Sun.

ヴァイキング急襲!!その3  

 冒険者たちは色々と市街を走り回り、混乱を少しでも収めようと奮闘していた。
 そうしている内に、いつの間にかいくつかの通りが交わる大きな広場にまで来ていた。
 広場の中央に、リューンの発展に寄与したと伝えられる…誰だったか偉い人の銅像がある。
 この人物は、ウィルバーが魔術師学連の図書室にある書物で知った限りでは、確か木の実通りにある中の造りがころころ変わってしまう不思議な搭を建てたメンバーに入っていたように思う。
 その銅像を踏みつけ、悠然と佇む男がいた。
 よく発達した体躯に、片手斧と丸い盾を手にした姿は、書物、或いは伝聞で知っている通りのヴァイキングといった感じで――もじゃもじゃの髭が顔の下半分を覆っており、頭部の上半分は角の生えた兜が覆っている。
 にも拘らず、彼の穿いているのは半ズボンであった。

「……まさかとは思うんだけど、ロンド」
「うん。治安隊からの報告にあった、ヒゲモジャ・ハンズボンの容貌というか服装そっくり」
「じゃあ、あれが襲撃者のリーダーなのね。……何か嫌だわ」
「安直な名前だね…」

 疲れたように首をふるシシリーとアンジェの動きは同時だった。
 ヒゲモジャ・ハンズボンはブツブツと何かを呟いている。
 よく聞こえないが、呪文のように聞こえなくもない。
 不審に思ったウィルバーが眉根を寄せた時、突如地鳴りが響き、リューン全体が巨大な地震に見舞われたかのごとく揺れた。

「きゃっ……!」
「な…何だ…!?」

 ぐらついたシシリーへテーゼンが手を差し伸べ、倒れかかったテアを背後にいたロンドが太い腕でキャッチする。
 ウィルバーは持っていた≪海の呼び声≫で辛うじて身体を支え、アンジェは持ち前のバランス感覚で転倒を免れた。
 他のリューン市民たちはと言えば、とても立ち上がってはいられないと、手を地面についてしゃがみ込んでいる。
 ふと見上げると、ヒゲモジャが両腕を投げ出し、歓喜の表情で何かを叫んでいる。
 轟音でここまで聞こえないが…あの様相、長らく呟いていた”呪文”、そしてこの自然の異常を併せると、何かを召喚した…とウィルバーには容易に推測できた。

「全員、伏せて!!」

 その忠告に仲間たちが従ったのとほぼ同時に、耳をつんざく咆哮が辺りに響いた。
 昼間であるはずのリューンの広場が翳り、市民たちが呆気にとられたように上を見上げている。
 それに習うと、広場の上空から巨大な黒馬が颯爽と降りてこようとしているのが見えた。
 蒼くたなびく鬣は背後の青空と混じり、不思議な光景を作っている。
 その正体に気付いたウィルバーとテアが、狼狽したように声を上げた。

「あれは…!!」
「まさか、ありえぬ…!」

 そして…どういう訳か召喚者であるはずの男からも、まさかと言った響きを帯びた声が上がる。

ヴァイキング5

「あれは…!!オーディン様の愛馬、スレイプニル!!!」

 ヒゲモジャが自分の繁った髭をしごくようにしつつ、首を捻っている。

「おかしいな!オーディン様をお呼びするつもりだったのに、何故馬の方が出てきてしまったんだろう!!?」
『………』

 馬は、失礼な、と言わんばかりにヒゲモジャを蹴り上げた。
 ごろごろと蹄の一撃で広場の石畳を転がったヒゲモジャは、恐ろしいことに大した怪我を負った様子もなく、即座にその場に立ち上がった。

「いや!貴方様は俊敏で、飛行も出来る最高の馬です!!貴方様がいらっしゃれば、百人力、いや、千人力!!!!このチンケな街に我々の力を認めさせることも容易いでしょう!!!!」
「…だ、そうだけど、どうする?倒しちゃう?」

 ガハハハハと笑っている男を無視して、アンジェが親指を立てて馬を示す。
 だが、慎重派であるウィルバーは静かに首を横に振って制止した。

「…いいえ。ヒゲモジャも言っていたけど、相手はあのスレイプニル」
「驚異的な速度を誇り、おまけに飛行能力まであると伝え聞く。ヴァイキングの神話の主神、オーディンの愛馬じゃ…下準備無しに行っても恐らく、攻撃は当たらないだろうの」
「テアさんの言うとおりです。あの馬のスピードを落とすため、対策を立てなければ。討伐はそれからの話ですよ」
「そうは言うがよ、ウィル。具体的にゃどうすんだ?」
「目には目を、歯には歯をです。ルーンタリスマンを使いましょう」
「あの下手っぴバイオリン弾きが頼んでたやつのこと?」
「石にルーン文字を刻んで、それをお守りとして身に付ける…という奴ですっけ」

 ウィルバーは口々に言う年下の女性陣に頷いた。
 ロンドが頬をぽりぽり掻きながら問うた。

「ルーンタリスマンを俺たちが身に付けて戦うということか?ルーンの加護を期待して?」
「いえ、ルーンの力はそれを普段から身につけてない我々が加護として利用するより、ヴァイキングに深い関わりのある者たちに影響力が強いはずです」

 ですから、と彼は杖で2回自分の足元を突いた。

「つまり、我々の加護を願うよりも、オーディンの愛馬であるスレイプニルの脚力を落とすようなルーンの力を借りた方が効率が良いでしょう」

ヴァイキング6

「…でも、あの馬にルーンタリスマンを持たせるのは無理じゃないか?」
「その通りです。だからルーンタリスマンは、リューン市民に持っていて貰うのですよ」
「はあっ!?」
「へっ!?」
「ええっ!?」
「ちょっと、おっちゃんどういうこと?」

 4人の若者たちから、異口同音に抗議の声が上がる。
 バイオリンを抱えた老婆だけは、静かに彼の作戦に耳を傾けていた。

「分かりやすく言えば、リューンと言う白地図に巨大なルーン文字を描き、その力を発動させて馬の驚異的な速度を落とし、攻撃を当てる――というわけです。私の【愚者の霧】は敵の回避力を落とす術ですが、それをルーン文字の術式で大掛かりにやります。巨大なルーン文字は、街の定点に存在する市民に、ルーン文字を刻んだタリスマンを持ってもらい完成させるのです」
「…ああ、巨大な魔法陣に敵を封じ込めて弱体化させるのと同じ方法だな」

 自分で魔法を上手く使うわけではないが、魔法の関与する仕組みそのものには詳しいテーゼンが、ウィルバーの説明に思い当たるところがあったらしい。
 顎に白く優美な指を添えて合点がいったように呟いた。
 細かく仲間たちに話したことはないが、かつて蜘蛛の魔術師と呼ばれた指名手配犯の、仮工房である「蜘蛛の巣」の結界にも似通っていると彼は思った。

「さて、今回のスレイプニルに対して使うルーン文字は何じゃ?」

 首を捻る老婆の問いかけに、いくつかのルーン文字を知っているシシリーが頬に手を添えて呟く。

「停滞や凍結を意味する”イサ”かしら…?」
「”イサ”に加えて、慎重さを表す”スリサズ”も使おうと思います。それらを発動させた結界ならば、対象の運動能力は著しく低下するはずです」
「あの、おっちゃん」

 ひらひらと手を挙げたアンジェが発言した。

「使うルーン文字は分かったけどさ、さっきの、街の定点に存在する市民って…?」
「先ほど回った、リューンの建物の配置を俯瞰してみましょうか」

 ウィルバーは地面に、≪海の呼び声≫で先ほど回ってきた市街の主要施設を書いて見せた。

「例えば、超高級ホテルと病院を結ぶと、”イサ”の文字になります。加えて、聖北教会、市場、BARを結ぶと、”スリサズ”の文字になる」
「ほほう……なるほどの」

 いち早くどういうことか察したらしいテアが、感心混じりに唸った。
 地面に描かれたリューンの街を見ながら、しばらく指で複数の施設をなぞってどういう形のルーン文字になるか覚え込んでいたアンジェも、やっと納得いったらしくこくんと頷く。

「こういう形になっていればいいんだね。分かった」
「ただ何処かに置くよりは、誰かに身に付けてもらう方がルーンの力は増すものです。ですから、その地点の動かぬ人……つまり、定点の市民にタリスマンを持ってもらうのが宜しいでしょう」
「なるほど、作戦は分かった」

 いまいち飲み込みが早いとは言いかねるロンドだったが、ここまで懇切丁寧に解説されればさすがに疑問点はないらしく、腕組みをして了解の意を表明した。

「私たちはこれから、ルーンタリスマンを人々に配り歩けばいいわけね」

 手近に落ちていた小石を集め、ウィルバーに教えて貰ったとおりの文字を刻むと、シシリーはそれを仲間たちに配布した。

「タリスマンを渡す相手を間違えた時は…仕方ない。回収してまたやり直しだね」
「なるべくそうならないように、出来れば、僕らが今まで知り合った人にお願いして所持して貰うのがいいだろうな」
「その方が余計な説明までせずに済むものね」

 テーゼンの意見に首肯したシシリーは、各地点の知り合いを手分けして探し出し、即席のルーンタリスマンを持ってもらうよう仲間たちへ号令を掛けた。

2016/06/12 12:07 [edit]

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