黒幕と思われる最後の悪魔を倒した、一週間後のことである。
 サルセカを含む北方の大部分を収めているニージュ公爵から、この地に休養のため留まっている旗を掲げる爪の一行へとある書状が届いた。
 領主の館に程近いある地域に、なんと黒い竜が現れたというのである。
 ニージュ公爵は自分の騎士団をもってこれに当たらせようとしたが上手くいかず、高名な傭兵を雇い入れたものの、彼は奮闘空しく竜に敗れたという。
 やむを得ず今度は強い冒険者を探していたところ、救援要請の出ていたサルセカに、リューンでも有数の高レベル冒険者パーティが滞在していることを知ってこちらへ連絡してきたらしい。

黒竜
 道理でサルセカの町長が助けを求めても、なかなか領主からの返事がなかったわけだ。

「それにしても、黒竜ですか……」
「おっちゃん、知ってるの?」
「同じ宿に所属している金狼の牙が、エルリースという都市で暗黒邪竜を倒したことは聞いています。あれはエンシェントドラゴンだったそうですが…」

 エンシェントドラゴンは、神や悪魔にも匹敵するという学者も存在する伝説の魔物である。
 ニージュ公爵の土地に出現した竜が、それと同じクラスかはまだ不明であるものの、一般的に黒い色の竜は、凶悪な生命力を誇る竜族の中でも、えして気性の荒く強暴でタフな種だとみられている。
 そして、個々の黒竜により、何らかの特殊能力を備えている場合もあるという。

「私が魔術師学連にいた頃に報告のあった例では、”存在を消去する”という恐ろしいブレスを吐く黒竜もいたそうですよ」
「何それ、反則じゃん!」
「大きさはどのくらいか、予想できるかしら?」
「竜族の平均全長は30メートル。こないだの湖城で戦った猫型悪魔の10倍です」
「あれの10倍か…それは凄い」
「生きている年齢が高ければ高いほど、ずる賢さも身につける。どのくらい年取った竜か、こちらの書状からは分かりませんね……」

 テアは羊皮紙を改めて読み、報酬の辺りでうむむと唸り声を上げた。

「銀貨3000枚…湖城の悪魔退治と同額か。手強いじゃろうの」
「一匹で3000枚だからなあ…けど、勝てないなら逃げ帰っても咎めはしないってさ」
「なんだよ、黒蝙蝠。怖気付いたのかぁ?」

 湖城での鏡の敵の戦い以来、どことなく意気消沈とした様子のテーゼンを励ますつもりなのか、ロンドがからかうような声音で挑発する。
 そうとなれば元々犬猿の仲である相手のこと、黙っていられなくなるのが性分で…。

「なんだと、白髪男。僕は頭空っぽのお前とは違うんだよ」
「は、よく言う。悪魔が竜を怖がってるなんて、どんな御伽噺でも聞いたことないぜ」
「誰が怖がってるだと!?もういっぺん抜かしてみやがれ、でくの坊!」
「あーもう、2人とも静かにしてちょうだい!」

 仲間を諌める為に大声を上げたシシリーは、どうにかこの依頼を請けて貰えないかとこちらの顔色を窺っている町長に目を向けた。
 何しろ、自分のところの領主の要請である。
 もしもここで断られたら、自分たちのほうにお咎めが来るのではないかと内心冷や汗を掻きっぱなしなのだろう。
 さすがに竜が相手ともなると即答できかねて、シシリーはウィルバーにそっと視線を送った。
 自分たちで倒せるのか?という質問を込めた目である。
 ウィルバーは冷静に自分たちの戦力と、書状で明らかとなっている竜の力とを比べ始めた。

(相手はタフで知られる黒竜……ですが、亡くなった傭兵のおかげで20もあるという命のうち、一つはすでに削られている……恐らく、竜族特有のブレスも再生能力もあるでしょうが……)

 何とかなるのではないか、というのがウィルバーの結論であった。
 そもそも、黒竜の防御能力が完璧であれば20もの命は持っていないはずである。
 異様なまでの蘇生能力があるからこそ、他の黒い色の竜よりも鱗の耐久性は低いのではないか、というのが彼の予測であった。
 ただ、予測はあくまで予測でしかない――最終的な結論が下されるのは、いつも実戦の中である。
 ウィルバーは全てを話した上で、結論をリーダーの少女へと託した。
 そして………。

「うおー、やっぱり聞いていた通りに大きい」

 ロンドが上を見上げながら感に堪えぬような声で言った。
 彼らの上空には、ニージュ公爵が退治を依頼した黒竜が舞っている。
 テアの【愛の手管】を皮切りに、ウィルバーやテーゼンも防御的な魔法を味方に施した。
 黒竜は我が物顔で青い空を引き裂くように身をくねらせていたが、やがて自分の真下に妙な気配を漂わせている人間たちを発見すると、その姿が不快だとでも言うように咆哮し、こちらへ向けて急降下してきた。

「来たよ!」

 アンジェがそう忠告しながら、腕輪から引き出した鋼糸で妖艶な女の傀儡を作った。
 【艶麗の哄笑】でダメージを与える心積もりである。
 今回は半ば以上空中戦だろうということが分かっているので、ウィルバーは全員の背へ【飛翼の術】による白い羽を与えていた。
 テーゼンにいたっては、これで自前のものと合わせて4枚羽である。
 まず竜は、動きの鈍いテアを目掛けて鉤爪を振り上げたのだが、それが下ろされた先には盾を構えたシシリーが滑り込んでいた。
 若木のような身体が、必死に≪カイトシールド≫を掲げながら、これまでにない剛力の攻撃を凌ぐ。
 腕に途轍もない衝撃が走ったが、どうにかそれを堪えて押し流すと、彼女は返す刀で竜の鼻先へ炎を宿す刀身を叩きつけた。
 こちらを吹き飛ばすかのような咆哮が響く。

「アンジェ、いくぞ!」
「任せて!」

 槍を振り回し、腕を巻き込んで薙ぎ払ったテーゼンの後ろにいたアンジェが、傀儡を操って哄笑を響かせる。
 たちまち魔力を帯びた音波による衝撃が、ずたずたに鱗を引き裂いた。

「!?」

 驚いた竜が上空へ一度逃れようと上を向くが、魔法の翼の力を借りたロンドが、竜の頭の遥かに上から体当たりを決行した。

「おらぁああああ!」
「嘘でしょ……ロンド、どれだけ無謀なんです」
「今さら言うても仕方あるまい。しかも、ちゃんとダメージを与えおった」

 呆れたように年長組みが首を振るのもしかりで、誰が竜族相手に肉弾戦(しかも格闘)しようというのだろう。
 いつブレスが自分に襲い掛かるかもしれないのに、無謀の極みである。
 つくづくとんでもない仲間だ、と認識を新たにしつつ、ウィルバーは中空に召喚の陣を描き、非実体をも齧りつくす鼠達を飛ばす。

「負けてはいられませんからね!」

 シシリーが腕に受けた衝撃を【至る道】による治療で治しつつ、彼は攻撃を竜の眉間へとぶつけた。
 続けざまにテーゼンが連続の突きを同じ箇所に叩き込む――竜は一度目を閉じ、がくりと頭を垂れたものの程なく生気を取り戻した。

「前情報通りだな。蘇生しやがった」
「はてさて、こちらの被害も恐ろしいがの」

 再び振り下ろされた竜の鉤爪を盾一枚で受け流すシシリーの身体は、見た限りでは出血こそ派手でないものの、その身に蓄積するダメージは相当のものであるはずだ。
 テアは巧みにバイオリンの弓を操り、【安らぎの歌】で仲間たちの――とりわけ仲間を守らんと動いている娘の、体力を回復せしめた。
 重傷まで追い込まれた者こそいないものの、やはり竜――手強い相手である。
 生半な傷などは全て自前の再生能力で回復し、強烈な鉤爪や牙がこちらを捕らえようと振るわれる。
 シシリーも頑張ってはいるものの、片方の爪を受け止めたと思った途端、もう片方の爪が今度はウィルバーの身体を引き裂いた。

「ぐっ……!?」
「ウィルバー!」
「だ、大丈夫ですとも。動揺してはいけません、こんな傷ぐらい……!」

 すぐ回復できます、という呟きと共に、彼の内から溢れる命の流れが術者自身の負傷を塞がんと動き始めた。

黒竜1

 さる幽霊列車自体を下敷きにした、死霊術の禁呪――その一端を担った魔法の応用である。

(しかし、少々こちらの分が悪い――一撃の重さが、これまでとは桁違いですね)

 今しも、相手の牙を避け損ねたアンジェが多量の出血で膝をついたばかりである。
 いつもの身体能力を向上させる補助魔法のほかに、魔法の翼の助けもあるというのに、なお黒竜はこちらへ攻撃を当ててくるのだ。
 おまけに戦ってみて初めて分かったことだが、この竜のブレスはニ種類あるようで、炎のほかに毒も吐くのである。
 幾度か先ほどのように竜が目を塞ぎ、倒れたというように見えることもあったのだが、そのたびに強力な蘇生が働いて起き上がってくる――まるで終わらぬ悪夢だ。

「きりがないわ……」

 シシリーはこちらへ迫ってきた右の鉤爪へ、【劫火の牙】による斬撃を叩きつけた。
 金色に輝く珠を握った腕がだらりと垂れ下がり、そのまま動く様子がない。

(……蘇生しないの……?)

 そのことに気付いたシシリーは、ハッとなって【御使の目】の祈りを唱え、黒き竜を見通した。
 案の定、竜の腕は再生能力を備えていても、蘇生する力を持っているわけではない。

「腕よ!腕を先に切り落として!」

 突然叫んだリーダーの言葉に、疑問を挟む間もなく反応したのはアンジェとロンドだった。
 彼らは頭部に向けていた愛用の武器を、とっさに腕へと狙いを変えて攻撃したのである。
 ロンドのスコップは目標から逸れてしまったものの、アンジェは鋼糸による会心の一撃を、竜鱗をものともせずに突き刺した。
 固有の蘇生能力――手に握る竜珠の仕掛けを見破られたと知った竜が、鼓膜の破れそうなほどの咆哮を冒険者たちにたたき付ける。
 テアとは違う形の音による衝撃波が、旗を掲げる爪の身体を切り裂いた。

「こ……こんなとこで」

 シシリーの前に出て庇っていたテーゼンが、重傷に陥りながらも、気合の篭った穂先をスピードに乗せて振り抜く。 

「倒れて……たまるかっ!」

 彼の槍は見事に竜珠を握った左腕を切り落とした。
 それを間近で見届けたロンドが、負けじとスコップを振り上げる。 

「こいつで終わりだああああ!」

 炎を噴くスコップは黒竜の眉間を断ち割り、竜の最後の命を奪った。
 どうと土煙を上げて倒れた竜の姿に、遠くから冒険者たちの戦いを眺めていた見届け役の騎士たちから歓声が上がる。

「あ、あ、あ、危なかった~!」

 がっくりと膝をついて無事を喜んでいるアンジェの傍らで、ついに出血多量に耐え切れず気絶したテーゼンの身体へ、自身も決して軽くない怪我を負っているシシリーが治療の為にじり寄る。
 未だに自分の体内に留まっている死霊術による命の流れを利用して、ウィルバーはテアやアンジェの傷をちょっとずつ塞いだ。
 やがて見届け役がこちらへ駆けつけてくるであろうことを期待し、ロンドはどっかりとその場に大の字になって寝転がった。
 その体勢のまま、反省を口にする。

「やっぱり竜は強いよな。もっと精進しないとダメだ」
「兄ちゃん、まさか……。この後も、また竜と戦うつもりでいるの?」

 人の悪い笑みを浮かべたロンドは、妹分の質問にあえて何も答えようとはしなかった。

※収入:報酬3000sp+3000sp、【緑目の怪物】≪解毒剤≫≪薬草≫≪ブルーレディ≫×3≪フロウズンレイク≫×2≪傷薬≫×12≪聖水≫×2≪カレー≫×2≪魔力の実≫×26≪氷の魔石≫×20≪氷の結晶石≫×8≪魔界の桜餅≫入手。≪氷の魔石≫×20を≪からかぜグローブ≫と交換し、残り素材を換金して2260sp入手。
※支出:手品師と黒猫の館(島兎様作)にて【最後の審判】、青のハイドランジア(Z3様作)にて【神薙ぎ】、Welcome to Adroad!!(AACWProject様作)にて【漂う糸】、見習いの研究室(罪深い赤薔薇の人様作)にて≪ビキニアーマー≫【影のパレード】、城砦都市キーレ(ブイヨンスウプ様作)にて【愚鈍の霧】を購入。【愚鈍の霧】は風渡り(焼きフォウの人様)にて256色カードに交換。とりまの問屋(鳥羽亭様作)にて≪姫桜の扇子≫、深緑都市ロスウェル(周摩様作)にて≪抗魔の外套≫、桜の下の幻(青闇様作)にて≪桜雨のリング≫を購入。
※梨野様作、凍える湖城&作者名様不詳、20の命を持つ黒龍クリア!
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■後書きまたは言い訳
記念すべき50回目のお仕事は、梨野様の凍える湖城と、20コンテンツシナリオから作者名様の分からない20の命を持つ黒龍です。
例によって、龍と戦える20コンテンツは面白いけど単独じゃ短いな…と思ったため、街シナリオは現パーティでリプレイ書いてないのですが、例外的に前回の依頼をベースに違う都市へ出かけた先のお仕事として書かせていただきました。
そのため、この二つのシナリオはクロスオーバーなさっていませんが、湖城の街を黒龍被害に遭った公爵の領地として書かせていただいております。
シナリオ内のセリフをなるべく生かしたつもりですが、話の流れ上、どうしてもオリジナルで書く部分が多かったかなと思います。
梨野様、黒龍シナリオの作者様、ご不快でしたら申し訳ございません。

以前にやったIn the mirror(つちくれ様作)が凍える湖城に影響を受けた作品で面白かったのですが、やはりこちらもこちらで楽しいですね。
パーティに巻き起こるイベントや雑談の妙が、何度やっても飽きないです。
実はまだ酒場での持ち上げイベントやかまくら合戦が終わってない(おまけに犬ぞりまだ優勝したことない)ので、その内に再挑戦してあげたいなと思います。
それはそれとして…なんだかパーティ内に恋の予感っぽい何かが漂ってますが、これは何となく筆が滑ったって言うか…。
前回の仕事であれやこれや働いてたテーゼンが妙な反応をしてたので、「もしかしたらこれって」と思った私が片思いクーポンをつけて凍える湖城をテストプレイしてみたら、ものすごくしっくりきたのでやらせるしかないと。
前パーティの公認カップルでさえロクにラブシーン書かなかったし、高レベルまできて今さら書く羽目になるのはどうかと思うのですが、どちらにしろハッピーエンドにはならない2人です。
これって成就させていいのかなー。今のところ、成就させちゃったら信仰を捨てる(スキル全部廃棄)か、悪魔辞めるか(死亡?)しか道がない。
不毛すぎてやる気出ない…。

黒い色の竜族に関する情報は、敵意の雨(JJ様作)や黒い竜の殺し方(norigin様作)からちょっと設定をお借りした結果、ああいうことになりました。
後者とか対象消去のブレス吐くので、本気で死ねます。特殊能力怖い。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2016/05/31 11:59 [edit]

category: 凍える湖城後の20の命を持つ黒龍

tb: --   cm: 0

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