Tue.

死人の山の魔術師 1  

 解放祭パランティア終了後、拳で暴れだした娘さんから逃げた”金狼の牙”たちは、暫くリューンに戻るまいとあちこちを旅していた。
 硫黄や書物の匂いがする錬金術師の工房、焔紡ぎと異名をとる剣士の住む廃墟、活気に満ちた新しい港町など――そうしてたどり着いたのがここ、バーベルだった。
 退廃都市という俗称で呼ばれるバーベルは、かつて幾度もトロールの襲撃を受け、その度に街が破壊されていた。
 住人は去り行き、旅人の足も遠のいた。そうしてバーベルは廃れていったのだ。
 ・・・もっとも現在ではトロールは討伐され、交易も盛ん。かつての面影はないのだが。
 それゆえに、依頼人があえてその俗称を使ったことに、エディンはひどく良くないことが起きていると察したのだ。

「・・・退廃都市バーベルへようこそ」
「・・・どうも」

 目の前に座る依頼人は、バーベル治安隊の副隊長を務める男である。
 路銀も心もとなくなってきたので、中の下くらいの宿を取り一休みしていると、急に宿の主人に声をかけられたのである。

 ――曰く、この街のお偉いさんがあんたらをご指名で仕事を頼みに来ているぞ、と。

 パイス、と名乗ったその依頼人は、深刻そうな顔の中に焦りを滲ませて口火を切った。

「・・・・・・来て早々ですまないがすぐに依頼の話をさせてもらおう」
「ええ、どうぞ」

 ギィ、と微かなきしみを椅子に強要しながらジーニが促した。

「・・・今から一ヶ月程度前のことだ。旅人が不死者に襲われるという事件が起こったのだ」
(一月前、か・・・。ちょっと厄介そうだな、こりゃ)

 エディンは心中で舌打ちした。時間が経てば経つほど、犯人の痕跡や居場所が分かりづらくなるのは当然の話だ。

「・・・だが、我々はある連続殺人事件の捜査に忙しかったため、冒険者に依頼を出して任せていたのだ」
「あら、もう雇ってらっしゃったんですか?」
「しかし、その調査に向かった冒険者たちがいつまで経っても帰ってこなかった」
「ミイラ取りがミイラに、というわけか」

 アレクの言葉に依頼人は頷き、再び話を続けた。
 そこでバーベル治安隊は仕方なく他の冒険者に依頼し、調査を頼んだと言う。
 ・・・後で聞いた話では、最初に依頼した冒険者たちはまだ結成したばかりのパーティだったそうで、それならばゾンビー程度に不覚を取ることもあるだろうと考え、戻らぬのを誰も不審に思わなかったらしい。
 問題はその後だ。

「・・・・・・だが次に依頼した冒険者たちも行方不明になった」
「まあ・・・・・・。なんと言うことでしょう。2つ目のパーティはどのくらいの実力者ですの?」

 十字を切ったアウロラが依頼人に尋ねると、

「彼らはこのバーベルでも腕利きと聞いている。そう簡単にやられるとは思えない。彼らが行方不明になったことでこの街の冒険者たちは誰一人この依頼を受けなくなったのだ」

と答えた。
 エディンが自分のブルネットをかき回しながら鼻を鳴らす。きな臭い、という合図だ。
 冒険と言う仕事は非常にシビアだ。実力に見合う仕事を選べなければ、失敗までならともかく己の命を落とす可能性も高い。
 だから、腕利きが適わなかった仕事を他の冒険者たちが避けるのは理解できる――だが。
 そう言う場合、まず領主に助けを求めるのではないか、と彼は思う。
 領主には騎士団が居る。どのくらいの錬度を誇るかは団によってまちまちだが、冒険者とは比べ物にならない人数や装備を整えていることが多い。
 時には竜退治にすら出かける事のあるそれを、何故動かすよう進言しないのか?

「・・・しかし、冒険者たちを除けば最初の旅人以外の犠牲者はいない」
「ハハーン、それで腑に落ちたぜ。そう言うことか」
「え、何?エディンどういうこと??」

 目を瞠って依頼人と仲間の顔を交互に見やるミナスに、依頼人は詳しく説明した。

「領主様は大きな被害が出ていないのだから、治安隊が調査する必要はないと考えたのだ」
「なんだよそれ、酷すぎるよ!」
「被害は小さい、か。ひと一人の命をそのように扱うようでは、あまり良い領主とは言えんな」

 首を小さく横に振るアレクに頷いた後、依頼人は骨ばった指を組み合わせ、刻まれた皺をいっそう深くして”金狼の牙”たちの顔を見渡した。

「・・・だが私は嫌な予感がするのだよ」
「嫌な予感、ですか?」
「・・・・・・・・・この地で何かが起ころうとしているのではないかと」

 堅苦しいと評判ではあるが、ある程度以上の交渉能力を持った経験豊かな副隊長の言に、”金狼の牙”たちは顔を見合わせた。その予感とやらが杞憂で済むならいい。だが、そうじゃない時が訪れれば・・・・・・。

「だから君たちにこの事件の調査と原因の排除を頼みたい。・・・何か質問はあるかね?」
「先ほど教えていただいた、新米と腕利き。それぞれのパーティについて知りたいのですけど」
「・・・すまないが私はよく知らない。私に聞くよりも彼らの宿に行くといいだろう」

 どちらも一角獣の涙亭という宿を拠点にしていたと言う。
 報酬は、と聞いたのはいつもの通りジーニで、成功報酬が銀貨900枚、前金でさらに300枚という破格の値だったが、更に値上げするため「安すぎると思うんだけど?」と交渉を始めた。

ScreenShot_20130102_200030875.png

 依頼人はすぐに音をあげ、成功報酬に200枚の増額を約束してくれた。
 ならば否やはない。依頼を受け、バーベル市内の地図と前金を渡された一行は、さっそく市内へと飛び出した。

2013/01/08 17:14 [edit]

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