Fri.

駆け抜ける風 3  

 翌朝。
 彼らの姿は、すでに宿の外にあった。

「――さて、それでは行動開始です。何とかして時間までに指輪を取り戻してあげませんとね」

 アウロラが小さな手を握り締め、自分に活を入れている。教会の信徒らしく、結婚の儀になにやら特別な思い入れがあるらしい。
 山岳地帯に到着すると、辺りは木々に覆われた森になっており、その先に、森に段差を作る様にして高い崖が南北に走っているのが見える。
 崖の断面は硬い岩肌になっており、所々に虚(うろ)が覗えた。
 だが、斜面は垂直に近く、専用の道具も無しに登る事は出来そうにない。

 冒険者たちが村人から得た情報通りに崖の断面を捜索すると、岩陰に隠れる様にぽっかりと空いた一つの横穴を発見することができた。

「ここ、だな」
「のようね」

 ・・・傍まで寄ってみると中から僅かに風が吹きぬけているらしく、ひんやりとした空気が頬を掠める。
 そして、その空気に乗る様にして、ぐぉぉぉ、という呻き声の様な音が暗闇の先から低く響いてきた。

ScreenShot_20121230_095115109.png

「この先に遺跡が・・・・・・?それにしても、暗いわね。さて、蛇が出るか鬼が出るか・・・・・・」
「出てくるのは、グリフォンじゃなきゃ不味いんじゃない?余計な時間はないわけだし」
「言葉の文よ!下らない冗談言ってないで、さっさと先に進むわよ!時間はないわけだからね!」

 魔法使いとエルフの、どこか間抜けたやり取りをよそに、エディンが素早くフォーチュン=ベルで購入したランタンに火をつける。
 それを掲げると、黒豹のようなしなやかな動作で先に立って歩き出した。
 その後ろをギル、アウロラが続き、ジーニとミナスを挟んでアレクが殿につく。
 崖の横穴を暫く進むとすぐに人工的な内装に到達した。
 どうやらここからが件の遺跡になっている様だ。
 
「・・・思ったより、かび臭くありませんね」

 壁面は石を組んで舗装されており、そこに簡素なレリーフが施されている。
 内部には僅かに風が吹き抜けており、遺跡内にしては澄んだ空気が保たれていた。

ScreenShot_20121230_095850578.png

「・・・昔に設置された罠の類がまだ残っているかもしれない。十分に警戒しながら進むぞ」
「ああ、任せとけ」

 アレクの発言に応えた後、たちまちその小さな人好きする笑いを消して、エディンが慎重に進んで行った。
 途中、壁面に耳をつける。
 通路の壁から呻き声が聞こえることに気づいたエディンは、ハッとして手を壁につけた。

「――そうか!これは呻き声じゃなくて壁の中を走る風の音なんだ」
「・・・壁の中を風が走ってる、の?」
「ああ、外でも見た通り、ここの岩盤には小さな穴がいくつも通ってるんだよ」

 エディンは、この横穴に進む前に岩盤のチェックもさりげなく行っていた。
 その時は、空いている小さな穴の意味が分からず、スルーしてきていたのだが・・・。

「そして山岳にぶつかった風がその穴を通って遺跡の周りを走ってるんだ。その時にこの音が出るのさ」

 小さなエルフが首を傾げるのに、敏感な手で壁の向こうの風を感じながらエディンが説明した。
 しばらく一行が進むと、南北に分岐したT字路に行き当たった。
 南北の通路は東のそれに比べて、壁面が乾き風化の度合いが大きい様に見える。

「何もねえな」

というエディンの申告に、ギルは暫く考えていたが「北へ」とだけ小さく指示した。
 指示通り進むと、北の通路は袋小路になっていた。
 北の壁面に小さな穴の様なものが空いている。

「なんだこれ?」

 エディンはそれに近寄り、罠が無いかを調べた。穴の傍には金属製のレバーが備え付けられている。

「・・・気になる様な所はない。レバーと穴の正体は、今は分からんな」
「いじらずに置いておこう。必要なら戻ってくればいい」

 アレクの進言に皆が頷き、また来た道を引き返した。

2013/01/04 04:55 [edit]

category: 駆け抜ける風

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top