Fri.

緊急の依頼にてその2  

 集合場所でまず目を引いたのは、大剣一本を背中に負った金髪の青年だった。
 美丈夫という訳でもなく、どこの冒険者の店でも見かける風貌をしているが、滲み出る雰囲気はそこらの駆け出しや中堅とは一線を画している。
 青年の隣に立つ女性は、黒髪に黒い瞳と色彩的には地味なくせに、その麗姿は傾国の美女もかくやといった様子だ。
 ……しかし、その見た目とは裏腹に、装備している武器が鎌・刀が二本・槍とずいぶん物々しい。
 使い込んだ武器というのがすぐに分かるほど、全ての装備が違和感なく装備されている。
 女性とは反対側の隣に腰掛けているのは、カーキ色のマントの襟元にルーン文字を刻んだ、落ち着いた挙措の青年である。
 ドワーフ製の視覚矯正具――確か眼鏡といったか――を顔につけており、厳しい視線がこちらを見返している。
 最後、彼ら3名とやや離れた位置に陣取っているのは、ひどく小柄な人影であり、近づくとそれが異国風の衣を纏った、まだ年若い少女であることが判別できた。
 冒険者ではないのかも知れない。背中には、彼女の背丈ほどの大きな棒のような物と、巨大な瓢箪らしき物体を身につけている。
 先に到着していた4人と、≪狼の隠れ家≫からやって来た6人の姿を認めると、依頼の責任者らしき男性はおもむろに口を開いた。

「まずは状況説明だが、現在、我々の魔導研究施設が何者かによって襲撃を受けている。相手の目的は不明だが、おそらく我々の研究情報が目的だろう。……もしくは、我々魔導協会に恨みを持つ者の研究妨害工作かもしれん」
「いずれにしろ、深刻な事態に変わりはないわけですね」

 丁重な様子で確認を取るシシリーに、依頼主は頷いた。

「一刻の猶予もないため、高額の報酬銀貨二千枚を提示して、緊急の依頼を出させてもらった。貴公らには襲撃者の排除を頼みたい」
「それにしても人数が多いようだけど……?」

 どういう訳でこんなに人手がいるのか、と言外に問いかけたのは、先に到着していた美女であった。
 依頼主はコホンと空咳をした後、両手を組んで話し出す。

「この作戦は失敗が許されないため、複数の信頼できる熟練の冒険者に、依頼を同時申請した。少しでも成功率を100%に近づけるためだ。別に貴公らの実力を疑っているわけでは決してないので、それをご理解いただきたい」

 これに素早く反応したのは、小柄な少女と眼鏡の男性である。

「承知しています」
「そういう事情なら人数が多い方が良いのは当然です。僕は全く構いません」
「我々も、構いませんよ。どうぞ、話の続きを」

 ウィルバーに促された依頼人は、依頼遂行に当たって目的が二つある旨を説明した。
 一つは、魔導研究者の生存者の保護。
 施設が施設なだけに魔法も使える人材ばかりだが、襲撃者が予想以上に手強く、すでに死者が2人も出ていると言うのである。
 そしてもう一つは、言うまでもなく施設内の襲撃者の排除である。
 もし逃亡した者がいた場合、それらは無視して構わないが、あくまで施設内に留まろうとする襲撃者の手勢については、一人残らず排除を望んでいるそうだ。
 襲撃の首謀者に関しては、高度な魔法を使うと注意された。

「戦術の方は貴公らの専門だろう。どのように戦うかは全て任せる。とにかく万全を期して、速やかな排除を願いたい。…さて、それでは次に、作戦の内容を説明する」

 依頼主は積み上げられている木箱の一つを自分たちの前に置き、そこへ施設の簡易的な見取り図を広げた。慌てて書いたものらしく、端の方が少し擦れている。
 施設は、A・B・C・Dブロックにそれぞれ分かれており、表門はAブロックへ、裏門はBブロックへ、それぞれ繋がっており潜入できる。
 依頼主は、冒険者たちには二手に分かれてもらい、各々の門から援護、挟み撃ちをして欲しいと提案してきた。
 この二つのパーティは、Cブロック地点で合流が可能となる。
 襲撃の首謀者は一番奥にあるDブロックに陣取っているそうだ。

「こちらの激しい応戦にも関わらず、すでに―――襲撃者は、A・Bブロック双方を同時に突破していると思われる。また、Dブロックは重要機密のある部屋のため、直接の出口はない」
「首謀者がそこから移動してこない限り、逃げ出す恐れはないと?」
「我々はそう考えている。Cブロックで冒険者同士合流し、残りの襲撃者を一匹残らず共同で排除してもらいたい」

緊急依頼3
緊急依頼4

「あの、質問が……。合流が前提なのに、相手の様子を互いが知らなければ、動きづらいと思います。はたしてもう一方が単純に遅れているのか、それともただならぬ危地にあるのか、判断が難しいのではないかと……」
「ああ、実にいい質問だ」

 依頼主はミカに首肯すると、懐からニ種類のアイテムを取り出した。
 まず渡されたのは、通常よりもふた回りほど大きな、不思議な輝きを内包した青いパールである。

「この研究施設には、元々特殊な魔法陣を張ってある。陣の中ではこの”リンクパール”で遠隔の会話が可能となっている。このアイテムがあるなら、常に味方と情報を共有できる。もちろん、魔導研究員には全員持たせてあるから、彼らの声を聞くこともあるだろう」

 旗を掲げる爪の内で視線が交差し、リーダーであるシシリーが、それを受け取ることにした。
 ベルトポーチには精霊が3体潜んでいるが、アイテムをイタズラしないよう、目線でしっかりと言い聞かせておいた。
 その他に小さな香炉を渡された。

「これは?」
「希望の都と名高いフォーチュン=ベルで販売されている、≪活力の霊薬≫だ。神の食べ物といわれるソーマを粉状にし、香にしたという謳い文句で、それが本当かは分からないが…その場にいる全員の体力を回復し、精神力を賦活させる効力を持っている。敵がいない場所で炊けば、魔法や技で疲労した身体を元に復することもできるだろう」
「なるほど、それはありがたい……」

 依頼人の説明が終了し、暗い部屋が静まり返った。
 尋常ではない緊張が、この部屋に漂っているのが分かる。
 それと気付いたのか、念を押すようにして依頼人は顔を凄ませた。

「もう一度言うが、今回の依頼に失敗は許されない。心してくれ」
「分かっているわ」
「心得ています」

 シシリーは小柄な少女とほぼ同時に返事を発し――ふと、顔を見合わせた。
 本当に風変わりな装備と服装だった。
 背負っている棒は、初めクォータースタッフ(六尺棒)のような武器なのかと考えていたのだが、棒の先には動物の毛で作られた毛束がくっついており、とてもこれを敵に突き刺したりする用途で使うようには見えない。
 これだけ大きな瓢箪も邪魔なだけではと危惧したが、少女が重たげにしている様子はなかった。
 もとより、熟練者を呼集したはずの依頼の只中にあって、特に彼女が表情を強張らせていたり、気負っていたりする様子も見られない。
 シシリーは彼女と親しくなりたいと思い、フッと身体の力を抜いた。

「旗を掲げる爪のシシリーよ。よろしく」
「……ユイノと申します」

 差し出された手を戸惑ったようにしていた少女だったが、それが西方諸国の挨拶なのだということを理解したのだろう。
 小さく皮膚の薄そうな手で、そっと握り返してきた。

「あなたはこちらの冒険者たちの仲間ではないの?」
「いいえ」

 彼女はゆるゆると首を横に振った。やはり、冒険者でもないのだろう。
 女性2人のやり取りに、

「そういえば、自己紹介がまだだったな」

と呟いた大剣の青年がそっと近づいた。
 彼の仲間と思われる残りの面子も、こちらに向き直っている。

「俺はラファエル」
「エレンよ」
「レナードです」

 旗を掲げる爪もそれぞれ名前だけを手短に名乗り、自己紹介を済ませた。

「僕たち3人は、結構長いこと冒険者をやっています」
「察するにあなたたちも、相当な経験を積んできている冒険者でしょう?ただ、見てのとおりこっちは三人組でね……ユイノ、だっけ。彼女がこっちのパーティに加わってくれると助かるんだけど、それで構わないかしら?」
「ええ、結構よ。私たち6人もこの面子で動いているから、このままで作戦に突入させて貰える方が都合がいいし」
「わたしも、それでいいです」

 二箇所からの同時侵入という作戦における戦力配分は、これで話がついた。
 後はどちらからどっちのパーティが行くかだが……。

「こちらの依頼主の話を聞いている感じだと、AブロックもBブロックも、同等程度の戦力で攻められている可能性が高いですね。そうでなければ、A・Bブロックを同時に突破する事はないですし、する必要もないと思います」
「そうですね。私もそう思います。……いかがでしょう、ユイノさんを加えても人数は我々の方が多いのですから、目立つ表門からは我々が突入しましょうか?表の方が広さもあるでしょうしね」
「話し合っている時間も惜しいですし、それで良いかと。協力に感謝します」
「いえいえ、こちらこそ勝手に決めて申し訳ない」

 レナードと名乗る眼鏡の男性とウィルバーは、頭脳労働者同士、互いに感ずるものでもあったのか、淡々と作戦実行について必要な決定を下していく。
 役割が決まったからには、これ以上ここでグズグズしていても仕方ない。
 彼らは依頼主に別れを告げ、配置場所へと歩き始めた。
 相手の検討を祈る直前、ユイノの小さな手がぐいとシシリーの袖を掴んだ。

「施設の中には、人間にはないような強力な魔気を感じます」
「魔気?」

緊急依頼5

「襲撃者は魔族の類かもしれません。注意してかかりましょう」
「え……」
「では」

 魔族。悪魔。
 そのワードで思い出すのは、かつて愛した青年のことだったが、シシリーは「それはない」と慌てて頭を振って否定した。
 そしてこちらを呼ぶミカやアンジェの方へ、凛然たる足取りで歩み寄った。

2017/04/14 12:48 [edit]

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