Fri.

In the moonlight・・・ 1  

 逢魔が時・・・町は満月が放つ強い月光に包まれ、静かな夜を過ごしていた。
 各々の魔法や技などを買出しにリューンから離れていた”金狼の牙”一行は、真夜中に戻ってきたところだった。

「く、くしゃみが出そうで出ないの・・・イライラするわ」
「確かに。あのくしゃみが出そうで出ない瞬間って嫌だよなぁ」

 ジーニにのんびりとギルが相槌を打つ。それもこれも、急に冷え込んできた夜の外気のせいらしい。

「寒いわ・・・」

と呟いたジーニは小さく身を震わせる。その時だった。
 どこからともなく現われた、まるで雪のように白い猫が彼らに寄ってきたのである。

「ニャー・・・」
「あら?猫?月光を浴びる猫・・・幻想的ねぇ」
「ニャァ・・・・・・」
「あれ?何、この猫・・・あたしの足にすり寄ってくるわ・・・。あっちいって」

 焦ったように横に飛んで猫を「しっ、しっ!」と追い払うジーニの姿に、他の仲間たちは顔を見合わせた。
 この面子で一度猫探しを受けたことがある。その時の彼女の態度は普通だったはずなのだが・・・。
 戸惑ったようにミナスが声をかける。

「猫、嫌いなの?」
「キライって訳じゃないけど、旅塵でブーツ汚れてるのよ。この上、猫の毛までなんてごめんだわ」
「ニャッ!ニャアァ・・・ニャァア・・・」
「しつこいわねぇ・・・あっち行きなさいよっ!眠いんだからっ!」

 ついに切れたジーニが、桜色のマニキュアを塗った手で白猫をパシッと叩き、流石にそれはひどすぎるとアウロラが口を開いた時、

「痛いわねっ!頭殴らないでよっ!」

と叫び返したものがいる。

「うるさいっ!あたしたちは眠いのよっ!どこか行って、この駄猫ッ!」
「何を~駄猫っ!今、駄猫って言ったわね!この白い毛皮を持ったこの私を駄猫呼ばわりしたわねっ!」
「おい。お前ら・・・喧嘩する前に猫が喋ってることに驚けよ」

 もうアラサーであるジーニと白い猫が対等に怒鳴りあってる姿に、冒険者たちもぽかんと口を開けて見守ってしまったが、はっと気を取り直してギルが注意した。ところが、これですっかりヒートアップした女の口げんか(?)が収まるはずもなく・・・。

ScreenShot_20130107_020105640.png

「驚きなさいよっ!私は長い間生きた猫なのよっ!」
「へ~っ!貴方が威張らないでよね、たかが猫が喋ったぐらいで何だっていうのよっ!今じゃ、ゴブリンですら人語を理解するのよっ!」
「きぃ~っ!ゴブリンなんかと同列だなんてっ!悔しいッ!悔しいわっ!」
「もう止めてって言ってるでしょ!!」

 阿呆な会話を続ける猫とジーニに、ミナスが野人ファハンに命じた石つぶてが命中した。十分後・・・。

「ちぇ!せっかく、猫の姿で依頼を頼んで幻想的な雰囲気を作ろうと思ってあげたのに・・・その心意気も分からないなんて・・・」

 白猫の毒舌は止まることなく続いていた。うんざりした顔で、エディンが頭をかく。

「あ~もう分かったからさぁ・・・用事がないのなら、俺達も眠いから帰らせて貰うよ」
「え、え?ちょ、ちょっと待ってよ・・・と、この姿じゃ・・・ちょっと話しにくいなぁ・・・」

 本当に狼の隠れ家へ移動しようとする一行を慌てて呼び止めた白猫は、くるっとその場でとんぼ返りをする。
 たちまち、ほんの一瞬だけだが月光を凝縮したような明かりが満ち――それが収まると、猫がいた筈の場所に猫耳をつけた少女が立っていた。
 年の頃はアレクと同じくらいだろう。栗色の髪はやや乱れているものの、紺の服やくろぐろとした双眸は人と変わらない――その白い三角形の耳がなければ。彼女は優雅にお辞儀をしてみせた。

「はじめまして。イリスです」
「・・・猫が人間に・・・いや・・・逆なのかも・・・」

 自身も人族ではないミナスが、じっと彼女の正体を見極めるかのように言った。

「失礼ねっ!私は猫族。長い間生きて魔力を得た猫よ。その辺の猫と一緒にして欲しくないわよっ!」
「し・・・しかし?なんでその耳は?」
「耳を隠すと、ふけが耳の中に溜まるのよ」

 エディンの素朴な疑問にあっけらかんと答えると、猫耳少女ことイリスは、冒険者たちに依頼を持ちかけてきた。
 猫を探し、その魔力を復活させて欲しいという。
 ジーニといがみ合いながら依頼を頼もうとするイリスに、アレクが詳細を話してくれる様にと持ちかけた。

「長い・・・長い間行き続ければ猫は魔力を得ることが出来るの」
「どのくらい生きれば・・・魔力が得られる?」
「10年前後ぐらいかなぁ・・・でもね・・・。新しい年の最初の満月の光を浴びた猫は、その一年間、魔法を使えないのよ」

 エディンの質問に、ぎゅっと眉根を寄せてイリスは答えた。
 長い間生きてきた猫にとっては、魔力がないというのは、死ぬということと同じ・・・と説明する彼女にミナスが何故と問いかけると、ますます気難しげな顔になる。

「長い間生きている猫が健康なままだと思う?ずっと頑健な体だと思う?」
「・・・・・・分かんない。エルフは・・・種として穢れの多い怪我や病気には弱いって、お母さん言ってたけど」
「あんた、エルフなの」

 イリスがきゅっと口の端を上げて笑った。しかし、それも一時のことですぐ真面目な顔に戻る。

「私達・・・猫族はね・・・魔力で生命を生きながらえてきたのよ」
「じゃあ、お探しの猫も死んでるんじゃないのぉ?」

 即座に憎まれ口を叩いたのはジーニである。他の仲間は、もう止めるのも面倒と彼女をほっといていた。

「そっ、そんなことないわよっ!失礼ねっ!生きてるに決まってるでしょっ!」
「だあって、そんな歪んだ魔力の使い方したら、器である体のほうが参っちゃうじゃないの」
「魔力を失う代わりに、一年間だけはどんなことがあっても生きているのよっ!」
「ふん?」
「そ・・・それいあてがあるのよっ!イスタンの居場所にはっ!」
「イスタン?それがお目当ての猫の名前?」
「そう。私の弟なんだけどね。・・・で、居場所っていうのが・・・トーテム山という所にいるらしいのよ」
「”いるらしい・・・”ねぇ・・・。すごく曖昧ね」

 ジーニは長いため息をついた。リューンに帰ってきたばかりだというのに、そんな確実性のない情報に従って依頼を受けるのは面倒なのだ。
 イリスはちょっと口ごもった後、ぽつりともらした。

「それは・・・まだ、探してないのよ」
「あ、そう。さっきも言ったとおり、あたしたち帰ってきたばかりで眠いのよ。なんにしても明日からにして頂戴」
「あなた達が休んでいる宿屋はどこ?」

 ジーニは大きなあくびをした後に応えた。

「狼の隠れ家だけど?」
「そう。分かったわ・・・ありがと。明日、狼の隠れ家に行くからその時に詳しいことを話すわ」

 明日行くからと一行に念押しをしたイリスは、また宙返りで白猫の姿に戻ると、あっという間に裏路地へと走りこみ消えていった。

「ちょっと~・・・訳分からないわよ~」

2013/01/11 17:23 [edit]

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