Mon.

Under the stoneその2  

 牢屋から出てきたロンドは、懐に入れた奇妙な石を服の上から撫ぜた。
 滑らかな台座の上に放置されていた真っ赤な石は、どういう仕掛けなのか中心部に昏い光が明滅しており、その一定のリズムが自分の心音とシンクロしているようだった。
 確かに台座に刻まれた文字には、

”この石はお前の心臓””努々手離すことなかれ”


「それにしても……妙な道具を買った覚えも、誰かの落し物を押し付けられた覚えも無いんだがなあ」

 愚痴るロンドが謎の石を失敬した後で、今いる建物内をうろついていると、薄暗がりの中でもいくつかのドアがあると分かったのだが、いかんせん、すべてのドアが開放されているわけではないようである。
 それでも何とか開いてくれた扉の向こうの物置部屋に、特攻をかけてみた。
 何はともあれ、視界の確保のために、照明器具を求めてあちこちを引っくり返す。
 もしこの場にウィルバーがいれば、丁寧な話し方のまま、恐ろしい雷を落としてくるに違いないだろうが、その懸念は現時点で不要である。
 明かりならこれで大丈夫だろうと、高を括って≪マスタースコップ≫の発火能力を発動させたのだが、ここの闇が特殊なのか、片端から炎による灯火を飲み込んでいるかのように、景色は暗く沈んだままなのである。
 一向に辺りが照らされる様子はなく、もう一つの武器を用いても無駄だった。
 ”ここ”の闇を払うには、”ここ”の光を使用しなければならないのではないか?
 ロンドは己の直感に従い、この用途不明の建物内の明かりになる物を探していた。

「ん?」

 ロンドの手首が、ひやりとした硬いものに触った。

「んんん?」

ScreenShot_20180319_132332667.png

 大きな手を懸命に伝わせると、どうやら蝋燭がくっ付いたままの燭台らしく、持ち上げて顔を近づけると蝋独特の匂いが鼻に届く。
 スコップでは火が大き過ぎるだろうと、≪サンブレード≫の切っ先に蝋燭の芯を近づけ、明かりを灯した。
 やっとのことで確保できた照明を片手に、ロンドは安堵の息をつき、その近くに真っ赤なクランベリーの実がバラバラに置かれているのも目聡く見つけ、むんずと引っ掴んでポケットへ突っ込んだ。
 どんな状況だとしても、腹が減っては戦も出来ないのだ。

「たかが明かりひとつに、ここまで苦労するとか……シリーみたいに、光の精霊を手懐けていたら、こんな必要ないのかもな」

 ガリガリと白い後頭部を掻き、他に役立つものがないかと火元に気をつけながら、部屋の中の探索を続けてみると、壁と床の継ぎ目の一部に、小さな穴が開いているのに気付く。
 しゃがみ込んだロンドは、まず蛇などが出てくる用心に剣の鞘を突っ込んでみたが、穴が真っ直ぐ続いているわけではないのと、鞘自体が曲刀のものであるために、案外と奥まで入っていかない。 
 しばし考え込んでいたが、どう見ても、自分の太い腕(力を入れれば貴婦人のウエスト並みになる)は入りそうにないため、ここは一先ず穴の調査を諦めた。
 物置部屋を出たロンドは、赤い石のあった台座まで戻った。
 この場所には、二つの大きさが異なるドアがあり、大きなドアの方こそ鍵が閉まっていて開かなかったのだが、もう一つのドアは部屋の中へ入りながらも、暗すぎて何も見えなかったので、すぐ出てきてしまったのである。
 所持している手燭を掲げ、再びその部屋の中へ足を踏み入れる。
 そこはがらんとした石組みの部屋で、ロンドが最初にいた石牢ほどの狭さではないのだが、隅から隅まで走り回って調べるほどの広大さとも無縁である。
 ただ、ロンドの視界の左端に、鳥籠のようなものが置かれているのが見えた。
 中には何やら、小さな生き物が蹲っているように思われる。
 ロンドは籠を覗き込んだ。

「お?」

 毛玉が動いている……と見えたのは、白と茶色の毛皮を持った、真ん丸い鼠のようなもの。
 ハムスターである。
 弱っているのだろうか、人の掌にすっぽりと収まるサイズのその小動物は、力なく籠の中で横たわっている。

「なんだってこんな場所に……?」

 哀れに思ったロンドは、即座にケージから開放してやろうと籠に手をかけたのだが、恐ろしいほどの頑丈さを持っており、壊すことにかけては得意な少年の強力をもってしても、籠の格子が曲がるどころか、びくともしなかった。

「この気に食わない籠、あの牢屋と同じ素材じゃないだろうな……」

 中のハムスターは、どことなく怯えている様子なのだが、逃げる体力も余りないのか、縮こまることすら出来ていない。
 そんな生き物に気付きもせず、開かないことに悪態をついたロンドは、牢屋と違い、籠には南京錠が扉の横に掛けられているのを見た。

「これもきっと、”ここ”の鍵じゃなきゃ開かないんだろうな……。ったく、仕方ない。おい、ちびすけ。ここから助けてやるから、これを喰って待ってろよ」

 ロンドはポケットに入れておいたクランベリーの実を取り出し、5粒ばかりをハムスターの近くへ置いてやった。
 小動物は木の実の芳しい香りに気付き、ひくひく鼻を蠢かして、はっしと一粒を掴むと懸命に果実へ齧りついた。
 その様を微笑ましく見守り、もう一度「頑張れよ」と短く声をかけておくと、立ち上がって先ほどの探索で開かなかったドアの一つ――牢屋の向かいにある――へ向かった。
 作為的なこの空間の資質をなんとなく感じ取ったロンドの思惑通り、目当てのドアは暗い中を歩き回っていた時と異なり、呆気なく開いた。
 5メートル四方ほどの部屋の中には、何故か木製のテーブルや椅子が設置されていたが、その机の上にある銀のプレートが、ロンドの持つ蝋燭の灯を反射して光る。

「あん?」

 ロンドにも理解できる共通語で、”石の望みを叶えよ”とある。
 プレートの近くには、拳の倍の大きさほどの革袋が置かれており、乱雑に袋を綴じている紐を解くと、じゃらりという音とともに、青や赤など色とりどりの石が詰まっていた。
 ついこないだ、アドマール領の遺跡で見つけたものと似ている。

「水晶か」

 そういえば、こういった水晶を使った仕掛けについて、仲間であるミカから端的な説明を受けた覚えがある。

『ロンドさん。この手の水晶は単独で使うより、水晶同士の共鳴現象を利用して、魔力を一方向へ集約することが多いです。俗に、水晶が歌うと言います』

 共鳴現象を起こした水晶は、増幅した魔力が予め定めておいた経路を辿るようにしておけば、何らかの魔法による仕掛けを動かす源になり得る……ミカはそういう話をロンドにしてくれた。

「てことは、共鳴現象が起これば、何かが動くって手筈なのか」

 机のある壁には、ちょうど袋の中の水晶と同じ大きさほどのくぼみが見受けられる。
 ここに石を嵌め込むのだろう、と予測したロンドは、しばしくぼみを睨みつけるようにして観察してみたが、考えても分かるまいと、適当に水晶を嵌め込んでいった。
 6つ全ての水晶が並び、軽やかな鈴のような音が響いた――これが正解だったのかと、むしろロンド自身がびっくりしていると、急に厳格な音波のようなものが耳に突き刺さる。
 不快な虫の羽音のように感じたそれが、不意に周波の合ったものとして知覚され――。

ScreenShot_20180319_132457578.png

「愚か者に鉄槌を!!!」
「っ!?」

 瞬間、黒い水晶から放たれた光線が、ロンドの心臓を射抜いた。

「うぐっ!?」

 じりり、と。
 まるで心臓を直接火で炙るような、生々しい防ぎようもない痛みが、屈強な少年の体を貫いていく。
 思わず体勢がくの字に折れた。

「……はあっ、……ぁ、」

 しかしそれは、一瞬のうちに彼方へと去り、くっきりした不快感だけが胸に残された。
 体勢が崩れたせいで懐から転がり出てきた赤い石が、ロンドの目の前で止まる。
 その表面には、今まで見られなかった罅が入っている。
 苦々しい唾が口中に溢れた。
 どうやら、これは”ここ”でのロンドの命に直結した代物らしい。
 次は不正解には出来ない――彼は”ここ”に来て、初めて戦慄を覚えた。

「だが、石の望みといっても……石が話す訳じゃないだろ……」

 額の脂汗を拭い、くぼみから戻した水晶を覗き込んでいると、何やら革袋の中からぼそぼそと、複数と思われるくぐもった囁きが聞こえる。

「前言撤回」

 そう呟くと、ロンドは個々に違う主張を始める石たちの声を、必死で拾い集めた。

2018/03/19 13:38 [edit]

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