Mon.

Under the stoneその3  

 ほぐほぐと髭を動かした後に、穴の奥へするりと入っていった茶色の毛玉は、しばらく中で小さな手足を動かしてあちこち駆け回っていたようだが、ちゃんと籠からの解放者――水晶の仕掛けを解いて南京錠の鍵を入手した、ロンドの元へ帰ってきた。
 ハムスターが丸められた紙切れを咥えている。

「おう、ちびすけ。ご苦労だったな」

 湿って乾いてを繰り返したためにすっかりごわついてしまった紙を、ロンドが受け取り、彼の出来得る範囲内で丁寧に広げようと悪戦苦闘する間、ハムスターは短い前足をくるくる顔に擦り付けて洗っていた。
「なんだろう、『火に輝くは黄金』って?」

 ロンドが紙に書き付けられていた情報に頭を捻っていると、それにつられたのか、ハムスターも身体ごと首を傾げ始める。
 可愛らしい仕草に心を慰められながら、分厚い手が毛玉を掬い上げて肩に戻した。
 まだ残っている木の実を持たせ、自分でも3粒まとめて口に放り込む。
 甘酸っぱい実を咀嚼しながら紙について思考してみるも、これといった結論は出ない。

(よく分からんな。単独で分かるものじゃないだろうが……。)

 実はこれに似た紙を、水晶の部屋や牢屋の入り口があるあたりに開いていた穴からも回収している。
 そちらには、『最期に堕ちるは星』とあった。 
 こういう思わせぶりで頭脳を使う必要のある物は、まったく自分の性向には向いていない。
 頭脳労働役だと誰もが認めるウィルバーや、組んで冒険を繰り返してきた経験から物事を2人でじっくり検討するのに慣れたミカとナイト、閃きの鋭いアンジェや、決断力に富んだシシリーならばともかく、前衛で暴れることに特化したロンドでは、害意ある相手の裏を掻く位は出来ても、遺跡の謎かけや、魔法の知識が求められるようなことには対応しきれないのである。

(あるいは婆さんや黒蝙蝠なら、他にやりようもあるんだろう。ううん、俺だけじゃどうにもならないな。)

 だからと言って何もしないことは、もっと冒険者としての主義に反する。
 しがみ付くハムスターの首もとの温かみを感じつつ、彼は今まで出入りした部屋の探索を、もう一度やってみようと思った。
 あえて一番行きたくない場所――あの石牢である。
 脱出のために一箇所へ積み上げた遺体からは、相変わらず一般人ならばあまり直視したくない体液が流れ、肉の腐敗した匂いが漂っている。
 ロンドが耳を澄ませてみても、一向に先ほどの石のように語り掛けてくるものもない。
 中に入ろうかと、彼が鉄格子から一歩踏み出した瞬間。

「おおぅ、ちびすけどうした?」

 首元を柔らかな毛皮で擦られ、思わず妙な声を発してしまったロンドが、立ち止まって左手をハムスターに添える。
 鼻をさかんに蠢かしているためか、髭がひょこひょこ動いていた。
 彼に動物の言うことが分かるわけではないが、何故か、ここから動くなと言われているような気がする。
 人間の死体を恐れているのだろうかと思い、丸い背中を落ち着くように撫ぜていると、親指を噛まれた。

「いちち、何するんだよ」

 武器で傷つけられた時ほどではないが、それなりに痛い。
 齧られた親指のある方の手を、痛覚を誤魔化そうとブンブン振っていると、ふと、指の先に映り込む物がある。

ScreenShot_20180319_132854649.png

 不審に思って手を伸ばすと、格子に引っ掛かっているそれは、ロンドが二度目にしている紙切れであった。
 
「『先に奔るのは水』、か……三つ目だ。ちびすけ、これを教えてくれたのか?」

 ロンドが問うも、ハムスターは黒いつぶらな瞳で見上げるだけである。

「そんな可愛い目で見てもなあ。もう少しこれ食べるか?」

 赤い実を持たせると、しっかり持って齧りだした。
 他の部屋の再捜索では、ハムスターの入っていた籠に紙がおちているのを発見したが、後はこれと言ったものは見つからない。

「もう他に移動できる場所ないもんな」

 籠の置かれていた部屋から出てきたロンドが、四枚の紙を片手に握り仁王立ちするのは、鍵のかかった大きなドアの前だ。
 迷いながら手をノブにかけると、ぐるりと回ることに眉を顰めた。
 こちらの思惑を軽く弄ぶような展開に、何かとてつもなく嫌な空気を感じる。
 しかし、この場でうだうだ悩んでいても物事は進行しないのだからと、いつでも武器を抜けるよう構えながら、彼は思い切って扉を開いた。

(……照明がある……)

 天井から下げるタイプの照明具があるその部屋は、危惧していたような敵の姿はなかったが、カードの賭け事で使うような丸テーブルが中央に置かれている。
 用心しながら近づくと、あの水晶の時と同じような銀のプレートがあり、『正しい位置に札を収めよ』と刻まれているのが分かった。

「札……」

 プレートの脇に並べられたのは、それぞれ”太陽・月・水星・金星・青い星”と文字の書かれた、幅4センチ、長さ10センチほどの大きさのカードである。
 そしてすぐ下に、札を嵌めるのだろう5つの枠があった。
 それ以外の情報は潔いほど見当たらないので、ロンドは今まで集めたメモを見つめた。

「これがヒントか。いやいや、『中央に太陽』はまだ分かるけどよ……」

 最初に見つけた、”堕ちる星”の意味が分からず、ロンドは先に分かりそうなところから考えることにした。
 火に輝く黄金というのは金星の意味だろうと、太陽の隣へ札を置く。
 先に奔る水は水星の意味と捉えて、1と番号の振られた枠へ押し込んだ。
 ロンドの予感では、これも札の置く所を間違えると、痛みが心臓に突き刺さるような仕組みを持ったものだろう。
 自ら体験した限りでは、あの痛みはあまり回数を重ねられるようなものではなく、一度か二度が限界ではないかという気がする。

「残りは月と、何だかよく分からん青い星か。……なあ、ちびすけ。どっちが端っこに置く奴だと思う?」

 肩に乗せたハムスターをテーブルの上に移すと、小動物はひくひく鼻を動かし、残りの札を傾げるようにして眺めていたが、てち、とある一枚の札の上に前足を置いた。
 その意思に従って札を並べ終えると、まるでウィルバーが魔法の力を愛用の杖に満たす時のような光や音が辺りに溢れる。
 ハムスターを慌てて懐に回収し、足を肩幅に開いて、どんな変化があっても対応できるよう体勢を整えると、彼が見ている目前で壁がスライムのように歪み、部屋の装飾全てが絵のように回転しながら飲み込まれていった。
 ぐちゃり、ぐちゃり。
 食人鬼が裂いた肉を咀嚼するような、粘つく音に顔を顰める。
 ロンドがよもやと思い振り向くと、先ほど入ってきた大きな扉が正体不明の白い流体に覆われ、あっという間に壁になってしまった。

「…………オイオイ、嘘だろ」

 継ぎ目やひび割れの類は一切見られない、元からだったと言わんばかりの滑らかな面を見せている。
 彼が呆然としていると、懐に避難させていた毛玉がじたじた暴れだし、正気に返ってようやくそこから視線を剥がした。
 ぴょこんと顔を出したハムスターは、しきりに辺りの匂いを嗅ぐような仕草を示している。
 見回せという指示かと解したロンドは、屈強な身体を回転させ――部屋そのものを一個の生物のように吸い込んでいった壁に、階段が存在しているのを見つけた。
 床から伸びて、天井にまで届く鏡のように磨かれた巨石の塊である。
 石段に接した床には何もない。
 念のため、踵を鳴らして反応を確かめても空洞のない只の床である。

(なら……何かあるのは、上か)

 彼が覚悟を決めて石段に足を掛けようとした時、殊更に毛玉が蠢いた。
 ハムスターは落ち着きを失っている。

「お前、この先に行きたくないのか?」

 黒く、丸い瞳がロンドを静かに仰いでいる。
 違うらしい。

「こっからは一人で行けってことか。だがちびすけ、そいつはお断りだぞ。”ここ”が何であれ、お前は俺を助けてくれたんだ。その礼は、”ここ”から出た先でやらせて貰う。いいな?」

 ハムスターは何かを誤魔化すように毛繕いをしたが、太い指で頭を撫でられながらロンドに言い聞かされると、諦めた様子で再び懐の中へと引っ込んだ。
 それを見届けると、彼は一段一段をしっかりと上っていく。
 背の高い――何しろ2メートル近いのだ――事もあり、すぐ間近になった天井に目を移す。
 よくよく表面を観察してみると、ちょうど彼自身が楽に潜り抜けられる程度の四角い切れ込みが刻まれている。
 その中心に手を当てて力を込めると、ぎちぎちという耳に障る音とともに、切れ込みの一方が浮き上がり始めた。
 切れ間から差し込んでくる白い光が、無遠慮にロンドの目に刺さる。
 溢れ出たそれに視界を支配されながら、それでも手は止めず、そのまま圧力を押し返した。
 閉まっていた蓋を押し上げるような感覚がして、伸びた腕に暖かな動く空気――風が、絡みついた。

(外に出た――!)

かと思えば、一気に雪崩れ込んできたその流れが、優しくロンドの身体を包み込み、ふわりと持ち上げる。

(おちる!?――いや、これは――)

 判断を下そうとする意識が、蝋燭のように吹き消される。
 慌てて目を開くも、すでに視界は暗転しており、吼えるような何かの声が遠い場所からいずこかへ運ばれていく身体を震わせた。
 無駄な抵抗だとしても我慢ができず、手足を無茶苦茶に動かす。

(――俺は、ちびすけは、無事なのか――この――この、落下する感覚は――!)

 どすんと、背中が何か柔らかいものに当たる感覚。
 はっと気付くと。
 ロンドの肢体は、見慣れた宿の寝台に横たわっており、聴覚が捉えていた咆哮はなく、ただ窓の向こうにいる鳥のさえずりが聞こえるばかりであった。
 するとそれにつられるように、真っ当な朝の音――他の冒険者たちの話し声や、宿の亭主が調理をする時に聞こえる音、ジューッという肉の焼ける音が、後から急に耳へ飛び込んでくる。
 やがて、扉の隙間から、焼けたベーコンの香りが漂ってきた。
 周りを見渡すと、昨日の夜にいたいつも通りの宿の自室で間違いない。
 ウィルバーは既に食堂へ下りたのか、ベッドはもぬけの殻である。

「……夢?」

 寝付いてから今までのことを思い出そうとして、それらの大半が、もう記憶の器から零れてしまっていることに気付かされた。
 目を閉じてこめかみの辺りを摩っても、体験したはずのものは掬い上げる暇もなく、するすると溶けて流れていく。
 夢の僅かな残滓に、どういうわけか居心地の悪さを覚えながらも、着替えようとゆっくり身を動かす。

「お?」

 立ち上がろうとずらした手が、ふかふかした何かに当たった。
 驚いてそこに目を落とすと、手の甲にちんまりした前足が乗せられた。

ScreenShot_20180319_133241023.png

 得意げに髭を動かし、目を細めるハムスターの姿がある。

「ちびすけ?」

 何故か、その名前が口をついた。
 はたして宿に、この子の餌になる物はあっただろうか――ロンドは丸い背中を撫でながら、仲間たちにどうやってハムスターのことを説明したものか首を捻った。

※収入:報酬0sp、≪宝石≫、≪肩乗り相棒≫
※支出:
※その他:
※つちくれ様作、Under the stoneクリア!
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70回目のお仕事は、何だか妖しい人に気に入られているロンドのために、つちくれ様のUnder the stoneをプレイしました。
推奨レベルは貼り紙になかったのですが、リードミーには6から7とあり……ずいぶんオーバーレベルで挑んで申し訳ありません。
ただ、このシナリオが、「In the mirror」や「Through the hole」の続きのようなものだったので、巻き込まれ役のいる旗を掲げる爪で遊ばずにはいられませんでした。
ちょこちょこ、アイテムを手に入れる場所や使うタイミング、移動場所なんかを変えておりますが、基本的な進み方は作品のままです。
それでも一応、これからシナリオを遊ぶ方たちのために、謎解きの正解を最後までは載せておりませんのでご了承ください。
何しろ謎解きがメインなのに、ロンドが思考しないことしないこと……途中でハムスターに丸投げしているくらいです。とゆーか、ロンドが考えないので、私がハムスターへ後を託したという方が正しいのかもしれません。
相棒が登場してくれて助かったのは、実はロンドより私だったというオチ。
≪狼の隠れ家≫に来てくれた肩乗り相棒は、大事にロンドが世話をさせていただきます。
しょうどうぶつかわいい。

謎解きの不正解にはペナルティがあるのですが、これはリミットまで突き進むと、キャラクターの対象消去が待っています。
お気に入りのキャラなんだから消したくない!というプレイヤーさんは、セーブで予防措置をするなりなんなり、やっておかれた方が宜しいかと思われます。
割とリミット短いですよ。具体的には仏の顔も三度的な。
階段を上がって現実に帰ってくる時に、なんとなく思ったのは、自分も稀にですが、落下する感覚ののち、布団に「ドサッ」という感じで落ちたと錯覚することがあるので、あれみたいなものかなと思ってます。
落下の感覚があると、起きた時に冷や汗を掻いたりもします。真に迫っているからなんでしょうか、結構怖いものがありますね。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2018/03/19 13:42 [edit]

category: Under the stone

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