--.

スポンサーサイト  

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--/--/-- --:-- [edit]

category: スポンサー広告

tb: --   cm: --

Sat.

死こそ我が喜びその5  

「やっぱりなー!ただじゃすまないと思った!」

 そうアンジェが声をあげているのは、先ほどよりもさらに下の階層に進んだ小部屋の中である。
 階段に繋がる通路から見て左右の壁には木の扉が、奥の壁には大きな金属製の扉があり、その左右の扉から調べてみると、ドアノブという物が付いていなかったのである。
 よく見ると、扉の上方に小さな木枠が三つあり、左から赤・青・黄に塗装されていた。
 また、各木枠の下には箱が付いていて、中には各色の金属板が3枚ずつ入っている。
 思いもかけぬ現金収入もあり、ついつい浮かれていた一行だったのだが、ここに来てついに脳みそを働かさなければいけない側面に来たようだ。

死こそ喜び9

「どうやら、各々の色の木枠に正しい金属板を嵌めれば、扉が開く仕掛けになっているようですね」
「そんなの大体分かるよ!問題は、全然っ、この金属板の文字が読めないってこと!」
「そうそう怒鳴るのではないよ、おちびちゃん」

 ひょい、と金属板を両手に持って憤慨しているアンジェから奪い、テアは目を細めた。

「……上の台座と同じ文章を作れ、ということじゃろうの。わしとしては、ここを開けて良いのかどうか分からんのじゃが」
「どういうことです?」
「解読したとおり、ろくな文章ではないからな。この先にあるのが、クドラ教徒にとって大事なものでも、世俗のものにはそうではないという予測がつく」
「…貴重な司祭長の死体だったり、クドラにしか意味のない文章だったりということですか…」

 テアはゆっくりと首肯した。

「前者でも後者でも、こちらに害を及ぼさぬ限りは放置しておけばよいのじゃが…見てみないことにはなんとも言えぬよ。シシリー殿、どうする?」
「…開けてみてちょうだい。もし何か襲い掛かってくるものなら、私が責任もって前に立つわ」

 落ち着いた様子で長剣の柄に片手をかけ、いつでも動ける体勢にうつったシシリーに安堵し、テアは上の階で二番目に見かけた文章――死を喜び迎え入れよ――という金属板をはめ込んだ。
 三つ目の板を押し付けるとともに、鍵の外れるような音がする。
 そっと扉をシシリーが押してみると、何の抵抗もなく開いた。
 彼女を先頭に部屋に踏み入ると、その部屋の奥にはこれまでに2回破壊してきた石像がまた存在していた。
 ナイフを手に持った誇らしげともこちらを嘲るとも取れる姿は、妙に見る者の心へ不安でできた澱を生み出すようだ。
 部屋自体のトラップを調べ終わったアンジェが合図を出すと、テアが石像の台座にあるプレートの文字を読み取った。

「『竜を再び立たせ給え』とな?何の事じゃ?」
「……竜」

 呆然とした様子で呟くウィルバーに、老婆が怪訝な顔を向けた。

「どうした、ウィルバー殿?」
「最下層に潜む竜です。司祭が言い残した…竜は”死の女神”キュベルの祭具の番人なのでしょう。だとしたら、キュベルの石像は、竜へ何かしらの力を与えている存在なのではないですか?」
「…結界の要石のようなものか。そういうこともあり得そうだな」

 早口になったウィルバーの説に、何とか理解の追いついたテーゼンが同意する。
 何らかの大掛かりな魔法を永久に固定化しようとした場合、何も使わずに行なうよりは、”核”となる何かを設置して執り行う方が、魔法の成功率は高まり、魔力の消費も抑えられるのは賢者の搭の定説となっている。
 テーゼンが言った結界の要石もその一つで、人除けなどの何らかの目的を持った結界を固定化しようとする時は、魔力の篭った石などを中心において形成する者が多い。
 このクドラの古代神殿における石像も、クドラの分派が何らかの魔法――この場合は、十中八九番人である竜のための何か――を保つための手段なのだろう。

「そういうことなら、壊すに越したことはねぇよな」
「その通りですね。さっさとやってしまいましょう」

 キュベルの石像を破壊すると、もう一つの部屋の仕掛けも解き明かし、先ほどの部屋と同じように設置されていた石像の台座の文字を読み取る。

「ウィルバー殿の推測は正しいようじゃ。こっちには、『竜を悪しき力から護りたまえ』とある」
「よし、ロンドお願いします」
「任された!」

 無造作に振り下ろされたスコップが、キュベルの石像を脳天から打ち砕いた。
 こうなってくると、金属製の大きな扉の向こうにいるのは、恐らく竜なのだろうと全員の意見が一致する。
 強敵相手にこのまま突っ込む前に、これまでのレイスやスケルトン相手の戦いで多少の傷も負っていたため、治療を施しておきたいと荷物袋を漁ってみた。

「あ、思い出の一品みっけ。魔女さんが作ったパンだよ」

 アンジェが取り出したのは、失明しそうな娘のために薬草を求めた、さる優しい魔女が焼いたパンである。
 得意げにパンを掲げるアンジェの姿に、ロンドが眉をしかめる。

「どれだけ前の奴だ、それ。もう一年は経っているような…」
「あら。でも全然、黴が発生したり、固くなったりしてないわ。さすが魔女さん」
「皆で分けあって食べておきましょう。ちょうど空腹でしたからね」

 柔らかな弾力を保ち続けているパンは、ちょうど人数分あった。
 小麦の美味しい風味を残したパンを口いっぱいに頬張り、冒険者たちはとりあえず腹の中の虫を静かにさせる。
 強敵と思われる竜との一戦に際して、各々が装備を見直しし、もう一度支援をかけて扉の向こうへと進むことにした。
 シシリーがランプさんを自分の頭上に浮かせて、大きな扉に手をかける。

「開けるわよ…」

 ズズズ…という重々しい音とともに、扉が開く。
 十メートルほどの通路を抜けると、そこは巨大な空間になっていた。
 あまりにも広いために、ここからでは明かりが奥まで届かない。
 どしん、と床が……いや部屋全体が揺れた。

「何かしら…」
「構えろ。敵だ、シリー」

 ロンドがスコップを構えたのと同時に、暗闇に包まれた部屋の奥から不気味な地響きが聞こえてくる。

死こそ喜び10

 やがて姿を現した”それ”は、”竜”と呼ぶしかない巨大な骨の番人だった。

「竜骨……これが、竜ですか!」

 魔力集中のために≪海の呼び声≫を掲げながらウィルバーが叫ぶと、何かに気付いた老婆がベルトポーチに手をやり、取り出した品物をこれから飛ぼうという体勢に入っていたテーゼンへと、意外なほどの正確さで投げつけた。

「こいつを頭に振りかけるんじゃ!」
「了解、ばあ様!」

 そうやって叫んだのが悪かったのか、骨の竜の頭が、巨大な顎を開いて枯れ木のような老婆へと噛み付いてくる。
 到底避けられるものではなく、並みの冒険者であればひとたまりもなかったろうが――ウィルバーが部屋に入る直前に唱えた防護の魔法【魔法の鎧】は、不可視ながらも確かにテアへの攻撃を軽減させ、一瞬だけ高い音を立てた。

「てめっ、ばあ様に何しやがる!」

 テーゼンが思い切って”竜”の頭にテアから貰ったもの――解呪の粉薬を景気よくぶちまけると、まるで椿の花が枝から落ちるかのごとく、”竜”の頭が床に転がった。
 この戦闘を生き延びれば、回収することもできるだろう。
 骨の脚に叩きつけようとしたロンドのスコップは空を掻いたが、充分に狙いをつけていたシシリーの剣技【十字斬り】は、確かな手応えをもって骨に斬りつけていた。

「大丈夫、いけるわ。テアの怪我は私が治すから、皆は攻撃を続けて!」

 リーダーの言葉に元気よく応えた仲間たちは、続けざまに攻撃を骨の竜へと叩き込む。
 尾の攻撃が上空へと飛び上がったテーゼンを鞭のように打ったものの、彼は体を回転させて急所を外し、攻撃の方向に逆らわずに叩き付けられる事で重傷を回避した。

「ウィルの説が合ってれば弱体化してるはずなのに、えらく強いぜ…」
「でも……脚はこれで、終わりです!」

 ウィルバーの唱えた死霊術が波動となって骨に襲い掛かり、脚部がたちまち砕け散る。
 テアへの【癒身の法】を終えたシシリーも、対多数のアンデッド対策に覚えた技を披露した。
 祈りを宿した刀身が美しい軌跡を描き、不浄の存在へより深い傷を刻んでいく。
 痛みはないだろうが、自身の存在を脅かされていることには気付いたらしい骨の竜が、残った箇所を狂ったように暴れさせた。
 肋骨の一本がロンドにぶつかり、大きな体躯が吹っ飛んだ。

「つうっ……効くなぁ」
「立てるか、白髪男?」
「まだ大丈夫に決まってるだろ…おねんねにゃ、まだ早いぜ」
「よし、行くぞ!」

 体に負ったダメージを回復させようと、テアが歌う【安らぎの歌】を応援歌に2人が動く。
 骨竜の懐に潜り込んだロンドの体が回転し、強烈極まりない肘うちを叩き込む。
 その攻撃によって出来たひびが胴体全体に回る前に――今度は、尾のある一点を目掛けて、テーゼンが槍を連続して突き出した。
 巻き起こる風すら編み込むかのような、強引な刺突――およそ実体のある獲物ならば逃がすことのない、【風縫い】の技であった。
 テーゼンが狙ったのは、尾を稼動させる関節の大切な一点である。
 それが穂先によって砕けると、後はガラガラと崩れていくだけであった。

「勝った…!」

 小さな短剣ではなかなかダメージを入れられなかったアンジェが、喜びの声をあげる。
 彼女のどんぐり眼が崩壊を見守る中、ようやく収まったところで、比較的無傷で転がっている竜の頭の骨を素早く見つけた。

「あ、これ!おばあちゃん、ありがとう!」

 鼻歌交じりに近寄ると、大きな頭蓋骨を無謀にも自分の荷物袋に入れようとして、

「お前じゃ無理だ!そんなもの背負ったら、絶対ひっくり返るぞ?」
「よく考えろ、アンジェ。力仕事は白髪男にやらせるべきだ」

と男2人掛かりで引き止められている。

「それにしてもテア、頭が落ちた時は何を投げたの?」
「『解呪の粉薬』かえ?死霊術で操られている番人ならば、解呪によって骨がバラバラになってしまうんじゃないかと思ってな……わしの目論見が甘すぎて、たまたま頭が落ちたんじゃが」
「……それ、間違ってもアンジェに言わないでね。ラッキーだったけど」
「結果オーライですよ。また収入が増えます」

 砕けている竜の骨を残念そうに見下ろしていたウィルバーだったが、部屋の奥の方へと視線を向けて言った。

「さて、これがマグヌスの手下たちが苦戦した”竜”だったというのなら――この奥には、目的の”絶命の刃”があるはずです」
「!!そうね、そうだわ!」

 勢い込んで頷いたシシリーは、頭蓋骨に騒ぐ仲間達を呼び戻し、依頼の主目的であるクドラ教の祭具があるだろう部屋の奥へと歩を進めた。
 案の定――といったところか。
 昔、ハロウィンの季節にクドラ教徒の討伐をした際に見たような形式の祭壇が、大きさも古さも遥かにスケールアップした形で彼らの目の前に横たわっている。
 祭壇の上には、一振りの剣が置かれていた。

「この剣が『絶命の刃』なのね…これを持ち帰れば任務達成だわ」

 一見すると装飾を施された長剣とも思えるが、普通の剣に比べて柄の部分は太く長い。
 これを通常の剣と同じように振るうのは、ほぼ不可能だろう。
 あくまでも儀式用の剣ということか――シシリーは周囲に気をつけながら、祭壇から目的の剣を回収した。
 そして、元来た道を通って地上へと戻ろうとしたのだが…。

「ちょっと待って」

 隠された入り口の前の部屋まで来て鋭い声を放ったホビットに、他の仲間たちに緊張が走る。
 彼女はぺったりと床に耳をつけると、そのまましばらく目を閉じて聞き耳に集中した。

「十数人くらい、かな?誰かすぐ外にまで来てるよ。これってきっと、マグヌスたちだよね」
「私たち、遺跡を入るのに正面は通らなかったのよ。どうしてこっちに?」

 怪訝そうなシシリーの言葉に、テーゼンが何かに思い当たったように美貌を歪める。

「やべっ。そういや、僕らの入った入り口を隠すよう偽装工作してなかった…」
「そりゃばれるのう」

 のんびりと首を縦に振ったテアだったが、決して油断していたわけではなかった。

「なあに、ちょいと戦う時間が増えただけじゃ。もう一度支援をかけるくらいは出来るぞ。ウィルバー殿もテーゼンも、出来るじゃろ?」
「ええ、無論です」
「ああ。悪かったな、みんな。今すぐ掛けなおすわ」

 彼ら2人が改めて仲間たちへ支援の魔術を行なう中、テアは落ち着いた挙措でアンジェのポケットを指差した。

「おちびちゃん、せっかくだからマグヌスたちに”それ”を返してやったらどうじゃ?」
「……ああ、これ?そうだね、使ってみようか」

 彼女がポケットに入れていたのは、この古代遺跡の直前にあった橋に仕掛けられていた火晶石である。
 秘術により、炎の精霊を封印したこの水晶は、衝撃を与えると激しい爆炎と共に周囲に破片を撒き散らすことで恐れられている。
 燃え盛る炎を宿す石を握ると、悪戯っぽくホビットが笑った。

「ラゲル村で襲撃を受けるよりは、ここで決着をつけられる方がこちらとしても気は楽だよね、姉ちゃん。あまり気負わずに行くのが良いと思うよ」
「…その通りね。ありがとう、アンジェ」

 シシリーは≪Beginning≫を握り直すと、深呼吸をひとつした。
 吐き終わったと同時に、地上へ続く階段を剣で指し示す――”死の祝福教団”との戦いは、きっとこれで最後だ。

2016/05/28 11:39 [edit]

category: 死こそ我が喜び

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。