Sat.

塩の降る村 その4  

 たっぷり休憩を取り終わった冒険者たちは、宝箱から回収した火晶石をリュミエールの荷物袋に納めて、休憩室の向かい側にある部屋の魔法陣を起動していた。
 もうひとつあった正面のドアの向こうは、己の目の働きを疑うような光景があり進んでいない。
 あのスキュラの体内から飛び出した赤い石は、どうやら魔法陣の起動キーであったようで、魔法陣のある部屋には玉がピタリと嵌まるプレートが2枚設置されている。
 赤い石で移動した先には、本棚の後ろにあったような小部屋があり、そこの宝箱にはもうひとつの起動キーと思われる、翠色の石が鎮座していた。

「これで動くよね、きっと」
「あの魔法陣、古代技術のコントロールルームみたいな所に繋がってると思うんだけど……いや、古代の凄いところなら、アレは見たけれどね」
「ああ……あれね……」
「あれですか……」

 フタバ・リュミエール・ミハイルは、揃って遠い目をした。
 正面ドアの向こうには、何と竜が座っていたのである。竜――最強の幻獣と呼ばれ、伝説に謳われる最強の生物。そんな途轍もないものが、30メートルは上の視線から見下ろしてくるのだから、駆け出しをやっと卒業できるか否かという実力の冒険者が、到底太刀打ちできるものではない。
 この技術の結晶である取水施設を守るために、古代の魔術師が配したのだろう。
 竜を回避してきた一行は、翠石の起動キーの移動先には2つのドアがあり、右手にあったドアを開けた瞬間、

「これ、やばいんじゃ……」

と誰もがこの施設に危機感を抱いた。
 びちゃり、と前に踏み出したモイラのブーツが水音を立てる。
 壁の僅かなひび割れから、水分が滲み出している。床の水はそこから漏れたものだと思われるが、閉めきられていたこの部屋の湿気は、遺跡に入った時の比ではなかった。
 もしかしたら、まさに自分たちは遺跡崩壊の瀬戸際にいるのでは――そう考えた冒険者たちは、不安を抱えたままもうひとつのドアを開けた。
 この部屋も、他と印象に大差はなく、相変わらず灰色の石材による壁に取り囲まれている。
 階段がふたつ伸びており、ひとつは上へ、ひとつは下層に向かうもののようだ。頭脳役のカノンもフタバも、水を溜めておくなら下層の階段のほうだろう、と見当をつけた。
 問題は――部屋の隅に立つ、2本の奇妙な”柱”である。表面には水晶球や操作用のつまみが見られるが、それ以外は完全にフラットで、ただの柱と変わりは無い。

「水晶球が割れているのが気になるな……」
「この出っ張り、スイッチだと思うの。横のこれが操作の説明書きなんだろうけど、西方諸国のとはもちろん、和国の文字とも違うのよ」
「つまり、読めないと」

 モイラの指摘にフタバは首肯した。
 フタバが詳しく見たところ、右の柱に2本のスリットがある。何かを差し込むらしいが、これも説明書きが読めなければ、迂闊に弄ることができない。

「参ったわね。解読のアイテム購入を検討すべきだわ」
「……一応、このスイッチを押してみよう。タウス川の変化をどうにかするんなら、とりあえずこの装置は動いてなきゃいけないんじゃないか?」
「うー………」

 フタバはしばらく迷っていたが、カノンの言い分がもっともだったので、同意するほかなかった。
 長い指が出っ張りを押してみたが、何も起こらない。
 業を煮やしたフレッドが、再び同じ所を押そうとすると、

「…その装置に触れてはならぬ…」

という、しわがれた年老いた声が、どこからともなく響いて来た。

「何モンだよ!?」

 フレッドの呼びかけに応え、柱からふわりと現れたのは、魔術師風の霊体である。
 微細な影の集まりのような姿にカノン以外の全員が構えをとったが、カノンだけが落ち着いた様子で霊に話しかけた。

「あんたがこの施設の関係者か?」
「その通りよ……我が名はテルマン。このギガースを造りし、古き魔術師なり」
「ギガース?」

 不思議そうに言ったのは、リュミエールである。吟遊詩人でもある彼女は、それが伝承では竜をも取り拉ぐ剛力の巨人の名であることを承知していた。テルマンは、タウス川の流れを吸い上げるこの取水施設に、巨人にあやかってそう名付けたのだと話した。

「ここの前室の番人たる竜めも、また然りじゃ。古代の英知たるギガースの前では一切無力。700年の過去より、ここに繋がれ、抗う事も叶わず蟠っておるわ」
「繋ぎっぱなしは良くないぞ。飯が食べれない」
「24時間どころか、365日休みがないとか、労働条件がブラック過ぎじゃないかしらね」
「お前ら、ちょっと黙ってろ」

 カノンは竜に対する処遇を抗議する少年少女を黙らせると、自分たちは近隣の村から塩害調査のために雇われた一団であることを霊に説明した。

「…ふむ…なるほどな。ともかく、そなたらが、この施設を害する意図を持っておらぬのなら、それで問題は無い。先の冒険者たちとは違い、矛を交えずに済むというものだ」
「先の冒険者って……ああー、そっか」
「ルドニーの若者たちのことでしょうか。彼ら、一般人ではなかったんですねえ」
「だとしても、初っ端の仕事を自主的にこれにするなんて、自分たちの実力が測れないにもほどがあります」
「そいつらは何をして、あんたと戦う羽目になったんだ?」
「彼奴らは、誤った操作により制御装置を暴走させ、破壊してしまったのだ」

 ああ……と一行は頭を抱えた。柱の水晶球が割れていたりするのも、その際の余波だろう。この霊はその異常を感知して彼らに止めるよう話しかけたのだが、ルドニーの若者たちは話を聞かずに、また装置を弄ろうとした。魔術師の霊からすれば、これ以上の暴走はごめんだったのである。
 実体がないので行為を止めることが適わず、長期間呪縛や麻痺できる手段でもあれば良かったのだろうが、そんな魔法を彼は取得していなかった。やむを得ず殺害に至ったわけだ。
 テルマンは淡々と話を続ける。

「…おかげで現在、取水装置が、最大の力で取水するにもかかわらず、余分な水を放出する為の水門を
開けぬ。取水量と放水量を、制御出来ぬ状態にあるのだ。加えて、給水ネットワークも、既に機能しておらぬようだ」
「ええっと、どういうつまり状態だよ?」
「水はいっぱい溜め込むのに、水をちょっとしかギガースから出すことが出来てないの。ネットワークが機能しないから、各地に水を送ることもできないってこと。そういうことでしょ?」

 テルマンは頷き、取水施設を害せずに探索するのなら、それはそれで構わないと言った。

「しかし、タウスより大量の水を吸い上げて既に2ヶ月、ここの地下貯水槽も、既に飽和状態に達しておる。オアシスの状態を見ればわかるであろう……地下に収まりきらぬ水が、地上に湧き出し、湿地帯を形成しておる」
「さもありなん。この施設は最早限界なのだ。このままいけば、遺跡が大量の水により中から押し潰されて、村ごとあたり一面を押し流していくだろうな」

 だが、とカノンは言った。

「何か手はあるんじゃないか?あんたが成仏もせずにここにいるのは、『あれをやってくれれば、最悪の状態は回避できるのに』という希望が残っているからじゃないか?」
「驚いたものだ……さよう……私が考えておるのは、放水口を解放することだ……」

 テルマンの説明はこうだ。
 この遺跡は既に制御不能であり、現在の最大量での取水を止める手立てのほうは無い。だが、放水口を拡張し、元より少し大きな穴を穿ってやることで、取水量を上回る放水量を確保すれば、徐々にギガースの貯水量も減ってゆき、いずれはタウス川の流れも復活するだろう……。

「しかし、これは極めて危険な賭けだ。残された時間は少ないだろう……ここを脱出するなら、今のうちだぞ?」
「まだチャンスがあるのなら、やるに決まってるだろう」

 カノンが恐れる色もなく言い放ち、他の面々を見渡した。皆、若干の緊張は孕んでいるものの、今すぐ逃げ出そうと言い立てる者はいない。『火を抱く猫』ことホムラさえ、次の指示を待つような様子をしている。カノンはふっと笑いながら、依頼人は後で思い切り吹っ掛けてやると保証した。
 フレッドが尋ねた。

「放水口に行くのには、階段で下りればいいのか?」
「ああ……最後まで足掻いてみることだ……」

 俄かに、魔術師の霊体の輪郭が揺らぎ始める。

「大した覚悟だ……」

 あえての勇気を賞賛しているのか、危機への鈍感さに呆れているのか、最後にこの一言を残し、古代の魔術師の霊体は、冒険者たちの前から掻き消えた。
 一行はさっそく移動しようとしたが、リュミエールが二又の杖のようなものを柱の影に発見し、慌てて立ち止まる。柄の部分にスイッチがあり、それを押してみると、先端より強い雷光が走った。

「なんだろうね、これ」
「しまったな。さっきのテルマンさんだかがいれば聞けるのによ」
「変わったものですね。僕が持ちましょうか?」
「んー。あたしでも持てるから、一応このまま貰っておくよ」

 二又の杖を持つフェアリーの姿に、フタバは現代日本でデフォルメされてた虫歯菌みたいだ……と思ったが、辛うじて吹き出すのは堪えた。実はこれが、ある意味で彼らを救うことになるのだが……。
 長い階段を下りると、巨大なプールのような空間が広がっている。最大量で放水する時には、腰の辺りくらいまで溜まっているこの水が、この空間いっぱいを埋めるほどになるのだろう。

「…この奥が放水口なんですね」
「少し水がありますね」
「まあ、そんなに水深がある訳でもないしな。さっさと奥の放水口を開けちまおうぜ?」
「ああ。なるべく急いだ方が良さそうだ。………!?」

 その時、水底から弾けるような泡の音が、ハーフエルフの尖った耳に届いた。立ち止まり、あたりの水音を聞き分けようとする。
 不審に思ったモイラが何事か尋ねようと身を乗り出した時、急に彼らの進行方向から、ぶくぶくと泡が立ち始めた。

「やっぱり、空耳じゃないな」
「……この先に何かいますよ!」

 行く手の水中に何か大きな影が過ぎったかと思うと、影はこちらが察知したことに気づいたのか一気に浮上して、彼らの前にその姿を現した。
 それは大きな魚型の生物だった。しかしその異形は、2対の長い触手を具えており、 恐るべき魔物であろうことが正体が分からずとも窺える。何より嫌悪をそそるのは、人とは似ても似つかぬその姿から、異形の知性が感じられることであった。

「テ~ル~マ~ン~……こんなモンがいるなら、先に注意しとけ!」
「全くです。しかしあれは一体……?」
「アブトゥー……恐るべき知的生命体だ。俺が嫌なのは、他の生物を催眠効果で従属させることと、魚型のくせに陸上活動もできることだな」
「何それ、ずるいにもほどがあるよ!」
「モイラやフレッドにその従属効果発揮されると、私たち詰むんじゃない?」
「が、頑張って回避しましょう……」
「だな」
「ただ、俺が文献で見たものよりは幾分か小さい。まだ幼体なんだろう。だとすれば成体を相手にするよりは、まだ勝機があると言える」

 カノンは少し出した舌で上唇を舐めると、ゆっくり杖を構えた。
 冒険者たちは触手でなぎ払われることを警戒し、散会したかったのだが、生憎と水の掛からない足場でアブドゥーと戦える場所はそう多くない。
 こちらへ襲い来る触手の一本をサイドステップでかわすと、モイラはすかさず剣を振り下ろした。
 彼女の持つ≪白炎の直剣≫は、刀身に火が纏わりついた聖なる剣だ。水棲生物相手なら頼りになるだろう、と当てにしていたのに、いまいち効果があるようには見えない。

「ち、こいつ火は苦手じゃないんですか…!」
「アブドゥーの表面は粘膜で覆われている。触手もまた守られているのかもしれない」
「じゃあ、弱点は何だよ!?」

 触手に腕を打たれながらも、斧を取り落とすことなくフレッドが鋭くスイングさせると、ダメージを受けていた触手が一本落ちていく。

「猫よ、猫よ、燃ゆ街を見て何想う」

 後ろで詠唱の終わったフタバが、指差してアブドゥーの本体に攻撃を飛ばしたが、それは残っている触手によって届くことがなかった。

「触手が邪魔だわ!」
「全部落とすのかよ、面倒だな」
「弱点……弱点か……そうだ!おい妖精、俺が良いと合図するまで、さっきの二又の杖は使わず構えていろ!」
「え、うん、わかった」

 いいアイデアを閃いたカノンが、攻撃魔法を唱えず荷物袋を漁り始める。
 何をしてるんだと怒鳴りたいところだが、それどころではないので、ミハイルは損傷の著しく激しい触手を叩き落した。――恐らくはそうやって憤っていたのが、心の隙だったのかもしれない。
 ふっとミハイルが気づくと、どんよりした赤黒い目がこちらを覗き込んでいる。

「くっ……う、うう……!」

 ≪氷の宝玉≫を落としたミハイルが、愕然とした様子に変わり、何かを恐れるように震え始める。
 ミハイル様、と呼びかけるモイラの声も、彼の深層意識には届いていなかった。
 フェアリーが舌打ちする。

「まずいなあ……従属効果かな」

 しかし、ミハイルが仲間たちに攻撃するよりも前に、カノンが持っていた塩を水中へばら撒く方が早い。
 それも一掴み二掴みならともかく、袋いっぱいの塩を勢いよく放り込んだものである。
 ゾンビーのごとき足取りで歩き始めるミハイルを、モイラが羽交い絞めにして全力で止め、フタバとフレッドで残りの触手を相手した。
 足に絡み付こうとする触手を蹴飛ばし、フタバは短い詠唱と共に刀を振り切った。【紅蓮の剣】による攻撃である。
 フレッドはそれを見て、わざと自分の足を囮にしてアブドゥーの触手を巻きつかせ、動きの止まっているうちに斧で断ち割った。

「危ない真似するわね。懲りないの?」
「この方が届かない位置の触手狙うより、早く退治できるだろ」

 それに、とフレッドは横目でちらりと、まだ塩を投げ入れているカノンを見た。

「あっちはあっちで、囮がいなかったら触手に水中へ引きずり込まれちまう。一体、何の遊びなんだよ?」
「遊びじゃないわ、多分だけど伝導率を上げてるのよ」
「伝導率?」
「正しくは電気伝導率。物質中における電気伝導のし易さを言うんだけど……水はね、塩水のほうがうんと電気が伝わりやすいの」

 刀が閃き、ミハイルたちを狙った触手の先っぽが切り飛ばされる。

「それがどうしたんだ。関係あるのかよ、この非常事態に」
「あるわよ。フレッドったら、リュミエールがあの杖をバチバチさせてたの、一緒に見てたじゃないの」
「あれがどうし――まさか……」

 フレッドがもう一度彼らを見やると、カノンがにやりと笑ったところだった。

「よし行け、妖精!お前が水に浸からないように注意しつつ、水にスイッチを入れた杖を突き立てろ!」
「いっくよー!」

 何となく飲み込めたフェアリーは、いつの間にか数少なくなった触手をすり抜けて、柄のスイッチをONにされた杖を言われたとおりに突き刺した。
 その途端、水中に激しい雷光と轟音が轟き渡る。

「……ふにゃああ!?」

 自分のやった行動に対する、大き過ぎる反応にリュミエールが悲鳴を上げるが、無言のままアブドゥーも身を捩り、声なき断末魔を叫ぶ。
 やがて黒こげ状態になった触手が順々に水中へ没していき、反対にすっかり息の根のとまったアブドゥーの本体が浮かんできた。
 そして、アブトゥーの支配下にあったミハイルは、敵の死亡により支配より脱した。

「……はっ!モイラ、ちょ、何で抱きついてるんですか!?」
「羽交い絞めです。抱きついてるわけじゃないです」
「……ロマンチックの欠片もないな、あの従者さん……妖精、無事か?」
「ふおお……目がちかちか、耳もぐあんぐあんするよー……カノンひどいー……」
「すまんすまん。水に入らずに杖を突きたてられるのは、うちじゃお前しかいないからな。……肝心の杖はどうした?」
「壊れちゃったみたい。ああいう使い方するものじゃないんでしょ?」
「うーむ。やったものは仕方ないな」

 治療の必要があるほどの怪我を負ったものがいないのを確認し、カノンはさてと皆を促した。
 放水口はこの奥にあるのだ。放水口自体を拡張する作業があるので、あまり時間をかけるわけにはいかない。
 ただ、フレッドは浮いてきたアブドゥーをじっくりと見やり、ミハイルに切り取った一部を記念に持ち帰りたいから、≪氷の宝玉≫で凍らせてくれと頼んでいた。

「おい、お前の持つ荷が肝心なんだ!早く来い!」
「わー、待ってくれって!」

 合流した一行は、腰まである水を掻き分けて、頑丈そうな石の扉の前に進み出た。
 御影石のような黒い扉は、確かに水の一滴も通さぬよう、しっかり閉じ合わされている。これを破壊するには、相応の時間が必要となるだろう。
 だが、彼らにはちょっとした秘策があった。
 いそいそとフレッドが取り出した井戸用の掘削機。ココン村に残されていた機械である。
 気合を入れるために頬を自分の両手で打ったフレッドが、それをしっかり構えた。

「……始めるか。思いっ切りこの水門、崩してやろうぜ?」
「おお!」

 冒険者たちは、景気よく放水口周りの掘削を開始した。
 地道な掘削は成果が現れるよりも先に、作業を続ける冒険者たちの体力を奪い、額に汗を滲ませていく。
 テルマンは、「元より少し大きな放水口」を開ければいいと言っていた。つまり、穴を広げ過ぎても悪影響が出てくるはずである。
 放水口そのものを破砕するのも大事だが、そのサイズに関しては慎重を期さなければならなかった。
 ポタンと誰かの滴る汗が、下の水に落ちる音がする。水が下半身に浸かった状態で作業を続けるのは、体温を著しく奪うのだ。
 しかし、集中力を欠くわけにはいかない。冒険者たちが石の放水口を穿つごとに、ヌクス村や他の村々の住民の生活や命がかかってくるのだから。
 そして………。

「まずは皆様、この度は、危険を冒して、砂漠を探索してくださいましたこと、深く感謝致します。しかし、まさか北の山中から、タウス川が干上がってしまっているとは…」

 翌日の話である。
 彼らの前で礼を述べ、そう慨歎しているのはヌクス村の村長――つまり、彼らの依頼人であった。
 一行は見事に注文どおりのサイズの穴を掘削し、無事にここまで戻ってきたのである。
 そもそもの依頼であった塩害の来る場所や原因、それについての処置……本当に長い話であるために、このヌクス村に不眠不休で辿り着いた彼らは、一度睡眠をとって体力を回復してから依頼主に対していた。
 そうやって明かされた真相に、村長はただただ唸るばかりである。

「古代の叡智とは、実に恐るべきものなのですな。あの大河すら消滅させてしまうのですから」
「うん。怖い話だよね」
「でもま、昔からこの辺が荒地だったんで、古代の人もどうにかしたかったのは、今と変わりないんだよな」
「そのために工夫をするのはいいのだと思うんです。ただ、アフターケアがなってなかったわけでして」
「ルドニーの若者たちも、自分たちの手で村を助けたかったでしょうにね。運が悪かったわ」
「……今回、僕、丸呑みにされるわ操られるわで、ろくなことがなかったんですが……」
「ははは……あ、そうだ。村長、これを見てください」

 カノンはフレッドに了承を得て、袋に詰めた魔物のサンプルを村長に見せた。ミハイルが≪氷の宝玉≫の力で凍らせたアブドゥーの一部である。

「むう…!これはまた…何とも不気味な……今まで私が目にしたどんな生物とも違っておりますな」
「こいつは古代の知的生命体のひとつなんだ。ただの魚じゃなかった。勝てはしたんだが、俺たちも危なかったよ」
「皆様はこんな異質な者たちと、日頃から戦っていらっしゃるのですなあ」

 村長は、深い感銘を受けた様子だ。

「こいつを退治した後で、遺跡の暴走による水害の発生を止めるため、古代施設の放水口を拡張してきた。もうタウスが干上がることはもちろん、洪水も暴雨が降らない限りはないだろう」
「ま、雨のほうは山岳が低めだから、元々降雨量も低い地方みたいだし。安心してもらっていいと思うわ」
「実に素晴らしい。皆様は、この地方に生きる者達の希望をお守り下さいました。同じ地方に住む同胞として、これは是非、お礼をしなくてはなりますまい」

 基本報酬に加えて危険手当、さらには塩害の原因の突き止めやその対処などを称えて、銀貨を2400枚も用意してくれた。
 常にない銀貨の洪水に、リュミエールが目を瞠る。

「うわあ。こんなに貰っちゃっていいの?緑化計画とかやり直しなのに、大丈夫?」
「すべてゼロから出発するつもりで頑張りますよ。遠い西方から来ていただいたのですから、これくらいさせてください」
「それじゃ村長、ココンの村人は難しいかもしれないが、ルドニーの人たちに今回の件を伝えてあげてください。我々はこれから、ポートリオン経由でリューンに帰ります」
「おや……もうお帰りになられるので?」

 まだ十分なもてなしも出来ていないのに……と村長は残念がったが、冒険者たちは、今までの塩害で食料にも不安が出始めているヌクスに、これ以上の負担をかけたくなかった。
 もっとも、ポートリオンを目指すのにはちょっとした理由もあるのだが……。
 村長に暇を告げると、彼らはゆっくりと街道に向けて歩き始めた。
 今までほとんど見ることのなかったタウス川は、今朝から少しずつ水量が増え始めているようで、ヌクス村の人たちの顔も、前に見たときよりずっと明るくなっていた。
 塩に侵された土壌を回復するには、まだまだ長い時間がかかるに違いないが、いずれサス湖も、その本来の水位を回復し、ヌクスを始めとする南部の村々の塩害も段々と解消されてゆくだろう。
 かつての雄渾な流れを取り戻した大河を見届けられないのは惜しいが、あの商人が故郷に戻る前に、新港都市にまで行く必要があった。

「なんてったって、サス湖が元に戻ったら、もうお塩取れないもんね」
「カノンの指示でめちゃくちゃ採った塩、早めに行って売らないとな」
「ふはははは、俺に任せておけ。頑張って紹介してもらった商人に売り込んでやる」
「うう、聖北の神よ、今回は報酬をたくさんいただいたのに、仲間が欲をかき過ぎじゃないかと心配です……」
「でも今回、ミハイル様にその手の発言権はないですからね。ただでさえ、皆に迷惑かけたのですから」
「――ね、私たちのパーティ名なんだけどさ」

 フタバがそう言うと、他の者たちはきょとんとした表情で彼女を見やった。

「太陽を送る者たち、ってどうかしら。タブロアート領では太陽を送還したし、このヌクスでは”希望”という名の太陽を送ってあげられたわ。結構いい名前だと思うんだけど」

 どう?と小首を傾げるフタバを見る皆の目が、感心したような色に染まった。

「いいかもしれないな。パーティの固有名ある方が依頼しやすいって、エセルさんも言ってたし」
「太陽に悩まされもしてますけどね。依頼人に言うことじゃないし、その名前のほうが無難です」
「悪くないだろう。≪のんびり柘榴亭≫に戻ったら、登録しておこうじゃないか」

 宿に帰って登録が終わったら、次に何をするか……冒険者たちは、騒がしくはあったものの、和気藹々と話をしながら道を進んでいく。

※収入:報酬2400sp、≪火晶石≫≪塩≫×100≪薬草≫×12
※支出:
※その他:
※MNS様の塩の降る村クリア!
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フレッドたちの6回目のお仕事は、今までも他のリプレイ作者さんが書いたことのあるMNS様の塩の降る村でした。
この依頼は時間制限があって結構長いし、敵も強いのが多いんですが、やり応えがあって面白いです。
何より、その報酬の多さ!もちろん、報酬を得るためには、色々と冒険者が工夫せねばならない場面もあるんですが……。
それが「自分の腕と相談して挑んで来い!」みたいな感じで楽しいんですね。
昔は放水口を「ちょっとだけ」大きく広げることがよく分かってなくて、火晶石使ったりしたことあります。
その結末は……ご自分でプレイなさった方が、いいのかも。
このシナリオ自体が、新港都市ポートリオン(Moonlit様)とクロスオーバーしてまして、今回手に入れた≪塩≫はそこで売り払えます。
お礼に≪星の金貨≫も貰えます。ラッキー。
一個で3回使える薬草も、魔術師の工房(Niwatorry様)でばらしてから傷薬に変えることが出来ます。
ま、回数あった方がありがたいって人は、そのまま薬草持ち歩いた方がいいのかなとも思いますが。

本編中、ルドニーの村でお父さんと仲の悪い息子さんからオアシスの情報を聞いてますが、この2人は別に親子じゃないです。
そしてルドニーの5人の若者についても色々言ってますが、シナリオには性別以外は詳しく書いてないので、勝手に想像して書いてます。
MNS様におかれましては、不快でしたら大変申し訳ございません。
ただ、あの5人の子たち、最初は本当にただの一般人だと思ってました。
何度かシナリオをやって、ある日ようやく「ああ!冒険者って霊が言ってる!」と気づいたんです。Leeffesうっかりしてました。
キーコードのあるアイテムについても言及してますが、本気でそろそろ買い揃えたいところ。
ただ、スキル枠も埋めてあげたいので、あれやこれや迷い気味です。
戦士のスキルは全部埋めなくても、通常攻撃や渾身の一撃で、途中までカバーできるんで助かります。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2019/09/21 16:48 [edit]

category: 塩の降る村

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