Thu.
霧を抱く…その9 
冒険者たちは、内偵調査で留守にしているハウザーの代わりに、直接ファリス司教へと悪霊との話し合いの内容と結果を述べた。
寝台の上で半身を起こした状態の司教は、静かに目を伏せる。

「そうですか……。聖書に書かれているような絶対的な善と絶対的な悪の戦いはありません。全て主観的な“善”同士のぶつかり合い。我々には我々の事情や理由があって彼等と戦うように、彼等には彼等の事情や理由があって我々と戦うのも当然のことですね」
シシリーは驚愕に目を見開いた。
「ファリス様……本当に、そうだと、思われますか…?」
「そうでなくて、なぜ人の間の諍いがなくならないと思いますか?一人一人が悪だということではない……個々が持つ事情、主張、損得……重なり合うことのないそれらが、他の方法を取ることが出来ずにぶつかるのです。太古の悪霊と言えども変わらないと言うことでしょう」
「………ご教示、ありがとうございますっ」
寝台の上で半身を起こした状態の司教は、静かに目を伏せる。

「そうですか……。聖書に書かれているような絶対的な善と絶対的な悪の戦いはありません。全て主観的な“善”同士のぶつかり合い。我々には我々の事情や理由があって彼等と戦うように、彼等には彼等の事情や理由があって我々と戦うのも当然のことですね」
シシリーは驚愕に目を見開いた。
「ファリス様……本当に、そうだと、思われますか…?」
「そうでなくて、なぜ人の間の諍いがなくならないと思いますか?一人一人が悪だということではない……個々が持つ事情、主張、損得……重なり合うことのないそれらが、他の方法を取ることが出来ずにぶつかるのです。太古の悪霊と言えども変わらないと言うことでしょう」
「………ご教示、ありがとうございますっ」
レンドルの聖北教会の中で最も尊敬を集めている司教の言葉に、シシリーは重く圧し掛かっていた出来事――テーゼンが悪魔であることや、一人を犠牲にして他を助けるかの決断を迫られたこと――が、少しだけ軽くなったように感じた。
そう、主観的な”善”同士のぶつかり合いだと言うのならシシリーもまた、今回の件に結論を出すのに、主観を用いるしかない。
絶対的な善と絶対的な悪の戦いなどはないのだから……。
報告後に、明日の昼までに聖北教会としての結論を出すと約束したファリス司教は、旗を掲げる爪に宿での待機を命じた。
あまり教会内で会わないテュルク司祭や、他の高位の聖職者たちを集めて、緊急会議を開くらしい。
「では、我々はここで」
と言って、部屋を辞そうとする冒険者たちを、ファリス司教は呼び止めた。
「もしも、私が太古の悪霊の要求に従って、リリアを差し出すと決めたら、あなた方はどうしますか?」
「私たちはリリアさんを見捨てることはできません。彼女一人の犠牲で、多くの人の命が救われるとしても……私はリリアさんも、多くの人の命も、両方救いたいと思います」
「………あなたは、その尊い御心のままに動きなさい。神の祝福がありますように」
呼び止めたことを詫び、下がる許可を得た旗を掲げる爪は、じりじりとしながら一日中≪水晶亭≫で教会からの使者を待った。
だが夜更けを過ぎても報告は来ず、結局は自室に引き取って休んだ。
凶事は、翌朝のけたたましい鶏鳴と、バタバタした慌しい足音と共にもたらされる。
「力を貸してくれ!」
と叫んだのは、若き聖騎士たるバクターであった。
彼は冒険者たちの知る限り、リリアとオードの警護任務についているはずである。
バクターがここにいる事の意味に気付き、ウィルバーは顔をしかめた。
「一体どうされました?」
「リリアとオードがいなくなった!教会中探してもいないんだ!だから探すのを手伝って欲しい」
「2人がいなくなった!!?」
「俺のせいだ!!俺が目を離したから!!ジーア様もハウザー様もいないこんな時こそ、俺がしっかりしないといけないのに!!」
「いつ頃いなくなりましたか?その時の状況は?ファリス様への報告は?」
矢継ぎ早のウィルバーの質問に、半狂乱だったバクターは半々狂乱くらいまでトーンを落として回答した。
「いなくなったのは、一時間くらい前だ。俺が同僚と彼等の護衛を交代するために部屋に行ったら、同僚は眠ってて二人の姿はなかった。ファリス様に報告したら、ファリス様にお前達に協力してもらうように言われたんだ」

「状況は分かりました。少し待ってください。頭の中を整理します」
ウィルバーが目を閉じて考えに没頭し始めたため、アンジェは宿の主人に頼んでブランデー入りのホットミルクを出してもらい、とにかくこれを飲めとバクターに押し付けた。
食事を取っている場合では…と固辞しようとしたバクターだったが、
「馬鹿を言うてはならん。人探ししたいのなら、まず自分がしゃんとしておらねば、見つけられるものも見つからんわい」
「ここでギャーギャー喚いたって、リリアさんが見つかるわけじゃないだろ。とにかく胃に物を入れてから動くんだ」
と、テアとロンドにまで諭された。
その合間も、魔術師である男の脳内は高速回転を続けている。
(ファリス司教は既に結界の修復は終わったとおっしゃっていたから、憑依が絡んでいるとは考えにくい。争ったあとがないという事は、顔見知りが二人を連れ出した。という事は内通者のジーアさんが絡んでいる?あるいは二人が自分達の意志で抜け出した?)
だが、ウィルバーはジーアが連れ出した可能性をさっさと削除した。
彼女のことはすでにファリス司教にも伝えてあり、彼女の内通を知らない教会内の人間にも、ジーアが帰還次第、司教の下へ案内するよう通達があったはずだ。
では後者の可能性を検討するとして…なぜそんな必要があったのか?
もし、太古の悪霊の要求をオードが知る機会があったとすれば………?
「バクターさん」
ウィルバーは目を開き、すっくと立ち上がって杖を握った。
「二人が自らの意志で聖北教会を抜け出した可能性があります。我々は、心当たりをあたってみます」
「心当たり?あるのか!?」
「ええ。二人の実家です」
温もりのあるカップを両手で握り締めたまま、泣きそうに顔を歪めたバクターが質問した。
「……俺はどうすればいい?」
「もちろん太古の悪霊に誘拐された可能性もあります。聖北教会では、そう仮定しての捜査をお願いします」
「分かった!」
ちょうどお盆を持って立っていたアンナ(2日ほど前に教会から帰っていた)に飲み干したカップを渡すと、バクターは入ってきた時の様に勢いよく≪水晶亭≫を飛び出していった。
ウィルバーは宿の主人に馬車か馬を手配して欲しいと頼むと、最低限の荷造りをし始める。
他の仲間たちもそれに倣った。
やがて薬草を運ぶ用の馬車が借りられると、御者の席にロンドが乗り込む。
オードとリリアの兄妹がやって来た故郷の話は、シシリーが色々と聞いていたので、彼女が方角を指示すると、ロンドはしっかりと手綱を掴んで馬車を出発させた。
かつてリューンで、スレイプニルという神の駿馬を乗りこなした男の手綱さばきは見事なもので、一同は荒っぽいが確かな前進によって身体を揺さぶられつつ、ウィルバーの推理を聞いた。
「オードが自主的に……?あの兄さん、そんな強い部分があったとは思えねえんだが」
「いいえ、彼は妹を何より大事にしていたわ。悪霊の要求を呑むといった結論に達するのを待つくらいなら、脱出して逃げるでしょう」
「いてっ、腰打ったよ兄ちゃん!」
「大丈夫ですか、テアさん?」
「むむむ……一刻を争うのは確かじゃ、つべこべ言う暇はなかろう。我慢じゃ」
大騒ぎをしながら辿り着いたオードとリリアの故郷は、うらびれた感が漂う小さな村であった。
一応は大きな通りに石畳が使われており、石造りの家もちらほら見えるものの、通りを行き交う人の姿は極端に少ない。
無邪気な子供の声や、聞こえて当たり前の職人たちの騒音もなく、
「なんだろう…あの常夜の街を思い出しちゃうね」
「人がいなさ過ぎるよな」
とアンジェとロンドが辺りを見回した。
かつて吸血鬼が統治をしていた夜だけが支配する街も、ここと同じように静かではあった。
だが、ここまで寂しげな様子ではなかったはずだ。
ぶるりとアンジェが小さな身体を震わせた時、近くの古い商店で、テアがオードたちの生家の場所を聞き出すのに成功した。
一同はその情報に従って移動を始める。
「どうしたんだ、ウィル?先刻から黙りこくって」
「なんと申しますか…ずっと頭の中に引っかかっていることがあります。それが何かは分からないのですが、何か重要なことを見落としているような気がするんです……」
もう少し詳しく聞こうと口を開いたテーゼンだったが、「見つけたよ!」というアンジェの声が聞こえてきて、已む無くそのまま閉じた。
「ノックをしても出てくるとは思えない。強引に中に入ろう」
一番前に進み出たロンドは、スコップの先端をドアの隙間に挟み込み、なんとも力任せに梃子の原理で動かす。
普通のスコップでそんな事をすればスコップの方が壊れてしまうだろうが、あいにくと彼が使っているのは≪マスタースコップ≫――知る者が少ないとはいえ、神話の時代に鍛えられたという伝説の武器であった。
ベキバキゴキィッ!!!という凄まじい破壊音が響き、扉が半ば砕けるように壊れると、冒険者たちは強盗のような勢いで家の中へとなだれ込む。
すぐにアンジェが、狭い部屋の隅で肩を抱き合って震えているオードとリリアを見付けた。
「いたよ、みんな!」
「く、来るな!リリアは…リリアは僕が守るんだ!!」

「皆さん……」
か細い声でリリアがこちらへ呼びかけるが、オードはすでに旗を掲げる爪を敵と見做したようで、ひたすら近寄るなと叫んでいる。
「聞いて、オード!ここにいては太古の悪霊の思う壺よ。リリアを守るために、早く聖北教会に戻るのよ!」
「僕が何も知らないと思っているのですか?リリアを生贄にしようとしている事を知らないとでも?」
「!?どうしてそのことを……」
「あなた方が、リリアのことを大切に思ってくれていることは知っています。でも、僕は聖北教会を信用することができません!」
くしゃり、とシシリーの顔が悲しみに歪む。
ウィルバーがそんな彼女の肩に手を置いて、落ち着かせながらオードに問うた。
「オードさん…どうしてそのことをご存知なのですか?いったい、どなたにそのことをお聞きになったのでしょう……我々の返事だけではありません。リリアさんのことを誰に…?」
「何を言ってるんですか?決まっているじゃないですか。もちろん……」
オードが『誰か』の名前を口にするよりも、がしゃんと窓の硝子が砕けるのが先だった。
窓から入ってきた人影は、でんぐり返しのように受け身を取って乱入してきた。
刹那の間に起き上がり、片手に握っていた剣を構えた女性は……。
「ジーアさん!?」
「くっ、さすが軍師、打つ手が早い…アンジェ!!」
「うん!」
腕輪から鋼糸を取り出したアンジェだったが、彼女の糸が奔るよりも早く、ジーアが剣の柄尻でオードの頭部を思い切り打った。
意識を失い崩れ落ちた兄を、悲鳴を上げてリリアが支えようと腕を伸ばす。
「お兄ちゃん!?」
その腕を掴もうとしたジーアだったが、今度は鋼糸がその手首をぐるりと捕らえた。
ぐい、と引っ張られた腕を無言で彼女は見詰めている。
手首を斬り飛ばさぬよう引き加減を調節しつつ、アンジェが悲痛な声を上げた。
「ジーアさん、お願い!もうやめて!」
「ジーアさん!!どうしてジーアさんが!?」
”空牙”を鞘から抜きつつも、どうしても剣を彼女へ構えることの出来ないシシリーが問うも、ジーアがそれに応じようとする様子は全くなかった。
「……」
「気を付けな! この姉ちゃんには、憑依がとりついているぜ!」
「なぜ、自分達の味方に憑依を……?」
「さあな。奴等の考えることは、わかんねぇよ」
ジーアは己の手首に巻き付いていた糸を、炎を宿した刃で切り取ると、リリアへの射線を立ち塞がるように動いて片手を上げた。
「何を――?」
「避けろ、シリー!!」
ロンドが、ジーアの手の示す先にいた少女を弾き飛ばした。
たちまち彼の身体に、目に見えない暗殺者が刃を振るったように、黒い毒に侵された切り傷が刻まれていく。
「嘘、なにこれ!?」
バイオリンケースから姿を現したルーラが、アンジェの上げた声に応える。
「お忘れですか?憑依は宿主の能力だけでなく、己の習得した暗黒魔法も使うのですよ!」
「そういやそうだったな……」
ベルトポーチから解毒用の薬草を取り出したテーゼンは、それをロンドに投げつけてから槍を構えて走り出した。
確かな魔力の制御と丹念に鍛えられた剣技によるジーアの力は、見事とはいえ、旗を掲げる爪が対抗できないようなものではないはずだった。
しかし、憑依によってリミッターを外された人の体は、常人とは全く違うレベルで動かされる。
がっきと組み合った武器から、ジーアの巨人に匹敵する筋力を感じ取ったテーゼンは、不意に力を抜かれてたたらを踏み、鳩尾に膝を叩き込まれた。
「ぐえっ…!?」
思わずその場に崩れ落ちたテーゼンの首を目掛け、ジーアが刃を振り下ろそうとする。
それを防いだのは、テアが楽器から放った砂漠の熱風であった。
絡み付いた風は一瞬だけジーアの動きを束縛し、その隙にテーゼンは彼女から距離を取って体勢を整える。
「やばいぜ……人の動きじゃねえ。グードより手強いかも」
「ですが、捉えられないわけではない。暗き地下より、いでよ【梁上の君子】!」
空に描いた召喚の魔法陣から、黒い鼠達が群れをなしてジーアの身体に圧し掛かる。
「………!」
さすがに憑依付きのジーアといえども、この厄介な邪魔者には剣だけで対抗するわけにはいかないらしい。
広範囲の攻撃魔法も持っていないのか、剣を振り回し魔力を連発しながら狂ったように暴れている。
出来れば彼女を捕縛したいが、これでは危なくて組み付く事も出来ないため、鼠の消えるタイミングを見計らっていると……。
ロンドが強引に壊してみせた玄関から、思いもかけない顔が覗いてこちらに呼びかけた。
「皆さん!!いらっしゃいますか?オードとリリアは、見付かりましたか?」
「テュルクさん!?どうして、ここへ?」
「ファリス様に言われて、馬車で来たのです。どうやら大変な場所に出くわしてしまった様ですね……」
「リリアの事、お願いします!馬車で彼女を連れて、聖北教会へ逃げてください!」
「わ、わ、分かりました!?」
「え、でも、お兄ちゃんは!?」
突き込まれてきたジーアの剣の切っ先を弾き、シシリーは言った。
「オードの事は私たちに任せて、今は逃げることだけを考えて!」
「う、うん…」
テュルク司祭に連れられたリリアが玄関から去ると、シシリーはムルやバールの援護を受けながら、またもやジーアと切り結ぶ。
しかし、踏み込んだ足を払われて体勢が崩れてしまう。
必殺の刃が振るわれようとした瞬間、
「そうはさせねぇんだよ!」
と文字通り飛び込んできたテーゼンが槍を振るい、それを防いだ。
「………」
無言のままのジーアが、こちらを捕縛しようとさらに槍の石突を伸ばしてきたテーゼンの顔を蹴り飛ばし、アンジェの糸へ向けて、落ちていた窓の破片を凄いスピードで投げつける。
糸は目的とは違うものに巻きついてしまい、アンジェは一度手繰り寄せるしかなかった。
その隙に、ジーアは破壊した窓から飛び出す。
「あ!逃げた!?」
「しまった!!!!」
「どうした、ウィルバーさん?」
己の失態に叫び声を上げたウィルバーは、テアの治療を受けていたオードの肩を掴んだ。
頭部の負傷であるため、揺らさないよう注意しつつ問いかける。
「オードさん!あなたにリリアが生贄にされるかもしれないことを教えたのは、テュルク司祭なのですね?」
「…そう…ですよ?」
「裏切り者はテュルク司祭だったのです。ジーアさんではありません」
「!?」
愕然とした表情に変わった仲間たちの中、淡々とテアが確認する。
「なるほど、わざと情報を漏洩して、オード殿とリリア殿を聖北教会から飛び出させたのじゃな?」
「ええ。そうでなければ、こんなに早く手が打てるとは思えない!」
「内通者といういわば最大の切り札を、わざわざ軍師が自分から明かしたのは、そういうことだったのじゃな……」
やっと合点のいった老婆の言葉に首肯し、ウィルバーはポツリと付け足した。
「そして、ジーアさんに憑依をとりつかせたのも、それなら説明できます。彼女は裏切り者を”演じる”ために連れて行かれたのです」
「じゃあさ、じゃあさ、おっちゃん。今の状態って……かなりやばいんじゃない?」
「相当やばいですよ。とにかく、レンドルの聖北教会に戻りましょう。それで彼の裏切りがはっきりするはずです…オードさんの事は、この村の治安隊に一任しましょう」
負傷しているオードに手持ちの薬草を使い、治安隊へ向かわせた冒険者たちは、行きに倍するスピードで商業都市レンドルへと馬車を飛ばした。
ウィルバーの推論が当たっていて欲しくなかったが、レンドルに戻ってきても、テュルク司祭の使っていた馬車が聖北教会に戻ってきた形跡はない。
教会内へなだれ込むように入ると、
「おお! お前達か!?」
と呼び止められる。
「ハウザーさん!?」
「ちょうどよかった。今、内通者の目星がついて戻ってきたところだ」
執務室から出てきたハウザーもまた、内偵調査の結果、内通者がテュルク司祭だという結論に達しており、旗を掲げる爪と彼は情報をすり合わせた。
ハウザーからすでに命を受けた聖騎士達が必死に捜索したが――教会内のみならず――レンドルの街の中でも、テュルク司祭とリリアの姿を見付け出すことはできない。
「……ファリス司教に、相談しましょう」
最悪の事態に蒼くなっているシシリーだったが、まだリリアを諦めたわけではなかった。
ノックをして、しきりと司教の体調を気にするクレア助祭を押し留め、どうしても伝えなければならないと部屋に入る。
すでに緊急事態なのだと察していたファリス司教は、爽やかな緑色のガウンをクレア助祭から受け取り、それを羽織っていた。
ハウザーとウィルバーが順番にこれまでの事態を説明し終わると、

「そうですか……テュルク司祭が内通者ですか……」
とファリス司教は大きく溜息をついた。
ハウザーは両手を組んで身を乗り出す。
「問題はジーアです。テュルク司祭が内通者だとすると、ジーアが人質にとられていることになります」
「迂闊でした。奴等にまんまとはめられ、“扉”であるリリアさんを奴等の手に渡してしまいました。奴等は最初から“平和的解決”なんて望んでいなかった……すべては計算された罠……」
「早く……早くリリアさんを助け出さないと!」
ドン、と壁に拳を叩きつけてロンドが激する。
「あいつ等が自分達の世界に帰るために彼女を殺してしまわないうちに!」
「…太古の悪霊がどこにいるのか分かりますか?」
あくまでも静かなファリス司教の質問に、ふるふるとハウザーが首を左右に振った。
「残念ながら、手掛かり一つつかめていません」
室内を重い静寂が支配した。
誰もが、今の状況を打開する方法が見出せない。
冷静沈着なハウザー、老練な司教ファリス、そして百戦錬磨な冒険者たちにも、今の状況を打開する策は何一つなかった。
しかし、手をこまねいて諦めるなど――出来るわけがない。
ハウザーの険しい目の光が、いっそう強まる。
「……こうしていても仕方ありません。休養をとらせている聖騎士にも非常集合をかけて、太古の悪霊を探させます」
「ええ。お願いします」
「私たち、旗を掲げる爪も協力します」
ファリス司教はゆっくりと首肯した。
そう、主観的な”善”同士のぶつかり合いだと言うのならシシリーもまた、今回の件に結論を出すのに、主観を用いるしかない。
絶対的な善と絶対的な悪の戦いなどはないのだから……。
報告後に、明日の昼までに聖北教会としての結論を出すと約束したファリス司教は、旗を掲げる爪に宿での待機を命じた。
あまり教会内で会わないテュルク司祭や、他の高位の聖職者たちを集めて、緊急会議を開くらしい。
「では、我々はここで」
と言って、部屋を辞そうとする冒険者たちを、ファリス司教は呼び止めた。
「もしも、私が太古の悪霊の要求に従って、リリアを差し出すと決めたら、あなた方はどうしますか?」
「私たちはリリアさんを見捨てることはできません。彼女一人の犠牲で、多くの人の命が救われるとしても……私はリリアさんも、多くの人の命も、両方救いたいと思います」
「………あなたは、その尊い御心のままに動きなさい。神の祝福がありますように」
呼び止めたことを詫び、下がる許可を得た旗を掲げる爪は、じりじりとしながら一日中≪水晶亭≫で教会からの使者を待った。
だが夜更けを過ぎても報告は来ず、結局は自室に引き取って休んだ。
凶事は、翌朝のけたたましい鶏鳴と、バタバタした慌しい足音と共にもたらされる。
「力を貸してくれ!」
と叫んだのは、若き聖騎士たるバクターであった。
彼は冒険者たちの知る限り、リリアとオードの警護任務についているはずである。
バクターがここにいる事の意味に気付き、ウィルバーは顔をしかめた。
「一体どうされました?」
「リリアとオードがいなくなった!教会中探してもいないんだ!だから探すのを手伝って欲しい」
「2人がいなくなった!!?」
「俺のせいだ!!俺が目を離したから!!ジーア様もハウザー様もいないこんな時こそ、俺がしっかりしないといけないのに!!」
「いつ頃いなくなりましたか?その時の状況は?ファリス様への報告は?」
矢継ぎ早のウィルバーの質問に、半狂乱だったバクターは半々狂乱くらいまでトーンを落として回答した。
「いなくなったのは、一時間くらい前だ。俺が同僚と彼等の護衛を交代するために部屋に行ったら、同僚は眠ってて二人の姿はなかった。ファリス様に報告したら、ファリス様にお前達に協力してもらうように言われたんだ」

「状況は分かりました。少し待ってください。頭の中を整理します」
ウィルバーが目を閉じて考えに没頭し始めたため、アンジェは宿の主人に頼んでブランデー入りのホットミルクを出してもらい、とにかくこれを飲めとバクターに押し付けた。
食事を取っている場合では…と固辞しようとしたバクターだったが、
「馬鹿を言うてはならん。人探ししたいのなら、まず自分がしゃんとしておらねば、見つけられるものも見つからんわい」
「ここでギャーギャー喚いたって、リリアさんが見つかるわけじゃないだろ。とにかく胃に物を入れてから動くんだ」
と、テアとロンドにまで諭された。
その合間も、魔術師である男の脳内は高速回転を続けている。
(ファリス司教は既に結界の修復は終わったとおっしゃっていたから、憑依が絡んでいるとは考えにくい。争ったあとがないという事は、顔見知りが二人を連れ出した。という事は内通者のジーアさんが絡んでいる?あるいは二人が自分達の意志で抜け出した?)
だが、ウィルバーはジーアが連れ出した可能性をさっさと削除した。
彼女のことはすでにファリス司教にも伝えてあり、彼女の内通を知らない教会内の人間にも、ジーアが帰還次第、司教の下へ案内するよう通達があったはずだ。
では後者の可能性を検討するとして…なぜそんな必要があったのか?
もし、太古の悪霊の要求をオードが知る機会があったとすれば………?
「バクターさん」
ウィルバーは目を開き、すっくと立ち上がって杖を握った。
「二人が自らの意志で聖北教会を抜け出した可能性があります。我々は、心当たりをあたってみます」
「心当たり?あるのか!?」
「ええ。二人の実家です」
温もりのあるカップを両手で握り締めたまま、泣きそうに顔を歪めたバクターが質問した。
「……俺はどうすればいい?」
「もちろん太古の悪霊に誘拐された可能性もあります。聖北教会では、そう仮定しての捜査をお願いします」
「分かった!」
ちょうどお盆を持って立っていたアンナ(2日ほど前に教会から帰っていた)に飲み干したカップを渡すと、バクターは入ってきた時の様に勢いよく≪水晶亭≫を飛び出していった。
ウィルバーは宿の主人に馬車か馬を手配して欲しいと頼むと、最低限の荷造りをし始める。
他の仲間たちもそれに倣った。
やがて薬草を運ぶ用の馬車が借りられると、御者の席にロンドが乗り込む。
オードとリリアの兄妹がやって来た故郷の話は、シシリーが色々と聞いていたので、彼女が方角を指示すると、ロンドはしっかりと手綱を掴んで馬車を出発させた。
かつてリューンで、スレイプニルという神の駿馬を乗りこなした男の手綱さばきは見事なもので、一同は荒っぽいが確かな前進によって身体を揺さぶられつつ、ウィルバーの推理を聞いた。
「オードが自主的に……?あの兄さん、そんな強い部分があったとは思えねえんだが」
「いいえ、彼は妹を何より大事にしていたわ。悪霊の要求を呑むといった結論に達するのを待つくらいなら、脱出して逃げるでしょう」
「いてっ、腰打ったよ兄ちゃん!」
「大丈夫ですか、テアさん?」
「むむむ……一刻を争うのは確かじゃ、つべこべ言う暇はなかろう。我慢じゃ」
大騒ぎをしながら辿り着いたオードとリリアの故郷は、うらびれた感が漂う小さな村であった。
一応は大きな通りに石畳が使われており、石造りの家もちらほら見えるものの、通りを行き交う人の姿は極端に少ない。
無邪気な子供の声や、聞こえて当たり前の職人たちの騒音もなく、
「なんだろう…あの常夜の街を思い出しちゃうね」
「人がいなさ過ぎるよな」
とアンジェとロンドが辺りを見回した。
かつて吸血鬼が統治をしていた夜だけが支配する街も、ここと同じように静かではあった。
だが、ここまで寂しげな様子ではなかったはずだ。
ぶるりとアンジェが小さな身体を震わせた時、近くの古い商店で、テアがオードたちの生家の場所を聞き出すのに成功した。
一同はその情報に従って移動を始める。
「どうしたんだ、ウィル?先刻から黙りこくって」
「なんと申しますか…ずっと頭の中に引っかかっていることがあります。それが何かは分からないのですが、何か重要なことを見落としているような気がするんです……」
もう少し詳しく聞こうと口を開いたテーゼンだったが、「見つけたよ!」というアンジェの声が聞こえてきて、已む無くそのまま閉じた。
「ノックをしても出てくるとは思えない。強引に中に入ろう」
一番前に進み出たロンドは、スコップの先端をドアの隙間に挟み込み、なんとも力任せに梃子の原理で動かす。
普通のスコップでそんな事をすればスコップの方が壊れてしまうだろうが、あいにくと彼が使っているのは≪マスタースコップ≫――知る者が少ないとはいえ、神話の時代に鍛えられたという伝説の武器であった。
ベキバキゴキィッ!!!という凄まじい破壊音が響き、扉が半ば砕けるように壊れると、冒険者たちは強盗のような勢いで家の中へとなだれ込む。
すぐにアンジェが、狭い部屋の隅で肩を抱き合って震えているオードとリリアを見付けた。
「いたよ、みんな!」
「く、来るな!リリアは…リリアは僕が守るんだ!!」

「皆さん……」
か細い声でリリアがこちらへ呼びかけるが、オードはすでに旗を掲げる爪を敵と見做したようで、ひたすら近寄るなと叫んでいる。
「聞いて、オード!ここにいては太古の悪霊の思う壺よ。リリアを守るために、早く聖北教会に戻るのよ!」
「僕が何も知らないと思っているのですか?リリアを生贄にしようとしている事を知らないとでも?」
「!?どうしてそのことを……」
「あなた方が、リリアのことを大切に思ってくれていることは知っています。でも、僕は聖北教会を信用することができません!」
くしゃり、とシシリーの顔が悲しみに歪む。
ウィルバーがそんな彼女の肩に手を置いて、落ち着かせながらオードに問うた。
「オードさん…どうしてそのことをご存知なのですか?いったい、どなたにそのことをお聞きになったのでしょう……我々の返事だけではありません。リリアさんのことを誰に…?」
「何を言ってるんですか?決まっているじゃないですか。もちろん……」
オードが『誰か』の名前を口にするよりも、がしゃんと窓の硝子が砕けるのが先だった。
窓から入ってきた人影は、でんぐり返しのように受け身を取って乱入してきた。
刹那の間に起き上がり、片手に握っていた剣を構えた女性は……。
「ジーアさん!?」
「くっ、さすが軍師、打つ手が早い…アンジェ!!」
「うん!」
腕輪から鋼糸を取り出したアンジェだったが、彼女の糸が奔るよりも早く、ジーアが剣の柄尻でオードの頭部を思い切り打った。
意識を失い崩れ落ちた兄を、悲鳴を上げてリリアが支えようと腕を伸ばす。
「お兄ちゃん!?」
その腕を掴もうとしたジーアだったが、今度は鋼糸がその手首をぐるりと捕らえた。
ぐい、と引っ張られた腕を無言で彼女は見詰めている。
手首を斬り飛ばさぬよう引き加減を調節しつつ、アンジェが悲痛な声を上げた。
「ジーアさん、お願い!もうやめて!」
「ジーアさん!!どうしてジーアさんが!?」
”空牙”を鞘から抜きつつも、どうしても剣を彼女へ構えることの出来ないシシリーが問うも、ジーアがそれに応じようとする様子は全くなかった。
「……」
「気を付けな! この姉ちゃんには、憑依がとりついているぜ!」
「なぜ、自分達の味方に憑依を……?」
「さあな。奴等の考えることは、わかんねぇよ」
ジーアは己の手首に巻き付いていた糸を、炎を宿した刃で切り取ると、リリアへの射線を立ち塞がるように動いて片手を上げた。
「何を――?」
「避けろ、シリー!!」
ロンドが、ジーアの手の示す先にいた少女を弾き飛ばした。
たちまち彼の身体に、目に見えない暗殺者が刃を振るったように、黒い毒に侵された切り傷が刻まれていく。
「嘘、なにこれ!?」
バイオリンケースから姿を現したルーラが、アンジェの上げた声に応える。
「お忘れですか?憑依は宿主の能力だけでなく、己の習得した暗黒魔法も使うのですよ!」
「そういやそうだったな……」
ベルトポーチから解毒用の薬草を取り出したテーゼンは、それをロンドに投げつけてから槍を構えて走り出した。
確かな魔力の制御と丹念に鍛えられた剣技によるジーアの力は、見事とはいえ、旗を掲げる爪が対抗できないようなものではないはずだった。
しかし、憑依によってリミッターを外された人の体は、常人とは全く違うレベルで動かされる。
がっきと組み合った武器から、ジーアの巨人に匹敵する筋力を感じ取ったテーゼンは、不意に力を抜かれてたたらを踏み、鳩尾に膝を叩き込まれた。
「ぐえっ…!?」
思わずその場に崩れ落ちたテーゼンの首を目掛け、ジーアが刃を振り下ろそうとする。
それを防いだのは、テアが楽器から放った砂漠の熱風であった。
絡み付いた風は一瞬だけジーアの動きを束縛し、その隙にテーゼンは彼女から距離を取って体勢を整える。
「やばいぜ……人の動きじゃねえ。グードより手強いかも」
「ですが、捉えられないわけではない。暗き地下より、いでよ【梁上の君子】!」
空に描いた召喚の魔法陣から、黒い鼠達が群れをなしてジーアの身体に圧し掛かる。
「………!」
さすがに憑依付きのジーアといえども、この厄介な邪魔者には剣だけで対抗するわけにはいかないらしい。
広範囲の攻撃魔法も持っていないのか、剣を振り回し魔力を連発しながら狂ったように暴れている。
出来れば彼女を捕縛したいが、これでは危なくて組み付く事も出来ないため、鼠の消えるタイミングを見計らっていると……。
ロンドが強引に壊してみせた玄関から、思いもかけない顔が覗いてこちらに呼びかけた。
「皆さん!!いらっしゃいますか?オードとリリアは、見付かりましたか?」
「テュルクさん!?どうして、ここへ?」
「ファリス様に言われて、馬車で来たのです。どうやら大変な場所に出くわしてしまった様ですね……」
「リリアの事、お願いします!馬車で彼女を連れて、聖北教会へ逃げてください!」
「わ、わ、分かりました!?」
「え、でも、お兄ちゃんは!?」
突き込まれてきたジーアの剣の切っ先を弾き、シシリーは言った。
「オードの事は私たちに任せて、今は逃げることだけを考えて!」
「う、うん…」
テュルク司祭に連れられたリリアが玄関から去ると、シシリーはムルやバールの援護を受けながら、またもやジーアと切り結ぶ。
しかし、踏み込んだ足を払われて体勢が崩れてしまう。
必殺の刃が振るわれようとした瞬間、
「そうはさせねぇんだよ!」
と文字通り飛び込んできたテーゼンが槍を振るい、それを防いだ。
「………」
無言のままのジーアが、こちらを捕縛しようとさらに槍の石突を伸ばしてきたテーゼンの顔を蹴り飛ばし、アンジェの糸へ向けて、落ちていた窓の破片を凄いスピードで投げつける。
糸は目的とは違うものに巻きついてしまい、アンジェは一度手繰り寄せるしかなかった。
その隙に、ジーアは破壊した窓から飛び出す。
「あ!逃げた!?」
「しまった!!!!」
「どうした、ウィルバーさん?」
己の失態に叫び声を上げたウィルバーは、テアの治療を受けていたオードの肩を掴んだ。
頭部の負傷であるため、揺らさないよう注意しつつ問いかける。
「オードさん!あなたにリリアが生贄にされるかもしれないことを教えたのは、テュルク司祭なのですね?」
「…そう…ですよ?」
「裏切り者はテュルク司祭だったのです。ジーアさんではありません」
「!?」
愕然とした表情に変わった仲間たちの中、淡々とテアが確認する。
「なるほど、わざと情報を漏洩して、オード殿とリリア殿を聖北教会から飛び出させたのじゃな?」
「ええ。そうでなければ、こんなに早く手が打てるとは思えない!」
「内通者といういわば最大の切り札を、わざわざ軍師が自分から明かしたのは、そういうことだったのじゃな……」
やっと合点のいった老婆の言葉に首肯し、ウィルバーはポツリと付け足した。
「そして、ジーアさんに憑依をとりつかせたのも、それなら説明できます。彼女は裏切り者を”演じる”ために連れて行かれたのです」
「じゃあさ、じゃあさ、おっちゃん。今の状態って……かなりやばいんじゃない?」
「相当やばいですよ。とにかく、レンドルの聖北教会に戻りましょう。それで彼の裏切りがはっきりするはずです…オードさんの事は、この村の治安隊に一任しましょう」
負傷しているオードに手持ちの薬草を使い、治安隊へ向かわせた冒険者たちは、行きに倍するスピードで商業都市レンドルへと馬車を飛ばした。
ウィルバーの推論が当たっていて欲しくなかったが、レンドルに戻ってきても、テュルク司祭の使っていた馬車が聖北教会に戻ってきた形跡はない。
教会内へなだれ込むように入ると、
「おお! お前達か!?」
と呼び止められる。
「ハウザーさん!?」
「ちょうどよかった。今、内通者の目星がついて戻ってきたところだ」
執務室から出てきたハウザーもまた、内偵調査の結果、内通者がテュルク司祭だという結論に達しており、旗を掲げる爪と彼は情報をすり合わせた。
ハウザーからすでに命を受けた聖騎士達が必死に捜索したが――教会内のみならず――レンドルの街の中でも、テュルク司祭とリリアの姿を見付け出すことはできない。
「……ファリス司教に、相談しましょう」
最悪の事態に蒼くなっているシシリーだったが、まだリリアを諦めたわけではなかった。
ノックをして、しきりと司教の体調を気にするクレア助祭を押し留め、どうしても伝えなければならないと部屋に入る。
すでに緊急事態なのだと察していたファリス司教は、爽やかな緑色のガウンをクレア助祭から受け取り、それを羽織っていた。
ハウザーとウィルバーが順番にこれまでの事態を説明し終わると、

「そうですか……テュルク司祭が内通者ですか……」
とファリス司教は大きく溜息をついた。
ハウザーは両手を組んで身を乗り出す。
「問題はジーアです。テュルク司祭が内通者だとすると、ジーアが人質にとられていることになります」
「迂闊でした。奴等にまんまとはめられ、“扉”であるリリアさんを奴等の手に渡してしまいました。奴等は最初から“平和的解決”なんて望んでいなかった……すべては計算された罠……」
「早く……早くリリアさんを助け出さないと!」
ドン、と壁に拳を叩きつけてロンドが激する。
「あいつ等が自分達の世界に帰るために彼女を殺してしまわないうちに!」
「…太古の悪霊がどこにいるのか分かりますか?」
あくまでも静かなファリス司教の質問に、ふるふるとハウザーが首を左右に振った。
「残念ながら、手掛かり一つつかめていません」
室内を重い静寂が支配した。
誰もが、今の状況を打開する方法が見出せない。
冷静沈着なハウザー、老練な司教ファリス、そして百戦錬磨な冒険者たちにも、今の状況を打開する策は何一つなかった。
しかし、手をこまねいて諦めるなど――出来るわけがない。
ハウザーの険しい目の光が、いっそう強まる。
「……こうしていても仕方ありません。休養をとらせている聖騎士にも非常集合をかけて、太古の悪霊を探させます」
「ええ。お願いします」
「私たち、旗を掲げる爪も協力します」
ファリス司教はゆっくりと首肯した。
2016/06/16 13:40 [edit]
category: 霧を抱く…
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