Thu.

怨霊の洞窟その3  

 ミハイルがしくじった時の備えにと、洞窟の入口でも唱えた【輝星の矢】の呪文を、カノンは中断して息をついた。思っていたより連携の取れた戦いになったが、さすがにモイラが主を庇って敵の一撃を受けた時は、冷静沈着な彼もひやりとしたものだ。

「ふー、何とかなったな。従者さんは癒した方が良いんじゃないか?」
「あ、いや、妙な打撃だったので体勢を崩したが、負傷はそれ程でもないので」

 それよりも、とモイラは視線を奥の方へと向けた。岩盤の崩れた辺りで、フェアリーがさっきからウロウロしているのである。

「リュミエール殿は、いったい何を?」
「うん、なんかここね。向こうに道が続いてるんだよね。あと……」

 パタパタ羽ばたく羽根が、落ち着かない彼女の心情をよく表している。

「この洞窟、なんか変だよ。すごく変」
「変たって、お前……」

 どうしたらいいのか分からない様子で返事をしたフレッドではなく、何かに勘付いたカノンが進み出て、頭部の位置をリュミエールの飛ぶ高さに合わせようと、少し屈んでから話しかけた。

「この洞窟にアンデッドが出現している、何かに関することだと思うか?」
「ちゃんとは説明できないけど、多分そうじゃないかな」
「そいつを明らかにしようと思うのなら、手段はひとつある」
「えー?」

 カノンが滑らかな動きで取り出したのは、宿の女主人から貰ったばかりのあのスクロールである。
 戸惑ったようにフタバが口を開いた。

「でもそれ、重要なものでしょう?」
「このスクロールは簡単に手に入るものじゃないが、この依頼を完遂しようと思うんなら、原因を解明するのも重要なことだろ?」

 他の仲間たちは顔を見合わせたが、カノンを強く止めようという者はいないようだ。
 設定されている合言葉をさっさと呟くと、スクロールに綴られていた呪文が淡い金色に輝き、スクロールそのものを侵蝕して、霧と化していく。
 淡く発光する霧は、やがて洞窟に刻まれている強い記憶を、演劇の芝居を見るように半透明のまま再生し始めた……。
 渦巻く靄の中から、40歳絡みの小太りの男がゆらりと現れる。
 垂れ下がった頬や顎の肉といい、飢えた光を宿す目といい、意地の悪い野犬を思い起こさせる人物である。男の手には2本のロープが握られており、彼がこのドーム上の部屋の中央部へ近づくにつれ、ロープの先に繋がれているのが動物ではなく、ひ弱そうな2人の子供なのだと分かった。

「なんと酷いことを……」

 ミハイルが眉根を寄せる横で、子供好きなフタバのまだあどけなさを残す顔が、怒りに満ちる。
 男の声……今聞こえるものではなく、洞窟に焼きついた声が再生される。

『……今日の収穫はガキ二人か、へへ。上々だぜ』
『うっうっ…うう…』
『おっと、逃げようなんて考えるな。この辺りはモンスターや狼も多い。死なれちゃ困るんだよ。なんせ大事な商品だからな…!!』
『…おにいちゃん…帰りたいよお…』
『マリー、泣くな。大丈夫だ』
『だって…だって…うえぇぇぇん!!!』
『ガキども!!うるせぇぞ!!!』

 男がロープを引き寄せ、苦しさに喘ぐ子供たちに構わず、持っていた棒を力任せに振り下ろす。靄に映された光景であるため詳しく判別しづらいが、鞘に納めたままの剣だろう。耳に届く打撃音に、リュミエールがきゃあと悲鳴を漏らし、目を閉じて身体を縮めた。
 この場の映像からすると、兄である男の子は不自由な体勢ながら、マリーと呼ぶ妹を庇って打たれたものらしい。しばらくした後、地面に刺さった杭にロープの端を縛り付け、男は岩盤の向こうにある部屋へ移動した。
 男の子は痛みに呻いていたようだが、はっとした表情で何かに気付き、まだ小さい手で発見したものを掴み取った。彼は妹を励まし、自分のポケットから取り出した琥珀を持たせている。これは勇気の出る石だから、これを持っていれば無事に逃げられると。
 冒険者たちは、この過去に対し何も出来ない我が身をもどかしく思いながらも、男の子の稚拙な作戦を聞く他なかった。
 男の子がロープを力いっぱい引っ張り、杭を地面から抜いて自由になった後、いよいよ奥の部屋から男が戻って来る……。

『マリー、ぼくが石をなげたら全力で出口に向かって走るんだ。いくよ…それっ!』
『ぐあっ!?目が…目が…!!!』

 カノンはここで、あの男の子が見つけたものが、ドクゼリの一種だということに気付いた。すり潰した種や汁が人体の中に入ると、成人でも死に至ることがある。男の子はそれを慎重に手近な石に付着させ、かなり正確な投石で左目にぶつけたのだ。
 今だ、という男の子の合図が飛ぶものの、激昂した男が鞘から剣を抜いて、盲目滅法に斬りつけて暴れ始めてしまった。
 これでは危な過ぎて、到底、男をすり抜けて出口に逃げられない。
 追い詰められた子供たちは、互いに支え合いながら、奥の部屋へと逃げ惑い……。

『逃がさねぇ…!!』
『て、天井が…!うわぁぁぁぁ!!!』

 男の狙いのない一撃が、たまたま岩盤の一部を崩したのである。それは無情にも、子供たちの上に降り注いだ。

『へ…へへ…い、生き埋めだ。ざ、ざまあみやがれ…』

 しかし、ここで男の足ががくん、と力を失い、無様な姿勢で地面に転がる。

『ちくしょう…やつら、石に毒草を塗り込んでやがった…ち くしょ う おれ の め』

 男はうつ伏せのまま凄まじい形相で、子供たちを呑みこんだ落石の後を――血走った右目と、爆ぜたように潰れた左目で睨みつけている。

『ゆる さ ない さない い呪って いやだ し し死 にたく  な…』

 ……男が事切れた瞬間、辺りに広がっていた靄は収束し、灰となって部屋の隅に蟠った。

「――この、岩の下」

 すっかり乾いた声音で、ぽつりとフタバは呟いた。
 黙って頷いたフレッドは、斧の柄をフタバに預けて前に進み出た。そのまま岩に手をかけ、丁寧にひとつひとつ取り除いていく。
 我に返ったモイラも手伝い、2人の努力の結果、ほどなく奥の部屋への通路を塞いでいた落石の大方がなくなった。
 フレッドが最後に取り除いた岩の下に、あの男の子とマリーの小さな骨が現れた。

「外に出して埋葬してあげましょう。……ここじゃ、あまりにも」

 語尾の震えたフタバの肩を、カノンが労わるように優しく叩いた。
 子供たちの骨は、洞窟の入り口が見えない位置にある、椎の木の下に埋めた。野生の獣に掘り起こされないよう、かなりの深さまで穴を掘ってある。
 リュミエールが近くから鈴蘭を摘んできて供える。
 ミハイルは死者を悼む聖句を唱え、2人が天に迎えられるよう祈った。

「フタバ、これ」

 フレッドが差し出したのは、子供たちの骨と共に見つけた、小さな琥珀の塊だった。

「忘れないでいてやれよ。お前がそうするのが、一番いい気がする」
「うん……」
「結局は、さ」

 その琥珀と一緒に見つけていた銀貨を、パーティ共通の財布の中に仕舞いながら、フレッドはずっと抱いていた疑問を発した。

「あの子供たちと、人買いと、どっちが怨霊を呼んだんだよ?」
「分からない……でも、人買いはあのゾンビーだったわけでしょう」
「んー、あの左目を見ると、そうなんだろうな」
「それなら、子供たちが自分たちを見つけて欲しくて、強く呼んでたんじゃないかしら。どう思う、カノンさん?」
「俺もそう思うね。そして2人の魂の声は、ウィプスやゴーストみたいに、現世では身体を持たない者しか聞き取ることが出来なかった……悲しい話だな」
「――助けてあげたかったですね。たとえ、過去でも」

 沈痛な面持ちのモイラの言葉に、仲間たちは賛同の意を返した。


※収入:報酬900sp、≪勇気の石≫
※支出:
※その他:フレッド、リュミエール、フタバ、ミハイル、モイラが2レベルにup。
※tene様の怨霊の洞窟クリア!
--------------------------------------------------------
一回目の冒険とは打って変わって、かなりシリアスな依頼となりました。
100KB企画にあったゴブリンの洞窟バリアントなのですが、戦う相手はアンデッドオンリーになっております。
シナリオ内で配られるスクロールは、本当は宿の亭主がツケの代わりに回収したもの、として登場するのですが、≪のんびり柘榴亭≫にはまだツケを溜めこんでいるパーティというのが存在しませんので、エセルの旦那さんから回ってきたことにしました。
ゾンビー=人買い説や洞窟に死霊が集まった理由など、実ははっきり本編では明かされていません。それに、この兄妹の死体は宝箱から発見されることになっているのですが、ちょっと話の流れで、岩の下にあった方がスムーズにリプレイが書けたため、一部食い違っております。
そのため、フレッドたちの今回の冒険で実際のシナリオとあわない事は、私の勝手な想像ですのでご了承下さい。
お時間のある方は、キャストのtene様の詳細な説明文をお読みになると、また推理の幅が広がって楽しいかもしれません。ここのゴーストやバンシー、よく考えられているなあ。
また、この依頼が森の町トトリスからきたことになっておりますが、次回にトトリスからリューンまで(伊礼様)をプレイするための伏線であって、実際にクロスなさっているわけではないと明記させていただきます。
最後の【サイコメトリー】はしなくても、一応シナリオクリア可能です。ただ、その場合はクーポンが1点少なくなりますのでご注意願います。
あ、あと、【亡者退散】か、対アンデッド用スキルの用意は必須です。

いや、もう、いつもならさらっと【サイコメトリー】するんですが、リプレイに起こすパーティだと、この人たちきっと落ち込むだろうなあ……と、キャラクターに悪い気がして仕方ありません。
特にフタバに関しては、理由があって子供好きのクーポンを入れてあるので、今回とても凹んでしまいました。ごめんよ。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2019/09/12 12:53 [edit]

category: 怨霊の洞窟

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top