--.

スポンサーサイト  

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--/--/-- --:-- [edit]

category: スポンサー広告

tb: --   cm: --

Fri.

新人と私その5  

 気密性の高い、(ミカを抜かして)男だらけの狭い部屋の中に、ぱっと花が咲いたようである。
 堂々と大きな花弁を何重にも開く、匂い立つような艶やかな花――だが、その色は毒々しいまでの血の赤であることは間違いない。
 胸をそらすようにしてにこやかに現れたその女性に、少し戸惑ったような顔をしていた男は、気を取り直して声を掛けた。

「…ほお、お前も来たのか。これまた随分なタイミングだな。で、ここの事は話さなかったが良く場所が分かったな?」




「リューンから半日の村、山道が比較的安全…と言うことを考えたら、ここの集落しか思いつかなかったのよ」

 ノースリーブの上から羽織った黒いマントを微かに揺らした女は、ひらりと右手を軽く挙げて挨拶してきた。

「…そういうわけで、私の本名はマゼンダ・グリス。もちろん、あの村の村長なんかの娘じゃないわよ。騙してごめんなさいね、ミカさん…フフフ」

 カツン、とショートブーツのヒールが地面を鳴らす。
 依頼主として会ったはずの彼女……ティルア・ラインことマゼンダ・グリスは、腰に手を当てて言い放った。

新人と私10

「そして、私が働いているのは精霊宮じゃない。賢者の塔なの。…魔術は結構お得意なのよ」
「ご同業だとは思いませんでしたね……」
「そう、顔を合わせたこともないからね。今回はそれで助かったわけだけど」

 マゼンダはにんまりと目を細めた。

「あなたが受け取ったオルゴール、あれね…私が作ったのよ。使ってはいただけなかったようだけど、蜘蛛の糸を閉じ込めたなかなかのシロモノよ。使用者を呪縛するというなんとも使い道がないものだから、高額で売れるって事はないけれど……。村長に用意したセリフを真に受けていてくれたら、ミカさんを始末するのに手間が省けたのにね」
「マゼンダ、もういい。それより折角、お前もここまで来たんだ…」

 女魔術師の長広舌を、レイドは無造作に遮った。
 指を――本当の少女の指にも劣らぬ、白くて形の良い指をミカに突きつける。

「お前にミカを殺させてやるよ。…さあ、自慢の魔法で殺せ!」
「あら、大役任命ありがとう。謹んでお受けいたしますわ」

 芝居がかった仕草で一礼すると、マゼンダは魔法の発動体らしき短刀を抜き放ち、ミカも知っている【魔法の矢】の呪文を唱え出した。
 ミカはかつて攻撃魔法をかけられた経験をもとに、桜色のローブに精神を集中して威力を削ごうと試みることにした。
 しかし、一発目は耐えられたとしても、続けて山賊の刃が襲ってきたら……そして、その後にまた魔法をかけられたとしたら……。

(……こんな狭いところで、多数を相手取る技量は私にありません。さすがに万事休す…――ナイト、シシリーさん、助けて――!)

 ミカの願いも空しく、マゼンダの短刀の切っ先から魔力の白い輝きが発射される。

(―――!!……………あ、れ?)

 ミカは慎ましく膨らむ己の胸元に目を向けたが、そこからは出血もなければかすり傷の一つすらなく、他の場所にもこれと言ったダメージの痕跡は認められない。
 この至近距離で、的を外さぬ魔法を外したということに呆然としていると、ミカの思っても見なかった方向から苦悶の声が上がった。

「ぐっ…!?」

 そちらを見やると、レイドが左腕の上膊部を押さえながら呻いている。

「てめぇ、マゼンダ!どういうつもりだ…!?」
「あららら…。焦って撃ったから、ちょっと心臓から外れちゃったわね。ホント、運がいいわねぇ。でも、これで”華”を持たせる事が出来そうだわ!うふふ…ねっ、旦那?」
「………え?」

 ミカが間の抜けた声を零すのとほぼ同時に、レイドが憎々しげに呟いた。

「…は?”旦那”…だと??…だ、誰かいるのか!?」
「ちょっとばかり…待たせましたね」

 すまなそうな顔でミカに声を掛けたのは、頭髪のちょっとばかり薄い魔法使いの出で立ちをした人間である。
 紛れもなく、彼女の先輩に当たる男だった。

「ウィルバーさん…!」

 彼の後ろから、ぞろぞろと旗を掲げる爪の面々が入ってくる。
 もちろん、その中には助けを求めた彼女の従者や、リーダーである娘の姿もあった。

「!!貴様らがなぜここに!?」
「悪かったですね、レイド。あなたの愉快な企ては、リーダーや私が初っ端から見破っていましたよ」
「バカなっ!?俺は完璧に立ち回っていた!2人も見破っていただと!?そんなはずは…!」
「…あなたは中々頭がよろしい。確実性を求めて、安全で堅実な依頼を考えたのでしょうが、それがかえって裏目に出たんですよ」

 乱暴な仕草で、脱ぎ捨てた上着を左腕の怪我に巻きつけたレイドは、己に傷を負わせた狩人の喉笛を食い破ろうとする、追い詰められた獣のような表情で尋ねた。

「…どういうことだ?」
「おや、まだお気づきになりません?ゴブリン退治、オーク退治があったのに、なぜそれを蹴ったのかって事です」

 くるり、とレイドの神経を弄うように、≪海の呼び声≫が円を描く。

「早く剣と魔法を上達させたい、勘違い初心者なんですよね?…それなら、血気に逸って実戦を選ぶでしょう?先輩の技を盗み見したり、自分なりに立ち回りを覚えたいと、普通は思うはずなんです」
「――――っ!!」

 レイドは愕然となった。
 確かに、あの依頼でミカをパーティから引き離そうと考え付いたのは自分だ。
 それなのに、そんな理由から怪しまれていたのだとすれば、本当にかなり初期からレイドの目論みはばれていたことになる。

「おまけに、うちのナイトは男女の区別を外見でなく判断できましてね。あなたが女装した男だということも、彼がいち早く気付いてくれたんです。で、それを聞いて……」
「あたしがね。昨夜は、結構遅くまで情報を仕入れてたんだ」

 アンジェが腕輪から鋼糸を抜き出しつつ言った。

「ちょっと前のダーフィットの事件で糸を引いてたギルドの幹部とか、後はこないだの怪しい実験してたらしい魔導協会とかが、裏で手を組んで旗を掲げる爪に賞金を懸けた……ってね。それを気にしてたら、姉ちゃんやおっちゃんの感じた違和感や、ナイトの話を聞いたんで、もしかしたらこれ、仕掛けられた罠なんじゃないかって思ったんだよ」
「だからこそ、ミカに警戒の信号を送ったの。何とか役に立ったみたいね」
「はあっ!?コイツとは四六時中一緒にいたんだ、そんな信号なんかなかった!一体、どこで……!」
「鳥を」

 シシリーは自分のベルトポーチの蓋を開け、そこから光の精霊たちを開放した。
 帽子を被った小鳥が、ちょんとシシリーの肩に止まる。
 その様子に、ナイトに庇われたミカが、ほっとした表情で頷いた。

「ええ、おかげ様で何とか矛盾に気付きました」
「どうにかしてミカだけを連れ出す事に夢中になって、あれこれ考えた挙句がこのザマですか…。まあ、確かに危険を伴う退治系の依頼は、”駄目”と水を差される可能性がゼロではありませんからね。分からなくもありませんが」
「それに対し、安全で堅実な依頼ならほぼ断られずに、主殿1人だけ連れ出す事についても、それほど難はなく、話が進むと計算したのだろう」
「………………」

 レイドはアントゥルの村に向かう途上で、ミカが上空の鳥を眺めていたことを思い出した。
 集落に連れ込む前から、彼女の警戒は始まっていたのだろう。
 完璧だと思っていた計画があっさりと見破られ、裏をかかれていた事に、レイドは目も眩むほどの憤怒を感じ出していた。
 悪魔もかくやという会心の笑みを浮かべたウィルバーが、杖の石突で地面を軽く突いた。

新人と私11

「同情を引くが為に可愛くて、早く強くなりたい初心者、勘違い女を演じましたが……。言っている事と、行動がてんでちぐはぐ。…ふふふ、気付かれて残念でしたね」  
「糞っ…!…でもマゼンダ、なぜそいつに寝返った…!?」
「…旦那はね、私に一枚の紙を渡してくれたの。治安隊が発行した、レイド・クラウン討伐成功時の懸賞金引き換えの紙。アンタの首を見事持ち帰ることが出来たら、銀貨二万枚なんですって」

 可愛らしく小首を傾げたマゼンダは、ひらひらとレイドに手を振ってみせた。

「…でもこの紙がないと、首を持って行っても懸賞金どころか、”ただの殺人”なの。つまりこれがないと、こちらの旦那達はただの殺人者になるわけよ。…だから、適当な契約書を交わしただけのあんたと違って、こんな大事な物を渡してくれる相手の方が信頼性があると判断したの。……それに」

 【賢者の瞳】の呪文で見透かすような顔つきで、マゼンダは話を続けた。

「あんたって契約を交わしながら、協力した人間全員殺しているんですってね。あんたのことは元々疑ってたし、旦那はあんたみたいにケチな報酬を提示しなかったし。何より、彼の評判は、賢者の搭でも聞き及んでいたからね」

 マゼンダの理路整然とした説明に、山賊たちの顔色が段々と土気色に変わっていく。
 協力した人間を全員殺す……それは、駒として扱った人材を捨てるということだ。
 この場合、山賊たち――いや、彼らは山賊を装ったチンピラ冒険者なのだが――も含まれるだろうことは、マゼンダに説明されなくとも何となく分かった。

「レイドさん、本当なのですか…?」

 弱気になった山賊の頭領役に、レイドが噛み付くように怒鳴り返した。

「馬鹿野郎、嘘に決まっているだろうが!オレたちの結束を揺るがす為に、ホラ話をしているだけだ!もっと冷静に考えろ!!」

 引きつるような笑い顔だったが、とりあえずそれをレイドは作った。
 ここで人数上の有利まで捨てるようなことになったら、到底、旗を掲げる爪と戦うわけにはいかない。
 だが、ここまで暗殺者のレイド・クラウンを虚仮にしてくれた相手を見逃すほど、彼は冷静な思考を保つことができなかった。
 これは、ウィルバーが計算ずくでレイドを挑発し続けた結果である。
 激情に上ずる声を押さえつつ、レイドは捨て駒を動かすためのキーワードを思いついた。

「…それによく考えろ、馬鹿ども。こりゃ大層なチャンスだぜ?あいつら全員殺せば…銀貨六十万枚がっぽり頂戴さ。…報酬も倍にしてやっからよ!!」
「マ、マジっすか!?俺たちはレイドさんを信じますよ!!」

 今まで沈黙を貫いていたロンドが、ざらついた声で「やれやれ」と呟いた。

「馬鹿は死ななきゃ治らないってか。望みどおりにしてやるか」
「……兄ちゃんに馬鹿って言われるのって、屈辱だろうなあ……」
「かかって来いよ、英雄気取りの傾奇者どもめが!!!」
「やってやらぁ、暗殺者気取りの女装癖男が!!」

 レイドに劣らぬほどの大声で怒鳴り返したロンドは、燃え盛るスコップを手近な山賊に叩きつけ一撃で気絶させた。
 ほぼ同時に、【御使の目】をシシリーが唱える。

「…さあ、あなた方の手の内を晒しなさい。『天に座する偉大な主よ、いと高き処の視界を我にも与えたまえ』」

 シシリーの特殊な視界と化した目に、敵であるレイドや山賊たちの次の攻撃手段が、確かな予知となって捕らえられる。
 怒り狂っているレイドは、すかさず無数の真空の刃を掌から発射する【風刃乱舞】という魔法を唱えたが、目に見えぬ刃を、シシリーの警告を受けた冒険者たちが、僅かに身を逸らして避けていく。

「くそっ!!てめえら、アレを使え!!」

 ウィルバーが【飛翼の術】による防護をアンジェに与え、ナイトが【風精召喚】によるシルフィードの加護を得ると、山賊の三下たちは躍起になって≪火晶石≫を投げつけ、一行にダメージを食らわせようとしてきたが、防御を整えた彼らには、致命傷にまで及ばない。
 それでも腕や脚に火傷を負った仲間たちを憂い、シシリーは己を信仰する”天使”へと呼びかけた。

「『我を見守る天使よ、手にする喇叭を吹き鳴らせ!』」

 はたして、”彼”はシシリーの言葉に反応を示し――魔法に抗するための力をも、傷が塞がると同時に冒険者たちを包み込んでいく。
 山賊たちが手に得物を持って迫る中、頼りになる仲間たちの背後で、落ち着いて呪文を唱えたミカが、エメラルドの指輪から【微睡の桜】による桜の香気を放った。
 さすがにレイドや山賊の頭領は眠らなかったものの、他の敵は全員が強制的な睡魔に引き込まれて無力化する。
 自分のための肉壁がなくなり焦ったレイドが、慌てて声を上げた。

「オイ、てめえら、何してやがる!!早く起きねえか!!」
「いやいや、甘いですよ。『この場に満ちろ、青なるものよ。凍える月よ……!』」

 紫の宝玉が先端に付いた≪海の呼び声≫から、たちまち氷片を含んだ凄まじい勢いの冷気が溢れ出し、的確に距離と範囲をコントロールされた凍える嵐が、レイドたちを襲う。
 嵐が轟音の余韻を残して治まった時、辛うじてレイドと頭領、手下の中の1人だけが生き残りはしたものの、後はもう死屍累々という有様であった。
 それでもレイドと頭領は、中々しぶとく抵抗してみせた。
 【魔法の鎧】による防護、【薙ぎ倒し】による対多数への攻撃、或いは接近戦へのカウンター攻撃……。
 だが、既に戦力として数も質も劣っている2人が勝てる見込みはない。
 頭領などは、せっかく投げつけた≪火晶石≫が、アンジェによる【漂う糸】の防壁の前に全て防がれてしまったことで、半狂乱となっていた。

「何でだ、何で誰も倒れない!?コイツを皆で食らわせてやれば、どんな冒険者だって無傷じゃいられないってのに……!?」
「アドロードの技術は大したもんだよ。竜のブレスだって、一回だけ防いだんだから」

 アンジェは、様々な種族の技が集うという都市で、この糸の技術を会得しておいたかつての自分に、感謝の念を送らずにいられなかった。
 もう頭領も、あちこちをロンドとアンジェの武器に打たれ、引き裂かれており、ふらついて倒れる寸前となっている。
 レイドは深刻な憎悪を込めて一番小さな冒険者を睨みつけていたが、不意に皮肉げな笑いを唇に刻んだ。

「ふ、そろそろお遊びもつまらなくなってきたな…」
「…何?」

 ウィルバーが眉をひそめる前で、レイドはうなじに隠し持っていた包みを開き、粉末状の何かを口に含んだ。

「おおおお…………ぅおおおおぉぉッ!!」

 レイドの細い半裸の肉体が、あっという間に筋肉で膨れ上がり、無数の傷がそれによって塞がっていく。
 ウィルバーは何事が起こったかを察した。

新人と私12

「…!!…そうか、表には出る事がないような非合法の薬ですか…!」
「…ふ…ふふふ…その通りさ、己の力を増幅する薬だ…。はは…想定外の力を感じる…!!さっさとケリをつけてやるぜ!」
「そうは、させません!」

 気合の入ったミカの三度の【微睡の桜】がレイドを覆い、その意識を奪う。
 膝をついたレイドに向かい、ナイトが頭領をも巻き込むようにして、【天地魔境陣】の剣技を放った。

「ぐっ……!」

 それでもレイドは、追撃しようと近づいてきたロンドのスコップを、軽捷な燕のように余裕をもってかわし、すれ違いざまに、毒を塗った刃を鎖骨の辺りに掠める。
 暗殺者らしい見事な手際と言えたが、彼にとっては不本意であった。

「ちっ……喉を掻っ切ってやろうと思ったのに……!」
「やべ……毒かよ……」

 毒刃を当てられたのはいいが、聖職者であるシシリーが活動できる状態で彼を怪我させても、すぐに治されるのは目に見えている。
 だからこそ、麻薬によるドーピングで得た優れた身体能力で、確実に相手の息の根を仕留めようとしていたのだが……。
 すぐに後退したロンドと入れ替わるようにして、腕輪に糸を収納したアンジェが、今度はナイフを弄んで彼の進路を妨げる。

「暗殺者なら暗殺者らしく、ナイフでやろうっての?いいよ、付き合うよ」
「クソガキが……オレを舐めてるんじゃねえ、年季が違うんだよっ」

 2本のナイフが激突し、暗く狭い部屋の中で火花が青く跳ね上がった。
 危険な刃はいったん離れ、再び金属独特の高い音を立てて噛み合う。
 凡庸な者の目に止まらぬほどの速さで繰り出される攻防は、しかし長いこと続いたわけではなかった。
 アンジェのフェイントを交えた一閃が、防具も服も身に着けていないレイドの腹部へと突き刺さったのである。
 急所ではない、と甘く見ていたレイドだったが、すぐ動かなくなった自分の身体の違和感に気付き、美しい造り物の様な碧眼を見開いた。
 これは――麻痺性の、毒の効能だ。

新人と私13

「馬鹿なっ…!このオレが…ここで…死ぬのかっ……!!」
「そうだよ。この蛇の毒、黄昏の森の大妖魔にも効いたんだから、暗殺者だって例外じゃないんだよ」
「……アンジェ。短剣を貸して下さい」
「はい、おっちゃん」

 アンジェは仲間へ、ナイフより大ぶりの一振りの短剣を渡した。
 ウィルバーは淡々とした様子で、毒による痺れで身動きも出来ないレイドを見下ろし、素早くその命を刈り取った。
 銀貨二万枚の報酬は、首と引き換え――そのことに思い至ったミカは、僅かに唇をわななかせながら、決して血まみれの作業から目を逸らしたりしなかった。
 今回の件は、ミカがレイドを――いや、レイを信じて引き起こしたようなものだ。
 だとしたら事の結末を、しっかりと見届けるのもまた、彼女の役目である。
 かつて退治した”最果ての魔女”の時のように、専用の容器に首を収めた仲間へ申し訳なさを感じながら、ミカはポツリと呟いた。

「……………、…人を信じるって難しいですね」
「…信じるとは高尚な事だが、他人を知る事への放棄でもあると思う」

 彼女の従者は、ほぼ独り言に近いそれへしっかりした声音で応えた。

「主殿はレイド…いや、レイに対し疑いを持たなかった。それは、無関心だったからでは?」
「無関心!?そんなはずは…!」
「彼奴にもっと興味を持ち最初から良く観察していれば、見抜ける嘘も含まれていたろう」
「それでは…いつも人を疑えというのですか?」
「いや……主殿はそのままでいい」

 盾を背に負ったリビングメイルは、がしゃんとミカに向き直った。

「私を連れて行くのを忘れなければ、それでいい。私はあなたの剣で、盾だ。武器を持たずに戦いに赴く戦士はいないだろう。一緒にいれば、代わりに私が疑おう」

 だから、気にするなと。
 彼の指摘が、先輩の手を血に染めさせ、仲間たちを駆けずり回らせたことを言っているのは明らかだった。
 ナイトは彼なりに、ミカを心底心配していたのだということが、痛いほど知れた。

「ごめんなさい。ナイト、みんな、ごめんなさい――」
「もういい。自分を馬鹿だと思う必要はない。私にはない”人としての優しさ”が主殿に備わっていることは、私の誇りでもあるのだから」

 後日―――ミカはシシリー達から色々な話を聞いた。
 一から全て話せばきりがない程の話を―――。
 シシリーやウィルバーはあの村の村長も金で寝返らせ、祠の場所を聞き出したという。
 レイドの左の瞳に彼が過去に盗んだ宝石が埋め込まれており、首は”本物”だと治安隊によって断定された。
 ほどなく、治安隊より懸賞金の銀貨二万枚が、大層な警護によって狼の隠れ家へと運び込まれた。
 その報酬は半分がマゼンダ、そしてさらにその半分をあの村に……アントゥルの村は、レイドによって「言うことを聞かなければ焼き討ちにしてやる」と脅されて従っていた経緯があったので、治安隊へ山賊との共謀の罪を訴えることはしないでおこうと、冒険者たちは相談の末、決めたのであった。
 後は宴会やら何やらで消えていき、旗を掲げる爪の手元には、五百枚だけが残った。
 そんなミカたちに同情したのか、報酬を受け取ったマゼンダは、その場で本物の”奇跡のオルゴール”(ただし召喚できる精霊はウンディーネ)を冒険者たちにくれた。
 今回の事を終えて、ミカはそれでも自分は、他者を疑って傷つく事より人を信じて傷つく方がまだ耐えられるだろうと思った。
 しかし、決して慢心するまい。
 彼女の近くには、頼りに出来る騎士が控えていてくれるのだから。

※収入:報酬500sp、≪オルゴール≫
※支出:
※その他:
※机庭球様作、新人と私クリア!
--------------------------------------------------------
68回目のお仕事は、机庭球さんの新人と私です。
かなり有名なシナリオなので、クリアしているプレイヤーさんも多くいらっしゃるかと存じますが、いよいよ先輩たちに迫る実力をつけつつあるミカを主軸に、以前に受けたお仕事で発生していたであろう各方面からの悪意を示すために、このシナリオを選択しました。
……なにせ、『剪伐』を欲しがったギルド幹部とか、魔族召喚の必要な実験してた魔導協会とか、絶対に冒険者たちの口封じに動くだろうと思うので。
このシナリオの趣旨が、フォルダの中にある「ネタ明かしテキスト」に書かれてありますが、冒険者としてレイドの罠を見破れるかどうか、を楽しむ話だと思っています。
ミカはその点、NPCとして登場当時から「よく騙されている」と地の文で綴られている性格をしているので、最後まで騙されるというパターンかな、と悩んだのですが、よくよく考えてみると、彼女の仲間たちが安全のために最低限の保険くらいはかけておくだろうと、本編には登場しなかった、フォウのスピカによる警告を出してあります。
あと、種族クーポンによる反応分岐などはないのですが、リビングメイルのナイトが相手の性別を察知するのに、視覚に頼っているはずはない(だって目がない)ので、【賢者の瞳】の変形のような擬似視覚を貰っているのなら、レイドの女装に気付けるだろうと処理しました。
………分かってもいいですよね?
ビルダーで見てみるとエリア数は多くないのですが、主人公視点の1周目と参謀視点の2周目を楽しむことができる話なので、未プレイの高レベル冒険者持ちプレイヤーにはぜひ遊んでいただきたいです。
リプレイでは1周目の写真しか載せてませんが……2周目の仲間の暗躍も、出来れば記録したかったです。
新人と私自体が色んなシナリオにクロスオーバーされている作品ですが、今回のリプレイでもまた、勝手にこちらからクロスをさせてもらっています。

ダーフィットの事件=春秋村道の駅様のダーフィットの日記
元御堂騎士のモーゼル卿による事件=大地の子様の死こそ我が喜び
城館の街の城主代理から=焼きフォウ描いた人様の城館の街セレネフィア
植物の術を教えてくれたかつての師=mahipipa様の永遠なる花盗人
”白き夢魔”=テン様の闇のなか、白き夢魔と
怪しい実験してたらしい魔導協会=RE様の緊急の依頼にて
アドロードの技術=AACWProject様のWelcome to Adroad!!
黄昏の森の大妖魔=vip_de_yare様の黄昏の森の妖魔
”最果ての魔女”=ニョロ様の最果ての魔女

リプレイの最後の方とか、セリフ自体はシナリオにあるものですが、仲間の反応をちょっと変えさせていただいています。
そもそも、主人公の役をミカに割り振り、参謀のクーポンをウィルバーへ振ったのですが、そのいくつかはナイトにもセリフを言わせていたりして。
従者として、やはり一言言わずにいられないだろうというか……私自身、人をやたらと疑った後にやっと信じるミカより、不利益が起こることを承知で人を信じようとするミカの方が彼女らしいと思っています。
そして、ミカが信じたことで出た不利益を、こっそりナイトが処理してくれるという関係の方が、この主従にしっくりくると感じたので、そうなるように誘導しました。
もちろんナイトの苦労は増えてしまいますが、彼の場合、そういうことを苦に思わない性格をしてるのではないかと……。
そして、ウィルバーさん。
段々と汚れ仕事というか、テアとテーゼンが担っていた役を、自分のものにしつつあるようで……婆ちゃんが見たらなんて言うかしら……。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2017/04/28 19:25 [edit]

category: 新人と私

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。