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Tue.

鉱床の遺跡その3  

 一行の目の前に広がったのは、石造りの広い通路――紛れもない遺跡だった。
 光の精霊たちの明かりに照らされる周囲を見渡し、シシリーが息をつく。

「これは……」
「結構、大きいですね」

 蝶のように舞うムルが、通路の大きさを確かめるように飛んでいる。
 さすがにトラップを発動させると危ないので、テーゼンがすぐに呼び戻したが。

「そこそこ古い遺跡ですね」

 そう判断を下したウィルバーは、床の様子や壁に入った亀裂などを念入りに調べ、

「老朽化が進んでいるとはいえ、遺跡内の機能は生きていると考えていいでしょう」

と仲間たちに告げた。
 リスのような仕草でアンジェが頷く。

「分かった。罠も含めて警戒しとくよ」

 皮の外套(だが魔法の品)を纏ったホビットが、年季の入った通路を慣れた様子で探索していく。
 依頼主であるルチルが、それを感心したように眺めた。
 ルチル自身もけして今まで冒険者と縁のなかった人間ではないのだが、これほど静かに素早く調査を行なう人材というのは稀有である。

「大したモンだね」
「うちの自慢の子じゃからの」

 老婆の胸を張る様子は、血が繋がっていない筈なのに間違いなく孫を自慢する祖母だった。
 たまに厳しくしたりはしているが、基本、テアはアンジェを可愛がっている。
 アンジェ自身も、他の冒険者から子ども扱いされるのは好かないのだが、なぜかテアにだと「おちびちゃん」呼ばわりされても腹を立てない。
 その「おちびちゃん」が、さっそく見つけた罠はすでに壊れているようで、かつては勤勉に働いていたのであろうその仕掛けも、もはや何人が通ろうとも反応することはない。

「ちぇ。解除するほどのこともなかったよ」
「舌打ちするなよ。ないに越したことはない」

 珍しく正論を言ったロンドに「うう」と小さく唸って応えると、アンジェはランプさんに自分が次に調査をする方向を示して誘導した。
 既に風化したトラップが並ぶ通路の途中で、ランプさんの光を受けて静かに瞬いているものがある。
 地上でも見た青い鉱物が、無造作に転がっていた。
 ちょいちょい、とそれを人差し指で突付いたアンジェが依頼主へ訊ねた。

「この鉱物、召喚石に加工できるって事は、魔力を封じ込めやすい性質なの?」
「多分そうだけど、コツがいるぞ。作るのは火晶石より難しい」
「となると、魔法石の原石として売り出すのは難しいね……」
「売るつもりだったの?」

 碧眼を軽く瞠ったシシリーに対して、アンジェはこくりと首を縦に振った。

鉱床の遺跡5

「これだけ量があるなら、上手く売ることが出来たら一生左団扇で暮らせるんじゃないかと思ってね」
「さすがリアリスト……」

 半ば賞賛、半ば呆れたようにテーゼンが評するが、

「ひ、左団扇!?その話、詳しく!」
「いや、もしもの話で単なる暇つぶしの妄想に過ぎないよ」
「詳しく!!」

と目を輝かせたルチルが詰め寄っていくのを見て、呆れの割合が高くなったらしく、半眼でやり取りを見守った。
 その時――何となく、テーゼンの勘に引っかかるものがあった。
 とにかくルチルを落ち着かせて、アンジェに聞き耳を促す。
 ホビットがじっと耳を済ませていると、鋭い聴覚に人ではない何かが這う音が聞こえてきた。
 彼女は仲間たちにそれを伝えつつ、短剣を隠し場所から引き抜く。
 待つというほどのこともなく、一度戦った謎の妖魔がこちらへと向かってきた――三匹いる。

「こなくそっ!」

 今度はスコップを振り上げて能力を解放したロンドが、燃え盛る部分を思い切り敵へ突き刺した。
 ジュウウ…と焼けるような音はするものの、焦げる匂いは決して肉のそれではない。

(何かしら……むしろ、蝋の溶けるような匂いに近いような……)

 そう考察しながらも、シシリーの長剣が斜め下から妖魔を切り上げようとする。
 意外なまでの柔軟性を持って魔力を宿した刃を避けた妖魔は、伸びた身体を通路の隅に着地させて、プルプルとこちらを窺うように震えた。

「き、気持ち悪い動きね……」
「しかも結構タフなのな」

 テーゼンは気合を込めた穂先でもしとめ切れなかったことに舌打ちしつつ、反撃を避けてシシリーの隣へと飛び退った。
 ひゅ、と空気を斬る音がする。
 このままでは攻撃しにくいため、壁を蹴ってとっさに射線を確保したアンジェが、

(実体のあるものなら――これで!)

と鋼糸を腕輪から伸ばし、ぐるりとその身体に巻きつけて束縛した。
 弾力と粘性に飛んだ妖魔の身体が、まるで糸に縛り付けられたこんにゃくのようにぎゅうと縮んだ。

「よくやったアンジェ!マスタースコップの神威、受けてみろ!」

 ロンドはぐるりと腰をスイングさせてスコップを構え、真っ向から突き立てた。

鉱床の遺跡6

 中心部の石が砕け、たちまち粘液が蒸発する。

「あー…やっぱり、遺跡の中にもこいつらがおるんじゃのう」
「何らかの関連があるとは睨んでましたからね。想定内ではあります」
「そもそも、あの妖魔は何なんじゃろうな?実際に見てもよく分からん」
「恐らく、使い魔の一種でしょう。湖城で見たようなヤツの類に近いかと」

 かつて北のサセルカで戦った存在を思い出しながら、彼は答えた。
 魔物を量産していた悪魔たちは、自身も鏡の黒幕に操られた使い魔だったのだ。
 あの時、量産型の魔物は街の住民を核として作ったものだったのだが…。

「しかも手近な生物を使役するのではなく、鉱物に命を与えて動かしている。…1体作るだけでも高度な魔術だというのに、何体も作っているから凄いものです」
「ウィルバー殿にはできんのか?」
「私ではまず無理です。リビングメイルであるナイトに魔力を注ぎ込むだけで、私は一週間ほど寝込みましたからね」
「つまり、そんなに強い精霊がこの遺跡の奥にいるってことだよね」

と、警報装置を解除していたアンジェが口を挟んだ。
 シシリーが重々しく頷く。

「気を引き締めて掛かりましょう」
「……もし、鉱物に与える命を自分の命から削っているとしたら、私達と対等にやり合うレベルまで弱っているかもしれません。逆に、他人の命を鉱物に与えているとしたら、逃げることも視野に入れておきましょう」
「会ってからのお楽しみ、って事だな……」

 やれやれ、とテーゼンが肩を竦めた。
 ぐるりと通路を一周するように歩を進めていくと、矢の飛び出す罠があった他は、これといったトラップもないようである。
 一行は梯子の繋がっていた部屋の向かいにあるドアの前まで来た。
 立派な金属製のドアで、これ見よがしに重要そうな扉だったのであえて後回しにしていたのである。
 それにひょこひょこと近づいたアンジェは、盗賊の七つ道具をさっさと取り出して鍵穴の具合や扉の反応などを調べた。

「罠はないよ」
「よし、じゃあ開けてくれ」
「無理だよ、兄ちゃん。かなり特殊な鍵穴なんだ。一般的な解錠技術で開く代物じゃないよ」
「……そうか」
「これの鍵がどこかにある、ということじゃのう」
「今まで立ち入ってない所に行ってみましょう。まだわき道があったわよね?」
「うん、こっちの方にね」

 アンジェは今まで熱心に描きこんでいた地図のある地点を指差した。
 パーティが妖魔に2度ほど襲われつつその場所へ向かうと、さらに地下へ続く階段がある。

「行けってことだよな」

 唸るようなロンドのセリフに、全員が無言で首肯した。
 今度はスピカが舞うような動きで飛翔して、旗を掲げる爪が階段を下りれるよう辺りを明るくする。
 その明かりの下、ウィルバーが疑問を呈した。

「この遺跡は、どういう目的で造られたのでしょうか」
「さあ……手がかりはその辺に落ちてねえのか?」

 真っ当に答えたテーゼンの言に、彼は首を横に振った。

「造られた年代はおおよそ分かります。しかし、周りに遺跡がないこの場所に作った理由が分かりません。他人に見られたくはない何かを隠すため……?」
「そうなると、隠し財産などが思い当たるんだがのう」
「だといいですがね」

 ウィルバーが嘆息する。
 今まで見つけたそれらしい”お宝”は、瓦礫に紛れ込むように落ちていた奇妙な機械くらいで、ガラクタではないと知った途端に目を輝かせ始めた依頼主に、渋々渡してしまっていた。
 地下二階のエリアにもいくつか生き残っているトラップがあるようで、時折、アンジェが外套を着た背中を丸めるようにして屈みこみ、取り出した道具で動きを無効化している。

「催涙ガス発生装置に、大量の矢ぶすま……生き物っていうか、モロ人間を警戒してるよね。これ」
「で、矢の罠のところにある扉……なわけね」
「罠は多分なし。鍵が閉まってるけど…開けちゃっていいね?」

 針金を袖から出したアンジェが確認し、鍵穴にそっと差し入れた。
 微細な動きを滑らかに行い、まるで正規の鍵を使ったかのようにスムーズに扉が開いた。
 中を覗きこむと、明らかに人が住んでいたであろう空間が広がっている。
 小さな本棚、机、椅子、寝台、そして――白骨死体があった。
 ロンドがじっとそれを見つめる。

鉱床の遺跡7

「まさか……これが精霊?」
「そんな訳ないでしょう!……ただ、精霊に関係している可能性は高いですね」

 すかさず否定をしておいてから、ウィルバーは周りを取り囲む本棚へ視線を走らせた。

2016/06/07 11:52 [edit]

category: 鉱床の遺跡

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