Sun.
解放祭パランティア 1 
澄んだ藍色の瞳が、とある羊皮紙の表面に書かれている文字を追っている。
「えーと、『リューンの街の木漏れ日通りにて一日限りのバザーを行います』・・・?」
可愛らしい声音で読み上げるミナスの後ろから、どれどれとアレクも覗き込んで続きを朗読する。
「ふむ。『大安売りの品・掘り出し物も多数出店』か」
「これって、良い物いっぱいありますよってこと?」
パーティの年少組が首を傾げながら話し合うのへ、微笑ましく思った親父さんが声をかけた。
「何だお前達、その張り紙に興味があるのか?」

「親父さん、これなに?」
「これは年に一回開かれる大バザーの広告だな。かなり大きな催し物で、色んな国から掘り出し物が集まる一種の祭りみたいなもんだ」
「お祭りなんだ!いいな、行ってみたいなあ・・・」
「・・・・・・武具の掘り出し物があるなら、俺も興味がある」
たちまち目を輝かせた二人を見て、親父さんが朗らかに笑った。
「それにしても、今日これを見つけるなんて運が良かったな。これは、丁度今日開催されるんだ」
「今日!?」
「ちょっと待て、他の仲間を呼んでこよう。ミナス、その紙そのまま持ってろよ!」
「はは、まだ開催まで間はあるよ。今から行っても大分余裕があるさ」
たちまち、アレクが”金狼の牙”の他面子を階下に集めてきた。
親父さんから説明を受けた彼らも、祭りと聞いて浮かれた気分になったらしい。親父さんから「どうだ、行ってみるか?」と聞かれ、全員が全員、「行く!」と返事をしたのだから、その期待たるや相当のものだったのだろう。
「ねえ、バザーに行くの?」
冒険者たちが出かける支度を始めていると、厨房の奥から話しかけられる。
近くのギルが振り返ると、丁度布巾を片手に、この宿の娘さんが出てきたところだった。
「あ・・・娘さん」
「バザーに行くならちょっと頼まれてくれない?新しい髪飾りが欲しいのよ。ね。お願い!すっごい感謝するから買ってきて?」
(お金は払わないんだ・・・)
二人の話を漏れ聞いていたミナスが心中で呆れていると、自己完結したらしい娘さんが、
「じゃ、頼んだからね。おみやげ楽しみにしてるわ。いってらっしゃい!」
と言って引っ込んでいった。これは、買わないと後が怖い。
ジーニがじとっとした目でギルを見やる。
「ちょっと~。ギルバート~?」
「・・・・・・。ごめん」
「あいつの強引なのは変わらんな。まあ、覚えてたら買っていってやってくれ。あいつは今日も仕事でバザーに行けないから、お前たちに頼るしかないんだ」
「そうか・・・ま、そういうことなら仕方ないか。大変ね、娘さんも」
いささか宿の娘に同情の念を覚えながら、冒険者たちは木漏れ日通りのバザー会場へと向かった。
どうやらここが会場のようだ。
かなり大きい広場が開演前の待合場として使われているが、それを埋め尽くすほどの大勢の人が今か今かと開演を待っている。

「ここで間違いないようだけど・・・どこへ行ったらなにがあるのか、全く分からないわ」
「本当だな。これじゃ移動するだけで一苦労だ」
「困りました。案内板でもあればいいのですけど」
ジーニの呟きに、両隣に立っていたエディンとアウロラが同意する。
ミナスを肩車したギルがとにかく前へ進もうと促し、一行はぞろぞろと人の波を割って行った。
そこかしこから、バザーを楽しみにしてるらしい客の声が聞こえてくる。
「世界中の人が集まる一年に一度のお祭りですからね。きっと魔法の品もどこかに混じってますよ!楽しみだなあ・・・」
「ねえ、書物区の大安売りの時間、知ってる?知ってたら教えて欲しいわ」
「今日は必ずお宝を買って帰らなくちゃ!さあ、早速武具を見てまわろっと!」
金髪の魔術師らしい美青年や銀髪の敏捷そうな女性、鎧を着た綺麗なブルーアイの女性など、十中八九同業者と思われる姿がちらほら見られる。
その中にちょっと場違いな感じの、しかしかなりこの場に慣れているらしい男性が一人、こっちへ来いと手招きしているのがアレクの視界に入った。
「なんだ、アレクの知り合いか?」
「いや、知り合いではない・・・が、多分あれは・・・」
急に速度を上げてその男に近づいていったアレクの後を、仲間が慌てて追った。
「おう、どうした?どうやらどこに行ったらいいかわからねえって顔してるな」
「ああ。バザーに来たのは初めてなんだ」
「あんたら運が良いぜぇ。この会場で一番の情報通のこの俺様に出会えたんだからな」
「なるほど、あんたは情報屋なのか・・・」
アレクが得心がいったように頷く横で、
(なんだかうさん臭いやつだな・・・)
と思ったギルが、鼻に皺を寄せて男を観察する。
その視線に気づいていながら気づかないフリをし、男は言葉を続けた。
「へへ、まあ初心者のあんたらに基本を教えてやるから有り難く聞けよ」
上から目線な発言にむっとするジーニの背中を、落ち着かせようとエディンが叩いて「金がいるのか?」と言うと、男は予想に反して首を横に振った。基本だから料金はいらないと。
それならと、”金狼の牙”たちは売り場の種類や安売りのルール、有料の鑑定人についてなどを教えて貰った。
さらに、バザーが終わったからってすぐ帰るのは素人のやり方だ、と情報屋が含み笑いと一緒に言う。
「常連は、バザーの後に楽しい物々交換タイムが始まるって事を知ってるんだ。恒例行事って訳さ」
「すごい面白そうだよ、ギル!」
「おっと、興奮して落ちるなよ!なああんた、それってどうやればいいんだ?」
「簡単さ。相手の持ってる品が欲しけりゃ、思い切って交換を申し出る。ここに居る奴らはそう言う開けた考えなんだ」
「ふーん、なるほど。無駄がなくて面白いわねえ」
「相手の欲しがるものが、こちらの手元にあったらラッキー!大抵1ランク上のものと交換してくれるぜ」
中にはアイテムの価値を誤魔化してレアものをバッタ物と交換させたがる奴も・・・・・・と注意をされたが、すでに興奮したギルやミナスの耳には入っていない。
これは自分が気をつけて見張らないと、とアウロラが後ろでこっそりため息をついた。
大体のことを聞き終わった”金狼の牙”たちは、「情報が欲しいなら、またいつでも話しかけな」と手を振る情報屋と別れ、ぞろぞろと売り場に移動し始めた列に並んだ。
「さて皆さん。どこから回りましょうね?」
「・・・・・・我がままを言って悪いんだが、やはり俺は武器から見たいんだが」
「どうせ当てもないんだ。アレクがそうしたいなら、そっちから回ろう」
とギルが言って、彼らは剣や盾を並べた地区へと進み始めた。
「えーと、『リューンの街の木漏れ日通りにて一日限りのバザーを行います』・・・?」
可愛らしい声音で読み上げるミナスの後ろから、どれどれとアレクも覗き込んで続きを朗読する。
「ふむ。『大安売りの品・掘り出し物も多数出店』か」
「これって、良い物いっぱいありますよってこと?」
パーティの年少組が首を傾げながら話し合うのへ、微笑ましく思った親父さんが声をかけた。
「何だお前達、その張り紙に興味があるのか?」

「親父さん、これなに?」
「これは年に一回開かれる大バザーの広告だな。かなり大きな催し物で、色んな国から掘り出し物が集まる一種の祭りみたいなもんだ」
「お祭りなんだ!いいな、行ってみたいなあ・・・」
「・・・・・・武具の掘り出し物があるなら、俺も興味がある」
たちまち目を輝かせた二人を見て、親父さんが朗らかに笑った。
「それにしても、今日これを見つけるなんて運が良かったな。これは、丁度今日開催されるんだ」
「今日!?」
「ちょっと待て、他の仲間を呼んでこよう。ミナス、その紙そのまま持ってろよ!」
「はは、まだ開催まで間はあるよ。今から行っても大分余裕があるさ」
たちまち、アレクが”金狼の牙”の他面子を階下に集めてきた。
親父さんから説明を受けた彼らも、祭りと聞いて浮かれた気分になったらしい。親父さんから「どうだ、行ってみるか?」と聞かれ、全員が全員、「行く!」と返事をしたのだから、その期待たるや相当のものだったのだろう。
「ねえ、バザーに行くの?」
冒険者たちが出かける支度を始めていると、厨房の奥から話しかけられる。
近くのギルが振り返ると、丁度布巾を片手に、この宿の娘さんが出てきたところだった。
「あ・・・娘さん」
「バザーに行くならちょっと頼まれてくれない?新しい髪飾りが欲しいのよ。ね。お願い!すっごい感謝するから買ってきて?」
(お金は払わないんだ・・・)
二人の話を漏れ聞いていたミナスが心中で呆れていると、自己完結したらしい娘さんが、
「じゃ、頼んだからね。おみやげ楽しみにしてるわ。いってらっしゃい!」
と言って引っ込んでいった。これは、買わないと後が怖い。
ジーニがじとっとした目でギルを見やる。
「ちょっと~。ギルバート~?」
「・・・・・・。ごめん」
「あいつの強引なのは変わらんな。まあ、覚えてたら買っていってやってくれ。あいつは今日も仕事でバザーに行けないから、お前たちに頼るしかないんだ」
「そうか・・・ま、そういうことなら仕方ないか。大変ね、娘さんも」
いささか宿の娘に同情の念を覚えながら、冒険者たちは木漏れ日通りのバザー会場へと向かった。
どうやらここが会場のようだ。
かなり大きい広場が開演前の待合場として使われているが、それを埋め尽くすほどの大勢の人が今か今かと開演を待っている。

「ここで間違いないようだけど・・・どこへ行ったらなにがあるのか、全く分からないわ」
「本当だな。これじゃ移動するだけで一苦労だ」
「困りました。案内板でもあればいいのですけど」
ジーニの呟きに、両隣に立っていたエディンとアウロラが同意する。
ミナスを肩車したギルがとにかく前へ進もうと促し、一行はぞろぞろと人の波を割って行った。
そこかしこから、バザーを楽しみにしてるらしい客の声が聞こえてくる。
「世界中の人が集まる一年に一度のお祭りですからね。きっと魔法の品もどこかに混じってますよ!楽しみだなあ・・・」
「ねえ、書物区の大安売りの時間、知ってる?知ってたら教えて欲しいわ」
「今日は必ずお宝を買って帰らなくちゃ!さあ、早速武具を見てまわろっと!」
金髪の魔術師らしい美青年や銀髪の敏捷そうな女性、鎧を着た綺麗なブルーアイの女性など、十中八九同業者と思われる姿がちらほら見られる。
その中にちょっと場違いな感じの、しかしかなりこの場に慣れているらしい男性が一人、こっちへ来いと手招きしているのがアレクの視界に入った。
「なんだ、アレクの知り合いか?」
「いや、知り合いではない・・・が、多分あれは・・・」
急に速度を上げてその男に近づいていったアレクの後を、仲間が慌てて追った。
「おう、どうした?どうやらどこに行ったらいいかわからねえって顔してるな」
「ああ。バザーに来たのは初めてなんだ」
「あんたら運が良いぜぇ。この会場で一番の情報通のこの俺様に出会えたんだからな」
「なるほど、あんたは情報屋なのか・・・」
アレクが得心がいったように頷く横で、
(なんだかうさん臭いやつだな・・・)
と思ったギルが、鼻に皺を寄せて男を観察する。
その視線に気づいていながら気づかないフリをし、男は言葉を続けた。
「へへ、まあ初心者のあんたらに基本を教えてやるから有り難く聞けよ」
上から目線な発言にむっとするジーニの背中を、落ち着かせようとエディンが叩いて「金がいるのか?」と言うと、男は予想に反して首を横に振った。基本だから料金はいらないと。
それならと、”金狼の牙”たちは売り場の種類や安売りのルール、有料の鑑定人についてなどを教えて貰った。
さらに、バザーが終わったからってすぐ帰るのは素人のやり方だ、と情報屋が含み笑いと一緒に言う。
「常連は、バザーの後に楽しい物々交換タイムが始まるって事を知ってるんだ。恒例行事って訳さ」
「すごい面白そうだよ、ギル!」
「おっと、興奮して落ちるなよ!なああんた、それってどうやればいいんだ?」
「簡単さ。相手の持ってる品が欲しけりゃ、思い切って交換を申し出る。ここに居る奴らはそう言う開けた考えなんだ」
「ふーん、なるほど。無駄がなくて面白いわねえ」
「相手の欲しがるものが、こちらの手元にあったらラッキー!大抵1ランク上のものと交換してくれるぜ」
中にはアイテムの価値を誤魔化してレアものをバッタ物と交換させたがる奴も・・・・・・と注意をされたが、すでに興奮したギルやミナスの耳には入っていない。
これは自分が気をつけて見張らないと、とアウロラが後ろでこっそりため息をついた。
大体のことを聞き終わった”金狼の牙”たちは、「情報が欲しいなら、またいつでも話しかけな」と手を振る情報屋と別れ、ぞろぞろと売り場に移動し始めた列に並んだ。
「さて皆さん。どこから回りましょうね?」
「・・・・・・我がままを言って悪いんだが、やはり俺は武器から見たいんだが」
「どうせ当てもないんだ。アレクがそうしたいなら、そっちから回ろう」
とギルが言って、彼らは剣や盾を並べた地区へと進み始めた。
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