--.

スポンサーサイト  

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--/--/-- --:-- [edit]

category: スポンサー広告

tb: --   cm: --

Thu.

霧を抱く…その5  

 ”霊剣・空牙”を入手して二日後――。
 中一日を休養に当てた冒険者たちは、元気満タンとなって依頼主のいる教会へと訪れていた。
 聖騎士の控え室から出てきたハウザーが、どこか困ったような雰囲気で一行を聖堂へと案内してくれたのだが――。

「”空牙”は鉱山からの回収後、ずっとこの聖堂に置かれていた。教会の中でも、最も聖なる力が溢れているからな」
「確かに落ち着く雰囲気じゃの」
「ただ、その……”空牙”に今朝方異変が起きてな」

 見たほうが早いだろう、とハウザーは聖堂の奥――剣を置くのに相応しく設えられた祭壇の方へ声を掛けた。

「おい、いるんだろ?紹介したい連中がいる。出て来てくれ」

 ハウザーが突然、”空牙”に向かって呼びかけると、訝しげに首を傾げる冒険者たちの目の前を何かが横切った。
 テーゼンの襟に掴まっていた妖精が、喜びの声を上げる。

「仲間!仲間ですか!!?」

 嬉々として呼びかけたムルだったが、それは生意気そうな少年の声にあっさりと否定された。

「お前みたいなただの下等妖精と一緒にするな!こっちは聖妖精だぞ!!」
「うちの可愛い子に下等言うな!」

 がっかりした彼女を、懸命にテーゼンが慰めた。
 目の前を忙しく飛び回っていた言葉の加害者は、急停止して一行の斜め上に静止している。
 淡く青い光に包まれ、体長20センチ足らずのサイズをした羽の生えた人型の生き物――否定はされたものの、旗を掲げる爪からすれば、確かに妖精であるムルに一番近い姿である。

「こら、いい加減にしなさい、バール!」

 誰も居ないはずの”空牙”のそばから、今度はなめらかな艶を帯びた女性の声がする。
 そちらに何名かが視線を飛ばすと、そこには風精シルフのような――シルフィードは鉱精の遺跡に挑んだ際に当時の依頼人が召喚したので見た――やはり、青い燐光を放つ不思議な女性がいた。
 風精よりは実体化しているようだが、本来ならば現世の生物ではないことを示すように、時折揺らめいて向こう側が透けたりしている。

「聖妖精のバールとルーラだ」

 しみじみ疲れたような顔をしたハウザーが、彼らを紹介した。

「………はじめまして?」

 語尾の上がる調子でアンジェが話しかけると、バールと呼ばれた方の聖妖精がくるりと宙返りをしてから馬鹿にしたような笑い声を上げる。

「『はじめまして』だあ?あんたら、”空牙”をここまで持ってきた冒険者だろ?だったら初対面じゃねぇぞ」
「分かった。あの時に妙な気配がしてたのは、グードでも”空牙”でもない…アンタたちだったか」

と言ったのは、グードと接触する前に首を捻っていたテーゼンである。
 こくりと頷いたルーラは、冒険者たちに向けてなんとも優雅なお辞儀をした。

「はじめまして、で構わないと思います。皆さんとお会いした時は、私たちはまだ”空牙”の中で眠っていましたから。私は聖妖精のルーラ。こちらの無礼者は、同じ聖妖精のバールです」
「”空牙”に付随しているっつっちゃあなんだが、それに近い存在なんだな?放っている力が同質で、もっと濃いから、むしろ彼らの方が剣の聖なる力の源なんだろうが」

 ある意味では聖妖精に相反する存在――悪魔であるテーゼンは、他の者たちよりもいち早く彼らの正体を見抜き、ハウザーに訊ねる。

「ああ、もうちょっと正確に簡単に言えば、空牙とそれを扱う者の守護者だな。空牙の力がある程度回復して、目が覚めて出て来たわけだ」

霧10

「空牙に起きた異変というのは、彼等のことだったんですね?」
「そうだ」
「ハウザー様、この方たちが私達の新しいマスターですか?」
「そうだ」

 刻々と移り変わる事態に、頭痛とまではいかないまでもそれに似た疼きを感じ始めたハウザーは、シシリーとルーラの各々の問いに対して、同じ調子の簡素な返事を返した。
 だが、ルーラのセリフに怪訝な顔をしたテーゼンが、さらに質問を重ねる。

「新しいマスターだって?どういうことだよ?」
「レンドルにいる間は、お前達に空牙を預けようと思ってな」
「どうして、僕らに?ハウザーさんやジーアさんが持てばいいじゃねえか?」
「ジーアは、聖騎士隊を率いる立場で自由に動けん。俺は、どうもこういう秘宝とかいうのに頼るのは好かんのでな。冒険者たちに持っていてもらう方が良いと判断した」

 それに、と彼は言葉を続ける。

「お前たちがレンドルに来るのを待ち構えていたかのように、太古の悪霊の復活やら、色々と事態が動き始めた。お前たちは空牙と何か縁があるのではないか、という推測もある」
「……」

 テーゼンはそっとハウザーの視線を避けるように目線をずらした。
 それはほぼ間違いなく、同じ魔族であるテーゼンが太古の悪霊のテリトリー内に入ったから活性化したのだと自身には分かっているのだが、それを依頼主であり聖騎士でもある彼に言うつもりはなかったのである。
 有翼種だと名乗っている青年の動きに気付いているのかいないのか、ハウザーは軽く肩を竦めた。

「ま、そういうわけで、こいつらと”空牙”を上手く使ってやってくれ」
「はあ……構いませんけど……」
「教会の人が持つ武器だと思ってたんだが。まあいいや、シリー頼む」
「え」

 碧眼を瞠ってロンドを見上げたシシリーだったが、ロンドは顔をしかめて”空牙”を見ている。

「俺の戦い方は知ってるだろう。はっきり言って、こんなほそっこい刃の剣なんか使い慣れてないし、うっかり折ってしまいそうだ。シリーならこの手の剣は扱いなれてるだろ?」

 ロンドの言うとおり、今のシシリーの愛剣である≪Beginning≫は細身の刀身を持った長剣である。
 護拳のある細いしなやかな刀身を使った戦い方は、恐らく眼前で青い光に包まれている”空牙”でもそう変わらないだろうと思われた。

「……確かに、あなたの戦い方には向いてないだろうし、教会の武器ですものね。なら私が持った方がいいかもしれないわ」

 剣の所有者たる人物が決まったらしい、と判断したルーラはスッと進み出た。
 上方でくるくる旋回していたバールも、すっとシシリーの肩へ降り立つ。

「よろしくお願いします、マスター」
「頼りねぇ新しいマスターだが、しゃあねぇな。力を貸してやるよ。よろしくな」
「光の精霊が2体に鉱石の精霊が1体、さらに聖妖精ですか…何というか、稀有な人ですね…」
「厄介ごとに好かれるのがロンド殿なら、シシリー殿は人ならざる存在を引き寄せる天才なのかもしれんのう」

 年長組がしみじみと言った。
 さらにシシリーの場合、見えてなくても天使が一人ついてきているのだが、それに気付いているのはテーゼンだけである。
 ふっと何事かを思いついた様子のウィルバーが、ルーラに対して質問する。

「そういえば…あなた方が以前にも太古の悪霊と関わったのであれば、人の口伝よりも確かなあれらの正体をご存知なのではないですか?」
「太古の悪霊……あれは遥か大昔に、人間が古代文明と呼んでいる時代に、この世界に召喚された者たちです。何があったかは存じませんが、その古代文明時代から現代まで、彼等はこの街の近くの鉱山に封印されておりました。そして、300年前に、ふとした偶然によって復活いたしました」
「その復活の際に、あなた方と聖北教会の勢力が一緒になって戦った?」
「はい。聖北教会のアルトクレス様とフィーセレア様を中心に、私たちも力をお貸しして自衛のための戦いを挑み、そして勝利いたしました。その後に私とバールの力で彼らを封じ込めてきたのですが…」
「今の俺たちは、全盛期の三分の一も力を取り戻していない。かといって――悪霊たちが力を増していて、それで逃げたわけじゃねえんだ」

 バールは憮然とした表情でバリバリと赤い頭部を掻く。

「外部から何らかの干渉があったとしか思えない。悪霊が消滅するまでこっちの封印が解けるはずはないのに、誰かが”空牙”の力を一時的に弱めてから太古の悪霊を解放したんだ」
「そいつが黒幕!?……そいつのこと、何か分かんない?顔とか性別とかさ」
「申し訳ありません。何も……ただ、我々が全ての力を解放すれば、並の人間は近寄ることも叶いません。ましてや闇に属する魂と力を持つ者は……」
「ふむ。では闇の陣営に属しているわけではない、”空牙”と太古の悪霊のことを知っている誰かが、黒幕にいるのだということでしょうね」
「話がちょっと逸れておるようじゃ。結局、あやつらはどういうものだと解すれば良いかの?」

 老婆の言葉に、ルーラも慌てて本題に戻った。

「彼等はこの世界とは異なる法則で存在するもの達です。悪霊と申しても、ゴーストやゾンビといったアンデットとは似て非なるもの」
「なるほど、太古の悪霊とはつまり、”プレーンズウォーカー”ですか」

 ウィルバーがポンと己の手を打ち合わせた。
 世界には、稀に他の世界からこの世界へ”渉って”来る者たちが存在する。
 そういう存在は、例外なく人並み外れた魔力を持っており、「久遠の闇を超え、異世界を旅する者」として、魔術師連の間では”プレーンズウォーカー”と呼ばれている。
 現に、旗を掲げる爪もまた、くろがねの幽霊列車を操って術式を完成させようとした、異世界から来訪した死霊術師と戦った経験を持っていた。
 ルーラはさらに、太古の悪霊という名で知られる3体の存在――便宜上名付けた、霧・憑依・軍師という敵について語ってくれた。

「霧と呼ぶ悪霊は自らの形状を霧状に変化させ、ありとあらゆる物を溶かして”食べて”しまいます。霧状になっている時は、”空牙”を含め、一切の攻撃が意味をなしません。その戦闘能力は太古の悪霊たちの中でも際立っており、逃げ場の無い洞窟内で、多くの戦士達が“食べられ”ました…」
「……そんなバケモンを、どうやって封印したんだ?」

 憮然とした顔を崩さぬまま訊ねたロンドに、ルーラは沈痛な面持ちで答えた。

霧11

「戦いの最終局面――多くの僧侶や魔術師達が、文字通り命を捨てて結界を張り、彼の者を私達が作り出す結果内に押し込みました。多くの…本当に多くの命が失われました……」
「その方法をわしらが取るわけにはいかんな。後で何か手立てを考えるとして…憑依について教えてもらえるかの?」
「はい。彼の者の能力は憑依する――いえ、もっと正確に申せば、相手の精神を乗っ取る事でございます。憑依された者は一切の自我を失ってしまうのです。どのような強力な魔力を持つ者も、彼の者に一度憑依されては一切抗うことはできません。無論、憑依時に抵抗はできますが……」
「乗っ取る、ということは宿主の能力を使えるのかの?」
「その通りです。また、自身の力である暗黒魔法も操ることが出来ます」
「対抗手段はあるんじゃろうか?」
「正直申しまして、有効な手段はございません」

 ルーラは絶望的な結論を告げた。
 ただ、憑依していない状態では大した力は持っていない――つまり、憑依前の実体さえ現してしまえば旗を掲げる爪の誰でも止めをさせるだろう、と断言する。

「ただ、かの者は実に狡猾で残忍です。300年前の戦いでは、乗っ取られた人間ごと”空牙”の結界の中へ押し込んで封印に成功しました」

 その憑依された犠牲者は、ルーラのマスターとなった片割れであるフィーセレアの妹だったという。
 そして残る1体――悪霊達をまとめあげ、組織的な戦いを展開して聖北教会を大いに苦しめたという軍師に関しては、ルーラもバールもその能力を全く知らなかった。
 以前の戦いにおいてすら、軍師ははっきりと目に見える形で己の力を振るうことがなかった。
 それほどに用心深いのであろう。

「ただ、こっちでもいくつか分かってることはあるんじゃねえのか?」

 黒い双眸をきらりと光らせたテーゼンが口を開いた。

「僕らが倒した敵に、死んだ瞬間にアンデッドと化すヤツがいたろう。今のルーラの説明からすれば、どう考えても霧や憑依の能力とは違う気がする。……多分、軍師が何らかの手段を用いているのだとすれば……」
「……そうですね。皆さん、トロールから生まれたアンデッドを退治したことは覚えていますか?」

 ウィルバーの言葉に、他の仲間たちは互いに顔を見合わせて頷いた。
 まだ中堅どころのパーティだった時分に、遺跡調査委員会という団体から受けた依頼で潜った遺跡に大量のアンデッドが発生していたことがある。
 それらのアンデッドは、最奥にいたトロールの不死者からこぼれ落ちた腐肉から発生したのだと、後になって判明したのだが、その時にトロールを”死に損ない”に変えた粉を発見した。
 ≪ゾンビパウダー≫と呼ばれている死霊術の媒体に使われる粉末は、死体をゾンビとして蘇らせ、パウダーを用いた者の言いなりにするという物質なのだが、これはあくまで死んでいる対象にしか使用することが出来ない。

「つまり、今回戦った相手の変化は、あの事件で使われていた≪ゾンビパウダー≫とは全く違うものです。死体や霊魂を操る事を目的とした死霊術とは別系統の魔法であり、対象が『生きているうちに』何らかの術を施したと考えた方がいい。呪いに近いのかも知れませんねえ」
「軍師ってヤツは、それが出来る相手かもしれねえ。そういうことだ」
「……ということは、グードの蘇生も軍師の仕業なのかしら……?」
「新たなまとめ役の男を、グードに変える呪い…みたいなモンか」
「まだはっきりとはしてませんが、無関係とも思えません」
「あれ?でもちょっと待ってよ、みんな」

 アンジェがぽよぽよした眉をしかめるようにして言った。

「リリアさんを攫おうとしたのは?あれって、ルーラの今の話じゃ憑依の仕業でしょ。何であの悪夢を見て悩んでるだけのお姉さんが、今回の事件に巻き込まれてるの?」
「そのような女性がいるのですか?」

 ルーラは不思議そうに首を傾げている。
 バールも似たような反応をしており、彼ら聖妖精に思い当たる節がないことは、見ている側にも容易に察せられた。
 ロンドがそれなら、と口を挟む。

「ここでグダグダ考えるより、こっそりこいつらに隠れてついて来てもらって、リリアと対面させたら早いんじゃないか?よく言うだろう、えーと……」
「百聞は一見にしかず、ですか」
「そう、それ!」
「あなたに打開策を言われるのは業腹ですが……確かに、その方がはっきりするかもしれません」
「なら、ファリス様とジーアに挨拶しがてら、そっちにも顔を出すか?」

 ハウザーによると、前者二名が旗を掲げる爪との面会を望んでいるのだと言う。
 ただ、ファリス司教はまた体調を崩し始めているので、長時間の相談は難しいだろうということであった。
 彼の言葉どおり、冒険者たちに対して”霊剣・空牙”を無事入手した件について礼を述べた司教だったが、会話の途中で急に咳き込み始めてしまい、面会は打ち切りとなった。
 ジーアのいるであろう執務室に行く途中で、リリアとオードの兄妹が宿泊している客間に顔を出す。
 リリアは僧衣の一部であるらしい布へ、慣れた様子で丁寧に針を動かしており、オードは聖北教会の経典を片手にそれを見守っていた。
 ひょこん、とお団子に結った髪を揺らしたアンジェが朗らかな様子で笑いかける。

「やあ!」
「まあ、アンジェさん!」
「皆さん、こんにちは。活躍はお聞きしてます」

 オードが立ち上がり、冒険者たちへ部屋の中に入って、椅子や寝台へ腰を下ろすよう示す。
 すぐ去るからと手で制したウィルバーが、女性同士の会話を始めたリリアと女性陣をちらと見やり、小声でオードに質問した。
 教会の客人をかねてから心配していたのだろう、傍にハウザーも寄ってきた。

「リリアの解呪のほうはどうです?」
「それが全然……。解呪の儀式に必要な道具が揃わないらしくて…」
「本当にすまないと思う。もうしばらく待ってくれ」

 ハウザーが重いため息をついたオードを、拝むようにして謝罪した。

「お願いしますよ。リリアが悪夢に魘されている姿を見るのは、そろそろ耐えられません」
「ああ。本来なら、俺かジーアが直接指揮をとるところなんだが、今の状況ではそれができん。いや、これは言い訳だな。すまん」

 誠意を持って謝ってくる相手に、無闇と自分の感情をぶつけるわけにもいかず、オードは不承不承ながら頷いて、いくつかの情報を交換してから分かれた。
 自分たちの話し声が客間に届かない場所まで移動し終えた時、ウィルバーが改めてハウザーへ溜めていた疑問を発した。

「これだけの教会で、何故まだ解呪の儀式を行なっておられないのですか?人手の問題でもなさそうに思えるのですが…」
「実はな。近隣の教会に道具を借りに行かせた部隊が、魔物に襲われて全滅した」

 ハウザーの回答に、一同は訝しげに足を止める。

「何者かが意図的に妨害しているとしか思えん。……聖妖精、どうだった?」

 シシリーが腰に下げた”空牙”に隠れていたルーラとバールが、ふらりと彼らの前に姿を現した。
 バールがくるりと宙返りをして言う。

霧12

「あの姉ちゃんは特別だ…ルーラ、お前も感じただろ?あの姉ちゃんには何か特別な力があるぜ。うまく言えねぇが、こう…何か…ほら…な、分かるだろ?」
「私には分かりますが、それでは他の皆さまにはご理解いただけませんよ、バール」
「バールが言いたいのは……懐かしい、か?」
「そう、それ!…………あれ、何で分かったんだテーゼン?」

 バールは我が意を得たと言わんばかりの表情から、一転してきょとんとした顔になる。
 悪魔はぬけぬけと肩を竦めた。

「ちょっと特別な存在の魔力に敏感なだけだよ。第一、それ以上のことは分からんぜ」
「んと、ちょっと待って。羽の兄ちゃんやバールたちがそう感じるってことは、太古の悪霊にとってもそうなのかな?」
「あの馬鹿どもと一緒にされたくねぇが、そう考えても良いと思うぜ」
「ということはです。憑依が聖騎士のグラスさんに憑いて彼女を攫おうとした事には、それなりの意味があった上でのことだった…そういうことですね」
「リリアの警護を徹底するよう、それから彼女の解呪を最優先するようにジーアに言っておこう」
「気をつけろよ、ハウザー」

 テーゼンの声に何か見過ごせないものを感じて、ハッと彼は顔を向けた。

「リリアとオードが『レンドルの聖北教会』に来たのも、偶然では片付けられないかもしれねぇ」
「それは……どういうことだ?」
「いや、僕のただの勘なんだがよ。符丁が合いすぎる時は、用心にこしたことはねえぜ」

 そこで口を閉ざしたテーゼンを追及できなかったのは、ちょうどバタバタと教会の入り口付近から慌しい足音が響いてきたせいであった。
 不審に思ったハウザーと冒険者たちがジーアと合流して騒ぎの方へ近づくと、以前に顔を会わせたことのある若い聖騎士バクターが、こちらへ報告を持ってきた。

「ジーア様、ハウザー様!グラスが、グラスが……見つかりました……」
「本当か!?今、どこにいる?無事か!怪我は?」
「奴は………死にました………」

 親友だったという青年の死を口にした部下に、ハウザーは暗い顔で彼の肩を叩き、「そうか」と呟くのが精いっぱいだった。
 バクターの報告によると、街外れで怪我して倒れているところを市民が発見し、通報を受けて聖騎士の小隊が駆け付けてみたところ、意識と下半身がほとんど無くなっていたグラスだったという。

「ハウザー様が言っていた霧の攻撃を受けたと思われます」
「あいつは何か言い残したか?」

 ハウザーは冷静を装っていたが、握り締められた拳は細かく震えている。

「一言……『古城』と何度も繰り返していました……」

 その城に心当たりがあるのだろう、バクターはそこへ自分が赴き、グラスの仇を取ると主張して止まなかったが、ジーアは強い調子でそれを止めた。

「何故です、隊長!」
「相手は強力過ぎる。行っても犬死するだけだ。これ以上、あの悪霊どものために、私の大事な部下を失いたくない」
「………!」

 怒鳴りかけたバクターの頭部を、ぽんとハウザーの大きな手が撫でる。
 感情を爆発させようとするタイミングを絶妙に外されて、目を丸くした部下に、ハウザーは真摯な瞳で彼に言い聞かせた。

「バクター、グラスの仇討ちを俺に任せてはくれないか?」
「……はい、お願いします」

 彼は力なく頷くと悄然と肩を落とし、立ち去っていった。
 それを見送っていたハウザーが、ポツリと呟く。

「ジーア、あいつに見張りをつけて、目を離すな。一人で突っ込みかねん」
「分かっている」
「それから、な――少し休め。倒れたら何にもならんぞ」
「そういうわけにもいかん。一刻も早くこの事件を解決せねばならんのだ。それよりも、今から古城へ行くのだろ?空牙があるとはいえ、十分に気を付けろ」
「ああ」
「では……冒険者殿もお気をつけて」

 手を抜くと言うことの出来ない相手に、半ば呆れたようにハウザーが首を振る。
 気分を切り替えた彼は、グラスの最期の言葉に出てきた『古城』について、旗を掲げる爪へ説明し始めた。

「この街の南にある古い城だ。城と言うより、遺跡に近いかもしれんな。かつてこの街が領主制だった頃に、領主が暮らしていた。今は、しょっちゅう盗賊どものねぐらにされてるな」
「じゃあ、悪霊どもが潜んでいても不思議は無いってことか?」
「そうだ。さて、俺の可愛い部下の弔い合戦だ。気合を入れていくぞ」

 ゴキリとハウザーが指の骨を鳴らした。

2016/06/16 13:26 [edit]

category: 霧を抱く…

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。