Sun.

ヴァイキング急襲!!その1  

 ”歪み”を持ってしまった鉱物の精霊を助けた事件から、1週間後。
 交易都市リューンは猛烈な残暑と……なぜか、ヴァイキングと呼ばれる北方の荒っぽい海賊たちの襲撃を迎えていた。
 その煽りを食らって、最近では治安隊が絶え間なく市内を走り回っており、物騒なことこの上ない。
 おかげで、≪狼の隠れ家≫の客足も途絶えがちである。

ヴァイキング
 旗を掲げる爪も、意気消沈とまではいかないが、通常よりは静かに常宿の酒場にたむろっていた。

「おかげさんで、湖城の街サルセカに行く前の懸案事項については、この混乱に乗じてすっかり情報操作が完了しているたぁ思うんだが…」
「暑苦しい。実に、暑苦しいことになってしもうた。サルセカが恋しいわい」

 懸案事項の当事者であるテーゼンが頬杖をついてため息を吐くのに合わせて、バイオリンの弦を調整し終わったテアが、遺憾だとでも言いたげに首を左右に振った。
 正式な依頼があれば、冒険者たちも治安隊と一緒に走り回ることも出来るだろうが、あいにくとそんな仕事が舞い込んでくることがなかったため、彼らは騒ぎがひと段落つくまで、≪狼の隠れ家≫に缶詰状態になっているのである。
 先輩冒険者たちは賢明にも、リューンがこんな大騒ぎに巻き込まれる前に他の都市――深緑都市ロスウェルや希望の都フォーチュン=ベル、或いは碧海の都と名高いアレトゥーザなどに出かけている。

「金狼の牙とか、どこ行くって言ってたっけ?」
「アレトゥーザじゃという話じゃ。そこであのパーティのリーダーが結婚式を挙げたことがあるんで、久々に遊びに行くそうでな」
「いいなー、碧海の都か。この季節に行くにはちょうどいいだろうぜ」
「ミカとナイトも2人で出かけたらしい。全く、わしらだけ出遅れてしもうたの」

 カウンター席で彼らの話を聞いていたアンジェが、ちょっとぬるくなってしまったミルクを一口飲んでぼやいた。

「うっかりしてたよねえ。仕事終わったばかりだったから、ちょっと休もうと思ったらこれだもん」
「これじゃ、ユークレースに世界を見せに行けないわ。困っちゃう」

 シシリーは光の精霊たちと同じベルトポーチに収めた、変わりゆく星空を凝縮したような鉱石へと視線を落とした。
 きらりと一瞬だけ光ったのは、「気にするな」という意思表示か、はたまた「早く今の事態を何とかしろ」という叱咤だったのか――。
 どちらの意か判じかねて、彼女は首を捻った。
 きょろきょろと辺りを見回したウィルバーが、不安げに仲間たちへ訊ねる。

「それにしても、先ほどからロンドの姿がないようなんですが…」
「大丈夫だ、白髪男なら。殺しても死なないから。レイスの【死の接触】を2回も受けてこの世に生還するくらい、命根性汚いんだぜ?」
「いや、そういう意味で大丈夫かどうかでなくてですね。知らない間に、トラブルに巻き込まれてるって可能性が高いので……」

 ウィルバーが全てを言い終わらないうちに、バタン!と大きな音を立ててドアが開いた。
 噂をすれば影、年不相応にごつい身体を戸口に現したのはロンドである。
 さすがに暑いということで、袖なしの短衣に七分丈のズボンの上から装備を身に付けているが、彼の場合は二つある武器のどちらも熱を発するものなのだから、夏にはつくづく不向きな男である。
 彼は短く、

「仕事、貰ってきた」

とだけ口にして、ずずいと右腕を突き出した。

「相変わらず、ぶっとい腕だね兄ちゃん」
「そこじゃない。こっち。シリーこれやる」

 彼がぐっと握り締めた手の中には羊皮紙がある。
 受け取ったシシリーが広げると、なんとリューンの治安隊からの正式な依頼書であった。

「『急募!現在、リューンはヴァイキングの襲撃を受けている。治安隊が迎撃に当たっているが、冒険者諸君の協力も求めたい。遊撃部隊として、街を跋扈する敵を掃討しすること。戦功のあった者には報奨2000spを与える。 リューン治安隊』……親父さん、この依頼って…」

 シシリーが読み上げた内容に、宿の亭主は皿を拭きながら頷いた。

ヴァイキング1

「ついに来るべきものが来たな。大陸の主要都市は軒並み襲撃を受けているし、いつかは冒険者に頼るだろうとは思っていたが…」
「私たちにも仕事が回ってきたんだから、治安隊だけではもう手に負えないってことよね」
「そういうことだな」

 亭主はあっさりとシシリーの言葉に同意した。
 横から羊皮紙を覗いて内容を確認していたウィルバーが、顔を上げて質問する。

「あの、ロンド。この依頼書を出した治安隊の方は、何か仰ってましたか?」
「ヴァイキングの人数、武器に関しては、はぐらかされた。『初心者でもできる簡単なお仕事です。どんどん参加してください』だと」
「何の慰めにも励ましにもなりませんね」
「どんな危ない労働条件の会社なのさ、それ……」

 半眼になったアンジェの横で、井戸水で冷やしておいた葡萄酒を貰ったロンドが一息に飲む。
 タン、と小気味いい音を立ててカップを置くと、彼は口の端に垂れた酒を拭いつつ付け加えた。

「そういえば、リーダーはヒゲモジャ・ハンズボンという男らしい。そいつが相手取るには面倒くさいと言っていた」
「ふーん、そうなの…」
「…で、シシリー。旗を掲げる爪はどうするんだ?」

 宿の亭主が気遣わしげに声をかける。

「今朝、街中に買出しへ行ってみたが、結構な有様だったぞ。この治安隊の依頼はうちにも仲介料が入るようだから、引き受けてくれるならそれに越したことはないが」 
「いい加減、片をつけられるならつけたい、とは思っていたもの。皆もそうでしょう?」

 リーダーである少女のセリフに、他の仲間たちも一斉に首肯した。
 多少の危険は承知のうえで、特に気負うでもなくベテランらしい反応に、宿の亭主は旗を掲げる爪もここまで来たか…と思いつつ忠告だけする。

「ほう、勇者だな。気をつけて行って来いよ」

 その時である。
 カタン、という音がして、2階から降りてきた者がパーティに声をかけてきた。

「君たち、その依頼引き受けるの…?」

 背中の半ばまで伸ばした赤毛を優雅に結い上げた男は、すっかりこの宿に居着いたバイオリン弾きのルージュ・ポワゾンである。
 彼はしきりに顔の前で手を扇いで風を作りつつ、

「だったら、ついでに僕の依頼も引き受けてくれると嬉しいんだけど…」

とお願いしてきた。
 とても嫌そうな顔で、老婆が「依頼?」と切り返す。

「僕の作曲活動が終焉を迎えようとしているのに関係することなんだけどね…」

ヴァイキング2

「また曲のインスピレーション云々かえ?今度はヴァイキングから舟歌を教えてほしいと?」
「いやいや」

 テーゼンが優雅な眉をひそめて問いかけると、慌ててポワゾンは否定した。
 ふるふると振られる首につられて、女性のような艶を放つ――そんな手入れする金もないはずなのに――赤い髪の先が首筋で揺れている。

「この有事にあって、そこまで非常識じゃないよ…ルーンタリスマンって知ってるかな?」

 ルーン文字は、ヴァイキングが崇める神・オーディンが作ったと神話で言われている魔法文字の系統の一つである。
 ルーン文字には一つ一つ意味と力があると考えられており、ヴァイキングやルーン文字を扱う民族の間では、石や装飾品にルーン文字を刻んだお守り――すなわち、ルーンタリスマンを身に付ける風習があるらしい。
 このルーン文字自体は非常に画期的な魔法発動の術式として知られており、現に賢者の搭でも、このルーン文字に関する著書や研究が日夜なされている。
 そういった魔法に関わるものであれば、専門だろうが専門外だろうが、ウィルバーが知らないはずはなかった。
 既知であるという返事を貰ったポワゾンが、魔術師の持つ知識の幅に感心するように頷いた後に、重々しい口調で言った。

「僕の音楽の才能が開花するような力を持つルーンタリスマンを、是非本場のヴァイキングさんから譲り受けてほし…」

 パコーン!といういい音の後に、ポワゾンは机に突っ伏した。
 空になったカップを、ポワゾンの頭に叩きつけた男が言う。

「そんな便利なルーンタリスマンがあるなら、俺たちだってリューン宝くじの一等に当選してる」
「そもそも、無才を道具で何とか出来るなら、こぞって皆が買っておるじゃろうて」
「懲りない人ですねえ」
「……まあ、彼は放っておきましょ。準備できたら街中にいくわよ、みんな」

 異口同音に「ハーイ」という返事があり、彼らは各々の荷物を取りに部屋へ戻った。

2016/06/12 12:01 [edit]

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