Sun.

ヴァイキング急襲!!その2  

 普段は夢と希望と活気にあふれるリューンの街であるが、今は怒声や悲鳴(たまに歓声)が至る所から上がり、ものものしい空気に包まれている。
 ぼきぼきと指を鳴らしたロンドが、嬉しげに呟く。

「さて、ヴァイキング狩りと行きますか」
「……何で、たまに歓声が上がってるんでしょうね?」
「多分、バーの方だと思うんだけど…営業してないはずよね?」

 立て看板の横を通り過ぎた先にある、赤っぽい砂岩をイメージして作られたのだろう珍しい建物は、看板に”BAR・砂上の楼閣”と書かれている。
 店名の下には小さく「極上の夢をお届け!」といううたい文句が入っている。

「……なんだろう、とても怪しい気がする」

 そう言ったロンドが、結んだ口をますますへの形に引っ張る。
 だが、中からはちょうど女性……のものにしては、やたらと生気に溢れた悲鳴が聞こえてきたので、シシリーは勇気を出して扉を開けてみた。

「大丈夫?」
「あ~ん、勇者様、助けに来るの待ってたー!」
「突然野暮なヴァイキングが襲ってきてー、あたし達とっても怖かったのーー!」

 彼女の呼びかけに対して出てきたのは、非常に筋骨逞しいドレスを着たオカマさんたちだった。
 ちなみに、「あ~ん」と言ったのは髭の剃り跡がとっても青い、緑のリボンを髪に結んだ健康そうな丸顔のオカマさんであり、「とっても怖かった」と言ったのは、アフロヘアで赤いドレスがぴちぴちを通り越してびちびちの領域に躍り出ようとしているオカマさんである。
 2人の両腕の太く筋肉の発達した様子と言ったら、パーティ1の重戦士であるロンドに、おさおさ引けをとらないほどだった。
 だから、傍らで事態を見守っていたウィルバーが思わずこう返してしまったのも、他意があったわけではなく純粋に疑問に思ったからこそだったのだろう。

「襲ってきた…?襲った、の間違いではなく?」

ヴァイキング3

「失礼な子ねぇ。ちゃんと襲われたわよ」

 ひょこ、と出てきたオカマさんたちを観察し続けていたテーゼンが、

「…その割に、何の被害も無さそうじゃねえか?」

と訊ねる。

「ヴァイキングさんたち、『お前たちには、売れない。だから、取引できない、取れない』って、言ってたわよぉ?」
「…ふむ?」

 いまいち納得のいかない様子のシシリーに対して、緑のリボンを揺らしつつ”彼女”は言った。

「それに、被害ならちゃんとあったわよぉ。それは、私たちの傷ついたハァ…」
「あ、いや、そういうのはいいです」

 急に敬語になったシシリーが、オカマさんたちを押し込めてばたんとドアを閉じた。
 さすがに妹分には刺激が強すぎると、今さらながら判断したらしい。
 閉じはしたが、さて次はどうしようと考え込むリーダーへ、遠くを見透かすようにしていた老婆が口を開いた。

「のう、シシリー」
「なあに?」
「あの市場に続く路地……昔、わしらがスピカと初めて出会ったところの外れには、廃墟になった館があるんじゃがな」
「え?うん」
「黒い煙が上がっておるように見えるんじゃが、気のせいかのう。火も見えるような…」
「へっ!?」

 慌てて視線をテアと同じ方角へ向けると、確かに火事の時に特有の黒い煙が立ち込めている。
 このままでは、リューンの街中が大火に見舞われることは間違いないだろう。
 バケツと水源を探す暇はないとみて、ウィルバーが杖を振りたてる。

「駆けつけさえ出来れば、私の【凍て付く月】で鎮火は可能です。急ぎましょう!」

 煙に驚いて逃げている人々とぶつからないよう、アンジェが先に立ち仲間達を導いていった。
 リーダーの号令に従い、全員が館へと駆けつけようとすると、中から灰色のローブを着た男が必死な表情で飛び出してくる。

「火事だー!」
「ヴァイキングの奴らが放火したんだな…!」

 テーゼンが舌打ちしつつ、一足先に駆けつけた。
 さっと翼を広げてローブの男の脇から手を差し入れ、火事の現場から飛翔して引き離す。
 ≪海の呼び声≫を構えたウィルバーは、

「『凍える魔力よ、蒼き光に満ちた満月よ…!』」

と杖の先にある宝玉へ溜め込んだ魔力全てを冷気に変えて、目の前の火に包まれた古びた建物へと範囲を定めて放出した。
 たちまち、北方の地の冬もかくやと思われるほどの猛吹雪が、館をすっぽりと包む範囲内でのみ巻き起こり…あれほどローブの男を怯えさせていた出火はなくなっていた。

「いや~、助かりました。一時はどうなることかと…。ありがとうございました。それでは!」
「ほい、兄さんちょっと待った」

 がしっと音がする勢いで、テーゼンが男の肩を押さえる。
 その拍子に、小脇からごとんと落ちた筒の束。
 それは鉱山などで硬い岩盤を砕くのに使われる、ダイナマイトと呼ばれるものだった。

「ローブが灰色だってのもアレだけど、さっきからこいつの気配が剣呑でさ。僕ら、さんざっぱら”あいつら”とやりあったから、もしかしてと思ったんだけどよ…」
「お前、リューンでテロを目論むクドラ教徒か!!!」

 ロンドは犬猿の仲の相手のセリフを途中でひっ攫い、人差し指を突きつけてローブ男に叫んだ。
 旗を掲げる爪は、今までに三度ほどクドラ教徒と戦ってきた。
 一度目は聖北教会と治安隊の共同作戦に関わった仕事で、二度目は緑の都ヴィスマールへ同業者を探しに行った時に、三度目は元御堂騎士団の依頼主から貰った仕事で。
 さすがにこれだけ敵対してくれば、何となく分かるようになってくるものである。
 だが、驚くべきことに男は、素早く頭を左右に振った。

「違う!私はリューンでテロを目論んでダイナマイトを作ったが、それが誤爆して自爆したクドラ教徒だ!!!!」
「あ、はい。逮捕ね」

 なんとも気の抜けるような告白であったが、腕輪からさり気なく鋼糸を取り出したアンジェは、クドラ教徒を容赦なくグルグル巻きに縛り上げた。
 【吊り蜘蛛糸】の技である。
 そうして捕まえたテロリストを連れ治安隊本部に向かったら、今度はそこで治安隊とヴァイキングの戦いが繰り広げられている。
 道徳的にも今の事情(クドラ教徒早く牢屋に入れたい)的にも、治安隊に味方しないという選択肢を冒険者たちがとる訳がない――あっという間に乱戦となった。
 とは言うものの、もはや竜を倒すレベルに成長した彼らに、さしもヴァイキングも歯が立たない。
 治安隊の小部隊が苦戦していた5人の猛者は、数分で鎮圧された。
 ほっと息をついた男が、兜を親指で上げながらこちらを向く。

ヴァイキング4

「助太刀、感謝する……って、よく見たら旗を掲げる爪じゃないか。装備がかなり変わっていたから、誰なのか分からなかったよ」

 最初のクドラ信者討伐で同行した治安隊の男性である。
 あの時はただの一隊員だったはずだが、功績を認められて小部隊の部隊長に任じられたそうだ。
 彼との再会はほぼ一年ぶりに近く、だからこそ冒険者たちの身に付けている武具も、当時のものとはかなり違っているのだが…。

「……お願いです、ほっておいて下さい……」
「あー、彼女のことは置いておいて。ついでに、廃墟に巣食ってたクドラ教徒も捕まえておいたので、牢屋にぶち込んでおいて下さい」

 ウィルバーは自分の鎧に未だ納得のいっていないリーダーを放置し、アンジェが戦利品のように得意げに引きずり回していたローブの男を指差した。
 ロンドはと言えば、自分がスコップでぶん殴り気絶させたヴァイキングの荷物から、骨付きの牛肉を見つけ出してちょろまかしている――大暴れしたために、そろそろ腹が減ってきたらしい。
 テアが治安隊の隊員にいいのかと問うているが、よりにもよって治安隊を襲撃した輩の荷物なのだからと、あえて見て見ぬふりをしてくれるらしい。
 その一部始終を見てしまい、何となく頭と胃の痛くなってきたウィルバーだったが、

「ご苦労だった。今回の功績に対する報奨は、後日支払わせてもらう」

という治安隊隊長の言葉に、

「間違って別のパーティーに支払わないで下さいね」

と即座に付け加えるのだけは忘れなかった。

2016/06/12 12:04 [edit]

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