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Thu.

霧を抱く…その7  

 どれくらい時が経っただろうか――シシリーは意識を取り戻した。
 暗い。
 とにかく暗く、いつも光の精霊たちに同行されている彼女にとって、珍しい事態になっていた。
 ぱちぱちと瞬きをすると、不意に焦点が合うようになり、すぐ近くに見慣れた少年の顔があった。
 照れもせずに状況を尋ねる。

「ロンド。ここは……?」
「バルコニーも巻き込んで、城が崩れたんだよ。俺たちはどうやら、瓦礫の下に閉じ込められてしまったみたいだな……」
「皆!大丈夫?」

 リーダーの声が届いたのだろう、ちらほらと無事の報告が聴こえてきた。
 シシリーを抱えるように腕を突っ張っているロンドの背中にも、城の建材がいくつかのしかかっているようだったが、切迫した呼吸音もなければ顔色が悪い様子もない。
 自分の怪我の具合を計っていると察したロンドは、ニヤリと笑って付け加えた。

「俺も大丈夫だ。外から瓦礫を掘り起こす音が聞こえてくる。聖騎士隊が助けに来てくれたようだぜ」

 外からのざわめきや作業の音が段々近くなり、やがて冒険者たちの視界は眩い光に包まれた。
 彼等は無事救助されたのだ……。

「おい! 大丈夫か?」

 ぬっと顔を突き出した髭面は、ずいぶんと久しぶりな気がするハウザーのものである。

「ハウザー殿。全員無事のようじゃよ」
「そうか。ほっとした。とにかく、治療を受けろ」

 旗を掲げる爪は駆けつけた聖北教会の僧侶たちの治療を受け、傷を癒した。
 ずっと付き添っていたハウザーは、ゆっくりと口を開いた。

「詳しい話が聞きたい。話せる気力がまだ残っているようだったら、で構わんが?」
「そうですね……」

 ウィルバーは仲間たちの状態を確かめるためにぐるりと見回した。
 シシリーは新しい装備で恐ろしく頑丈になったロンドに抱えられていたようだし、アンジェは柔軟で小柄な体と持ち前のすばしっこさで瓦礫の隙間に潜り込んでいたため、怪我らしい怪我もしていない。
 一番心配だったテアも、戦闘時に呼び出していた呪曲の【影のパレード】による防護をとっさに展開したおかげで、己への物理的なダメージを7割以上は減らしていたらしく、思ったよりも酷い外傷を負っていない。
 テーゼンはと言えば、彼の場合はとっくに上空へ飛んで逃げたために、瓦礫の外で待っている始末である。
 運動神経のけしていい方ではない自身も、アンジェに引っ張られて一緒に隙間に潜り込んでいたので、何とか瓦礫に刺されたりすることを免れた。

「話ぐらいでしたら……。≪水晶亭≫へ行きましょう」

 一行はハウザーを再度加えた面子で、レンドル市内の東区にある宿へと向かった。
 その途中で、未だに霧に覆われた街の入り口に佇む影を見つけた。

「あれ?アンナさんだよ、姉ちゃん」
「あら、宿屋の人ですね」

 アンジェとムルが口々に言うのに、シシリーが首を傾げた。

「こんなところで、何やってるんですか?」

 シシリーがアンナに駆け寄ろうとするのを、俊敏な動きでテーゼンが引きとめる。
 
「何か違和感を感じるぞ!気を付けろ!」
「まさか…憑依か!?」

 ハウザーの言葉に、全員がはっとして身構えた。

「待て、戦いニ来たのデハない」

 アンナの口から漏れ出る声は、とても彼女のものとは思えないしゃがれた不気味な声で、喋り方もたどたどしい。

「我々ハお前達人間トノ間に、話し合いの場ヲもつ用意がある。次の朝日ガ昇り、その次ノ朝日が昇るマでの間、我々ハ以前我々が封印されテいた場所デ待っていル」
「……やはり、憑依のようじゃの」
「どういう魂胆があって、そんな提案をする!」

霧17

「待っテイるゾ……」

 憑依はハウザーの問いには答えずそう言い残し、アンナの身体から飛び出した。
 ケケケケ、と耳障りな笑い声を上げる緑と黒の入り混じった小さな体躯へ、すかさずテーゼンの穂先が突き出されるが、紙一重で憑依はそれを回避した。

「チィッ!」
「あ、アンナさんが!」

 崩れ落ちてしまった宿の主人の娘を、とっさにロンドが抱え上げた。

「大丈夫か?アンナさん!」
「あ、あれ?」

 焦点もなく虚ろだった目の色が元に戻り、微かに瞼が震えた後には、もう正気になったようである。
 戸惑ったように自分を抱える男の顔を見上げ、慌てて起き上がる。
 辺りを見渡し、自分がレンドルの大通りの始点にいることに気付いて動揺した。

「あたし、こんなところで何やってるんだろ?ね、あたし、こんなところで何やってると思う?」

 アンジェはくるりとどんぐり眼を明後日の方向に向けてすっとぼけた。

「さ、さあ……」
「良かった。大丈夫みたいですね」
「……姉ちゃん、それ本気で言ってる?」
「いや…念のためだ、教会へ連れて行こう。悪いが、君たちは先に≪水晶亭≫へ行っていてくれ」

 ハウザーの指示に従い、冒険者たちは重い足取りで宿へ進んだ。
 埃と火事の煙に汚れた身体を清め、酒場にある暖炉の傍にテーブルと椅子を思い思いに寄せて、どっかりと腰を下ろす。
 ≪水晶亭≫の主人が運んできた料理――チーズリゾットや茸と根菜入りのオムレツ、フルーツサラダ――を喜んで平らげ、常温のエールをちびちびと飲んでやっと人心地ついた。

「あー。今日はもう、動きたくねえな。翼動かすのも嫌だ」
「それはこっちの話じゃわい。まったく、年寄りをこき使うもんじゃないぞ」
「文句は言わない方が良いですよ。もうすぐハウザーさんが来るでしょうし」

 その言葉通り程なく姿を見せたハウザーは、まず宿の主人へアンナの事情を必要な部分だけ説明し、今は教会に預かっていることを伝える。
 そして暖炉に群がるような形に置いてあるテーブルと椅子の団体に気付くと、苦笑して自分も椅子をひとつ寄せた。

「さて、古城であったことを教えてくれるか?」
「はい」

 冒険者たちは古城での霧との死闘のことを、詳しくハウザーに語った。
 ハウザーの表情が喜びの色に輝く。

「そうか!ついにあの霧を滅ぼしたか!」

 霧は彼にとって、彼の愛する街の人々や大切な部下の仇である。
 その喜色は彼ら旗を掲げる爪のものよりも、強く濃いものであって当然だろう。

「それで、奴等はあのような提案をしてきた訳だな。それにしても、軍師……打つ手が早いな……」

 ロンドが包帯を巻いた太い腕を組む。

「聖北教会には奴等と通じている人間がいるだろう。こちらの行動はほとんど筒抜けだな」
「おじさん、まだその裏切り者が誰か分からない?」
「ああ。表立って捜査できないから、難しいようだ。余人に漏らすわけにはいかないから、ジーア自身が捜査を行わざるをえんしな。ジーアは正直、身体がいくつあっても足りん」
「ところで、太古の悪霊からの提案のことですが……」
「……お前達はどう思っている?」

 話を切り出したウィルバーは、しばし目を閉じた後に言った。

「私は奴等と話してみるべきだと思います。もちろん罠に対する備えを万全にすることが大前提ですが……。皆はどうでしょう?」
「確かに危険っちゃ危険だけどよ……」
「冒険者は危険がつきものだからな」

と目を見合わせて言ったのは、犬猿の仲のはずの若者たちである。
 こういう時だけは妙に息がぴったりしているのだ。
 アンジェももっともらしい顔をして、男2人の意見に対し首肯した。

「あいつ等の提案が何か、興味あるしね」
「戦うばかりでは気付けない何かが、あるのやもしれん。慎重にいくべきじゃろう」
「……というのが、うちのパーティの意見みたいですね。それでどうかしら、ハウザーさん?」

 シシリーのまとめに、ハウザーが笑って髭をしごいた。

「そうか…。そうだな。俺も聖騎士隊副隊長という立場でなかったら、そうしている。だが、十分に気を付けてくれ」
「ハウザー、心配すんな!俺様とルーラと”空牙”がついてんだ。万が一なんてねぇよ!」

 ふわりと”空牙”から飛び出したバールが、聖妖精というよりは小悪魔とでも言いたくなるような表情で口を出す。
 さしものハウザーも、これには苦笑するしかなかった。

「ああ。期待してるぜ」
「ところで、その肝心のジーアさんは大丈夫なのかしら?」

霧18

「今日1日、ゆっくりと休養をとらせた。明日からは近隣の教会に、リリアの解呪に必要な道具を借り受けにいく部隊の指揮を頼んだ。もちろん楽な任務ではないが……少なくとも教会にいるよりも、負担は減るはずだ」
「今回は横槍が入らないよう、極秘なのね」
「そうだ。くれぐれも他に漏らさないでくれよ」

 リリアの名前を聞いて眉をしかめたテーゼンが、彼女の様子を尋ねる。
 いよいよ解呪が近いために、オードと一緒に教会の客室で護衛つきの待機をしているそうだ。
 ちなみに、その護衛についているのはあの若いバクターだと言う話で、

「ルードとリンダが亡き今、俺が次期聖騎士隊長に推せるのはあいつだけだな。若いがジーアと俺に次ぐ実力の持ち主で、一本気な性格で人気もある。が、激情に任せて暴走する傾向にある。グラスの死で怒りを煮えたぎらせているあいつを、外に出すわけにはいかない」

とハウザーは彼を指名した理由を言った。
 感心したウィルバーがううむと唸った。

「それで護衛の任を与えたわけですか。なるほど……よく考えてらっしゃる」
「そうか?……そろそろ話すこともないだろう。今日はゆっくりと休め」

 椅子から立ち上がったハウザーは、明日準備を整えたら教会に来るよう頼み、おやすみの挨拶をして≪水晶亭≫を出た。
 そして――翌朝。
 
「おお、来たか」
「うむ、今から軍師の申し出の方へ行くところじゃわい」
「分かっているとは思うが、十分に注意しろ。奴らを相手にするのに、注意しすぎるということはないからな」
「ああ」

 ロンドが返事を発し、他の者もハウザーの忠告に首肯する。
 冒険者の一人が尋ねてみると、もうジーアは部隊を指揮して道具を受け取りに行ったらしい。
 教会内では、表向きは実家で静養するということになっている彼女だが、旗を掲げる爪にくれぐれも無茶をしないようにと伝言をするのは忘れなかったようで、ハウザーが笑いながら話してくれた。
 これからは彼が、聖北教会の内にいるであろう裏切り者の探索に掛かる。

「この仕事だけはやりたくなかったが、そうも言っていられんからな」

 そう嘯くハウザーだったが、太古の悪霊に益する者を放っておくわけにはいかない。
 何より、彼自身もそんな裏切り者の存在が許せなかった。

「それじゃ、ハウザーさん、行ってきます」
「またお会いしましょう!」

 依頼主と冒険者は、こうして再会を約して各々の仕事へと取り掛かることにした。

2016/06/16 13:34 [edit]

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