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L'avenir ou la Mortその2  

 下生えはよく生い茂り、細い先端でこちらの足首を突いてきたが、山に立ち入ることを鑑みて足ごしらえした両者には、さほどの苦痛にはならない。
 それでも、石畳で整備された街中を歩く感覚とはかなり違うため、ミカは事あるごとに同行者の様子を窺い、疲労が溜まり過ぎていないかを確認していた。
 そんな彼女が、一際明るい若草色の葉をつける樹木の前で立ち止まったのを見て、ナディは訝しい顔で見やる。
 ほっそりした女性らしい手が上がり、枝を撓らせるほどたわわに実る果実の一つへ触れた。

「ああ、残念。枇杷に似ていると思ったのですが……」
「それはなんですか?」

ScreenShot_20180319_161629482.png

「これは確か、ルトゥの実。食べられることは食べられますが、とても酸っぱいですよ」

 ミカとしては、こういうフィールドワークでしか教えられないことを、ありったけ彼女に伝えようという意図があって口にしたことだ。
 以前に、似たような状況下で暗殺者と、それと知らずに旅をした経験があり、ミカにとっては忘れられないトラウマのひとつで、今もまだ、ナディを自らが指導することに不安を覚えないでもない。
 年若い彼女が、確かに賢者の搭所属の魔術師見習いだと分かっていなければ、こんな風に歩いていくのも辛いだろうし、何より――将来彼女が何かの判断を下す時に、自分の”間違った”主観が、若き魔術師の去就を誤らせるのではないかと疑っているのだ。
 だが、ナディはまったくべつの観点から、その果実を図っていたらしい。
 思慮深い猫のような双眸を瞬かせて、ぼそりと呟いた。

「……敵の目にぶつけて、混乱させられるかもしれません」

 与えられた情報を鵜呑みにして終わるのではなく、自分なりに噛み砕いて利用法を考え出す――ナディの思いがけない、知能の高さだけではない賢さに、ミカは少し心が軽くなった。
 年下の同行者の意見を受け入れ、淡いオレンジの実をもぐ。

(こういった素質があるのなら、この子は私の指導の後でも、自らの道を違えたりしないかもしれませんね。)

 この後も、襲ってきたウィードを個別に叩き伏せ――魔法がもったいないので、ナディは杖で、ミカは護身用にと携えている≪守護の短剣≫でやった――道を失わないよう、周りに注意しながら緑の色彩の中を進んでいくと、不意に開けた場所に出た。
 石造りの大きな洞穴が、ぽっかりと口を開けて存在を主張している。

「ランタンの用意が必要そうですね」
「魔法の灯では駄目なんですか?」
「駄目とは言いませんが……」

 ミカはやや口篭った後、冒険者としての立場から意見を述べた。

「依頼主から、ここはオーガやトードが徘徊していると聞きました。出来れば、そういった便利系の魔法については道具を用いて対処し、私たちは食人鬼相手にも通じる魔法を準備した方が、この先の出来事には応じやすいと思います」

 仲間の戦士に任せられる時などはその限りではないが、と付け加えた。
 ナディは感心したように頷いている。
 未熟な魔術師だった頃とは雲泥の素早い手つきで、ちゃんと煤を拭ってある角灯に火口箱から移した明かりをつけると、ミカはそれを≪喜びの緑≫が嵌まっているのとは反対の手で掲げ持った。
 背後に気をつけるようナディに声をかけると、自ら先頭に立って洞窟へ踏み出す。
 洞窟の中は、これまでミカが仲間たちと探索してきた遺跡群に比べると、人工的な痕跡の少ないものであった。
 レンガや石組みとは違う、むき出しの岩壁が彼女の持つ明かりに照らされ、影法師が踊るように揺れる。
 鼻には地面から立ち昇る湿った土特有の匂いが届いており、なるほど、蛙が好みそうな場所だとミカは思った。
 じゃり、と魔力を秘める赤いブーツが足元を踏みしめる。
 道は真っ直ぐではなく、途中で何度か直角に近い角度に曲がっているのだが、分岐が見られないので、迷うという心配はせずに済むだろう。
 むしろ困るのは、角の向こうにモンスターが待ち構えているのではないかということで、実際、三回目の角では3匹のトードが2人を出迎えた。
 リューン近辺に棲息する種類のこの大型の蛙は、背中に不恰好といえるほど多くの瘤が生えており、そこに毒液を溜め込んでいる。 
 迂闊に触れると皮膚にひどい炎症が起きるので、子どもはおろか、大人でもあまり近づきたくない対象だった。
 ナディはあからさまに顔を歪めると、蛙から距離を取って、愛用の杖を振りかざし呪文を唱えた。
 ミカの常緑樹の色をした双眸に、杖の無色の宝玉が、編まれていく魔力回路により青く染まっていくのが映る。

「青く漂う魔法の氷気よ、集いてここに飛礫となれ――リオート!」

 たちまち、大気中に含まれる僅かな水分が、魔法の言葉によって無数の氷片へと変質して蛙に放たれる。
 ミカは己も呪文を紡ぎつつ観察していたのだが、ナディの滑らかな詠唱と、敵が急激な温度変化に弱いことを見抜いた上での呪文の選択に、唸りたいほど感心した。
 まだまだ初級の呪文しか知らないようだが、彼女の詠唱している魔術言語への理解度を考えると、もう少し上のレベルの魔法も発動させられそうである。
 ミカの唱えた眠りの術で転がったトードは、毒液を浴びない箇所へ短剣を刺して始末をつけた。
 短剣についた体液をボロ布で拭って落とすと、

「さて――どうも、ここから先は一本道ではないようですね」
「分岐ですか。こういう時、冒険者はどの道を行こうと判断するんですか?」
「私たちの本来の任務は、この洞窟を抜けた先にありますからね。盗賊がいれば、足跡などを探ってくれるんですが、私にその心得はありません」

 だから、とミカは続けた。

「空気の動きを読もうと思ったんですが……妙ですね。風が吹いていない……」

 掲げているランタンは、照明という役割だけに使っているのではなく、あえて四方を囲むガラス戸を開けて微かな空気の流れなどを探るのにも利用しているのだが、洞穴の出口から吹くだろう風の様子がない。
 心許ない表情になったナディは、無言のままミカを見上げている。
 少女を不安にさせたままでは修了試験に差し支えるだろうと、ミカは彼女の肩をぽんぽん、と軽く叩いた。

「下手に曲がるよりは、今の道に沿って行きましょう。正解が違う道だとしても、ここまでならマッピングなしで帰ってこれるでしょうし」
「はい……そうですね」

 案ずるより産むが易しとは言うもので、確かにミカの選んだ道で正しかったようだ――ほどなく暗闇から浮かび上がってきたのは、2人の望んでいたものである。
 肝心の洞穴の出口らしきものが、大岩で塞がれていなければ。

「え……何、これ……」

ScreenShot_20180319_162117506.png

「――ミカさん、危ない!!」

 眉をひそめて岩に近づこうとしたミカを、ワンテンポ遅れてナディが突き飛ばした。

「きゃっ……」

 無様に転がった魔術師たちの傍らを、とんでもない風圧とともに、何かが振り下ろされた。
 ドコォ!という轟音で大岩を真ん中から割ったものの正体に気付くと、ミカはナディと助け合って起き上がりながら、気を引き締めて睨みつけた。

「オーガ……3体も!?」

 人肉を好む大型の鬼族は、森や荒野で単独で生息し、集団で行動することが少ない豪腕の怪物である。
 それが3体も群れていたのだから、ミカの驚きももっともだと言えよう。

「それだけじゃないです、ミカさん」

 通り過ぎてきた分岐の奥から、見覚えのある蛙たちが騒音につられてやって来ようとしているのを、ナディの猫のような目が捉えていた。
 すかさず、今度は一条の稲妻で足止めを施す術をナディが唱えたのだが、

「数が、多い……!!」

と焦り始めた。
 一匹をまんまと足止めできても、その隙を縫うように、他の蛙たちが威嚇しながらやって来る。
 本来は臆病な性質を持つトードだが、繁殖に向いた洞窟の環境を変えるような温度変化が気に入らなかったのか、仲間の鳴き声をたよりにどんどん集まりだす。
 続けて氷の術を用意しようとした彼女へ向けて、細いながら凛とした声音が言った。

「ナディ。一気にいきます、下がりなさい」

 明らかな魔力の増幅に気付いたナディが見やると、エメラルド色に輝く指輪から、紅のビロードと見紛うような花弁が溢れ始めている。
 護衛対象の少女が自分の背後に隠れるようにしたのを確認し、ミカは自分の手持ちの術の中で、一番凶悪な魔法を発動させた。

「赤き花よ、嵐となりて血の祝宴を展開せよ……!」

ScreenShot_20180319_162204874.png

 深紅の薔薇の花びらが、ガラスの破片よりも鋭くオーガや蛙を刻んでいった。
 オーガの一体が、急所である喉を深く裂かれ、呆気なく倒れる。
 ナディが手こずっていた蛙の群れなど、ひとたまりもない。
 辛うじて二体のオーガが立ってはいたけれど、体中に刻まれた血の華は、鬼族の持ち前の生命力を粗方削っているようだ。
 そんな生き残りも、ナディが稲妻の魔法で再び足止めする間に、充分に魔力を練り上げたミカの毒の華で、止めを刺されたのであった。

2018/05/11 14:02 [edit]

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