Thu.

ファレンの騎士 6  

 重い荷物を抱えた礼に夕飯につれて来られたお店は、和やかな空気に包まれている。
 ルーシアはちょっと教会へ祈りに行くと席を外したが、ミナスはすぐ、奥のほうにかけるウネを見つけた。
 知り合いに出会えて喜んだミナスは、彼女に話しかけ・・・そしてウネが人を待つわけを知ってしまったのである。

「・・・一回会ったきりの人を待つのか・・・」

 また来ると言ったその人は店の場所を忘れてしまっただけかもしれない、だから自分は綺麗なドレス姿で笑顔で彼を待つのだと。・・・そう言って店を出たウネの顔はとても綺麗で、悲しかった。
 ミナスはもし好きな人ができたら相手にそんな顔をさせたくないと思いながら、ゆっくりと店内を見た。まだ客はまばらにしかいない。
 店内を見回すと一つの視線とぶつかった。こちらの様子を窺っていたと見える若者が、おもむろに近づいてきた。

「あんた、さっきの女の連れかい?」
「・・・・・・何か用?」
「へえ、パトロンにしてはチビだな」

 あからさまな敵意に一瞬たじろいだが、ぐっとこらえて睨みつけた。

「・・・・・・どういう意味?」
「こりゃおもしれえ。もう一回言わなきゃわからねえウスノロときてるぜ」
「ケンカを売りたいなら・・・」

 ミナスの影の中から、護衛をしているファハンが顕現したがる「感覚」が分かった。精霊使いではなければ反応できないそれは、小さな主の怒りに合わせて震えているようである。

「やめて、お兄ちゃん」

 割り込んできた茶色い髪の少女は、懸命にミナスへ頭を下げた。

「ごめんなさい。兄は少し気が立ってるの、どうか聞き流して」
「お前はひっこんでな」
「でも・・・」
「なあ、あんた。この街の女をどう思う?」
「どうって・・・」

 ミナスの脳内に浮かぶのは、華やかで綺麗で軽やかに笑い、その影で悲しげに微笑む女性たちだった。
 化粧をしながら自嘲していたレア、ケガを労わってくれたジュリア、買い物の途中で笑顔の凍りついたルーシア。今、笑顔で待っているのだと語っていたウネ。

「悪いがあんたたちの会話を聞いちまった。教会だって?馬鹿馬鹿しい」

 若者は鼻で笑った。

「この街の女は男に夢を無くし、金に縋って生きるしかない」
「でも・・・」
「それでも希望を捨てきれない奴は、街のものが持ち寄って作った教会で祈りをささげるしかない」
「信仰を持つのは大切だと思うよ」
「そんなことをして何になるんだか・・・」

 ミナスは覚えている。

(神様は、もしかしたら各人の心の中にいるのかもしれません。同じように、悪魔も。私が神様に捧げる祈りは助けを求めるのではなく、祈ることで自分の意思をくじけないようにしているのですよ。)

 頼るだけは神は力を貸さない、だから人は精一杯努力しなきゃいけないのだと、アウロラは初めて祈りを見たミナスの疑問に答えた。
 宵の夢亭の娘たちも同じなのだと思い、筋力で適わないはずの若者の腕をぐっと掴んで睨み上げる。

「何にもならないなんて、ない」
「この街を何も知らないようだな。・・・ここは・・・」
「花の街ライラック。リューンより豪華で、きれいで、とても栄えた街・・・」
「そりゃあ表向きはそうさ」

 若者は別の呼び名を知っているか、と問う。
 ミナスが首を振るよりも早く、若者はタブーの街だと明かした。かつて権力者ファレンが己の欲を満たすために作った虚構の街だと。
 この街の女は何をしているかという質問に夢のお手伝いだと答えたミナスを、若者は力なく笑って振りほどいた。

「・・・そんな子供騙しにひっかかるとはな・・・・・・ククッ・・・夢だと?」
「何がおかしいんだよ、みんな一生懸命生きてる、すてきな人たちだよ!」

ScreenShot_20130105_190351906.png

 ミナスの怒鳴り声はびりびりと響き、その瞳は炎のように燃え上がった。
 夢の手伝いを否定することは、宵の夢亭で働く皆を否定することだと思った。
 何より、最初からあきらめたかのような顔をしたこの若者に、一所懸命生きる女性たちを汚されたくなんてない。
 その時、軽やかなベルの音がレストランに響いた。

「・・・・・・」
「・・・・・・ミリアさん」

 ミリアに気を取られたミナスを放って、若者は店を出た。
 泣きそうな顔を強張らせたミナスに少女はもう一度謝り、「待って」と自分の兄を追いたそうにしている。
 
「・・・ここの支払いなら任せて・・・追いかけてあげて・・・」
「・・・すいません」

 ミリアの申し出にまた頭を下げると、少女は急いで出て行った。
 ミナスや兄妹の食事代を払うと、ミリアは「場所を変えましょう」と小さなエルフを港へと連れて行った。

2013/01/10 01:17 [edit]

category: ファレンの騎士

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