酒蔵の妖魔退治その3

 杖を持った小鬼――ゴブリンシャーマンが、てかてか緑色に照る顔で呪文らしき言語を唱え、その周りにいる数匹のゴブリンたちが、ボスの言葉に合わせるかのごとく、謎の踊りを踊っている。

「キキーッ!」
「ギャギャーッ!!」
「……何してんだあいつら」

 半目になって眺めていたフレッドが呟くのも無理はない。
 今まで4回ゴブリンと戦った経験を持つ彼らだが、妖魔たちがこんな行動を取っているのは、初めてのケースである。
 ゴブリンシャーマンが杖を振り上げるごとに、同調するかのごとく、他のゴブリンたちが両腕を真上に上げ、ひらひらと謎の動きを繰り返している。ゴブリンは全員が踊りに熱中しており、まったく周りに気を配っていないようだ。

「……何してる、て言えば、踊ってるんだと思うけどね」
「葡萄酒たくさん飲んで、テンションあがってるのかなあ」
「いや、しかし俺たちにとっては面倒だぞ。あれだけ興奮していると、妖精の子守唄も効かないんじゃないだろうか」
「こちらが奇襲するタイミングがない、ということですね……」

 冒険者たちが小声でひそひそ会話していると、不思議なことが起こった。
 目立つためなのか、ゴブリンシャーマンが踏み台にしていた木箱には、似たような材木の板が立てかけられていたのだが、これもまた、例のキノコの菌糸がついていたらしい。
 ぽこん。
 そんな呑気な擬音をつけたくなるくらい、小さなキノコが複数、弾けるように板の表面に現れた。
 思わずフタバが訝しい声を出す。

「え?」
「ギャッギャギャーッ!!」

 釘の頭ほどしかなかったはずのキノコたちが、まるでゴブリンどもの踊りに応じるように、にょきりにょきりと丈を伸ばしていく。
 一同は、あまりと言えばあまりのことに目を瞠って驚愕の意を表した。
 しかし、瞠るだけでは気の済まなかった者が一名いた。

「キノコ!?あまりにも成長が早すぎる、あの踊りの力なのでしょうか?」
「あ、馬鹿……」

 最近は周りからの忠告で抑え気味だったのだが、予想外過ぎた出来事のショックで、思わず大声の特性を持つミハイルが叫んでしまったのだ。
 横でフレッドが顔を顰めるものの、発言を止めるにはもう遅い。
 他の仲間より一際高いところにいたシャーマン種が、この部屋の出入り口に佇む一行を視界に捕らえて、杖で敵が訪れたことを示す。

「キーッ!?キキギャーッ!!」

 この動作と鳴き声により、他のゴブリンたちも冒険者の姿に気づいて、慌てて武器を持ち、威嚇の声をあげ始めた。
 一同もフレッドとフタバが前に出て、迎撃の姿勢を整える。
 ゴブリンはどうやら、この酒蔵を塒にし、自分たちの食料となり得るキノコの栽培に精を出していたものらしい。冬に備えてのためならまだしも、傷薬の代わりに、不思議な回復効果を持つキノコを使用して篭城されると、ゴブリンと言えども厄介な相手になる。

「偉大なる魔法の力よ、粘つく糸に変わり敵を捕らえよ!」

 キノコが育ちきる前に、ここで殲滅するのが吉だと判断したフタバは、踏み台から降りようとしているシャーマン種目掛けて、【蜘蛛の糸】の呪文を放った。

「キ、キーッ!?」

 動きが遅滞している隙を狙われたゴブリンシャーマンは、粘つく糸によって地面に転がる羽目になった。何とか抜け出そうともがいているが、それを許す呪文ではもとよりない。

「よしっ、ボスは動きを止めたわよ!」
「ふんぬッ!」
「ギャギャ!」

 フタバのさらに一歩前に踏み込んだフレッドが、腰のベルトに固定していた手斧を、こちらへ走ってくる一匹に投げつけた。目標にされたゴブリンの肩口に、深く刃が突き刺さる。
 ゴブリンが痛みと強い衝撃にたたらを踏むと、そこを狙い撃ちしたカノンの【輝星の矢】がトドメを刺した。

「一匹終わり、と」
「でも、まだまだ数が多いよ~……」

 気弱に返事をしたリュミエールは、ゴブリンの一匹から投げつけられた石を、「ヒェ!」と妙な悲鳴を上げながらも避けた。
 慌ててミハイルが、タブロアート領で入手した≪氷の宝玉≫で殴りつけて追い払う。

「ギギィッ!!」
「ギャギャッ!」
「少々手が足りないですかね……」
「いや、まだまだこれからさ」

 カノンは魔力を高め、柳とイチイから作られた≪隠者の杖≫に同調させる。
 より強い魔法を使うために、集中を始めたのだ。
 それに気づいたミハイルは、フレッドに大声で呼びかけた。

「フレッドくん、魔法の施行のために時間を稼いでください!上手く行けば、かなり数を減らせるはずです!」
「おう、やってやるぜ!!」

 ゴブリンが特に群がっている地点へ飛び込むと、フレッドは握り締めている大斧を、でたらめに見せかけた力強い動きで振り払った。斧の刃に吹き飛ばされた緑色の四肢が、べちゃりと洞窟の壁に張りつきずり落ちた。
 その地獄のような様子に恐怖を覚えた個体が、じりじりと部屋の出入り口のほうへ後退し始める。
 ゴブリンにとって幸いなことに、己の同族と冒険者たちは目前の戦いに集中し切っているようで、闇に紛れ動いている一匹になど注意しない。
 これで逃げられる……!
 安堵を覚え、洞窟から逃げようと右足に力を込めた瞬間、彼の首は白い炎に包まれた刃によって、身体から斬り飛ばされていた。
 洞窟に再侵入した存在に気づけなかったことが、このゴブリンの命を縮めたのだろう……例え、気づいたとしても、逃げられる可能性は極小だったろうが。
 フェアリーが闖入した人影を見つけ、声を掛ける。

「モイラ、もう戻ってこれたの!?」
「コシュー村の人や、治療を受けた従業員さんたちが、道の半ばまでボルド殿を迎えに来ていましたのでね。早々に御役御免ですよ。どれ……」

 モイラはベルトポーチに手を突っ込むと何かを取り出し、フレッドにより壁際へ追い詰められていたゴブリンの集団に、素早くそれを投げつけた。

「受け取りなさい!お土産です!」

 宝石のような物が地面に放り出されたかと思うと、爆炎と轟音が広がった。

「うわー、すごい音だね。火晶石?なんか売ってるやつよりもちっちゃかったね」
「こちらの洞窟、酒蔵になる前は鉱山だったそうなんです。その頃の余りだとか。従業員さんから、戻る際はぜひ使ってくれと託されましてね。……しかし、まだ仕留めきれてませんか」
「だいじょぶ、きっとカノンが……」

 リュミエールがそれを言い終わらないうちに、≪隠者の杖≫が振り上げられ、高まったカノンの魔力によるオーラが彼を包み込む。
 まるで星屑のような光が、彼の紡ぐ呪文に従い、徐々にうねりを激しくしていく。

「遍く星の光よ、光の雨と変わり、我が敵全てを撃ち抜け!」
「キギギャーーッ!?」

 迸る光の粒が、解放の言葉と共に弾け飛び、残る妖魔たちの身体を貫通していった。
 ばたばたとゴブリンたちが倒れ、辛うじて這いずろうとする者もいたが、フタバの突き出した刀の切先が、背中越しに死に損ないの心臓を刺した。
 他に息を潜めている者もいないようで、敵はこれでなくなったと判断し、冒険者たちは激しい動きや魔力の消耗から来る疲労で座り込んだ。
 乱戦を避けていたフェアリーだけが疲れを引き摺る様子もなく、ふわりと何処かへ飛んでいく。

「ふう。これで終わりね?」
「戦いはそうです。しかし、僕らにはもう一つ、始末しなければならないものがありますよ」
「んあ?俺ら、依頼人の兄も見つけたし、ゴブリンも討伐した。仕事はこれでいいんじゃね?」
「ゴブリンはこの洞窟の亀裂を崩し出てきた、とシャルドさんが仰ってました。ということは、その穴を調査し、暫定的にでも塞いだ方がいいということです」
「あー……確かに、そんな話だったわね」
「それって、あっちの部屋の穴のことかなあ」

 誰よりも一足早く、奥に続く通路の先へ調査に飛んだリュミエールが、こてりと首を傾げた。
 フレッドが、両手を背中側の地面について天を仰いだ体勢で、リュミエールに視線を合わせる。

「穴、あったのか?」
「うん。でも、暗くて見通せないんだ。気持ち悪いし」
「気持ち悪い?」
「ふうん。従業員の言っていた例の穴というのは、どうやらそれみたいね」
「しかし、一概に穴を塞ぐと言っても、我々には道具がありませんが……」

 モイラがそう意見を述べると、カノンがにやりと笑って、自分が寄りかかっている後ろの木箱を親指で差した。

「この箱な。俺が体を預けても、びくともしないんだ。相当に中身が詰まってると思う」
「……ああ、つまり箱で穴を塞ごうと。なるほど、良いかもしれない」
「結構な重量だから、暫定措置ならこれで充分だろう。もちろん、動かすなら全員が力を合わせなければ難しいだろうけどな」
「完全に塞ぐ前に、一度中を覗きこんで調べましょう。僕も箱を動かすの、お手伝いします」
「ミハイルくんの言う通りね。調べてから塞ぎましょ。まだ、この洞窟に来ようとしている奴がいないとも限らないでしょうし」
「二戦目か。休んでからならいけるぜ!」
「いや、なくていいのよ……」

 この後、≪太陽を送る者たち≫はゴブリンたちの侵入経路を追跡し、それが暗い森の奥に続いていることまでを確認して、穴を予定したとおり木箱で塞いだ。のちのち、この行動により報奨金の銀貨100枚がリューンから支払われるのだが、彼らはまだそれを知らない。
 だが、コシュー村に戻り、ボルド氏や村長などに次第を報告した一行は、多大な歓待を受けて村に宿泊させて貰った上、コルクや瓶底の一部が欠けたために、商品として出せなくなった葡萄酒をお土産代わりに頂いた。
 ≪のんびり柘榴亭≫で休養していたシャルド氏も、兄を無事に保護した報せが何よりの薬になったものか、ぐんぐん健康を取り戻し、2日後に兄や妻の待つコシュー村へ帰っていったものである。
 後日、約束通りに報酬の銀貨900枚と、食の街メルカド出身の鑑定者により、≪洞窟松茸≫と名付けられた例のキノコを用いたお酒が、≪太陽を送る者たち≫宛に届けられた。フタバが必ず鑑定してもらうよう進言したキノコは、酒に加工されてもその回復効果や解毒効果を失わず、さすが高度な酒造りの手になるものであると、味見した全員の意見が一致した。
 それとは別に、怪我を負ったシャルドを世話してくれた≪のんびり柘榴亭≫へ、良質な出来の葡萄酒をいくらか割り引いて卸すという契約書が届き、エセルがいたく喜んだことも記しておこう。

「……おい、リュミ。なんだよ、その赤いの」
「あのねえ、あの松茸洞窟のゴブリンが振ってた楽器。なんかシャカシャカ音がするの」
「……没収!!」
「うわーん、ひどいよフレッド!!」

 ……ついでに、この赤いキノコ型楽器は、銀貨300枚以上で売れたことも追記する。

※収入:報酬1000sp、≪難あり葡萄酒≫×5、≪洞窟松茸≫×8、≪松茸酒≫×6、≪まんじゅう≫×6、≪キノコ?≫
※支出:
※その他:
※サトウチ様の酒蔵の妖魔退治クリア!
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前回とかなーり時間が空きました。すいません。フレッドたちの9回目のお仕事は、サトウチ様の酒蔵の妖魔退治でございました。
これもまたゴブ洞の改変シナリオの一つなんですが、酒好きや悪人などのクーポンに対する分岐反応があったり、ゴブリンがキノコをとなりの○トロのようににょきにょき成長させたり、面白い要素が詰まっていたので思わずプレイしました。
実は今回のリプレイの話の流れ、出だしからシナリオとは結構変えていたりします。
サトウチ様におかれましては、ご不快でしたら真に申し訳ございません。
本当は、シャルドさんが怪我を負っているのはゴブリンのせいじゃなく、自分で慌てていてぶつけたものだったり、ボルド氏保護ののちゴブリン討伐して帰ると、弟に肩を借りたボルドさんが冒険者を出迎えてくれたりとあったんですが、怪我や空腹で休まなきゃいけない人なので、こういう話の流れになっております。

今回のプレイによるキャラクターには、特に酒好きの称号持ちはいなかったのですが、モノが松茸だけに、元日本人であるフタバがキノコに反応するシーンを作ってみました。松茸を食べたことが無い人でも、結構テレビなどで、「へー、こんなものなんだ」と目撃していることはありますよね。
この松茸のお酒、貰った時に非常に嬉しかったので、拙作シナリオ”夢黄街の向こうで”で横流し品を出したことがあります。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

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