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L'avenir ou la Mortその3  

「これは――いい景色ですね」
「はい。上から見ると、街はあんな風なんですね……まるで精巧な箱庭みたい……」

 オーガが拳で真っ二つにした大岩から抜け出ると、そこは山の頂上へ続く道になっていた。
 あの大岩で出口を塞いだのはオーガの仕業だろうが、何故彼らがそんなことをしたのかは不明である。
 ただ、大変な目に遭った洞窟から、一刻も早く距離を置きたいナディの心情は、ミカには手に取るように分かったので、促されるまま上り坂を上がっていき、無事に頂まで辿り着いたのである。
 麓の街の風景はおろか、登山の途中で世話になったせせらぎの本流も見える。
 2人は眺望に目を細めて一息ついていたが、比較的負担の少ない魔法だけ唱えていたからか、あるいは単純に若いからか、先に呼吸を整えたナディが立ち上がった。
 ある場所へ向かおうとするのに、慌ててミカがついていく。

「あなた、いったいどこへ――?」
「アステル先生へプレゼントを」

 答えながらも、少女の脚は前へ前へ進んでいく。
 山頂にほど近い斜面には、ピンクや黄色などの様々な花が咲き乱れていた。
 どうやら、ナディの目的地はそこのようだ。
 獣やモンスターの潜む様子はとりあえず感じられず、ミカは黙ってナディのしたいようにさせることにした。

ScreenShot_20180319_162250361.png

「……賢者の塔では、数年前から修了試験の時に花を摘んできて、それを墓地にお供えするというしきたりがあるんです。最初にやり始めたのは、アステル先生に師事していた私の姉弟子でした」

 今でも亡くなった魔術師を慕う弟子たちや、その最期を聞いて悼む者たちが、最初に供えられた花に続き――アステルとは違う死者たちにも、次第に捧げられるようになったのだろう。
 しかし、ナディが摘もうとしているのは、ただ一人のために送られるべき物であり、【感謝】の花言葉をもつ白い釣鐘草だった。
 
「……無事にリューンに帰って、お墓に報告しましょうね」
「はい。それでは、日の暮れないうちに山を下りましょう!」

 ”修了試験”で連れとなった魔術師と魔術師見習いは、他愛無い話に盛り上がりながら、下山道を移動することなった。
 2人とも内向的な性格ではあったが、かえって、それが親しみを生む結果になったのかもしれない――はたから見れば、今日が初対面だということも、ナディがかなりの人見知りだということも分からないだろう。
 そして、ようやく中腹の川を越え、あと半刻程で麓までたどり着けそうな時だった。
 一際強く生温い風が通り抜け、2人の女性の髪を乱す。
 天候の変わりやすい山の中、先ほどまで青かった空が、突如として灰色の雲に覆われて暗くなり始め、冷たい雫がぽつりと頬に落ちる。

「雨だわ、急がないと」
「山の天気って、本当にあっという間に変わるんですね…」
「麓まではもうそんなに遠くありません。行きましょう」

 はぐれないようナディの手を引いて、ミカは登山口へと向かった。
 あまりに視界が悪い時なら、下手に動かず一箇所に留まるのが賢いやり方だが、幸いそこまで見えないわけではない。
 滑り落ちる危険性を避けて、川沿いからは身を離して進む。
 マントの裾がさすがに泥だらけになり、降る雨に身体が冷え切っていたが、2人は不快感以上のものには煩わされず麓へ――そのはずだった。
 雷かと思うような轟きが響いた。
 しかし、一向に閃光が満ちる様子はなく、不審に思ったミカが立ち止まった時、視界に映り込むものがあった。
 最初は、山の一部が動いたのかと思った。
 だが、黒い塊のように見えるそれから、くねるように尖ったものがあると見て取った瞬間、ミカはナディの手を離し、少女に注意を促した。

「ミノタウロス!」

 ミカの目が捉えたのは、牛頭人身の怪物の角だったのだ!

「……あいつなんです」
「ナディ……」
「あの化け物なんです。先生を、生徒を庇ったアステル先生を殺したのは……お願いです、ミカさん。私に力を貸してください!」

 ナディの鋭い観察眼には、ミノタウロスの腕に突き刺さり、食い込んだままになっている鎖の一部が見えた。
 見覚えのあるそれは、亡くなった師匠が服に仕込んでいたものだ――間違いない、この個体こそが、2年前の犯人なのだろう。
 どちらにしろ、目の前の怪物をやっつけなければ、麓に下りることもできない。
 ミカは小さく頷くと、単体の目標へ向けて桜の花弁の矢を撃ち込んだ。
 無力な獲物だと思っていた相手から思わぬ痛打を受け、ミノタウロスは怒りの咆哮を放った。
 続けざまに炎の弾丸をナディが放ったが、まだミカとは違い見習いである彼女の魔力では、分厚い皮膚の表面を焦がすことしかできない。
 自分の無力さに地団駄を踏まんばかりの表情になったナディに、ミカは毒花の魔力を集めつつ声をかけた。

「もっと頭を使いましょう、ナディ。空は雨雲が広がり、相手には金属が刺さっているのですよ!」

 その言葉にハッとなったナディが、洞窟でも唱えた呪文を紡ぎ出す。
 小さな稲妻を放つ魔法だ。
 怪物が不愉快な毒の花の臭気に気をとられている間に完成した術が、紫電となって逞しい腕へ――正確には、破損したまま刺さっている鎖へ命中する。
 続けて、目を開けていられないほどの閃光と轟音が、辺りを支配した。

「――っゥ!!」

 ミノタウロスは恐らく、断末魔を叫んだのだろうが――全ては炭に変わったのかもしれない。
 ナディの稲妻が呼び水となり、魔術師アステルの遺した鎖へ自然の雷が落ちたのだ。
 これには、いかにタフさを誇るモンスターも抵抗のしようがなかったようだ。
 強烈なエネルギーの奔流を、当たらなかったとはいえ近くで感じてへなへなとへたり込んだナディが、ようやく聴覚の欠片を取り戻した時――。
 ミカがため息を吐いた後に呟いた。

「妙ですね――ミノタウロスは一体だけですか?」

 依頼主からの話では、複数いたように思ったのだが……。
 ミカが訝しく眉をひそめた時、がしゃん、という音が響いた。
 ぎょっとしたナディが杖を音の主に向け、魔力を集めようとすると、それを遮るように親しげなミカの声が彼女の動きを停止した。

「まあ。ナイト、わざわざ迎えに来たんですか?」
「迎えに来たといえばそうだが、今は、この辺りに出るようになったミノタウロスを片付けていた。ここに出るのがいると、宿の他のパーティが教えてくれてな」
「あら……噂になっていたんですね」
「複数の内、一体を討ち洩らして追ってきたのだが……」

 ナイトの兜が、かつてモンスターだった黒焦げの塊に向いた。

「主が処理してくれたとは」
「いえ、私ではありませんよ。こちらの私の同行者です」
「――そうか」

 黒いつや消しの鎧が、騎士が貴婦人に礼をとるような動きをしてみせた。

「若き魔術師殿、お初にお目にかかる。私はナイト。この人の従者だ」
「じゅ、従者……リビングメイルの……?」
「ええ、ナディ。私の信頼する相棒です」

 にっこり笑ったミカは、呆然と鎧を見やるナディと、堅苦しく礼を取ったままのナイトを促し、賢者の搭へ向かうことにした。
 ――この後。三人に増えた彼らは、ナディが亡師の墓前へ花を供えに行くのに付き合った。
 彼女は花を手向けると、ミカへひとつ質問をした。

「……ミカさん。夢って、ありますか?」
「そうですね……私は立派な魔術師になりたいです。みんなに誇れるほどの。そして……」

 ミカは静かに目を閉じた。
 閉じた瞼の中に、プレーンウォーカーと呼ばれる異次元から来た魔女の最期や、身体を望まない変異に晒されたロバート・ライリーとの別れの場面が浮かぶ。
 どれだけ優秀な魔術師でも、どれだけ強力な魔力を持っていても、あっけない終わりや恐ろしい未来が待っている時がある。
 だが、傍らにある従者や、今まで一緒に戦ってくれた仲間たちといる限り、『立派な魔術師になりたい』というこの夢が、立ち消えることはないだろう。

「あなたの先生のように、誰かを守り通し多くの人から慕われる、そんな人になりたいです」
「――!」

 驚いたナディは、つり上がり気味の目を丸く見開いていたが、やがて頬を上気させてこくこくと頷いた。

「私もです!いつかは、亡きアステル先生のように、周りから尊敬されるような魔術師になりたいと思っています」
「同じ目標ですね――負けませんよ」
「――はいっ!」

 ナディは、夢を語る後輩としてではなく、同じ夢を掲げる同志としてミカが握手を求めてくれたのだと理解した。

「もし私に相談したいことがあれば、≪狼の隠れ家≫にいらっしゃい。いつでも歓迎しますよ」
「≪狼の隠れ家≫――覚えておきますね。本当に、ありがとうございました。ミカさんとこうして冒険できて、とても楽しかったです」

 ”一緒に冒険できて、とても楽しかった。”
 ナディのその台詞が、かつてミカ自身も今のリーダーに向けたものだと気づいた時、ミカの顔に、懐かしいような、誇らしげな微笑みが浮かんだ。
 そう、どんな見習いだって、いつかは成長するものなのだ。
 依頼主から銀貨1050枚と、報酬のおまけまで受け取り、主従はすっかり暗くなった街中を常宿の方角へ歩き始めた。

※収入:報酬1050sp+100sp(樽の中)、≪魔道士の杖≫
※支出:
※その他:
※シレイユ様のL'avenir ou la Mortクリア!
--------------------------------------------------------
71回目のお仕事はソロシナリオから、シレイユ様のL'avenir ou la Mortです。
前からのメンバーはすでに10レベルに達しているのですが、中途採用組……取り分けミカはまだちょっとだけ経験点が低いので、それを補うためにひとりで頑張って貰うことにしました。
リプレイ中では心配性の従者が迎えに来ておりますが、これは本筋にはありません。
本当に2人きりの魔法使いたちに、複数相手の連戦が待ち受けるシナリオですので、これから初めて遊ぶ方には、よくよく手札を考えてトライしていただきたいと思います。のんびり毒を仕込むより、攻撃したほうが早かった(笑)。
ただひとつ注意したいのは、私が今回プレイしたバージョンは公開時のものであり、シレイユさんが完成させたバージョンではないということです。
設定や難易度の調整などのご都合により、最新版では最終的なラスボスが変更となっております。
どんなボスが出てきてくれるのかは……シレイユさんの現在公開してらっしゃる正式版を遊んでみて下さい。
楽しいよ。
それ以外にも今回のリプレイは、ちょくちょくシナリオ本編との相違点があります。
ナディは別にアステル先生の直弟子ではなかったのですが、筆を進めるにあたり、ナディの意気込みや最後の場面の握手に繋ぐまでに、どうしてもその方が良かったので、作者であるシレイユ様に伺って設定を変えました。
シレイユ様、お忙しい中でご返答と変更の許可をいただき、真にありがとうございました。
人見知りはするけど、健気で夢に向かって確実な一歩を進もうとしているナディは、連れ込みが可能なNPCです。
数値的には、どちらかというと生命力が高めなので、健康的でアウトドアにも適応できる女の子として描写しております。
報酬のおまけにもらった杖を渡して、彼女に合うような魔法を店フォルダの束から探すのも楽しいかも。

シナリオ上では先生がどんな最期を迎え、どんな魔法を得意としたかの描写がなかったので、色々想像して描いています。
こっちの方はもしかしたらシレイユ様の本来の設定と違うかと思いますが、各自、アステル先生がどんな方だったかは、作者様によるイメージに沿って下さい。
リプレイで私が勝手に語っている、アステル先生が生徒用に開発した魔法のイメージは、リューン旧街道の魔術です。
文章にある術が実際に置いてあるのですが、現在は残念ながらSIGさんのシナリオがあるベクターからは消されているようで、非常に残念です。銃とかも置いてあって、そのカード絵がまた格好いいのに…。
付け加えた想像部分などのために、また、ない筈のクロスオーバーをしています。

レイド・クラウンという暗殺者=机庭球様の新人と私
ロバート・ライリーという搭所属の魔術師=mahipipa様の永遠なる花盗人
旧街道の一角=SIG様のリューン旧街道
プレーンウォーカーと呼ばれる異次元から来た魔女=吹雪様のくろがねのファンタズマ

でもまあ、プレイしたキャラであるミカ自身が連れ込みなので、クロスになるのは既に仕方ないというか……彼女のリプレイ内での言動や考え方もまた、吹雪様の想定から外れている可能性は高いのですけどね。
でも、ひどい目に遭ってきたからこそ希望を失わない、そんな強さをミカには持っていて欲しいと思います。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2018/05/11 14:05 [edit]

category: L'avenir ou la Mort

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