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Through the holeその2  

 リューンでも老舗に分類される、いつもの≪狼の隠れ家≫のカウンター。
 呪いを受けたから姿が変わらないだの、実は不老不死の手段を手に入れたのだの、色々と噂されている宿の亭主は、珍しくカウンター前に集ったあるパーティへ視線を向けた。

「……で、本当にどこにもいないわけだな?」
「……うん。ほんとーに、いないわけ。兄ちゃんが」

 アンジェを筆頭に、旗を掲げる爪の面々は疲れた様子でカウンターにもたれかかった。
 子どもをからかうような口調――いや、アンジェは正真正銘の子どもだが――で、宿の亭主が肩をそびやかしながら尋ねる。
「鞄の中も机の中も、探したけれど見つからないのか?」

地下水道3

「……とっくのとうに探したよ。……夢の中まではお手上げだけど」
「さすがに妖精でもそんな事はできないのです~…」

 アンジェに続けて、妖精のムルも肩を落として返事をする。
 今日は少し遠出をして、先ごろ発掘されたという遺跡探索に出かけるはずだったのだが、今朝、他のメンバーが朝食をとり終えても、ロンドだけが下りてこなかったのである。
 同じ部屋に寝起きしているウィルバーとテーゼンは、自分たちが起床した時にはまだあの大きな身体を寝台に横たえてぐうぐう呑気に寝ていたのを確認していたのに、彼らが揃って部屋に入った時には、影も形もなかったのだ。
 せまっ苦しいクローゼットの中も、僅かなベッドの下の隙間も、念のため行きつけの店まで全て回ったというのに、彼はどこにも姿を見せなかった。
 ほとほとお手上げだという仕草をした老婆が、

「…のぉ、本当に誰かロンド殿のことで気になることは無かったかの?なんでもいいんじゃよ、なんでも」

と呼びかけるものの、宿の亭主を含めたその場の全員が眉をしかめ、口を噤んで黙り込む。
 旗を掲げる爪のほかには、2人で組んで依頼を受けているミカ・ノーストリリアやナイト、あるいはいつの間にか宿に居ついてしまった売れない吟遊詩人のルージュ・ポワゾンなども他のテーブルについていたのだが、ロンドと面識のある彼らにも、一向に思い当たる節が無いらしい。
 扉の軋む音がして、ご近所さんへロンドを見かけなかったか聞きに行った給仕娘も帰ってきたが、まったく役に立つ情報は得られなかったらしく、彼女は沈痛な面持ちで首を横に振った。

「どこにいっちゃったんでしょうね、ロンドさん」
「娘さんもなにか気づいたことはありませんか?どんなことでもいいのです。ロンドに関することで何か」

 ウィルバーが問う。
 落ち着いた深い響きは変わらぬものの、どこか縋るようなものが含まれた声である。
 それを投げかけられたリジーは、記憶を捻りだそうとするように前掛けの端をいじりだす。

「……っていっても、昨日話したことといったらぬいぐるみのことぐらいしか…」
「ぬいぐるみ?」

 かくんと首を傾げたシシリーが尋ねるのに、給仕娘はおっとりと頷いた。

「えぇ、昨日ここのお客さんが落としていったものらしいから、この店に置かせてほしいって……えっと、ほら、これよ」

 カウンターの隅に置かれていた小熊を模したぬいぐるみは、娘さんに軽々とつまみあげられ、シシリーの手のひらに軟着陸した。

「……すいません、それを私に見せてくれますか?」

 そう言われ、シシリーは頭脳担当の前へとぬいぐるみを慎重に置いた。

地下水道4

「……ん?」

 矯めつ眇めつころころと布の塊を弄っていたウィルバーは、何か気になることでもあったのか、にわかにアンジェへ向かってナイフを貸してほしいと頼んだ。

「そりゃかまわないけど……はい」

 グダグダ質問することもせず、アンジェはブーツの隠し場所にあったナイフの刃の部分を持って、柄の方を仲間へ差し出した。
 受け取った彼は、にわかにナイフをぬいぐるみの腹に突き立てた。
 彼に似合わぬ乱暴な仕草である。

「ちょ、ウィル!?いいのかよ、それ…」
「おっちゃん!?」
「……ウィルバー?」

 テーゼンやアンジェ、シシリーが呼ばわるのに構わず、ウィルバーはよく研がれたナイフを下方に動かし、茶色い小さな腹を引き裂いていく。
 かすかにちゃちな布の抵抗するような音が上がり――中から溢れた綿の塊から、押し出されるようにして金属の反射する光があった。
 醜い顔を気難しげに歪めたテアが、皺だらけの手を伸ばしてそれを摘み上げる。

「ほほう。鍵とな?」
「もう一つあるようですよ……ほら」

 ぬいぐるみの腹に手を突っ込んだウィルバーは、しばらくそこをもぞもぞと動かしていたが、やがて皺の寄った小さい封筒を取り出した。
 それらをカウンターの上に並べて、シシリーをひたと見据える。

「読んでみましょうか?」
「頼むわ」

 パーティメンバーではないポワゾンやミカたちまで、ごくりと喉を鳴らすようにして2人のやり取りを見守っている。
 そんな中、どこか妙な予感を覚えつつ、他の仲間たちも固唾を呑んで聞く姿勢を取った。
 軽い咳払いをしたウィルバーは、知性を感じさせるよく響く声で内容を読み上げる。

「えー…『ロンドさんはお預かりしました。ワタクシの企みにきっと役立ってくれるでしょう。助けるなどという酔狂なことがしたければ、リューン地下下水道の以下に書き記す場所へお越しください。楽しい謎解きを用意してお待ちしています。Nより』」
「……な、」

 思わず抗議の声を上げそうになったテーゼンを目線で制し、彼は続きを読んだ。

「『追伸:入口の扉は添付の鍵で開きます。忘れたり無くされたりしませんよう、ご注意ください。』……だそうです」
「……………はぁ?」

 あまりにも一方的な手紙の内容に、呆れたような顔になったアンジェに構わず、シシリーは唇に左手を添えるようにして懸念を呟く。

「そのNって何者だろう……」
「色々考えられると思いますよ。今までの依頼で敵側に回ったことのある勢力の残党。評判のいい冒険者パーティが目障りな闇の世界の住人。あるいは同業者潰し……」
「しかし、そんなある意味ありきたりの相手なら、解せぬことが一点ある」

 パーティの頭脳担当である魔術師と老婆が、シシリーの疑問へ返事を返した。

「なぜ、あやつだったのだ?ロンド殿は柄も一番大きく、こと戦いに関する限りタフで手強い。騙すのに都合のいい人間ではあるが、それにしても運ぶ手間まで考えに含めば、誘拐するに最も不向きな相手であるはずじゃ」
「そう…そうです。ただの利害で攫う目標とするには、あまりにも面倒くさい…。それに、この手紙」

 ウィルバーの黒い双眸が、たった今自分が読み上げた紙の束へ注がれた。
 他種族の秘宝であった≪海の呼び声≫の宝珠の部分を手紙にかざし、魔力を集中させる。
 反応した宝珠がポウ、と紫に輝いた。

「非常に巧妙に痕跡を消してありますが…。この微かな気配、覚えがあります。皆さん、前にロンドが怪物の潜んでいた鏡を持ち帰ったことを記憶していますか?」
「白髪頭が勝手に買ってきて、成り代わられそうになった時のだろ……まさか」
「そのまさかですよ。あの時に、ロンドが買い求めた他の品を方々へ売り払ったのは私でしたからね。間違いありません、それに残っていたのと同じ力を感じます」

 ウィルバーはいつになく深刻な表情になった。

「これだけ見事に痕跡を消せる相手です。今の実力がついた私でなかったら、これにすら気づくことはできなかったでしょう。……只者じゃありませんね」
「もしかすると、人ではないのかもしれんな」
「そうと考えてもいいかもしれません。…ま、うちの宿どころかパーティだって、人間じゃない仲間もいるんですけどね」

 黒い瞳の視線の先には、ホビットであるアンジェや悪魔のテーゼン、あるいはまったく表情が出ないながらもこちらを気遣っているのであろうリビングメイルのナイトの姿がある。
 今は不在ながら、エルフや夢魔もどきも≪狼の隠れ家≫には所属していた。
 とは言え、いくら他種族でもやれることの限界はある。
 これを仕掛けてきた相手は、それらを超越した存在なのかもしれないというところまで考えが及び、ウィルバーは思わず唾を飲み込んだ。
 彼は次に視線を金髪のリーダーへと移した。

「どうします、シシリー。行くなら早目の方がいいと思いますが」
「場所はすぐ分かるのでしょう?行くわ、今すぐ」

 カウンターの椅子から立ち上がった少女は、仲間たちへすぐ荷物袋を準備するように指示した。
 手紙では『助けるという酔狂なことをしたければ』と、揶揄するかのごとく書かれていたが…。

「冗談じゃないわ。家族を攫われて泣き寝入りするようなら、冒険なんかやってないわよ」

 ロンドの憮然とした顔を思い浮かべながら、ぎゅ、と≪Beginning≫を柄を握り締める。
 無傷なのか、理不尽な目にあって難儀していないか、大嫌いな犬に出くわしていないか……想像を膨らませてしまうと、心配ばかりが募っていく。
 下唇を噛んで冷静さを取り戻そうと努めた。

「必ず行くわ。待ってて…」

2016/09/07 11:40 [edit]

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