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新人と私その1  

 やや曇りがちな空の広がる、雨が上がった朝のリューン。
 やっと乾いてきた地面を選ぶようにして足を出し、若者たちが騒がしく去っていく。
 青物を扱う店舗では、果実や根菜の詰まった樽を奥から取り出し、新鮮に見えるよう朝日に当てて、通りかかりの主婦に声を掛け始めていた。
 そんなつかの間の明るさを見せている街中で、スラムにほど近い一角に、冒険者の店である≪狼の隠れ家≫があった。

新人と私

「よう。おはようさん」
「おはよう……ふわあ」

 他のパーティの男性冒険者に挨拶したアンジェは、欠伸をこらえきれない口に手を当てて、再び足を動かし始めた。
 昨夜は暗くなってから情報収集をしていて、夜更かししてしまったのである。
 特に寝つきが悪いわけではないのだが、アンジェの場合は往々にして遅くまで起きていることがある。
 それは今回のように酒場やギルドでの情報収集だったり、暗がりでの特訓だったり、顔役への繋ぎだったりなど、盗賊役を担う彼女ならではの用件によるものだった。
 アンジェが眠気を引きずっているものの、天性の身軽さでリズミカルに歩き、狼の隠れ家の階段を中段まで下ると、そこからいつもと同じ温かく、美味しそうなスープの香りが彼女の嗅覚へ漂ってきた。

「今日の朝食はポトフがあるのかぁ。うーん、いい匂いだね」
「ふふ、あなたは本当に鼻が利きますね」

 ホビットの娘の嗅覚の正確さに微笑んだのは、給仕娘であるリジーの注文取りを、忙しそうだからとわざわざ手伝っていたミカ・ノーストリリアである。
 カウンターの向こうから、威勢のいい声が飛んでくる。

「おう、アンジェ!今日はゆっくりだな」
「おはようございます、アンジェさん!」

 宿の亭主と給仕娘は手早く朝食の準備をしながらも、笑顔でホビットの娘に挨拶をした。
 そんなリジーに、注文を全て書き取ったメモを渡すと、ミカはアンジェと共に、いつも旗を掲げる爪が使っているテーブルへと向かった。
 既に他の者たちは、運ばれてきたハーブティーやカフワ(珈琲)などに手を出している。
 空腹なロンドに至っては、片手にオレンジを持ち、もう一方の手にハムを挟んだ黒パンを握っているほどである。
 ナイトだけは人間の食料を摂取する必要性がないので、ミカのために椅子を引いて座らせた後、遠慮深そうに着席した。

「主殿。ジャムの瓶を確保しておいたが、これでいいか?」
「ありがとうございます。桃のジャムですか、美味しそうですね」
「ちょっと、ロンド!私のチーズにまで手を出さないで!」
「兄ちゃん、それあたしのポトフだってば」
「何だよ、2人ともケチだな」
「……朝食くらい、落ち着いて食べましょうよ。頼みますから……」

 和やかな主従に比べ、孤児院組みの空腹をこらえての食事は戦争に近い。
 少し痛む胃を抑えるようにして、ウィルバーが苦言を呈するが、彼らがそれを聞き入れている様子は一切なかった。
 そんな時だった。
 いつもと言えば言える、騒がしいことこの上ない冒険者たちのテーブルに、

新人と私01

「あの…はじめまして。ミカ・ノーストリリアさん、ですよね?」

と、おずおずした声が掛けられたのである。
 冒険者たちが視線を向けた先にいた声の主は、簡素なデザインの白と青のワンピースに身を包んだ娘だった。
 なよやかな物腰に、甘い顔立ちをした美少女――それも、水仕事や力仕事など到底出来そうにない、レースやフリルの似合いそうな華奢な身体つきをしている。
 長い銀髪と青くつぶらな双眸が、清楚さをその姿に添えていた。
 依頼人なのかな、と瞬時に思ったのは口いっぱいに食物を頬張っているロンドである。
 見苦しい出で立ちをしているわけではないが、あまり金銭を持っているようには見えない。
 だとしたら、駆け出しや中堅に回した方がいいのかもしれない――と、彼が一足飛びに検討し始めている目前で、ミカは常緑樹と同じ色の目を丸く瞠って答えた。

「…そうですが?」
「突然の訪問で申し訳ありません。私、レイって言います!」
「はあ……」
「あなたと言う、魔術師見習いから英雄クラスのパーティに入るまで強くなった人に憧れ、冒険者になろうと決意しました!どうか、私をあなたの弟子にしていただけないでしょうか?」
「はあ……って、ええっ!?」

 いきなりの弟子入り志願宣言に、一同は呆気にとられた。
 特にミカは、思いがけない希望を突如として持ち込まれたせいで、イエスともノーとも反応を返し損ねている。
 明らかに場違いな美少女は、笑顔のまま冒険者の返答を待っているが、名実共にミカの従者たるナイトは、慌てず騒がずスッと篭手をあげて話を遮った。

「見ての通り、主たちは食事中だ。せめて終わるまで待ってくれ」
「あ……ああ、そうですよね。ハイ!」

 見るからに厳ついフルプレートアーマーの姿(これが本体なわけだが)のナイトに、少々怯えたような仕草を見せた少女だったが、言われたことについては確かにその通りであった。
 やむを得ず少女は、賢者の搭で導師昇級の面接を待つ魔法使いのように、かしこまって近くの椅子に腰を下ろす。
 一同は落ち着かない気分で、急いで目の前の朝食を取り始めた。
 それでも短い時間の中で、

「駄目だよ、兄ちゃん。腸詰めは、ポトフのあたし的メインだから」
「ち、余所見してたと思ったのに……」

等という取り合いはあったのだが。
 どうにか食事を終え、リジーとナイトが食器を下げると、緊張している様子で座って待っていた少女も、少し肩の力を抜いた。
 ナプキンで薄い唇に残ったスープの残滓を上品に拭き取ったウィルバーが、さて、と息をつく。

「あなたはミカをご存知のようですが、私たちはあなたを知らないもので。…失礼ですが、お名前などの自己紹介を伺いたいのですが?」
「は、はいっ。私はレイ…レイ・ティアラです。菓子店で売り子をしております。…どうか宜しくお願いします!」
「お菓子屋さんの売り子なの?じゃあ……」
「剣も魔法も全くもって初心者です」

 眉を上げたシシリーに同調するように、首肯しながら彼女は言った。
 でも、と慌てたように付け加える。

「とにかく、ミカさんのように一人前の強い冒険者になりたいんです。無理は承知の上ですが、早く実力をつけて上達したいんです!」
「と言っても……ねえ、ミカ?」
「ええ、シシリーさん。私、自分の使う魔法を、他の方に教えたことはないんですよね…。どうして、そんなに冒険者になりたいんですか?」
「自分の身も護れない、弱い自分に失望したんです…」
「…何かあったのですか?」

 おっとりとミカが水を向けたものの、レイと名乗った少女は俯くようにして黙り込むばかりで、一向に口を開こうとしない。
 すぐにそれを察したミカは、

「…話しにくい事なんですね。わかりました、…いいですよ。この話はやめましょう」
 
と言ってこの質問を打ち切った。
 話を聞く限りでは、このとんでもない申し出をしてきた少女の中に、冒険者に必要な諸々の覚悟があるとは思えない。
 ただ、ミカにはレイの姿が、シシリーたちと出会う前の自分のように見えた。
 警戒心が薄くお人よしであるために、しょっちゅう害意ある人間から騙され、己の冒険者としての適性を疑う事も多かった。
 挙句の果てには、死霊術師によって命まで奪われてしまった。
 そんな自分の行動のツケを、今、彼女の前に座っている仲間たちや、今ではもう便りを送ることすらできない2人の冒険者たちが、なかったことにしてくれたのである。

(そう。生きてまた冒険したいと願う私に、もう一度だけチャンスをくれたのは、ここにいる皆だった――。)

 だとしたら、少女にそんなチャンスも与えられないと言うのは――不公平というものではないだろうか?

(せめて一度くらいは、機会があってもいいはずだわ。)

 真っ直ぐに衒いなく自分を見つめてくる瞳に、ミカは視線を合わせた。

「一度だけ…」
「え?」

新人と私02

「一度だけ、私が面倒を見ましょう。厳しかったら即やめさせます。出来る限りフォローはしますが、命の保障は絶対にしません。これが条件、いいですね」 

 唖然とした他の面子をよそに、レイはミカの提示した条件をものともせず、諸手を挙げて喜びを示した。

「はい!私、ミカさんの足手纏いにならないように頑張りますっ!」
「……主殿、失礼だが正気か?はっきり言ってその人間は、重荷以外の何者でもないぞ」
「真剣ですから、応援してあげたいと思いまして。彼女の事は私がしっかり面倒見ますよ」

 ミカの、決して言い負かされまいとする強さを秘めた顔が、ナイトの兜の部分と向き合う。
 しばし2人は睨みあうようにしていたが、やがて根負けしたように、ナイトが頭部をゆるく横に振って言った。

「仕方ない……主殿がそこまで言うなら 止めまい」
「ナイト、ありがとうございます!」

 硬い鎧の体にぎゅっと抱きついて親愛の情を従者へ示したミカは、ちょんちょんと肩を指で突付かれて振り返った。
 突付いていたのは、リーダーであるシシリーだった。

「後輩を育てようっていうのは止めないけど、これからどうするの?」
「あ、そうですね。とりあえず、レイでも受けられそうな依頼を探さないと…」

 澄み切った常緑樹の双眸が、依頼の貼り紙のある掲示板の方を彷徨った時、レイが横から口を出した。

「ふふ、それなら既に見つけました」

 ほっそりした手が、ミカに貼り紙を差し出す。
 その内容は、徒歩半日程度の山村の村長宅に木箱を本日中に届けて欲しい、報酬は600spとのことだった。
 最後の依頼人の名前まで読み終えたミカが、感心したように頷きながら言う。

「…随分、手堅い依頼を見つけたものですね」
「はい。数週間ほど前に、通り道の魔物退治がなされたらしく、道中はとても穏やかだとか」
「…なるほど。それならいいかもしれません」

 しかし、依頼書の途中には、「あまり余所者を好まない村故に、大人数で来られるのは困る」と書かれている。
 こういう依頼の条件が付けられることは、ないこともない。
 ようは、辺境において賢者の搭の魔法はおろか、聖北の奇跡すら目の当たりにしたことのない寒村などでは、冒険者たちなど人外(文字通り人外なのもいるが)と同じなのである。
 それでも依頼を出さねば要件を片付けられないため、せめて仕事で接する人数を減らしておこうと、わざわざ少人数のパーティを希望する依頼主もいるのだ。
 ナイトが確認するように尋ねる。

「ということは、今回の件について、主殿は私達と別行動を取るのだな?」
「依頼人が望んでいるのですから、そうなりますね……」

 妙な沈黙が広がった後に、レイが恐々と謝罪する。

「ご、ごめんなさい…。私のせいで…」
「気にするなよ、レイ。そいつが良いと言うんだから、俺らに謝る義務はないさ」
「そうそう。パーティーを一緒に組んでいても、別行動の日ぐらい普通にあって当然だよ」

 ごく軽い口調で謝罪を拒否したのは、ロンドとアンジェの2人であった。
 2人の拒否が、ぞんざいさから来るのではなく、相手やミカに気に病ませないために言っているのが分かったため、ミカは目線で血の繋がらない兄妹に礼を述べた。
 彼らの気遣いを無駄にしないよう、殊更明るい調子でレイに声をかける。

「よし、決まりですね!まずは木の葉通りに行って、木箱を受け取りに行きましょう」

 そう言うとミカは急いで冒険の荷物をまとめ、他の仲間に軽く手を振って挨拶をすると、レイと共に仕事へと向った。
 穏やかな表情で仲間と闖入者を入り口から見送ったシシリーは、席に戻ると残っている貼り紙を手にとって捲り始めた。
 アンジェがカップを握り締めたまま、横から覗き込む。

「他にはどんな仕事がある?あたしたちにぴったりな仕事とかあるかな?」
「そうね。ゴブリン退治にネズミ駆除、オーク退治……あら、小口の依頼だけね」
「……いや、その辺は俺たちの仕事じゃないだろう。その程度の依頼しかないなら、もういっそ、リューンの街中にでも遊びに行こうぜ!」
「まあね、たまにはそういう日もいいかもしれないけど……。ん、ゴブリン退治?」

 シシリーは狼の隠れ家のみならず、他の冒険者の店でもよく見かけられる類の貼り紙を取り上げて、しげしげと見つめた。
 ごく普通の、ありふれた妖魔退治の依頼書である。
 だが、ウィルバーも彼女の手にある物の意味に気付き、

「変ですね」

と呟いた。
 2人を代わる代わる眺めやったナイトが、結局リーダーである娘へ向き直る。

「すまないが、シシリー」
「うん?」
「ああいうのは、普通にいるものなのか?」
「ああいうのって?」

 ナイトは、ずっと黙っていたある疑問をリーダーに相談した。
 ぴしり、と空間に亀裂が入ったかのように、仲間たちが一斉に動きを止める。
 しばらくの静寂の後に、アンジェが思い切ったように口を開いた。

「ナイト。……それって、間違いないんだよね?」
「私はそういうことを間違えない。人ではないのだから」

 ナイトの指摘が本当だとすると、いち早くシシリーが違和感を抱き、すぐにウィルバーが気付いた点についてもある程度の説明がつく。
 その説明を受けて、恐ろしいほどに符合してくる事態に、

「実はさ、昨日なんだけど……」

とアンジェが、ダーフィットの事件の時に世話になった情報屋からのニュースを披露した。
 この状況で放置するには、あまりに危険な情報である。
 全てを聞き終わったロンドが、厳つい体躯を沈めていた椅子からおもむろに立ち上がり、自分たちの部屋のほうへとさっさと歩き出す。

「ロンドは何をするつもりだ?」
「行動に移るのなら、装備は必要でしょう」

 首をかしげているナイトに応えておいて、シシリーは仲間を振り返る。

「ウィルバー、悪いけど……」
「ええ、大丈夫です。私に任せてください」

 ウィルバーは適正だと思える指示を出すと、ロンドが部屋から取ってきた荷物袋を背負って≪海の呼び声≫を握り締めた。

2017/04/28 19:13 [edit]

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