業用ではない取って置きの笑顔を浮かべて言った。

「月並みな台詞になっちゃうけど、綺麗よ」
「ありがとう…リジー、私…私…」

 それ以上ははっきり言葉にはならないらしく、僅かに目尻へ涙を滲ませている。
 感傷的な、結婚式らしい雰囲気になった控え室だったが、二人が万感の思いを込めてそっと抱き合おうとした瞬間、恐ろしいほど無粋な音を立てて闖入者が現れた。

「ちっ、なかなかいい男がいないわ。…あら、エセル支度済んだのね。よく似合っているわよ」
「……驚かさないでよ、ジーニったら」

 一瞬だけすくみあがった心臓を宥めつつ、花嫁は苦笑せざるを得なかった。
 いつもは野暮ったい黒ローブに包まれている肢体は、現在ぴったりしたマーメイドスタイルのドレスを纏っている。
 こうして見ると、意外なほど女性らしいラインをしているのが分かるのだが、生憎と彼女のお眼鏡には叶う男はいなかったらしい。
 娘さんはジーニヘ呆れたように首を横に振った。

「そりゃあ、第一条件が自分と同じくらいの英雄だってんじゃ、到底無理ですよ」
「ええ、なんでー?いたっていいじゃないの、これだけリューンに冒険者あふれてるんだからさあ」
「よしんば、それで条件にかなう人がいたとしても…」

 そこまで口にしておきながら、娘さんは急に黙り込んだ。
 ジーニの恋人(定かではないが)らしき地位にいるのは、ほぼ間違いなく、眠たげな顔に感情を紛らわせるのが得意な、黒髪の彼である。いくら軽戦士としてゴロツキを退治するほどの腕を持った娘さんでも、そうそう敵に回したいと思う相手ではない。普通の冒険者でもごめんだろう。
 結婚する気は二人ともさらさらない筈なのに、それなりにお互いを優先させる関係になってどのくらい経つのか、それすら聞く勇気は今のところない。

「……そういえばアウロラさんは?」
「初めて挙式をとりしきるから、血相変えながら聖海教会の人と一緒に準備してるわよ。あんまりにも人手が少ないんで、たまたま仕事がなかったっていう助祭だか誰だかにも手伝わせてるくらいだものね」

 式を執り行うのは最初このアレトゥーザの司教の予定であったが、ギルが「知らない人間より、アウロラやってくれよ!」などと言ったばかりに、密かに氷の女史と恐れられている彼女へお鉢が回ったものである。
 仲間内で一番動じないはずの彼女も、初体験とあっていろいろ大変な様子だ。

「…心中お察しします」

 ぽつりと娘さんはつぶやいた。

2013/08/08 22:39 [edit]

category: 小話

tb: --   cm: 1

Sun.

金狼の牙と碧の街1  

 晴天の下、陽光に煌めく波頭が水晶のようである。
 着なれない礼服に身を包んだギルは、窓から見えるその光景に目を細めた。
 それに目敏く気づいたエディンが、間髪入れずにやりと笑う。

「なんだ、案外余裕だなァ。精々からかってやろうと思っていたのに」
「勘弁してくれよ、一生に一度きりの大イベントだぜ?」

 彼らが訪れているここは、碧海の都と名高いアレトゥーザ。その聖海教会の一室である。
 山中の小村出身である花嫁のために、海というものを見せてやりたいと、わざわざ拠点であるリューンではなくアレトゥーザにて式を挙げることにしたのだ。花嫁の二親は既に亡いため、《狼の隠れ家》の親父さんが親代わりに、娘さんが姉代わりとして彼女に付き添っている。
 ギル当人は一応母親と義姉が健在であり、彼の家族は親父さんと久闊を叙していた。

「いや、それにしても大した母親だな。ギル」
「無駄に顔が広いのさ。おかげで急な挙式なのに、吉日に割り込めたけど」
「まさか、ここの教会の司祭や元首とも顔見知りとはな…」

と、呆れたように彼は頭を振った。
 歴戦の傭兵から冒険者に転向したギルの母は、このアレトゥーザで巻き起こったゴタゴタを納めるのに尽力した事があるらしい。
 比類ない刀匠と知り合いだったことといい、どうにも頭の上がらなそうな先達である。
 そこまで話していたエディンは、ふと視線を部屋の片隅に向けた。
 彼の目線の先には、光の当たるところが紺色に光るように織られた、ちょっと珍しい生地のスーツを着込んだ姿がある。

「ところで、お前さんは新郎でもないのに何でそんなにガチガチになっているんだ?」
「放っておいてくれ…」

 鍛えぬかれた長身を縮めるようにしてアレクが呻き、 被せるように白いリボンを胴に巻いた雪の精霊が、事情説明を始めた。

「なんや、昨日からえらいけったいな様子ですねん。震えてたかと思うと、いきなり剣の素振り始めたり……」
「止めろ、トール!絶交するぞ!」
「…なるほど、確かにおかしい」

 どれだけからかわれても、アレクが今までこれほどの過剰反応をしたことはない。
 どうしたものやらとエディンが悩んでいると、ひょいと彫刻のような美貌をのぞきこんだ新郎が、

「友人代表の挨拶、そんなに重荷か?」

と問う。

「え……お前さん、それで緊張してたの?」
「昔から、アレクは緊張すると身体を動かさずにいられなくなるんだ」
「わかっているなら、見て見ぬふりくらいしてくれてもいいだろ!?」

 本来緊張すべき新郎と、からかうであろう新郎の友人の立場が、これではあべこべだなとエディンはため息をついた。

「トール、なんならお前さんが挨拶するか?」
「勘弁でっせ、兄さん。そないなことになったら、ワテかて気絶しますわ」

 雪精が慌てて首を振る。
 その背後では、なーんの懸念もない顔でギルがけらけらと笑っていた。


2013/07/21 11:15 [edit]

category: 小話

tb: --   cm: 5

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top