Sun.

ヴァイキング急襲!!その4  

 聖北教会においては、シシリーの友人であり、一時は依頼主の一人でもあったシスター・ナリス。
 超高級ホテルにおいては、ランプさんのいた別荘を所有している金持ちの女性(ロビーでお茶を飲んでいたところを捕まえた)。
 病院においては、賢者の搭で依頼人たるナブル・ラウーランが倒れた際に来てくれた医者。
 市場においては、旗を掲げる爪へ売れ残りの南瓜を大量に押し付けた女店主。
 BARにおいては、今日出会ったインパクトの強いオカマさんたち。
 今までの旗を掲げる爪の冒険で出会った人たちは、ある人は快く、ある人は訝しそうに、ある人は面倒くさそうに、ある人はさして疑問も挟まず、ある人はプレゼントと勘違いしてそれぞれにタリスマンを持っていてくれると約束した。
 かくして、二つの巨大なルーンタリスマンに形成された場が、リューンの街の一角に完成した。

ヴァイキング7
 仕事を終えた冒険者たちが広場に再び集合すると、ルーンの負の力に違和感を感じるのか、スレイプニルは自分の身体の動きの鈍さにたじろいでいるように見える。

『!?!?!?』
「さて、相手は神の軍馬様だ。騎手がいなくとも油断は禁物だぜ」

 ロンドが”ある物”を背負った上、いつものスコップを構えて猛々しく笑うと、馬もその殺気に気付いたものか大きく嘶いた。

「きやがれ、馬野郎!俺と勝負だ!」
「あーあー、兄ちゃんてばハイテンションになっちゃったよ…」
「仕方あるまい。さっきからウズウズしておったからのう」

 悟ったように言ったテアは、バイオリンを掲げてテーゼンやシシリーへ注意を促した。

「速度がいくらか落ちたとは言え、スレイプニルも神話にある特殊能力まで失ったわけではあるまい。油断は禁物じゃ」
「おうよ」
「分かったわ」
「……とは言え、本当にこれで良いのかは分からんのじゃがのう」
「案外と上手くやるかもしれませんよ。まあ、失敗してもフォローはすぐするつもりですが」

 ウィルバーの視線は、秘密兵器である”ある物”が見えるロンドの背中に向けられていた。
 神の駿馬は鋭く嘶くと、蹄でかっかと足元の地面を二度蹴散らした後、旗を掲げる爪の方へと力強く疾走してきた。
 たちまち、黒馬がパーティ全員を跳ね飛ばす。
 辛うじてテーゼンのみが翼を大きく広げて上空へと回避したが、他の仲間たちはウィルバーによる【魔法の鎧】がなければ重傷間違いなしだったであろう怪我を負った。
 急所を何とか逃れたアンジェが息をつく。

「あぶなっ。さすが神話の生物だよ、危うく頭を踏み砕かれるとこだった」
「構えろ、アン。ここから反撃開始だ!」

 スコップをふり立てたロンドが、近くにいる召喚者のヒゲモジャを巻き込むようにして【葬送花】の技を放つ。
 どこからともなく鎮魂歌と共に舞い散る真っ赤な数多の献花が、相手の生命の有無を問わずに突き刺さり、深い傷を与えていく。
 赤い視界の中、すかさずヒゲモジャに走り寄ったロンドは、平たい面で兜の辺りをぶん殴った。
 兜に覆われているとは言え、多少の打撃はあるだろうと期待してのことだったが…。

「弱っ!ちょっと小突いただけなのに…」
「…何なんだ、コイツ」

 仲の悪い2人が息ぴったりに慨嘆したように、ヒゲモジャはその一撃で気絶してしまった。
 とは言え、戦いは未だに続いている。
 テーゼンもロンドの横の位置から、一気に羽を使ってスレイプニルの背後へと飛び去り、気合の力を穂先に込めて突き刺した。
 予期せぬ痛みにもだえる馬の身体を、今度はアンジェが己の周囲に張り巡らせていた鋼糸で裂く。
 パッと、あたりに血の霧が漂った。

「よしよし、ここまで理想的な展開!」
「調子に乗ったらダメよ、気をつけていきなさい。……【賛美の法】」

 シシリーは仄かに温かい光を灯した左手を、そっとロンドの背中に押し付けた。
 この男は、これからちょっとした役割を担っている。
 テアの召喚した影によるパレードが彼女を護り、ウィルバーが魔法の詠唱に入るための集中を行なっている最中、ぎらりと黒い目を剥いたスレイプニルは、生ける者を死者の国へと運ぶ蹄を振り下ろさんとしたが、その目標はテーゼンであった。
 普通の生命体であればそのまま死亡していたろうが、悪魔である彼は、冷静に魔力を全身に行き渡らせて一時的に魔界へ自分の肉体だけを送り込み、位相をずらすことで一撃必殺の蹄を受け流す。

『馬鹿な……!?』

 その動揺を、見逃す戦士ではなかった。

「よし、ここだぁ!」
『!!』

 ロンドは勢いよく、フロンティアに向かうつもりでいた方向音痴のカウボーイから貰ったサドルをスレイプニルの背に投げつける。
 それはロンドが背負っていた時には普通の馬のサイズだったのだが、ぽすんとスレイプニルの背中に落っこちた途端にまるで巨人が引き伸ばしたかのように広がった。

ヴァイキング8

『…この俺を、御せると思っているのか?』

 神の馬であるプライドに裏打ちされた、静かな怒りを見せた馬に臆することなく、彼は至って気軽な調子で身体を動かした。

「よっ」

 彼がひらりと背に跨ると、当然のことではあるがスレイプニルはものすごい勢いで暴れだした。
 手綱もない馬に乗るのは非常に難易度の高い技であり、捕まるところと言えば鬣くらいのものだ。
 バランス感覚に秀でていなければ、あっという間に振り落とされて地面へ叩きつけられる(しかもこの高さではミンチ必至である)だろうが、ロンドは落馬もせずにスレイプニルの背に張り付いている。
 ウィルバーが感歎半分、呆れ半分に呟く。

「……大した人ですね。本当にやってますよ」
「【賛美の法】が、少しは彼の助けになったわね。にしても、よく頑張るわ…」
「落ちたら回収しようと、さっきから構えてるんだが…。あの大馬鹿、マジで自分の握力と腕力だけでしがみ付いてやがる」

 老婆から注意を促されていたシシリーとテーゼンの役割は、乗馬前にロンドへ行動の成功率をアップさせ勇猛になるよう加護を与えることと、もし万が一落馬した際の救出だったわけだが…この分では、後者は出番がないかもしれない。
 なおもスレイプニルは暴れているが、ロンドはまだ振り落とされていない。
 それどころか、背に跨る少年の表情からは余裕すら窺える。
 次第に暴れているスレイプニルの脚の動きがゆっくりとなっていき、それに気付いたテアがふーむと呟いた後に言った。

「………ひょっとしたら、ひょっとしたかもしれんのう」
「え、兄ちゃん成功したの?」

 どんぐり眼をホビットの娘が瞠るうちに、ついには死を運ぶはずの蹄が静かに何もない地面へと踏み下ろされた。

『………俺についてこれる人間がいるとはな…』

 ほとほと感心した口調で、スレイプニルは背に跨る男へ語りかけた。

『大したヤツだ。是非、名前を聞かせて欲しい』
「ロンドだ」
『その名、しかと記憶した』

 馬は心地良さげに嘶くと、戦意にぎらついていたはずの目を穏やかに瞬かせて続ける。

『馬は忠実な生き物。騎手に逆らうことはできない。……さらばだ』

 ポウッ……と、ロンドの身体が白い光に包まれる。
 異変に気付いた仲間たちが顔色を変えたものの、その光は存外、蝶が舞うようなゆったりとした動きで地面に移り、そこから何の異常もない少年がまろび出てきた。
 彼が無事に地面へ到達したのを見届けた神馬スレイプニルは、凛然とした馬面を空へと向け、力強く地面を蹴って飛び退った。
 馬の向かう先には、送還用の陣が神々しい光を放ちながら形成されており、彼が自分の元いた世界へと戻っていったことは疑いなかった。
 最後まで去る様子を見送っていると、木の葉通りからこちらへ走りよってくる複数の足音がする。
 こちらへの敵意はないと見て、顔だけを向けると、それは治安隊の小部隊だった。

「よくやったぞ、君たち!あんな化け物を追い返すとは感動した!!」
「…見てたの?一部始終を」
「見てたなら、助けに入ってもいいんじゃないかしら?」

 十代の女性二人に寄ってたかって言われ、冷や汗を浮かべた部隊長はもごもごと言い訳を始めた。

「いや…あの…我々は対人間は長けているが、モンスターは専門の冒険者に任せた方がいいかな、と……と、とにかく!」

 冒険者だけに留まらず、怪我をしないよう遠巻きにしていたリューンの市民たちからも「それでも治安隊か」という目で見られて焦り始めた部隊長は、空咳をして改めて口を開いた。

「君たち旗を掲げる爪の活躍もあり、傾きかけていた形勢は逆転した。後は、残ったヴァイキングを追い返せば終わる。それは我々の役目だろう…ご苦労だったな」
「ああ…そのことなんですがね」
「うん?」

 部隊長がウィルバーに目をやる。

「ヴァイキングがリューンを襲撃した目的は、侵略や略奪じゃないんですよ。交易のために訪れていたようでして…」
「な、なんだと!?それが彼らの本当の目的なのか!?」
「はい。その証拠に、彼らは一方的な略奪を行なっていないんです」

 そもそもそれを考えることになったきっかけは、BAR近くにあった立て看板にあった文字だった。
 『自分たちの物、素晴らしい。買え』とたどたどしい西方諸国の共通語で書かれたそれを見つけ、ひょっとしたら商売でも始めたいのではないか、と言い出したのは、元商人の妻だったテアである。
 まさか、とその時その場では笑い飛ばしたものの、BARで聞いたヴァイキングの言動や、市場や聖北教会で何かの品物と引き換えに渡された、素晴らしい装飾品の数々を見ていると、段々気のせいとは言えない可能性が高まっていた。

「物を奪う時は、必ず代価を置いていきます。彼らの器用な手先が生み出した、装飾品です…まあ、かなり乱暴な商売ではあるので、このまま放置はすべきじゃないんですが…」

 治安隊小部隊の部隊長は、兜に覆われているのが惜しいほどの端整な面持ちを、ちょうど気絶から回復したヒゲモジャに向けた。
 ヒゲモジャ・ハンズボンは今までの彼らの話を黙って聞いている。

「…そうなのか?」
「半ズボンに誓って、本当」
「そういうわけじゃ、部隊長殿。おぬし一人で決められることでもあるまいが、ヴァイキングと商取引をする方向で働きかけてみてはどうじゃ?」
「しかし、攻めて来たのは事実だしなぁ…ましてや、リューンだけのことじゃないだろ?」
「多分、他の都市にいるヴァイキングたちの混乱も、そろそろ収束していると思うわ。私たちみたいな冒険者を各々の都市でも雇っているのなら、真相が分かり始めるころでしょうから」
「それにさ、放火も、一応略奪もしてないし。被害って言えば、立て看板の落書きぐらいじゃない?」

 驚くべきことに、治安隊本部の襲撃もあれは襲撃ではなく”押し売り”をしに来ていたらしい。
 シシリーは、これは私見だけどと断った上で言った。

「そうでなくとも、リューンは色んな人を受け入れて成長してきた街でしょ。交易都市の名前に恥じないように、彼らの装飾品も流通させるべきだと思うわ」
「ううむ…一応上申はしてみよう。決定はお偉方がすることになるだろうが…それでいいかな?」

 ヒゲモジャがもっさりした髭――多少埃で汚れてしまった――を弄りながら嬉しげに頷く。

「上々、上々」

ヴァイキング9

「お前が言うな」

 程よく筋肉のついた長い脚が、ヒゲモジャの身体を蹴飛ばした。
 この蹴りが、ヴァイキングによるリューン襲撃の決着の合図だったと言えよう。
 旗を掲げる爪はこの後、よくリューンの混乱を治めてくれたと報奨金に銀貨4000枚を受け取った。
 ちなみに、「追い返しても、どうせまたすぐに来るんでしょ?じゃ、受け入れしちゃえば?」という上層部のどうしようもないがもっともな意見により、リューンの街はヴァイキングたちとの交流の道を歩むこととなった。
 若い女性や一部の有閑マダムの間では、しばらくヴァイキングの経営する雑貨屋の買い物が流行したらしいが……これは、冒険者たちには関係のない出来事である。
 それでも一応ルージュ・ポワゾンのために、”ハガラズ”という災難や苦難を意味するルーンタリスマンを無料で貰ってきて与えた(ついでにお駄賃に銀貨50枚貰った)ことは、追記しておくべきであろう。

「……無才をどうにかするタリスマンじゃなくていいのかな?」
「いいのじゃよ、どうでも。タリスマンでどうにかできる域は超えておるんじゃ。苦労して会得した技の方が、よっぽどあやつの身になるだろうよ」
「おばあちゃん、スパルタだね」

※収入:報酬4000sp+50sp、≪サドル≫≪骨付き肉≫×5≪ニンジン≫×10入手。
※支出:
※あめじすと様作、ヴァイキング急襲!!クリア!
--------------------------------------------------------
■後書きまたは言い訳
52回目のお仕事は、あめじすと様のヴァイキング急襲!!です。
ここのところ結構シリアスな依頼を片付けていたので、ちょっと軽い感じの冒険をしたくて選んだシナリオだったのですが、案外と儲かりました。こんなに貰えたんだっけ。
ロンドにいたっては追加称号も獲得しました。ありがとうございます!
ヴァイキングとスレイプニルという、北欧関係の歴史好きなら見逃せない題材を、血塗られた戦いとは無縁の明るさでカードワースに絡めてくれたので、戦闘のことを心配せずに遊べて良かったです。
今回はサドル使いましたが、他のアイテムを使用したり、もちろん最後まで馬と戦う事も出来ます。
戦闘に自信があるキャラが揃っているパーティなら、討伐で勇者になるのも宜しいかと。
ルーンタリスマンを持たせる相手というのは、本編ではいずれも本編中に出会った面白い人たちへお願いしていたのですが、せっかくリューンに長く居座っているパーティだからと、

シスター・ナリス=ライム様作の安らかに眠れ ※本当は名前なしの修道女です。
別荘を所有している金持ちの女性=春秋村道の駅様作の真夜中のランプさん
ナブルが倒れた際に来てくれた医者=平江明様作の地下二階の役立たず
売れ残りの南瓜を大量に押し付けた女店主=夕凪環菜様の祭りのあとに

から、それぞれのNPCを名前と反応だけ、ちょっと出させて頂きました。
また、治安隊部隊長の彼も、シスター・ナリスと同じ”安らかに眠れ”にいたキャラクターです。
特にクロスオーバーはなさってなかったのですが、彼もそろそろ出世しているだろうし、旗を掲げる爪と再会させたいなあ…と登場させています。
そして最初の会話に中に出てきた”ナイトとミカ”はもちろん、赤い花は三度咲く(ひなた様作)とくろがねのファンタズマ(吹雪様作)より連れ込んだNPCです。リプレイに起こす予定はないのですが、2人連れで1レベル下くらいの依頼をちょっとプレイさせてもらっています。盗賊いないんで、護衛とかが主なのですが。
各々の作品の作者様やあめじすと様がご不快でしたら、申し訳ありませんでした。
9レベルになって難しい依頼が多くなるとは思いますが、こういったキャラクターが明るさを失わない仕事もちょこちょこ引き受けていきたいです。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2016/06/12 12:10 [edit]

category: ヴァイキング急襲!!

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top