Thu.

ファレンの騎士 1  

 ある日の夕暮れのことである。
 近ごろ仕事の少ない”金狼の牙”の最年少メンバーであるミナスは、近所にある孤児院の子どもたちとかくれんぼをして帰ってきたところだった。

「ミナス・・・!!は、早かったな」
「あ、あら、お帰りなさい」
「ああ疲れた。あれ、娘さん、今、なにをかくしたの?」

 上ずった声の親父さんと娘さんが”あること”を誤魔化すため挨拶するが、つぶらな瞳は不審な動きを見逃していなかった。
 娘さんが後ろ手に隠したものを、無理やり覗き込む。

「あっ、おいおい・・・」

と親父さんが止めるが、すでにその羊皮紙はミナスの手の中にあった。

「ええと・・・・・・・・・」
(ギクッ)

 よもや声に出して読むつもりか、と親父さんは身構えた。この依頼、どう考えてもミナスには早すぎる――何しろ、この子はまだ12歳なのだ。エルフという種族そのものの寿命は人間と比べ物にならないほどの長寿だが、ミナス自身はまだ同じ年の子どもと変わらぬ成長速度なのだから・・・と親父さんが止めようとした時。

「そちらの依頼については私からご説明しましょう」

 カウンターの一番右端に座っていた男が、ミナスの言葉を遮った。

「お客さんがいたんだね。こんにちは」
「はじめまして。テニオス・ナーグと申します」

 男からは非常に生真面目で几帳面な印象を受けた。胸元に銀のクロスが輝いている。
 まだまだ修行中の身の僧侶だ、と彼は自己紹介した。
 自分と似たようなものだね、とミナスが言うと、それを耳にした親父さんが慌ててたしなめる。

「おいおい、聖北教会の方に失礼じゃないか・・・!」
「いえいえ、構いませんとも。本日はお願いがあって参りました」
「ふうん、どんな依頼なの?」
「いや、おまえには・・・まだ・・・むりでは・・・ないかと・・・」

 冒険者相手にさくさくと意見を言う親父さんにしては、珍しく歯切れが悪い。

ScreenShot_20130104_065555203.png

 ミナスが首を傾げていると、テニオスというその依頼人は話を聞いてくれるのかと確認してきた。

「実は、ある街を調査してほしいのです」
「・・・・・・調査?」

 はて、とミナスは思った。それなら冒険者に頼らずとも現地に直接行けば済む話では――と考えた矢先、

「・・・知人のお嬢さんが暮らす街です。しかし私はそこへ赴くことが許されておりません」

と依頼人が言った。

「その娘さんが暮らす街がどのようなところか、みてきていただきたいのです」
「なんだ、それだけ?」

 親父さんが口ごもるくらいだからさぞ難しい依頼だろうと覚悟していたミナスは、肩透かしを食らわされたような気がした。

「私は知人亡き後、お嬢さんの行く末を見守ろうと決めました。ですから・・・」

 テニオスは胸元のクロスを握り締める。その様子がどこか鬼気迫るようで、ミナスはちょっと怖くなりながらも尋ねた。

「・・・どうしたの?顔色が冴えないけど・・・」
「・・・いえ、大丈夫です。どのような街か調べていただけますか?」
「どんなところか見てくればいいんだよね」
「はい、さようでございます」

 まだ口を挟みたそうな親父さんを横目に、ミナスはテニオスから報酬や拘束期間について質問した。
 報酬は前払いで銀貨500枚、拘束期間は2~3日様子を見てくれればいいという。

「行き先の・・・ライラックの街って、どんなとこ?」
「私も実際に足を運んだことがございませんので・・・なんとも・・・」
「親父さん、何か知ってる?」
「(ギクッ)なななんだ?」
「・・・?」

 明らかに不審な感じがするが、特に悪意を受けるようなものでもなかった(しかも相手は親父さんだし)ので、ミナスは構わないことにした。もう少し入り組んだ内容だったり、長い拘束期間をしかれていれば仲間に相談してから決める予定だったのだが、この程度であれば自分ひとりで行っても構わないだろう・・・。こないだから、仕事がないと困っていたのだし。
 依頼を受ける旨をテニオスに伝える。

「・・・感謝いたします。それではこちらをお受け取りください」
「ありがとう」

 報酬の皮袋を受け取った。
 テニオスが挨拶をしてその場を去ると、ミナスは親父さんに向き直って訊いた。

「・・・ねえ、親父さん。本当になにも知らないの?」

 ところが、それに先に応えたのは親父さんではなく娘さんのほうだった。

「あのね、ミナスちゃんには大変な依頼かもしれないわ」
「そ、そうだ、だからな、今回はな・・・」
「僕を子供だと思ってそういうことを言うの?僕だって冒険者の端くれさ」

 年より幼い反応を見せるとはいえ、立派な精霊使いであり冒険者だという自負が彼にはある。
 ミナスは両の拳を握り締め、濃藍の双眸をきらきらと情熱に輝かせて言った。

「ねえ、どうして僕には無理だと思うの?教えてよ」
「(ヒソヒソ)・・・どうしよう、この子で平気かしら?」
「(ヒソヒソ)下手に若い男よりは・・・このぐらいの年頃ならまだ・・・」

 最初、親父さんはこの話を見た時、エディンかアレク当たりに持ちかけようと思っていたのだが――。そう、かえってこのぐらいの年齢なら、あの街に行っても誘惑されずに済むかもしれない。
 親父さんは娘との会話を打ち切ると、「分かった」とため息をついた。

「それじゃあこの手紙を宵の夢亭のマダムに渡してくれ」
「宵の夢亭ね。それとマダムの名前は?」
「ミ、ミリアさんだ・・・おそらく協力してくれるはずだ」
「ありがとう、じゃ、行ってきます。アウロラやアレクたちに、すぐ戻るからよろしくって伝えておいて」
「だがな、根掘り葉掘り質問するんじゃないぞ・・・言われたことだけをだな・・・」
「お父さん、もう行っちゃったわよ」

 親父さんの長広舌を、娘さんがジト目でぶった切った。
 へ?という顔になった親父さんがミナスの座っていたスツールを見ると、もうそこに小さなエルフの影も形もなかった。

2013/01/10 01:05 [edit]

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