Thu.

ファレンの騎士 2  

 花の街、ライラック。刺激・喧騒・退廃と・・・安らぎを求め、男たちが集う街。

「・・・ふう・・・着いた。さてと、宿を探さないと・・・」

 ミナスが到着したのは、もう夜半過ぎのことだった。しかし、不夜城とでも形容すべきなのかまだまだ人通りは多い。ミナスは通りの向こうから歩いてくる男に宿の所在を尋ねようとした。

「あの、すいませ・・・」

 ところが、男がミナスに一瞥することもなく通り過ぎて行く。
 他の通行人も中々声をかけ辛い感じがしてミナスが立ち尽くしていると、人々が忙しく行き来する雑踏の中、一人の女性が道行く人を眺めているのを見つけた。どうやら待ち合わせのようだ。

ScreenShot_20130105_150748890.png

「あの、すいません。この宿に行きたいんだけど」
「ええと、宵の夢亭・・・あら、ここ?わたし、この店にいるのよ」
「じゃあ、あなたがミリアさん?」

 ミナスの目が輝いたが、女性はにっこりと笑いつつも否定する。

「ううん、わたしはウネちゃん。ミリア様のもとで働いてるの」
「ふうん」
「案内してあげたいけど、わたしここで彼を待ってるの。ごめんね。道は、そこの角を曲がってね・・・」

 ウネの説明は分かりやすく、ミナスは一人でも大丈夫そうだと安心した。

「うん、わかったよ。ありがとう・・・」
(デート・・・かな・・・)

 ウネが別れを告げるのに手を振り返し、ミナスは教えられた路地へと走っていった。

「ここを曲がって・・・・・・ん?」
「おや・・・?きみはどこの店にいるのかな・・・?なかなかかわゆらしい子だ・・・」
(き、気色悪い・・・)

 ミナスを途中で呼び止めたのは、髭の濃いでっぷりと肥えた男性だ。40代といったところだろう。年相応に落ち着いている挙措はともかくも、気色の悪い笑みを浮かべながら手を伸ばしてくる。

「よしよし、おじさんが楽しい世界へ道案内をしてあげようか・・・?」
(何だろう・・・この言い知れない危機感・・・鳥肌が出てる・・・!逃げよう・・・)

 ミナスは男の不気味な手をかわし、そこから上手く逃げ出した。
 走っている最中に、左手に光の精霊を利用したらしいイルミネーションが見える。

「すごい・・・きれい・・・こんなのリューンじゃみたことないよ」

 足を止めると妙な雰囲気の男にしょっちゅう声をかけられるので、ミナスはすっかり疲れてしまった。
 本人に自覚はないが、亜麻色の髪と藍色の双眸のこのエルフは、地味な服装をしていてもぱっと人目に立つ美形である。エルフという種族はすべからず容姿の美しさで知られているが、その中でも群を抜いているだろうと思われた。
 やがて、街の衛視らしい男が呼び止めてきたので、これ幸いとミナスは事情を説明することにしたが・・・。

「ならば詰め所まできてもらおう」

と言われてしまう。
 それは困る・・・とミナスはまた逃げ出そうとするが、その時彼に声をかける者があった。

「ロンスったらここにいたの、まったく探したんだから・・・」
「・・・え?ぼくは・・・」

 声をかけてきたのは年齢不詳の美女である。青みがかった長い黒髪を結い上げレースのベールで頭部を包んでいるが、経済的に困っている様子がないことを見れば、そこそこ金は持っているのだろう。
 小さなエルフと謎の美女の関連性がさっぱり見えず、衛視は当然、

「あなたは?」

と訊いた。

「この子の姉でございます。兵士さまにご迷惑をかけて・・・」

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 種族違うんだからその言い訳じゃ無理だろうとミナスが思った瞬間、女性はしなやかな手つきで兵士の手に数枚の銀貨を握らせる。

「本当にご迷惑をおかけしましたわ。お勤めごくろうさまです」
「・・・今後、目を放さぬようにな」

 兵士が目にも留まらぬ速さで懐に銀貨をしまいこみ去っていく。ミナスは女性に向き直って頭を下げた。

「・・・ふう、助かりました、どうもありがとう」
「ここはふつうの街とは違うのよ。気をつけて」
「ふつうと違うって・・・?」
「ここはお金でいろんなものが買える。夢すら、ね。あなたもそのうちわかるわ」
「でも夢は売り物にできないでしょう?」

 純真なミナスの疑問に、女性は僅かに苦く微笑んだ。

「ふふ・・・そうね・・・お金で夢は買えないわ・・・幻を見るだけね・・・」
「・・・よくわからないけど、さっき男の人に払ったお金・・・」
「ああ、いいのよ・・・役に立ててよかったわ」

 かすかな芳香――林檎にチョコレートやバニラの混じった甘い濃厚な香り――を残して女性は去った。

「不思議な人・・・」

 ポツリと呟くと、ミナスはまた歩き始めた。

2013/01/10 01:07 [edit]

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