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シガン島の冒険その3  

 女神メイリアからの祝福を貰い、密林にいた木の精霊からある証言を得た旗を掲げる爪は、一路、シガン島の南東にそびえる搭の中を走っていた。
 フォウの眷属であるスピカの話によると、風の精霊たちの力が搭の上階に集まっているという。
 スピカの証言が確かなら、そこにこそ旗を掲げる爪が今会っておかなくてはならない相手――即ち、東の旋風と異名をとる元・戦神が娘の探索の指揮を取っているはずなのだ。

「とにかく、ペレさんのことが伝わってしまう前に、捜索の指揮権を我々が取らなければなりません。あの木の精霊の言うことが本当なら……」
「嘘ではないはずですよ、ウィルバーさん」

 ウィルバーの斜め後ろから、ミカが声を上げる。
「あの精霊は、心底、自分の見たものに怯えていましたし、今まで黙っていたことに途轍もない罪悪感も抱いていました。だからこそ、女神の祝福を受けた私たちにだけ打ち明ける気になったんだと思います」
「ならば、余計に急いでゼッヘに会わなくては。精霊の言うとおり、陸と海のシガン島の勢力が戦争になったりすると、我々が巻き込まれてひどい目に合う公算が高い。そうなる前に、なるべく穏便にペレを帰してもらう、それしかありません」

 息を弾ませながらも、さらに上りの階段へ足をかけようとしたウィルバーを、ロンドが腕を引いて止める。

「なっ……」
「しゃがんで!!」

 覆い被さるようにして体勢を低くした2人の頭上を、聞き覚えのある音が過ぎ行く。
 風を切る、という言葉の通りに過ぎたそれは、シガン島についてウィルバーが一番に食らったはずのものだった。

「風の攻撃!?」

 目を瞠った魔術師の前方に、あの少年の姿を象った精霊たちが現れた。
 舌打ちしたロンドが、スコップを素早く突き出す。

シガン島5

 シシリーも愛剣である≪Beginning≫を抜き放ち、仲間の援護に回った。

「もう……急いでるのに!」
「この子達では未熟すぎて、人間との話合いはできませんわ!」
「ご主人様、一掃するしかないです!」

 ムルとスピカが、絶え間なく不可視の刃で冒険者たちを傷つける風の精霊たちを睨みつけた。
 ふと、腕輪からいつもの鋼糸を引き抜きかけたアンジェが、何かに気付いたような顔になる。
 そして、効果のあるはずも無い、魔力の含まれていない攻撃を行なった。
 当然、それは身体をすり抜けてしまうが、精霊たちの注意をひきつける役には立った。

「そら、こっちだよ!」
「ナマイキ!!」
「やっちゃえー!」
「アンジェさん!?」

 無謀とすら言える彼女の行動に、ぎょっとしたミカが声をかけるが、ホビットの娘はそれに構っている暇はなかった。
 目に見えないはずの攻撃をギリギリでいなし、≪早足の靴≫に包まれた足を複雑なダンスを踊るかのように動かして、自分の望む方へと精霊たちを誘導する。
 アンジェの目配せに気付いたナイトが、力強い篭手で自分の主と仲間たちを階段を上がるほうへと追いやった。

「早く。これが彼女の狙いだ」
「でもナイト、アンジェさんが……!」
「勝算があるからやったんだろう。主や他の人が傷つく確率を、減らしてくれている。無碍にしてはいけない」

 実際、ホビットの小さな身体は、驚くほど敏捷に動き続けている。
 しかし、シシリーは嫌な予感が拭えなかった。
 かつて商業都市レンドルで太古の悪霊と戦った時、アンジェは一度、”霧”の怪物の不可視の攻撃を最後まで回避することが出来ず、死線を彷徨っている。
 今度もそういった事態が起こらないとは限らない――シシリーのそんな懸念を掠るかのように、アンジェの腿が薄く裂けた。
 それでも、外套に包まれた彼女の動きが衰えることはない。
 アンジェがついにジグザグのステップを踏んで仲間たちの元へ後退してきたのにタイミングを合わせ、狙い済ませたウィルバーとナイトの広範囲の攻撃が精霊たちへ叩き込まれた。
 敵を一掃した魔術師が、秀でた額に浮いた冷や汗を拭う。

「ふう……やれやれ。これでは、命がいくつあっても足りませんよ」

 独り言のように呟いたウィルバーのセリフに、応えた声があった。

「そうか。それでは、決着をつけよう」

 深く、響く――そのくせ、芯を凍らせるような固さを感じさせる声音である。

「上がってくるがいい、外から来た者たちよ」
「……この声は……もしや……」
「親玉だろ。風の精霊の」

 重そうな音を鳴らしながら、ロンドがスコップを担ぎ直した。
 その厳つい顔には、強敵との戦いの予感にワクワクしている様子が窺える。
 ニヤリ、と人の悪い笑みが口元に浮かぶ。

「ちょうどいい。ウィルバーさん、うざったい精霊どものエンカウントを止めさせるよう、親玉に話をつけようじゃないか」
「ペレ捜索の指揮権を得るには、まあ、そうなることも想定内でしたが……」

 ぼやく魔術師は、≪海の呼び声≫という魔術回路を備えたアイテムに縋り、腰の辺りをトントンと叩きながら立ち上がる。
 はあ、と深いため息が口から漏れた。

「本当に、命がいくつあっても足りません」
「でも――これはチャンスだわ」

 やや紅潮した顔で、シシリーがウィルバーを振り返った。
 少し伸びた金髪の端が、肩の辺りで揺れている。

「向こうからの申し出だもの。勝てば、ゼッヘも私たちを認めないわけにはいかない」
「そう上手く行くかは……ま、我々の立ち回り次第、ですか」

 杖の宝玉に魔力を集中させたウィルバーは、手早く【風の鎧】の呪文を唱えて仲間たちの援護を行なった。
 これは、深緑都市と呼ばれているロスウェルに立ち入った、他の宿の冒険者に頼んで買ってきてもらった呪文書であり、武器攻撃を回避する率を向上させる魔法だ。
 テアが【愛の手管】で担っていた能力向上の手段を、彼も不十分ながら補うことが出来るよう精進したのである。
 彼の意を汲み取ったミカとナイトも、各々に援護魔法を仲間たちのために唱えた。
 さらにナイトは、雪で作られた馬を召喚してそれに跨った。
 共鳴しあった魔力により、仄かなオレンジ色に輝く身体を動かし、彼らは東の旋風が待つ搭の頂上へと駆け上った。
 露台の向こう――空中に、ターバンを風にはためかせた壮年の男性が浮いている。
 男らしく引き結んでいた口が開き、重々しい固い声が投げつけられた。

「風の精から聞いている。メイリアはお前達を認めているようだが、私にとってそんな事はどうでも良い」

 ひゅう……と、白い民族性の強い彼の衣装が、徐々に強風に煽られていく。
 鉄灰色の瞳が、冒険者たちの中の束ね役である少女に向けられた。

「多かれ少なかれ、何らかの欲があってこの地に来たのだろう。得してそういうものだ」

 だが、と彼は目を細めた。

シガン島6

「冒険者よ。自分がペレの失踪と無関係だと主張するならば、そなたの剣を以って、身の潔白を証明して見せるがいい……行くぞ!」

 ゼッヘの周りに漂っていた風が、撓めた弦から矢を放つように、一瞬で四つの竜巻となって辺りをかき乱し始める。
 ナイトの雪馬がそれに負けまいと冷気をぶつけ、たちまち周囲は混沌とした状況になった。
 吹き飛ばされた小石に額をぶつけたアンジェが、

「痛い!」

と文句を言った。
 ミカが首を傾げる。

「それより、腿の怪我の方が痛いんじゃないかと思うんですけど……」
「そっちは、おっちゃんが魔法で治してくれたもん。ううっ、女の子の顔になんてことするの」

 なんとも呑気な会話だが、竜巻はますます勢力を挙げてパーティを吹き飛ばさんと迫ってくる。
 風に飛ばされる枯れ木に腕を負傷しながらも、シシリーは愛剣を掲げて指示をした。

「みんな、竜巻に惑わされないで!操る人へ攻撃を集中するのよ!」
「おう!」

 いち早くリーダーの言葉に返事を返したロンドが、大きな体躯に小さな傷を刻むカマイタチに一切構わず、真っ直ぐにゼッヘにスコップを振りかざした。
 旋風を腕に纏って攻撃をいなそうとした戦神だったが、スコップの軌道は直前で目の前の空間を両断するだけに留まり、虚をつかれて戸惑ったゼッヘに、ロンドの重たい体が牛をも跳ね飛ばす勢いで背中から体当たりする。

「ぐっ……フェイントか!?」
「そういうこった!」
「どいて、ロンド!」

 【風の鎧】の効果によっていつもより敏捷になったシシリーは、力強く床を蹴ってゼッヘに肉迫する。
 法術によってうっすらと光を帯びた刀身が、ゼッヘの肩を切り下げた。
 憤怒した風神は、怪我を負わなかった左腕を振って竜巻を操った。

「おのれえぇ、冒険者!!」

 暴君と化した竜巻が、旗を掲げる爪を蹂躙する。
 ゼッヘの間近にいたシシリーとロンドは、なす術もなくそれに巻き込まれた。
 ミカとアンジェを庇ったナイトが、真っ向から吹き飛ばされて搭の石壁に叩きつけられ、ずるずると力なくずり落ちる。
 ウィルバーは辛うじて魔法による白い翼を自分の前で交差させ、脆弱な身体を際どい所で守りつつ、仲間の惨状を見て呻いた。

「あまり長く時間をかけられませんね……」
「はい。なるべく一度に、大きなダメージを叩き込まないと……でも、私の魔法では……」
「今のミカでは無理ですね。ナイトは動けますか?」
「大事無い。やれる」

 リビングメイルがガシャン、と黒いつや消しの鎧を鳴らして立ち上がる。
 彼の手にある魔剣の刃が、高温による青い炎を宿して燃え盛り、ナイトをナイトたらしめている魔法の力が集中するのが分かる。
 鎧の内側に竜血によって描かれた魔法陣が、一際強く光を放った。
 ナイトが強い一撃を叩き込む前に、ミカとウィルバー、アンジェの攻撃が露払いをする。
 ゼッヘは、今までに無い悪寒を感じて眉をひそめた。

「まさか……神ならざるものが勝とうと言うのか……?」
「見よ、東の旋風!汝を打ち倒す刃を!」

 カッと閃光が搭の頂上を貫き――ついに、宙にあったゼッヘがよろめきながら床へと舞い降り、荒い息を吐きつつ膝を突いた。

「――私が、負けるとは……」

 固い床を歩む音と共に、敗北に俯くゼッヘに、ほっそりとした人影がかかる。
 神が顔を上げると、そこに赤い鎧を纏い灰色のマントを羽織った金髪の娘が、緊張をまだ白い顔に漂わせながらも、仲間たちの無実を示すように背筋を伸ばして立っていた。

「私たちの――旗を掲げる爪の潔白は、これで証明されましたか?」
「――外の者にしては良い目をしている。少なくとも、お前達ではなさそうだな」

 ゼッヘは苦い笑いを浮かべると、

「仲直りの印だ。受け取れ」

とシシリーに向かってピンクゴールドの細い無垢な指輪を差し出した。

「これは……?」
「それは≪祈りの指輪≫だ。聖なる力が込められているから、祈りによって回復の奇跡を起こす。ただし、信仰厚きものでなくては扱えない」
「そんな貴重なものを……ありがとうございます」

 さらにゼッヘは、この島にいる風の精たちに、冒険者への手出しをしないよう通達する旨を確約してくれた。
 ペレの探索について全力を尽くすと申し出ると、彼は重々しく頷き、短く「頼む」とだけ言葉を添えた。
 その憔悴した様子からすれば、恐らく休む間もなく島中を探し回っていたのだろう。
 搭を出ていったん野宿した冒険者たちは、早く彼やメイリアの元へ娘を返してやろうと、再び捜索を開始した。

2016/12/17 11:46 [edit]

category: シガン島の冒険

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