Wed.

見知らぬ仲間その1  

 アンジェは、普段なら小悪魔めいた可愛らしい笑みを閃かせる唇を、緊張のあまり一文字に引き結び、強い意志を込めて目前の魔術師を見上げた。
 彼女の前に立っているのは、孤児院時代からの知人でもあり、ここ2年近くの冒険者生活において替え難い仲間となったウィルバーだ。

「待ち伏せとはいい趣味ではありませんが……どうしました?アンジェ」
「おっちゃん……少し、話があるんだ」

 2人が佇んでいるのは、手入れの行き届いた由緒ある館の、ゲストルームに続く階段の傍である。
 そう――旗を掲げる爪の面々が今いるのは、リューンの老舗の冒険者の店である≪狼の隠れ家≫ではない。
 リューンから馬を使って5、6時間ほど北西に行ったところにあるアドマール領、その地を治める領主の館だった。

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 彼らがここを訪れたのは、他ならぬアドマールの領主カシムより、領地の森に宿る呪いの解明と解決を依頼されたからである。
 アドマールは元々、取り立てて名産も無い小さな所領地なのだが、これといった魔物の襲撃も見られず、住民たちも心穏やかに暮らしているらしい。
 そんなアドマールの暮らしにも、影を落とす存在はあるわけで――領地として整備される以前より、立ち入りを避けるべきだとされる”禁忌の森”が、領主を中心とした集落のすぐ近くにあった。
 なんとこの森、領主カシムの調べた限りでも、三百年間で170人以上もの人間が、森に入ったきり行方が杳として知れないという。
 何が原因なのかは誰にも分かっていない――ただ、森に立ち入れば帰っては来られない。
 住民だけではない。アドマールを通過点としてあちこちを放浪する旅芸人や行商人、あるいは巡礼の旅人など、領地に住まいを持たない者たちですら、迂闊に森を通ろうとして、再び姿を見せることはなくなってしまった。
 このままでは領民の消失のみならず、森が危険だと断じられることで、他の領主からの干渉や、貴族の横行を嫌がる大都市の宗教組織から、妙な横槍を入れられる原因となるのでは――と危惧したカシムの曽祖父に当たる人物が、”禁忌の森”を立ち入り禁止にしていた。
 だが、人間というのは喉元過ぎれば熱さを忘れる生き物であり。
 駄目だと禁じられれば、禁を破りたくなる生き物でもある。
 カシムが領地を先代より継いで十年余り、ついに”禁忌の森”に入ったのは、まだ幼さを残した少年たちであった。
 当然、その子供たちも、森から帰ってこなかったのだろうと思った冒険者たちだったが。 

「だが、子供たちは戻ってきたのだ」
「戻ってきた?なら、何の不都合もないんじゃないか?」

 善良な一般市民が首を竦めたくなるやぶ睨みの目を、珍しく小動物のように瞬かせてロンドが指摘すると、カシムは静かに首を横に振った。
 彫りの深い精悍な面に、何とも言えない苦い色が落ちている。

「問題は、その後だ。何事もなかったのならと、子供たちには禁を破るなと厳重注意で終わらせたのだが……数日後だ。その二人の子供が、川で水死体となって発見されたのは」

 カシムは、子供たちの水死を森と関連付けて考えて、即刻アドマールで最も優秀だと評判を得ていた冒険者チームに調査を依頼した。
 ところがやはり数日後、彼らもまた。

「死体となって見つかった――のですか……」

 ミカが緊張から微かにわななく唇で言葉を搾り出すと、領主は沈痛な顔で頷いたのである。
 ふう、と重々しいため息が彼から発せられた。

「……失意にあった私は、そんな時、旗を掲げる爪の話を聞いたのだ。黄昏の森に住まう大妖魔を退治し、北方の大貴族であるニージュ公爵の頼みで竜すら倒した、英知溢れる冒険者の話を」
「ああ、森の主オウスラとの戦いと、湖城の後で引き受けた黒竜退治ですね」
「俺たちって色々仕事してたんだなぁ、シリー」
「……兄ちゃん。そろそろ、あたしらが実力ある冒険者だって自覚してよ」

 カタン、という軽い音がする。
 カシムがテーブルにやや身を乗り出したのだ。

「貴殿らであれば」

 シシリーとロンド、アンジェの3名による呑気な会話を遮るようにカシムは話を続けた。

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「あるいは――あの森にかかる呪いの秘密を解き明かし、以後このようなことを無くしてくれるだろうと、そう考えている。先日など、川で見つかった子供の母親が森に入ろうとするのを止めたばかりだ。…このままでは、更なる犠牲者が出るだろう」

 カシムは――リューンという大都市にほど近い領地を持つ、れっきとした貴族の一員は、世間的に後ろ指をさされることもある冒険者たちに頭を下げた。
 ぎょっとした旗を掲げる爪をよそに、カシムは誠実な態度を崩さず頼み込んだ。

「そうなる前に、頼む。なぜこんな事が起こるのか――呪いの原因を探ってくれぬか」

 パーティの仲間たちの中からは、仕事の内容が曖昧すぎるだの、呪いなどという対象を相手に自分たちに出来ることが果たしてあるのかなど、依頼を受けることを反対する声もちらほら聞こえていたのだが、元より誠意を持って説得されてしまうと、リーダーであるシシリーは断ることもできなかったのである。
 受けるか否かを論じるのに時間は使ったが、いったん決定が下されれば動くのが早いのは冒険者としての常である。
 領主たるカシムと共に、その日の内にリューンを出立し、アドマールについたのだが……。
 彼らを出迎えたのは、森へフラフラと入っていく女性の影であった。
 森に入った子供を亡くした母親――追跡しようとしたカシムを制して、休む暇もなく冒険者たちが”禁忌の森”へと彼女を追っていった。

「領民を探して森に立ち入り、霧のせいでシシリーと分断されはしたが、ちゃんと合流し、目的の人物もシシリーが発見してくれていた。そこまではいいんです」
「そう、そこまではね」

 アンジェは、素直にウィルバーの言葉に相槌を打った。
 女性の追跡をしようと先を急ぐ中、まるで商業都市レンドルの事件のように――ただ、今回は霧が攻撃を仕掛けてきたわけではないが――渦を巻く乳白色の霧に視界を遮られ、霧が晴れるまではと待機していた旗を掲げる爪の中で、僅かな身動きを示したのは、シシリーだった。

「アンジェ、目印にスピカやランプさんを解放しましょう。こっちに来て手伝ってくれる?」
「うん、姉ちゃん」

 すぐそばに感じられる少女の言葉に頷いたアンジェは、シシリーの差し出したベルトポーチの片側を支え持った。
 ポーチの開く音とともに、中で様子を窺っていた光の精霊たちが飛び出す。
 うすぼんやりと霧越しの光が見え、パーティが安堵の息をついた二拍後。

「あら、あれは?」

 シシリーの声がして、身じろいだ気配がした。
 動くべきではない、と制止したナイトの言葉に、

「大丈夫よ。それよりも、あれ――」

という一言を残して、突如彼女は消えてしまったのである。
 数メートルの距離ではない、まさに目と鼻の先にいたはずの気配も存在もなくなっていた。
 ウィルバーの推挙を受けて、アンジェが並々ならぬ覚悟で探索を続けると、十数分後に無事な姿でシシリーが現れ、ホビットの娘は安堵の息をついて肩の荷を降ろそうとした。
 しかし、森に入って程なく棘のある木の枝に引っ掛けた彼女の白い腕にうっすらと走った赤い線が――そして、袖の引き裂かれた形跡すら認められないと気づいた時、アンジェの頭皮は粟立ち、一瞬呼吸を止めたのである。
 
「霧の中であたしが見つけた姉ちゃんは、森で出来たかぎ裂きや傷がなかった――」
「その事をずっと考えていて、今日の夕食の主菜を、ロンドにみすみす取られたんですね?」
「うん。だって、それどころじゃないと思ったからさ。……霧の中ではぐれた時に何も言わず気配まで消えてたし、起こった現象を考えれば、あれは姉ちゃんじゃないんだろうけど、でも……」
「言いたいことは分かる気がします。あの人の今の言動は、明らかにシシリーそのままです」
「……うん。食事の時のナプキンのかけ方とか、クセまでね。恐ろしいほど、いつもと変わらないよ。偽物だなんて思えない位に……」
「そうでしょう。つまり、あれは姿を自在に変えるだけの悪魔(シェイプシフター)やその類では絶対に無い、という事です」

 そもそも、孤児院出身者とウィルバーは、冒険者になる以前より付き合いがある。
 ウィルバーの場合、個人的に親しくしていたわけではなく、月に1回か2回くらいのペースでたまにお土産を持ってきていた子どもたちの中の数人という認識程度だったが、それでも彼らの性向や考え方などについてはあるラインまでは予想がついたし、冒険者になって以後は、互いに命を預けたりエゴをぶつけたりするほどの濃い交流がある。
 シシリーとアンジェにいたっては、それこそアンジェ自身が赤子だった頃から一緒にいるのだ。
 そんな彼らにすら違いが分からないのであれば、それは鏡の魔物によって成り代わりをされたロンドの事件の時と異なり、姿を真似ただけの偽物であるはずがない。
 ウィルバーは、解放後はずっとアンジェにくっついて来た、光の精霊たちへと視線を移した。

「あなたがたは、今我々に同行しているシシリーをどう感じました?」
「あれは主だと思います…ただ…」
「ただ?」

 フォウの眷属であるスピカが、珍しく言葉を濁すように、くちばしを数回もごもごさせる。

「ひどく、気配が、濃いです」
「気配が濃い?」
「それってさ、なんか悪いことなの?」
「よく分かりません。主が人間でなかったら、あるいは私たち精霊の眷属に近い者だと言えるのですけれど……主は人間のはずなんです」
「…!!……!」
「ランプさんも、私と同じ意見のようです」

 予期せぬ精霊たちの意見に、アンジェはごくりと喉を鳴らした。

「でもさ。……じゃあ、あれは一体、何?」
「推測にはなりますが、恐らく――」

 コツ、というブーツが鳴らす聞き覚えのある音に、ウィルバーは口を噤んだ。

「あら。二人とも、どうしたの?部屋に戻ったんだと思ってたけど。スピカやランプさんまで」

 そんなセリフと共にこちらへやって来たのは、シシリー――であるはずの娘である。
 きょとんと軽く碧眼を瞠った状態の表情も、声の調子も、何もかも仲間の記憶のままだ。
 咄嗟に声も出せない様子のアンジェと異なり、ウィルバーは彼らしく薄い笑みを浮かべて、動揺の色も見せず問い掛けに答えた。

「ああ、すいません。明日のスケジュールを相談していたのですよ。あの霧は手強い。自然なものではないのであれば、発生源か、発生させる装置かを突き止めなければなりませんからね。精霊たちの協力も不可欠です」

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「そう……有り難いけど、程々にね。明日に疲れを残しちゃ本末転倒よ」

 納得したシシリーは、短くおやすみと挨拶すると階段を上がっていった。
 問題の人物が間違いなく部屋へ入っていったのを確認すると、アンジェが呟いた。

「おっちゃん、さすが。ナイスフォロー。年取ると、面の皮も厚くなるの?」
「……褒め言葉としておきますよ。どうも」

 肩を竦めたウィルバーは、とにかくと左の人差し指を振りたてた。

「あの人には、今までどおり普通に接してください」
「普通に?」
「いつもどおり会話をすること。指示されればそれをすること。不自然な対応だけは避けなさい」
「……えっとさ。姉ちゃんは、本当に偽物じゃないんだよね?姉ちゃんが考えた作戦や指示なら、あたしはちゃんとやり遂げるよ。だけど、偽物の言うことなんて聞きたくない」
「それは安心なさい。彼女は私たちの知らないシシリーではありますが、偽物ではありません。スピカたちもいいですね?」
「……分かったよ。とにかく、本物の姉ちゃんとして接する」
「私たちもいつもどおりにします。呼ばれるまで、ポーチにいればいいんですね」
「ええ、それが良いと思います」
「……ね、おっちゃん。あの森は、入った人間が必ず死ぬって話だったよね。姉ちゃんの今の状態と、何か関係があるのかな?」

 指示を受けた精霊たちが、住処としているポーチ目指して飛んでいった後。
 小首を傾げて見上げてくるアンジェの疑問に、ウィルバーは顎に手をやりしばし目を閉じて沈思黙考していたが、おもむろに開いた口からは、分かりづらい肯定の返事が現れた。

「無関係とは言いにくいです。森に入って無事に戻ってきた子供たちが数日後死亡。同様に、依頼を受けた冒険者たちも……でしょう。念頭に置いておくべきです」
「このまま何にもあたしたちが出来なかったら、姉ちゃんも……?」
「恐らくは。しかし、シシリーやあなたと離れていた時に、焦点具による【魔法感知】を行なったのですが、あの森には魔法的な力が掛かっていました。となれば、必ずあの森の近辺に、術を行使している相手がいるはずです。”禁忌の森”がそう呼ばれているのは、数百年前からのこと。だとしたら、術の源は寿命の長い魔物でほぼ間違いないでしょう。それを叩けば――」
「霧も晴れて、姉ちゃんも助かる?」

 自分の言葉に対して静かに首肯してくれたパーティの頭脳役に、アンジェは知らずに握り締めていた拳をゆっくり解いた。
 子供らしいぽよぽよした手の平に、じっとりと汗がへばりついている。
 胸のハンカチーフを取り出して、丁寧にアンジェの手の平を拭ったウィルバーは、作業を終えると、骨ばった大きな手でこげ茶色の頭を撫ぜた。

「というわけです。明日からの調査、頼みますよ」
「分かったよ、最善を尽くすね。……姉ちゃんのこと、他の人に話しておく?」
「やめておくべきです。敵の正体も分からない現状では、こんな話をすれば困惑する者の方が多いでしょう。何より、シシリーへの不信感を持たれてしまうのが怖い。パーティで最も恐ろしいのは、指揮系統の瓦解ですよ」

 ウィルバーは思う――自分たちが曲がりなりにもこれまでやって来れたのは、シシリーがリーダーを務めていてくれたからなのだと。
 生真面目で、自分を誤魔化せないからこそ、多くの悩みと対決する羽目になった金髪の娘は、それでも味方のために最善と思える決断をしてくれた。
 今は少々事情のある状態の彼女だが、もしシシリーの命が助かった後に、今度の事件により仲間との間に亀裂ができるようなことになったら、旗を掲げる爪としての活動を続けること自体が危ぶまれるだろう。

「……そうだね。ミカとナイトは途中加入だし、動揺も大きいかも。兄ちゃんは……多分、何も気づいてないと思うし……」
「ロンドはね。気付かないのが一番幸せですよ」

 ウィルバーは≪海の呼び声≫で軽く己の肩を叩いた。
 同時刻、やはり”禁忌の森”で何らかの魔力を感じていたミカとナイトは、領主の館でひと晩療養することとなった子供の母親に会いに行っていた。
 ひょっとしたら、森の怪異について何らかのヒントを得られるかと思ってのことである。
 ノックの後に入室を促す声が聞こえ、2人は中々豪奢だが居心地の良さを失わない客間の一つに、遠慮がちに足を踏み入れた。
 薄紅色を基調としたベッドメイクをされた寝台に、小柄な印象の女性が横たわっている。
 その枕元で彼女を介抱していたらしい使用人が、素っ頓狂な声をあげた。

「まあ、ミカ様とナイト様!どうされたのですか?」
「アキア殿の様子を見に来た」
「お気遣い頂いているのですか。ありがとうございます、どうぞこちらにお座りくださいな」

 母親の容態を気遣ったのかと思って、彼女たちに寝台の近くの椅子を勧めた使用人に悪い気がして、ミカはとりあえずアキアという名前の母親の脈を取ってみた。
 特に脈が乱れていることもなく、やや顔色は白いながらも、これといって治療しなければならないような様子は彼女に見られない。
 その旨をアキアに伝えると、

「あの……先程はありがとうございました」

と、三十路近いという実際の年齢よりも、よほど若々しい整った童顔の眉をふにゃりと下げて、華奢な女魔術師と厳つい黒い鎧の騎士というアンバランスな二人連れに謝罪した。

「いえ、お礼は宜しいんですよ。それよりお聞きしたのですが、貴方はあの森の件で、お子様を亡くされてるとか……」
「その話だが、もっと詳しく聞かせて貰えないだろうか?」

 おずおずと切り出したミカの傍らで、静かな断罪の如くナイトが尋ねる。
 きゅ、と家事で荒れた手が毛布を握る。
 相手の心情を考えてさすがに止めようとした使用人だったが、尋ねられた当人が意を決した風に口を開いたのを見て、二歩ほど寝台から後退した。

「詳しく、と言われましても……私、そんなに詳細な話は出来ませんの。何週間か前、あの子が友だちと森に行って……その後、2日間は何も無かったのですが……」

 アキアの息子は、彼女が夕飯を作っている横で、1人おもちゃで遊んでいたという。
 しかし、彼女がスープに仕上げの香草を加えたところで振り向くと、既に子供の姿はなかった。
 最初はトイレにでも行ったのか、と思ったが、一向に戻ってこない。
 不安に駆られて居間や子供に与えた部屋などを探し回っても、息子はどこにもいなかった。
 半狂乱に陥ったアキアが、隣人や向かいの住人にも声をかけて、外を駆けずり回っていると、町外れの小川で子供の死体が見つかった……。

「私も、おかしいですよね。森に入ったって、たとえそれであの子が死んだ原因がわかっても……戻ってくるわけではないのに……」
「……どうしても、何かせずにはいられなかった気持ちは分かります。私もそうでしたから」

 シシリーが仲間を失って自責の念に沈んでいた頃のことを思い出し、ミカはアキアの毛布を掴んでいる手をそっと両手で覆った。
 アキアのジリジリと遠火で炙られるような焦燥感が分かる。
 そう――非力な自分のことを承知の上で、それでも何かせずにはいられなかった――己にとって、とても大事な人だから。

「あの森については、私たちが正式な依頼で調査を致しますから、どうか、あなたはご自分を労わってあげてください」
「ええ……ありがとうございます」

 目だった外傷や衰弱は見られないとしても、彼女が憔悴しているのは間違いない。
 今日はこれ以上アキアから情報を聞き出すのは難しいだろうと、ミカとナイトは使用人にも会釈をしてから部屋を退出した。

「……結局、森の事は分かりませんでしたね」
「うむ。シシリーの服が直っていた件も、分からぬままだな」

 ミカがリーダーのかぎ裂きのなくなったのに気付いたのは、館についてすぐのことだった。
 使用人に糸と針を頼まなければ、と思ったミカが改めてシシリーの袖を注視すると、ゆったりした着心地のチュニックの袖に裂けた形跡はなくなっていたのである。
 ナイトにその事を質すと、彼もまた、霧から現れた直後からそれに気付いていたという。
 疲れているだろうアキアに、あえて話を聞きに行ったのは、この異常があったからこそだったのだが、成果ははかばかしくなかった。

「霧から出てきたアンジェ殿の様子がおかしかったのは、彼女もまた、異常を察知していたからだと私は思っている」
「きっと、ウィルバーさんも知っているのでしょうね……」

 先輩冒険者だからというだけではなく、頭脳労働者の1人として鋭い推測を続けてきた相手である。
 自分たちが気付くようなことであれば、彼が見逃しているとも思えなかった。
 全ては、明日の探索に掛かっているだろう――そう判断した主従は、これ以上の情報収集や無駄な予測を諦めて、荷物袋の整理に掛かることにした。

2018/03/07 18:41 [edit]

category: 見知らぬ仲間

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