Thu.

ファレンの騎士 4  

 翌朝、早々に店のメンバーを紹介されたミナスは面食らっていた。
 昨夜たしなめられたルーシアのほかに、黒髪のレア、金髪のジュリアがミナスに群がってくる。

「きゃーかわいい。男の子よ」
「あとでお買い物行きましょうね」
「それよりお化粧もお手伝いしてもらわないと・・・」
「この子ゆうべ、わたしのパック姿見て腰抜かしたのよ。かわいいわ」

 そりゃそうだろう。リッチそっくりになるパックなど、何も知らない者が見たら心臓停止間違いなしである。

「その・・・頭なでるのは・・・やめ・・・」
「じゃあわたしのこんな姿も驚くんじゃない??」

 そう言って彼の前に姿を現したのは、モコモコのピンクの毛皮の衣装を纏ったウネだった。あっけらかんした笑顔の上方には、どこぞの小動物と同じ長い耳が揺れている。

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「・・・うさぎ?」
「無事に着いたのね、よかった。よろしくね」

 その後も、さんざっぱら頬やら耳やらを女性たちに撫で回されたミナスは、やっとのことで情報収集に入った。
 しかし、その最中ですら「お化粧するから手伝って」だの「それよりどんな女の子が好きなの?」だの、困る質問をされてしまう。
 結局、大したことも分からないまま、黒髪のレアの手伝いに回ることになった。

「ここは・・・武器庫??」
「ああ、それは武器をモチーフにしたコスメシリーズなの。冒険者気分が楽しめるの」
「そんな物騒なもので化粧を・・・」

 サロンで大流行だというそのコスメシリーズを、慣れない手つきでミナスはレアに手渡していった。
 ・・・・・・どうしてメイクをする時にカーテンの向こうに隠れてしまうのかは、よく分からなかったけども・・・。

「いいこと?ここは、華麗な女たちが美を競う街、ライラックよ?お化粧品も美容法も極秘なの」
「ふうん」

 そしてしばらくして。

ScreenShot_20130105_164703468.png

「どお?きれい?」

と現われたゴージャス美女を見て、ミナスは「女の人って神秘だ・・・」という感想を抱いたという。
 すっかり化粧の済んだレアに連れ添い店に戻ると、夕方から開店だという店はすでに賑わっていた。
 立派な髭を蓄えた老人や商人風の客、学者らしい男などが女性からの接待を受けている。

「様子を見ながらお客様にワインをお出ししてね」

 ミリアから仕事を与えられ赤ワインの瓶を手にしたミナスは、きょろきょろと辺りを見回した。
 とりあえずワインの量が減っている客にワインを勧めると、酔っ払った彼らはドンドンチップをミナスに渡してくる。
 中には「ワインよりエールを」という客もおり、倉庫と店の間を忙しく往復することもあった。
 やがて空になったグラスをさげていると、うっかりと一個テーブルの上から落としてしまった。

「割っちゃった・・・今、片付けるね」

 ワイングラスの欠片に手を伸ばすと、その一つがミナスの人差し指を傷つけた。

「あら・・・切ったのね・・・血が出てるわ」
「・・・・・・!!」

 気の毒そうに柳眉をひそめたミリアの向こう側で、まったく酒に酔うことなく接待を続けていたジュリアが、真っ青になっている。

「これくらい平気だよ」

とミナスは笑って見せた――実際、冒険中にもっと酷い怪我を負ったことがある――のだが、休憩しますと小さく一言残すと、ジュリアは奥に引っ込んでしまった。
 不審そうな顔をしたミナスに、ルーシアが白いハンカチで指先を押さえながら言う。

「ジュリア、血が苦手なのよ・・・」
「はい、これでもう痛くないよ」

 指にガラスが残っていないことを確認したウネが、手早くすり潰された薬草とガーゼで手当てした。

「ありがとう」

 どうにもジュリアが気になったミナスは、休憩にかこつけて彼女の様子を見に行くことにする。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・ジュリアさん?」

 あくまでも無言のままこちらの瞳を見てくるジュリアに、ややたじろぎながらミナスが呼ぶ。

(話しづらいね・・・まずはこの気まずさを・・・)

 どうにかしなければと思った彼の笹の葉のような耳に、か細い声が聞こえてきた。

「・・・・・・・・・ケガは・・・へい・・・き?」
「うん。これくらい平気だよ」
「・・・・・・そう・・・」
「もっとひどいめにあったことだってあるよ。ゴブリン退治や、オーク退治」

 フォーチュン=ベルでの一戦や、家宝の鎧を着込んだオークロードのことをミナスは思い出していた。
 まったく、あんなのに比べればかすり傷としか言えない。

「いつもは仲間と一緒だけどさ、今回はひとりなんだ」
「・・・・・・」
「ひとりでも平気だって、仲間に見せたいんだ・・・」

 そういって悲しそうに目を伏せたミナスに、ジュリアは微笑みかけた。

「・・・・・・どうしてるかな、みんな」
「・・・おしゃべり」
「え?」
「楽しかった・・・命は大切に・・・ね」
「・・・うん」

2013/01/10 01:13 [edit]

category: ファレンの騎士

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