Fri.

駆け抜ける風 1  

「――皆さんにお願いしたいのは、グリフォンに奪われた結婚指輪を取り戻す事なんです!」
「・・・・・・・・・な、なんだってー!?!?」

 今回の仕事の依頼人、商人キャトラクト=フォールズは今にも泣き出しそうな顔でそう言った――。
 この中の下程度の商人は、リューン市街に店を構える交易商である。
 なんでも一週間後に結婚を控えているにもかかわらず、式に必要な結婚指輪を紛失したというのだ。
 しかも、ただの紛失ならいざしらず、偶々通りかかったグリフォンに奪われたというのだから神懸り的に運が悪い。
 きっと、先祖代々の呪いを受けているか不幸の星の下に生まれてきたに違いあるまい。

 肥えた体を悲嘆に震わせる依頼人に、優しくココアを勧めながらアウロラが言った。

「・・・まぁ、落ち着いて。一体、どういう経緯でそんな事になってしまったのです?」
「・・・は、はいっ、話は一昨日の昼まで遡ります――」

 そう言うと、彼は瞳を閉じて事の発端を話し始めた・・・・・・。

ScreenShot_20121230_082748984.png

 おとといの昼、彼は馬車で中央行路を西に少し外れた山岳地帯を移動していた。
 理由は今回の目的の品である指輪を運搬するため。

「先ほども申し上げました通り僕は一週間後に結婚式を控えていまして、ドワーフの名工に発注していた結婚指輪を受け取りに行っていたんですよ」
「ドワーフの名工・・・・・・ねえ・・・・・・」

 アウロラはしみじみと呟いた。
 ドワーフは、岩穴や山奥で閉鎖的に暮らしていることの多い亜人種で、ごつごつした見かけとは裏腹に、こと鉱物の細工にかけては天才的な器用さを発揮する。
 リューンのような都会でも、名の知られた工匠にはドワーフがいることがある。
 となれば、随分と結婚指輪にも大枚を叩いたに違いない。
 依頼人は話を続ける。

「・・・ところが、馬車があと1日半でリューンに到着しようかという時になって、思わぬアクシデントが発生しましてね」
「思わぬアクシデント?それがグリフォンってわけですか」
「はい、丁度その頃には2日間行動を共にした御者とも随分仲良くなっていましてね」

 キャトラクトが言うには、御者の隣に座って色々と雑談をしていたのだが、話の途中で旅の理由に話題が移り――。

「事情を説明すると共に指輪の入ったケースをこうパカッと、ですね」

 そう話しながら、依頼人は指輪ケースを開けてみせる手振りをする。
 ・・・冒険者達にはその仕草がなんとも緊張感のない滑稽なものに見え、全員思わず頭を抱えてしまった。

「するとその時でした。いきなり上空から何かが急降下してくる音が聞こえたかと思うと、巨大な影が馬車を覆いましてね」
「ははあ・・・・・・」
「見上げてみるとなんとも巨大なグリフォンが一頭、翼を広げて空を蔽っているではありませんか」

 すっかり冷めてしまったココアを一気に飲み干すと、ほーっと息をついてキャトラクトが言った。

「僕はもう、慌てちゃって慌てちゃって。冷静さを取り戻すのに素数を数えるのがやっとでしたよ」
(・・・駄目だ、こいつ)

 内心でエディンが呆れているうちに、依頼人は、グリフォンが素早く嘴で持っていた指輪のケースを咥えあげると、馬車馬を一頭足で掴み上げ、悠々と空に飛び去ってしまったところまで話しきった。

「いやぁ、鳶が油揚げというか見事な早業でしたね。流石、猛禽類には敵いません」
「・・・まあ、貴方に怪我がなかったのは僥倖ですけども・・・」
「そういうわけでして、昨日の夜にこちらに到着して一晩悩んだ挙句――」
「一晩も費やしてたんかい!」
「皆さんのお力を拝借するのが一番だろうと判断しましてね」

 アウロラの呟きもギルのツッコミもなんのその、キャトラクトは肉に埋もれた両目をひたと向けて訴えてきた。

「ほら、騎士団は私情じゃあ動いてくれませんし、なにより一週間以上かかってしまうでしょう?」
(まぁ、確かに連中の腰は重いが、この場合、私情がどうのという問題ではないと思うのだが・・・・・・)

ScreenShot_20121230_090042500.png

 つらつらとアレクが考えていると、依頼人はまた口を開いた。

「依頼内容は先ほどもお話しした通り結婚指輪を取り戻すこと。期限は式のある一週間後の朝までです」
「報酬は?」
「報酬は前金で銀貨400、成功報酬で600枚を追加します」

 エディンが素早く問いかけると、腐っても商人というべきか、打てば響くようにキャトラクトが応える。
 グリフォンの習性として、巣穴に財宝を溜め込む傾向がある。指輪もおそらく巣穴の何処かにあるだろう・・・・・・という説明を、ギルが慌てて遮った。

「――待て待て!簡単に言ってくれるが、巣穴なんてそう簡単に見つかるわけねえだろうが!」
「いやぁ、正確な位置はわかりませんが、襲われた場所の近くだろうと思われますよ」

 グリフォンはそう頻繁に出る魔物ではない、近くの村で話を聞けば大体の目星は付く――と依頼人が言うのに、後ろで宿の親父さんがうんうんと頷いている。
 その顔に手元のパンをぶつけてやりたい・・・と思いながら、ジーニは自分の記憶を探った。

「といっても、あの辺りは山岳地帯だからね。頻繁には里に下りないにしても、数体は生息している筈・・・・・・」

 個体を判別する特徴でもあれば別だけど、と難色を示すのに、依頼人は「そうですね・・・」と言った。

「あ、そういえば、なんとなく青光りする羽色だった様な気がします。あと、御者の話によるとあの辺りでは結構有名な個体らしいですよ?」

 確か、ホークウインドだかウインドミルだがそんな異名がある、らしい。
 それなら探せない事もないでしょう、という意見が出たところで、すがりつくような依頼人の視線を顔に受けながら、ギルがため息をついた。

「仕方ないな・・・・・・」
「期限付きっていうのがちょっと厳しいけど、出来る限り頑張ってみるよ」

 小さなエルフがリーダーの意を汲んで引き受ける旨を伝えると、舞い上がったキャトラクトは大声で礼を言って前金を差し出す。
 銀貨400枚を受け取った後、冒険者たちは依頼人から指輪の外見に関する情報を聞き出し、手描きの簡単な絵を描かせた。

「それでは、皆様。僕の将来の幸せのため、どうかよろしくお願い致します・・・・・・」

 冒険者たちは依頼人の手配した馬車で宿を出発し、依頼人が襲撃された街道から一番近い位置にある村に向かった・・・・・・。

2013/01/04 04:49 [edit]

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