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洞窟にてその1  

 この仕事の貼り紙を出してきた村に向かう途中、精霊と妖精の棲む森で魔神を退治することになったが、旗を掲げる爪は無事に目的地へ到着した。
 村の人々が暗い顔をしているのを見て、もしかしたら大量の犠牲者が出てしまったのかと危惧した一行だったが、不幸中の幸いと言うべきかそんな事はなく、

「最初に噛まれた1人以外、近隣の住人や旅人に被害はありません。これから他の者が襲われる前に、皆さんに退治してほしいのです」

と村長から告げられた。
 暗い顔をしていたのは、夜が訪れるたびに今度こそ犠牲者が出るのでは、と恐れてろくに眠れないからという理由だったらしい。
 それを聞いたシシリーは、真剣な顔をして呟いた。

「吸血鬼がどこで眠っているのか、分かるといいのだけど……」

洞窟にて

 吸血鬼は己の根城となるべき場所を定めることが多い。
 不死身の吸血鬼と言えども、昼は眠らねばならないからだ。
 個体によって様々な能力を手に入れてきた吸血鬼だが、陽光を満身に浴びた際の地獄の苦痛だけはいかんともしがたかった。
 身体を構成する細胞のひとつひとつが燃え上がり、青白き肌も呪われた血も、全てが腐り溶け崩れていく恐怖。
 たとえ途中で陽光に晒される事態から逃れたとしても、その時に与えられたダメージは通常の手段で回復するようなものではない。
 例えば、血と呪詛の染み込んだ土。
 例えば、光の全てを遮る棺桶。
 例えば、数々の犠牲者を迎え入れた城。
 そういった、吸血鬼を滅びから遠ざけるための場所が、どうしても必要になるのである。
 そしてその場所は、昼に吸血鬼が安心して眠りにつく所となる。
 伝承や伝説のレベルで恐れられる吸血鬼であれば、その根城自体に何らかの罠を仕掛けたり、場所を察知できないような術式を施したりするだろうが、この村の近くで発見された個体については、そこまで厄介なものではないようで、村長はシシリーの呟きにこう返した。

「町外れの洞窟へ、吸血鬼が逃亡したのを目撃した者がおります。ヤツは我々が血を吸われた者に気を取られたうちに、蝙蝠に変化して逃げていったのですが、その蝙蝠を洞窟近くの山小屋に泊まっていた猟師が見ていました」
「根城が分かっているのは助かります。最初の犠牲者からもう6日……そろそろ、新たな獲物を探しに来る頃でしょう。吸血鬼が再び活動を始める前に、先に退治すべきだわ」
「ねえ、姉ちゃん。吸血鬼が人間を噛む日数とか、分かるものなの?」
「日ごと夜ごとに血を吸いに出るほうが、はっきり言って珍しいと思うわ。吸血鬼の古さや強さ、一度に吸う血の量にもある程度左右されるけど……1週間を基準として、それより短い方が『成り立て』の吸血鬼である事が多いの」

 年を経た吸血鬼であるほど、次の”食事”へのインターバルは長い。
 我慢をし続けた後の愉悦が、より大きくなるからだ。
 聖北教会や先輩冒険者からアンデッドのことを色々と学んだシシリーは、惜しげなく自分の知る知識を仲間たちに語った。

「目撃されたのは一体だけかしら?」
「ええ、一体です。仲間などはいない様子です」
「あの、失礼ですが最初に噛まれた人は……」
「息絶えておりましたので、聖北の教えどおりに胸へ白木の杭を打ち、火葬しております」
「そう、ですか。お辛かったでしょう」
「はい……。しかし、これ以上の犠牲を出さないためですから」

 ぎゅ、と村長がズボンの膝の辺りを握り締める。
 最初の犠牲者は、彼の娘の1人であったという。
 その心の傷はいかばかりか、余人には容易にうかがい知ることはできない。
 村長は胸に過ぎるものをやり過ごし、息を吸い込んで報酬について口にした。

「報酬は銀貨900枚を用意しています。皆さんに支払う相場には足りないかもしれませんが、これが村で出せる精いっぱいなのです」
「いえ、充分ですよ」

 ≪海の呼び声≫を握り締めたウィルバーが、村長を安心させるように首を縦に振る。
 確かに高レベルの冒険者を雇う相場にはやや不足気味だが、旗を掲げる爪はここを訪れる前に、いくばくかの金銭を得る機会があったので、金額に関係なく仕事を引き受けるつもりだった。

「それにしても、その吸血鬼はどこから来たんだろうな」

 スコップを担ぎ直したロンドが首を傾げると、テーゼンも「だよな」と同意する。
 もしも遠くから、犠牲者から血を吸いつつ蝙蝠の形態で移動してきたのであれば、類似の被害の話がリューンの街にも届いていたはずだ。
 しかし、早耳の多い≪狼の隠れ家≫でも、そんな物騒な話を聞いた覚えは無い。
 ふむ、とテアが長く垂れた鼻の先を小さく掻きながら言った。

「かなり前の話になるが……。確か、うちの宿の親父殿と親しい≪大いなる日輪亭≫の冒険者が、『血も滴る』ジェベータという賞金首を追って、吸血鬼と化したそやつと対決した、と聞き及んでおるんじゃが。犠牲者も1人いたというし、そっちの関係かのう」

呪われし貼り紙

「その賞金首はいったい何をした人なの、おばあちゃん?」
「誘拐に殺人、死体遺棄……確か、聖北教会や賢者の搭が禁ずる邪法も操ったらしい。そりゃあ、賞金をかける方も放ってはおけまいよ。逃げられたら犠牲者が増えるだけじゃしな」
「うわあ……。そんな人が吸血鬼になったのかぁ」
「ですが、ジェベータが噛んだのは冒険者だけじゃなかったですっけ」
「そうじゃったか?」
「ええ。『成り立て』の吸血鬼だったために、ジェベータ本人を滅ぼすことで、噛まれた人も吸血鬼化を免れたらしいですよ。目下のところ、関係はないと思います」
「今洞窟に逃げてるのが、『成り立て』かどうかは分からないのよね……」
「とりあえず、昼のうちに行って退治した方がよくねえか?」

 ばさり、とテーゼンが翼をはためかした。

「僕は夜目がかなり利くけれど、皆は自信がないだろ。そんな状態で吸血鬼とドンパチするよりは、見えてて相手が弱いうちに対決するのが楽なんじゃ……」
「そう、ね。テーゼンの言うとおりだわ」

 これ以上、特に情報がない状態で夜を迎えてしまうよりは、数段マシなはずだ。
 村長に依頼の承諾と出発を告げた冒険者たちは、一路、洞窟へ向かって移動した。
 猟師が蝙蝠を目撃したという山小屋を通り過ぎ、こないだ歩き回ったよりも小さい規模の森の中を、テーゼンの先導で迷わずに進む。
 かさり、と風に乗った足元の枯葉が音を立てる。
 人形のように整った白貌が、すっと空を仰いだ。

「魔神がいた場所からすると本当にうっすらとしたものだが……。薄気味悪ぃ魔力が、靄みたいになってその辺に漂ってるぜ」
「やだなぁ。強い吸血鬼なのかもしれないってことだよね」
「可能性はあるな」

 アンジェの言葉に首肯したテーゼンは、余分な音を立てないよう、自前の翼で静かに上空へ飛び上がった。
 村長からの証言を元に描いた地図を片手に、問題の洞窟の場所を確認する。
 仲間の下へ舞い降りると、西の方角を指差した。

「向こうだ。ざっと見ただけだが、罠を仕掛けている様子はねぇぜ」
「日の没する方角ですか……」
「ありがとう、テーゼン。さあ皆、進むわよ」

 リーダー役の少女に促されて、再び旗を掲げる爪は洞窟を目指す。
 程なく到着したぽっかり空いた黒い洞は、周りの岩肌を這い伝っている蔦といい、緑濃く生茂っている雑草といい、普通にゴブリンなどの妖魔が潜んでいた場所とそう変わらないように見えるが、足音を殺して一歩一歩近づくたびに、凄惨な気が吹きつけてくる――鬼気、だ。
 ごくりとウィルバーが喉を鳴らす。

「これは……恐ろしいものですね」
「こんな強い気を発する相手が、今まで何の報告もなくふらりと現れたというの?教会からは何の情報もなかったのに」
「……妙な話じゃのう。とは言え、わしらはこのまま帰るわけにもいかん」

 老婆の指摘に、それももっともだと仲間たちは頷いた。 
 精々、不意をつかれないよう気を配りながら進むしかない。
 暗い洞窟内を仄かに照らす光の精霊の加護の下、人為的な罠を作っていないかホビットの娘が調査しながら、一行は奥へと歩を進めた。
 しかし、人間の子どもと比べても遜色のない小さな身体が、忙しくあちらこちらに触れながら前へと移動するのを、ふとロンドが襟髪を掴んで止めた。

「ぐえっ」
「あ、すまん。その……危ないから」

 危ないって?と質問しようとしたアンジェの視界に、ふらりと映り込んだものがあった。
 幽鬼のように覚束ない足取りで湿った洞窟の土を踏みしめ、冒険者たちの前方10メートルほどの地点で歩みを止めると、実体を持たないランプさんの明かりが”それ”を照らした。
 40歳絡みの男性――顔立ちそのものは、意外なことにある程度の気品すら感じられる。
 痩せこけてはいたものの、一見しただけでは人間とそう変わらない。
 ただ一つだけを除いて。

「危ないって兄ちゃんが言うわけだよ……」

と零したアンジェの目線は、男性の目へと注がれていた。
 死んだ魚のように澱んでいる、濁った赤い瞳は、紛れもなくこの男性が吸血鬼の眷属と成り果てた証であった。
 髪や肩、長く伸びた爪に纏わりついている黒い土――これは、洞窟の奥の土を素手で掘り出して、その中で眠っていたに違いない。

「冒険者、というやつか」

と彼は言った。
 そして、顔立ちからは想像もし得ないほど卑しい笑いを浮かべる。

「よくぞまあ、来てくれた。それも、若い娘を含んで6人も」
「……悪魔の血まで吸うつもりか。アホか」

 ≪ダリの愛槍≫を構えたテーゼンの斜め後ろで、ぼそりとウィルバーが忠告した。

「言いたくありませんが、あなたの血を取り込むことで、もっと自分が強くなるのだと考えているのかもしれませんよ」

 ロンドも担いできたスコップを下ろし、体勢を整える。

「若い娘ってシリーのことか?本当に人間じゃないヤツにもてるな」
「そりゃまあ、聖北に仕える姉ちゃんの血とか、吸血鬼にとっちゃご馳走だろうけどさ」

 応じたアンジェが、ブーツの隠し場所からナイフを引き抜く。

「あんまり侮らないで欲しいね。……ここでアンタは滅びるよ」
「吸血鬼、覚悟!!」

 ≪Beginning≫を振りかざして斬りかかったシシリーに向かって、吸血鬼は目では捉えきれぬほどの速度で襲い掛かろうとした。
 かっと開いた唇の上歯茎から、二本の黄ばんだ乱杭歯がむき出しになっている。
 かつては聖北伝承に名を連ねる13の聖遺物の一つだった剣は、百分の一秒と置かずにその刀身を吸血鬼の頭部に下りた――はずだった。
 長剣の見事な斬撃は、しかし空を切っている。
 人外の化け物として類のない身体能力を持つ吸血鬼ならではの動きは、万分の一秒で刀身の軌跡から我が身を外すのに事足りたのであった。
 あり得ないはずの手応えのなさにシシリー自身が眉をひそめる前に、吸血鬼は宙を翻る燕のごとく、右側から彼女の喉笛に噛み付こうと身を乗り出していた。
 シシリーのすぐ後ろに立ってバイオリンを構えようとしていたテアが、咄嗟に彼女を突き飛ばす。
 吸血鬼は、入れ替わってしまった目標の皺の目立つ首筋に、そのまま牙を突き立てた。

「うっ……」

 それは蟻や羽虫よりも小さく微細な、”何か”であった。
 禍々しい呪われた気配の”何か”は、血を吸われた首筋から確実に、テアを構成する身体の隅々まで冒そうと這い回り始めている。
 老婆は、首から血を溢れさせて倒れた。 

「テア!!」

 突き飛ばされ、やっと立ち上がったシシリーが悲鳴を上げる。
 狭い洞窟の中であることを考慮し、魔法の効果範囲を正確に縮小してみせたウィルバーは、そのまま吸血鬼目掛けて、≪海の呼び声≫から噴出した猛吹雪を浴びせた。
 生き血を啜る業から逃れられない呪われた存在は、寒さをほぼ感じることこそないが、【凍て付く月】の発生による鋭い氷片で凍りつき、動きを阻まれてしまった。
 よろけた身体へ、すかさずアンジェが洞窟の壁を≪早足の靴≫で蹴って躍り掛かる。
 爪の伸びた手が振り回されるのを髪一本分の差で回避し、彼女のナイフは深々と心臓を抉った。
 崩れ落ちた吸血鬼の身体は、地へ横たわる前に塵へと変化し、そのまま土に紛れていった。

「テア!!」

 叫んで倒れた老婆に駆け寄ったシシリーは、その歩みをテーゼンによって止められた。
 彼の白く優婉な腕が、行先を通せんぼしている。
 驚いたシシリーが、相手を説得しようとした。

「テーゼン、そこをどいて!早く治さなきゃ……っ」
「無駄だ」
「………え?」
「ばあ様。やられたな?」

 それは質問ではなく、確認であった。
 地に伏していたテアは、ゆっくりとした動作で半身を起こす。
 彼女は、何故か右手で両目を塞ぎながら短く応えた。

「ああ」
「自分でも、変わってしまったのが分かるかい?」
「そのようだね。お前さん、よう分かったの」
「そりゃまあ、僕が契約した相手の魂のことだからな」
「2人とも、いったい何の話をしているの!?」

 テアは少し躊躇していたが、ふうとため息をつくと、塞いでいた手を避けて顔を仲間たちに向けた。
 ひ、とアンジェが息を呑む。
 老婆の黒いはずの目が、赤く輝いている――紛れもない、その、血の色。

「わしはどうやら、あの吸血で人から外れてしまったようじゃ」

 生えたばかりの乱杭歯が邪魔で喋りづらそうにしている老婆へ、シシリーが叫んだ。

「嘘……嘘でしょ、テア!?」
「シシリー」

 彼女に想いを告げた黒い翼の青年は、悲愴な決意と翳りを纏った声で説明する。

「ばあ様は、死んだ後の魂のことを僕と契約している。だから分かるんだよ――ばあ様の魂は、すでに人間のものではない」
「そんな……私を庇ったせいで!」
「テア婆さん……吸血鬼に、なったの、か?」

 カラン、と分厚いロンドの手からスコップが滑り落ちる。
 彼はそのまま、絶望を宿した顔で膝をついた。
 常に思考より行動で示してきたはずの彼が、動くことができない。
 不恰好な石像のようになった彼の肩をぐっと掴みながらも、ウィルバーもまた、テアを自分たちの仲間に戻す手段が無いことを悟って、蝋のように蒼褪めていた。
 今まで聞いた話の中では、噛んだ吸血鬼本人を滅することで噛まれた犠牲者を人間に戻した例があるものの、当の吸血鬼はこれ以上ないほどしっかり滅ぼしている。
 だと言うのに、テアは吸血鬼に変化したままなのだ。

「ここ最近は、手足を動かすのも年のせいで辛くなってはいたが……こんなことで冒険者を辞めることになるとは思わなんだ」
「やだよ、そんなこと言わないでよ、おばあちゃん!」
「私たちは……ここで、あなたを失うというのですか?」
「すまんのう、おちびちゃん。……聡明なウィルバー殿らしくもないの。リビングメイルやホビットならともかく、人の生き血を必要とする吸血鬼では、聖北教会の使徒がいるパーティに紛れてなどおれんじゃろう。特に、一度妙な奴らに目をつけられたパーティならばな」

 テアはここまでを一気に言い終えて、ふうと息をついた。
 それを自覚し、不意に笑いがこみ上げそうになる――すでにもう、息をしていない者なのに。
 彼女の血色の視線の先で、割れたバイオリンが転がっている。
 もう、これを弾くことはできないだろう。

「そういうことなら僕も行かないと……ダメだよな?」

 わなないている口を、やっとのことでこじ開けたテーゼンの語尾が揺れた。

「テーゼン、おぬしがシシリー殿に思いを懸けていることは、わしも知っておる。じゃが、おぬしは肝心のことを考えていない。――シシリー殿は必ずおぬしより先に老いて逝ってしまうのを、本当に理解しておるか?覚悟しておるか?いいや、考えてはおるまいよ。激しい恋情に身を焦がし、その先をどう動こうと策を練っているわけではあるまい」

 黒い大きな瞳が、図星をつかれて大きく見開かれた。

「今だけの衝動で、二度と抜けぬ楔をその娘に打ち込むつもりなら、止めておくがええ。この婆と一緒に行くべき場所へ移動するんじゃ」

 次にテーゼンが答えを出すまでの十数秒が、シシリーにとってどれほど長く感じられたことか。
 このまま恐ろしい時が停滞してしまえば――という彼女の祈りは、神に聞き届けられなかった。

「分かったよ。行こう」
「――いや!やめて、行かないで!!」

 癖のない金髪を振り乱し、シシリーが狂乱の声を上げる。
 その様子を痛ましそうに眺めた老婆だったが、彼女は静かに首を横に振った。
 もう止める術が無い事を悟ったシシリーは、ワッと泣き出して顔を両手で覆う。
 テーゼンは≪ダリの愛槍≫をきつく握り締めて、テアの傍らに立った。

「何するの、羽の兄ちゃん……」
「アンジェ。目ェ瞑ってろ」
「嘘だよ……そんなの、嘘だよね……止めてよ!!」

 咄嗟に鋼糸を操ろうとしたアンジェの身体を、ロンドががっしりと拘束する。
 窮鼠よりも激しくホビットの娘は反抗した。

「離して!!離してよぉ、兄ちゃん!姉ちゃん、お願いだから止めてぇ!!」
「お前が止めていい事じゃない!!」

 ロンドの怒鳴り声に、アンジェは操り糸が切れた人形のようにぱたりと脱力した。

「これはお前が止めちゃ、駄目なことだ。黒蝙蝠とテア婆さんの決めたことなんだから」

 そうして、彼は大きく武骨な手でアンジェの目を覆った。
 テーゼンは人形のような美貌を崩さず、槍を振り上げ――。

洞窟にて2

 ……塵となって消え去った”テアのいた跡”から、テーゼンが何かを受け取るような仕草をする。
 くるりと振り返ってこちらを見た青年に、薄毛の魔術師は苦笑したような――いくぶんか苦味の成分が多いが――顔で告げる。

「あなたがシシリーと添うことに反対はしていました。ですが、これを望んだわけではありません」
「僕もだよ。正直に言ってくれて、ありがとう」

 そうして、彼は泣き声の止まらないシシリーに静かに近づいた。

「ごめん。最後まで一緒じゃなくて」
「……もう、本当に、行ってしまうの……?」
「悪魔が交わした契約は好き勝手に解約できない。これは、どうあっても逃れられないんだ。本当に、アンタのことが好きだったよ」

 テーゼンはもう一度だけ小さく「ごめん」と言うと、穂先に滴る血を拭うこともせずに、洞窟の出口へと立ち去っていった。
 それを黙ってずっと見送っていたウィルバーは、

「……村長に報告してから、宿に帰りましょう」

と言って、酷い結末に小さく震える少女の肩を抱きかかえながら、そっと出口へと促した。
 リューンへの帰途が、ただひたすらに遠かった。

テアアルバム入り
テーゼンアルバム入り

※収入:報酬900sp
※支出:深緑都市ロスウェル(周摩様作)にて【風の鎧】、雪降る街の跡(島兎様作)にて【闘炎印術】を購入。
※蝉様作、洞窟にてクリア!
--------------------------------------------------------
■後書きまたは言い訳
58回目のお仕事は、蝉様の洞窟にてです。
本来ならば中堅冒険者向けのシナリオを、9レベルになってプレイして申し訳ないのですが、「もしもテアとテーゼンがリタイアすることになったら使おう」と、かねてから思っていたシナリオでした。
テアもテーゼンも結構気に入っているキャラクターで……本来ならば、他の仲間と一緒に10レベルまで冒険させてやりたかったのですが、テーゼンがシシリーに惚れたのが今回の結末に繋がりました。
シシリーに信仰を捨てさせるか、テーゼンがパーティを去るかしか、彼ら2人の恋愛の結末は(少なくとも私の中では)成り立ちません。
そして後者を選んだ場合、テアとテーゼンが魂の行き先についてすでに契約している、という前提が、どうあっても動かせないのです。
よって、テア死亡→テーゼンが魂を連れて行くのにパーティ離脱の流れを作るため、このシナリオをリプレイとさせていただきました。
私はTRPGでもCWでも、キャラクターの設定をあらかじめ細かく作っておく方ではなく、方向性だけ決めておいて後はシナリオの流れに任せ、キャラが固まっていくのを待つ方なんですが、そういった曖昧な部分が多いやり方でも、勝手にキャラクターが動いてくれることがあります。
テーゼンがシシリーを好きになったのもそういう動きの一つでしたが、成就させることのできない恋愛をさせてしまったのは、キャラクターに申し訳ない、としか言えません。
それに巻き込まれる形でテアを死亡させたことも……ただ、言い訳をさせてもらえるなら、テアでなければ、テーゼンの異種族間の恋への覚悟のなさを指摘できなかったと思います。

一本のリプレイとして成り立たせるために、今回は村長からの依頼の流れや、犠牲者が1人出ていること、吸血鬼の強さの度合いや性別や年齢など、シナリオにない部分をかなり好き勝手に書いてしまっております。
シナリオの本筋では犠牲者は皆無、冒険者より先に討伐しに来た誰かが吸血鬼へ痛手を与えている、という設定なんですが……。
それで書いていくと、血を吸うところを見てないのに誰が吸血鬼だと気付いたんだとか、討伐してた人がヴァンパイヤハンターなら教会に連絡してないのかとか、色々と疑問点が膨らんでしまうために、都合のいいように変更させてもらいました。
このことで蝉様がご不快に思われましたら、誠に申し訳ございません。
さて、ついに4人となってしまった旗を掲げる爪ですが――これからずっと、この人数で冒険を続ける予定ではございません。
追加メンバーとしてはある2人組みを検討しております。
辛い思いをさせてしまったパーティですが、これからも負けずに進んで欲しいです。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2016/09/27 11:41 [edit]

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