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永遠なる花盗人その4  

 彼らが訪れたそこは、まさしく秘密の花園だった。
 ありとあらゆる花が敷かれた極彩色の煉獄であった。
 びょうびょうとどこからともなく吹きつける強風が、無数の花弁を宙へと舞わせている。
 視界にそれを捉えたウィルバーがいち早く正体に気付き、

(……冗談ではありません)

と心の中で呻いた。
 それは打ち捨てられた心の花だった。
 本物の花に紛れて、無造作に捨てられている。
 持ち主を失ってなお寂しく輝いているものの、それに目を向け愛でる者は皆無だった。
 死霊術も修めている彼の魔法的知覚には、あるべきところに還れぬと嘆く思念の圧が、天に届くほど積もっているのが判別できる――容易ならざる場所である。
 心の嘆きと痛みに反し、何と美しいことかと呆気にとられていたミカが、

「あっ――」

と短く声を上げた。
 彼女の常緑樹の色をした視線の向こうに、赤く燃え盛る、シシリーの薔薇一輪があった。
 ミカが素早く後ろを振り返る。

「今『視てる』よ――」

 どんぐり眼を眇めたアンジェが、全神経を目に込めて薔薇を観察している。
 大小さまざまな罠を見てきた彼女の目には、黒い影法師が花びらの先から、音もなく水のように滴り落ちているのが分かる。

花盗人8

「……なるほどね。このまま取り込めば、姉ちゃんは姉ちゃんのまま、すっかりおかしくなるってわけだね」
「そうですね……今、シシリーさんの心の花を回収するわけにはいきません」
「ね、先にあのホムンクルスを探そうよ。あっちを倒してからなら、何とかなるんじゃない?」

 アンジェがそう口にしたときだった――ふと、庭園の向こうの鐘が鳴る。
 シシリーは鐘の近くの一点を睨みつけ、声を上げた。

「……分かってるわ。そこにいるんでしょう?」

 仲間たちが戸惑っていると、花びらの群れから滲むようにして、再びあの絹布に包まれた花の娘が姿を現す。
 彼女は滑るように躍り出ると、にっこりと微笑んだ。

「ええ、いるわ。待っていると言ったもの――花を取らないの、シシリー?」
「うっ、……ぐっ……。とりたい。取らない。あなたを、倒してからでも、遅くない……!」
「そこの小さな子は、わたしを殺処分してからと言っていたけど――シシリー、あなたはそれでいいのかしら?だって……わたしが名前を呼ぶ毎に、あなたは確かに苦しみから解放される気がしていたでしょうに」

 くすくす、と軽やかな笑い声を上げるホムンクルスに、冒険者たちの視線が突き刺さる。
 彼女は心の一部を確かに手に入れている獲物に、優しげに声を掛けた。

「それが真実。何をためらうことがあるの?獣になりましょう?……あんなに赤い薔薇になるのですもの、とても愛していたのでしょう。でももう、その対象はいない。苦しみなど捨ててしまって、わたしからあの花を受け取ってちょうだい、シシリー」
「……うっ……――愛して、いた……?確かにね……」

 また絶え間ない痛みに襲われたのか、シシリーは顔を歪めて左手――ロンドから温みを与えられた手――で額を押さえた。
 苦しげに息切れしながらも、必死に自分の言葉を探す。
 探し当てたそれを――強く掴んだ!

「でも、少し間違えたようね、アタナシウス。愛して『いた』のではない。今でも愛して『いる』の。あなたは人の何も理解していない!」

 シシリーの心の内側で、パリンと飴細工が砕けるような音が鳴った。
 それは、侵入された心に架せられていた鎖を破壊した音だ。
 ホムンクルスのとろりとした桃色の瞳が、驚愕に見開かれる。
 
「あなたのそれは理解ではない。ただの、同化と蹂躙よ。これ以上私を侵されるものですか。私の中から去りなさい、アタナシウス!――知恵をつけた泥棒鼠よ!」
「――――!!」

 リーダー役の少女の宣言に、戦いの合図を感じた仲間たちは己の得物を構えて散開した。
 美しい人間そっくりの微笑みを浮かべていた少女は、仮面を脱ぎ去ったように無表情で彼らを見渡している。

「そう。失敗したのね。それなら、次を探すだけ」

 少女は自ら手を汚す気がないのか、ふっと目を閉じた。
 ――シシリーの花とは違う、奇妙に作り物めいた花々が踊る。
 強くなる花吹雪の中から花弁をより集めて一輪の花と化し、アタナシウスを後押ししようとしているのが理解できた。
 ホムンクルスの少女の後ろで鳴り響く、朽ちてなお役目を忘れぬ鐘の音に、花々が目覚め、にじり寄ってくるようだった――無数の花弁が、冒険者たちの体をガラス片のように切り刻む。

「あうっ」
「主、後ろに!……なるほど、手強い相手のようだ」

 白い肌に赤い線の走ったミカを庇うため、ナイトが盾を持ちながら前に一歩出る。
 彼は刀身に魔力を集中し、宿置きになっていたレンドルの技術書から得た技――【砕炎剣】の構えを取った。
 動かぬ鎧に襲い掛からんとしていた花々が、不可視の線に切り裂かれる。
 ――アンジェの糸だ。
 鋼糸はさらに、目を閉じて花への意思伝達に集中しているアタナシウスを締め上げる。

「!」

 束縛された身体に美しい少女の顔が歪む。
 ロンドの燃えるスコップが、シシリーの法力を宿した刃が、ナイトの魔力による炎の刃が、次々にたおやかな姿を斬りつけていく。
 敵と同じ花を操るミカは、己の保持する魔法の中でも特に陰湿で凶悪な術――【静寂の毒花】を放った。
 対象を毒に浸すこの魔法は、発声器官の妨害と、倦怠感による動きの鈍磨を呼び寄せる。
 アタナシウスの顔が、微かに驚愕を示した。
 一方、もう一人の魔術師であるウィルバーは、青と紫の燐光に彩られる杖を振りかざして、この地に遺された死霊たちの力を用い、【至る道】の儀式を即時発動させる魔法を使用した。
 花を抜き取られた死霊たちは、霊力の流れを傷ついた相手に注ぎ込んで、少しずつ傷を癒していくのである。
 鉱精のユークレースによる治癒と合わせれば、時折こちらへと吹きつけてくる鋭い花弁に傷つけられても、徐々に回復していくはずだ。
 少女の美貌の横に浮遊していたピンクの花を、【漣の拳】でアタナシウスに攻撃するついでに打ち砕いたロンドが、やぶ睨みの目を細めてウィルバーに囁く。

「ウィルバーさん。なんか妙だ、あの花……普通の気配じゃない」
「まだ情報は出ていませんが、推測で良ければ……花それ自体が、アタナシウスの魔力そのものなのかもしれません」
「……ってことは、あれはない方がいいのか?」
「ええ」

 短く答えた魔術師は、己の左側に立つ娘に声を掛けた。

「シシリー、見通せますか?」
「……出来るだけやってみるわ。『天に座する偉大な主よ、いと高き処の視界を我にも与えたまえ』」

 シシリーは法力を目に集中させ、謎の花の正体を暴かんと祈りを唱えた。
 いと高き天におわす存在が人の営みを見通すように、彼女の視界に花の能力が入ってくる。
 ただ人であればその能力すら読み取ることは適わなかったかもしれないが、一度アタナシウスに侵入されたからこそ、シシリーには花の備える力の意味が理解できた。

「これ……花の時計だわ。全てを揃えさせてはならない。彼女の欲望を打ち砕くには、花による時限を破らなければならない!」

 今しがたもう一つ咲いた花を、今度はナイトが不死者をも切り裂く光で吹き飛ばす。

「あのホムンクルスに攻撃を集中したい……主、どうにかならないか?」
「広範囲への攻撃が必要だというのなら、アレを使ってみましょう」

 ミカは目を閉じ、手に持っている鍵の形の発動体による魔力回路を働かせた。
 たちまち、遠くにある黒い影に包まれた赤い薔薇から、恐ろしいほど多くの花弁のコピーが生まれ、渦を巻いてアタナシウスの傍を漂う花たちとぶつかった。
 たちまち拮抗状態となっている。

「ミカ、頑張って!」

 鋼糸をホムンクルスから引き戻したアンジェが、ブーツから抜き出したダガーで斬りつける。
 それでも少女は立ち続け、新たな花弁を召喚せんと右手を振り上げた時――。

「ハアアッ!」

 六芒星による陣を剣の切っ先で描いたナイトが、その中心を穿つようにして武器を突き出す。
 魔法により作られた花々が妨げようとするも、刀身に触れた傍からそれらは消え去っていき――剣は、ついにアタナシウスの心臓を突き刺した。
 内臓は生き物を模倣した作りものではあるが、彼女のその場所は、この地に眠る花々を呼び起こすための重要器官でもある。
 それが竜の息吹を宿し、魔を打ち砕く刃によって破壊され……アタナシウスを構成するための力が、傷から水が漏れるように流れ出ていく。
 少女は小さな音を立て、亡き人々の想いの花に囲まれて仰向けに倒れこんだ。

花盗人9

「……分かってはいたわ。……ひとのかたちで生まれた以上、ひとという獣の模倣からは逃れることはできない……貴方たちの足元を駆ける鼠や物言わぬ花であれば、あるいは違う検証結果だったかしらね」
「己を存続させるための行動であったことは理解する」

 息絶えようとしている少女と、同じ魔法生物であるナイトは淡々と事実を告げた。

「だが、それが通常の生物であれ、魔道による生物であれ、生きる目的により利害が一致しなければ戦いが起こるのは世界の道理だ。そしてお前はそれに敗れた。鼠や花であったとしても、お前が自ら目覚めた意思を他者の立場に向けてやらなければ、やはりこのように討伐されただろう」
「同じツクリモノの癖に、お説教が上手なのね……」
「……シシリー。後は任せる」
「ええ……ありがとう」

 抜き手に引っ提げた≪Beginning≫の刀身に、薔薇のそれとは違う赤が宿る。
 高熱を伴ったそれを眺め、アタナシウスは己が燃やされることを悟った。

「シシリー……」
「あなたの死体は、誰にも晒さない。ここで人の死後の想いとともに、散りなさい」

 振り下ろされた刃は。
 確かに一ミリの惑いもなかったが、花の少女の首を穿ち地面とぶつかった時の金属音は、以後も時折、冒険者たちがふとした瞬間に思い出し、沈んだ顔をするほどの悲しみに満ちていた。
 かくして――びょうびょうと吹く風もいつしか弱まり、花畑にはそよ風だけが残った。
 シシリーの紅く誇らしい花には、未だ少女の育てた影が付きまとっていたが、もはや、そのほとんどが失われている。

「ぼろぼろだけど、……もう大丈夫」

 シシリーは慈しむように花を抱え、呼ぶ。

「……裡に還りましょう。この心に燃える薔薇の花よ!」

 再びひとつに戻る精神の昂ぶりが、その呼びかけを喉の奥から導き放った。
 花は吸い込まれるように、肉体へ戻っていく。

「……!花が!」

 ウィルバーが声を上げたのは、彼女の呼びかけに呼応するように、打ち捨てられていた心の花たちが一輪、また一輪と空へ吹き上げられていくのを認めたからである。
 シシリーは花の嵐のただ中にいて、なお、輪郭を喪うことなく誇らしげに立っていた。
 その様子を眺めて、ミカはほっと息をついた。

「――うん。めでたしめでたし、なんじゃないですか?」
「……こっちは心配したというのに。あんないい顔してら」
「まあまあ、いいじゃないの兄ちゃん。さ、帰る準備しよ」
「む。そうか、帰還か。シシリー!依頼人へ報告に行こう!」
「――ええ、すぐ行くわ!」

 仲間に応えたシシリーは、少女の亡骸があった場所を一度だけ振り返ることにした。
 そこには【劫火の牙】で燃やし尽くされた灰がわだかまっており――最後に聖北の祈りを一つ添えると、その場を駆けて後にする。
 愛した相手を、忘れることは出来ない。
 だが――アタナシウスが自らの眷属を増やさんと処置した薔薇の加工は、期せずして、彼女のテーゼンへ向けた愛情をいい意味で昇華した。
 無理に忘れる必要はないのだ。
 戻らぬ人を嘆くのではなく、確かな情熱を持って愛したことを――誇りに思う。
 そんな在り方があることを、シシリーはこの事件で初めて理解した。

※収入:報酬1100sp、≪花除けの雫≫×3
※支出:
※mahipipa様作、永遠なる花盗人クリア!
--------------------------------------------------------
59回目のお仕事は、mahipipa様の永遠なる花盗人でした。
リードミーに、「リプレイはプレイヤーの良識に任せるが、あからさまなネタバレは避けて欲しい(意訳)」とあったために、なるたけ内容のほとんどが”続きを読む”に折り畳まれるように配慮してみたのですが、大丈夫でしょうか??
また、例によってレベルオーバーしてますが、話をお読みいただければ分かるように……これほど仲間2名が死亡した後の再出発として、相応しい話がなかったもので……正直、これ以外のリプレイ執筆を考えてませんでした。すいません。
せめてもの良心で、発表後1ヵ月経ってからリプレイに起こし、戦闘では≪花除けの雫≫を使わずにプレイしてみました。

あちらこちらの設定を、また変更しています。
主なところでは、シナリオ本筋では依頼人との特別な関係はなかったのですが、ちょうど、うちのミカさんが適性により植物系魔法を専門にすることが決定したので、新たな魔法の手ほどきをしてくれた人物というのが必要になり――依頼人のロバートさんにお願いする形となりました。
このシナリオの焦点となる心の花(サンガツ様作・鈍色の花屋にて配布可能なクーポン)については、実はテアとテーゼンがいる時からつけていたのですが……両思いにしたせいか、真っ赤な薔薇がシシリーとテーゼンに配られてまして。
このシナリオで結果的に、ついに添い遂げることのなかった相手に対する思いを、どこに落ち着かせるかという宿題を片付けることができました。ありがとうございます!
ちなみに、ロンド=アネモネ、アンジェ=ダリア、ウィルバー=スミレが各々の心の花です。
何となく納得できる気がいたします。

小話から引き続きグズグズした様子のシシリーでしたが、これでやっと立ち直れそうです。
この作品では、アタナシウスを殺さずに逃がしたり、あるいは歪んだ心の花をそのまま戻して悪堕ちしたりということも可能だったりするので、他の宿で機会があればチャレンジする予定です。
同じ魔法生物がいるパーティですから、生け捕りルートも一応考慮に入っていましたが、シシリー相手だとどう考えても止めを刺してしまう方がスッキリ終われるので、あえてしませんでした。
そして、ミカとナイトですが……こんな調子で喋らせてて、本当に大丈夫でしょうか?
イメージと違いすぎるってお叱りいただいたらどうしよう。両作品の作者様からは、リプレイにメンバーとして登場させる許可をいただいてはいるのですが。
自分が作り出したキャラクターではないので、ここで発言させよう、ここで行動に出させようという塩梅は、まだちょっとシナリオの役割分担に任せ気味の部分があります。
まあ、それは召喚獣でついて来てくれたスピカやムルも同じ事で……結構、合間を見て喋らせております。この子達可愛いんだもの。
今回は書きませんでしたが、あるクーポンを貰って済み印なしのクリアをすると、さる方の気になるその後が垣間見れます。
違うルートを辿ったために未だの方がいらっしゃいましたら、ぜひともご覧頂きたいと思います。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2016/12/09 03:02 [edit]

category: 永遠なる花盗人

tb: --   cm: 2

コメント

リプレイありがとうございます

初めまして、mahipipaと申します。素敵なリプレイ拝読致しました。
この度は永遠なる花盗人をお手に取っていただきありがとうございます。
また、ネタバレに関してのご配慮にも重ねて御礼申し上げます。
当方のNPCの扱いですが、発表した時点ですでに私から離れたものですので、解釈は自由となっております。
こうしたNPC同士のクロスオーバーも、カードワースの醍醐味だと思います。

Leeffes様の物語に、一輪の花を添えられたならば幸いです。
それでは失礼いたします。これからも、良い旅路となりますように。

URL | mahipipa #/pdu0RA. | 2016/12/19 17:43 | edit

コメントありがとうございます!

>mahipipa様
このたびはとても面白いシナリオを遊ばせていただき、真にありがとうございました。
作者様にリプレイをご覧いただくと思ってなかったので、丁寧なコメントに恐縮しております。
本当に永遠なる花盗人への好きが過ぎて、つい街シナリオが一個できちゃったりしてますが、大目に見ていただければ助かります。
依頼人ロバートさんの新たなる門出が良きものとなるよう、心から願っている次第です。

いよいよ師走も残りわずか、ますます寒くなってくる頃合ですが、お体にお気をつけて。

URL | Leeffes #zVt1N9oU | 2016/12/26 11:26 | edit

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