Mon.

ウニ退治後の夏の休日その2  

 波の打ち寄せる音、細かな砂の続く浜辺、そして……そこには、大量のウニが蠢いていた。

「おい!」
「落ち着け、ロンド殿。…にしても、なんじゃこの量は」

 老婆は呆れたように首を振った。
 ウニモドキは鳴くこともなく、浜辺に鎮座してたまにピクッと動く程度だ。
 正直、薄気味悪いとしか言えない。
 シシリーの口の端が引きつっている。
「ま、まぁ、たしかに言われてみればウニに似てる気もするけど……」
「うんにゃ、姉ちゃん。アレをウニと認めたくないよ」

 ウニの数は軽く100を超えるだろう――もしかしたら、4桁まであるかもしれない。

「……いったん引き返そう」

 アンジェのポツリと呟いた言葉に、なす術もなく全員が頷いた。
 もと来た道を辿り、坂を上りきった所でロンドが仲間に訊ねる。

「これからどうする?」
「そうね……。酒場や普通のお店なんかで、ウニモドキのことや被害者の状況なんかを聞き込みしない?もし、ウニモドキに弱点らしきものがあれば、そこをつけばいいわけだし」
「そうだな」
「それに、ウニモドキの攻撃スタイルだけでも聞く事が出来れば、こっちでどんな風に備えればいいのかも考えやすい。やるじゃねえか、リーダー」
「ありがと。……じゃ、まずは酒場で漁師に話を聞いてみましょう」

 6人があちこちを探した結果、大きな通りから少し外れた路地の一角に、案外と開放的な店構えの酒場を見つけた。
 看板には翼を広げたカモメの姿が描かれており、『酔いどれカモメ亭』と店名がある。
 真鍮製のベルを鳴らして店内に入ると、シックな基調のカウンターの向こうで、バンダナを額に巻いた若者がこちらを振り返った。

ウニ退治3

「ヘイらっしゃい」
「ごめんなさい。私たち、町長が依頼を出したウニ退治に来た冒険者なんだけど…」
「何か、あのウニモドキのことで話を聞けないかと思ってのう」
「お、あんたらがそうなのか?いやいや、助かった!」

 空いている好きな席に座ってくれ、とマスターは薦めてくれた。
 店内には、漁師らしいガタイのいい男が2人いるだけである。
 ロンド・テーゼン・アンジェ・テアがテーブル席に、シシリーがウィルバーとともにカウンター席に着くと、マスターは待ちかねたように口を開いた。

「ウニなぁ……考えれば考えるだけ、頭が痛くなるな。出自も不明、素性も不明。おまけに対処法も不明ときたら、そりゃもうお手上げってやつよ」
「あら…あまり分かっていることはないのね」
「すまねぇな。有効なものや情報はなさそうだ……あ、でも酒を売ってやることならできるぜ。退屈しのぎでもいい、見てってくれよ」

 後ろの棚からマスターが取り出したのは、酒瓶としてはかなり凝ったデザインのものだった。
 サイズがもう少し小さかったら、てっきり香水瓶と間違えてしまっただろう。
 シシリーが興味深そうにそれらを覗く後ろでは、テアが近くの男たちに声をかけ、浜辺の現状について聞き込みを開始している。

「ウニ退治に行くんなら……気をつけたほうがいい」
「ほう?どういうことじゃ?」
「あいつらは……自爆する。自爆して、針を飛ばしてきやがる」
「自爆」

 こくりと男は頷いた。
 逞しい身体つきにスキンヘッド、後頭部には西方諸国に属するある島々の刺青まである、見るからに肉体派だと分かる容姿なのだが、ウニモドキについて語る口調はやや途切れがちで震えていた。

「全部が全部自爆するってわけじゃないが……なんせあの量だ。一発一発が痛くなくとも、量で苦しめられる。気をつけてくれ、俺からの忠告だ」
「なるほどのう。貴重な話を聞かせてもらった、ありがとうよ」
「あの忌々しいウニの話か?」

 ちょっと離れた位置に座っていた青いモヒカンの男が、ブランデーの入ったグラスを持ってテアたちのテーブルへ近づいてきた。
 そのまま、スキンヘッドと同じテーブルの席に座り、

「あんたらが海に行くのなら、頼みがあるんだが……」

と口を開いた。
 腕組みを解いたロンドが反復する。

「頼み?」
「……奴らとの戦闘中、大事な指輪を落としちまってなぁ。無理にとはいわねぇが、もし浜辺で見つけたら……俺に持ってきてくれねぇか?ささやかなお礼をするぜ」
「落し物か。正直、あれだけのウニモドキ相手に、探しものをする余裕があるかは分からんが…」
「まあまあ、兄ちゃん。見つけたらでいいんでしょ?なら、引き受けてあげるよ」
「そうかい、ありがてぇ。俺の推測なんだが、あのウニ、軽く300匹はいるからな。手段を選ばずにつっこむつもりなら、よほど気を引き締めて掛かってくれ」
「うん、分かった」

 こうして旗を掲げる爪は、ちょっとした情報を得て酒場を出た。
 大通りに戻り、麗らかな日差しの注ぐ中、あちらこちらの店に顔を出しては情報収集を続ける。
 その結果……。

「じゃ、各自分かったことをまとめましょう。アンジェから」
「はーい。ウニモドキは目算で300匹くらいいる」
「たまに自爆する奴がいる」
「おまけに突進してくる奴もいるって話だぜ」
「棘に毒はないし、威力もたいしたものではないが、針を刺され続けると非常に危険じゃ」
「役に立ちそうなものは……雑貨屋で頂いた古い火晶石くらいですね」
「結局、ウニモドキの弱点とかはわかんないままだったのよね…」
「それは仕方あるまい、シシリー殿」

 老婆はケースからいそいそとバイオリンを取り出しつつ、彼女に声をかけた。

「弱点を知る前に退散させられた漁師がほとんどじゃ。海に出る者が、わしらのような装備をしとるわけじゃあるまい」
「まあね。私たちは私たちで、予め準備してから行く以外に無いだろうし」
「火晶石、あたしが投げていい?いいよね?」

 ワクワクしている様子のアンジェに若干の不安を感じつつも、シシリーは首肯した。
 実際問題として、仲間に被害の及ばないよう、着弾点に上手く投げつけられる腕前は、アンジェが一番だろうからだ。
 魔法や呪曲の援護を坂道で行なった冒険者たちは、持続時間が切れる前にと、さっそく浜辺へと再び駆け出した。
 浜辺には、相変わらず不気味な蠢動をしたウニモドキがびっしりといる。

「これを投げつければ……!」

 古い火晶石を思い切り振りかぶったアンジェは、一番ウニモドキが密集している地点へ投げ込んだ。

「食らえっ!!」

ウニ退治4

 ドドドーン!と轟音とともに砂の吹雪が舞った。
 大量のウニモドキは爆風に巻き込まれ、砕け散ったり海に戻ったりした。
 だが、まだ無傷のウニモドキが残っており、武装した冒険者たちを威嚇するように針を蠢かせている。

「行くわよ!」

 リーダーの号令とともに、一同はウニモドキへ得物を向けた。
 だが、旗を掲げる爪の行動よりも、ウニモドキが反応する方が早い。

「何!?」

 スコップを振りかぶったロンドの目の前で、シュー…と音を立てたウニモドキがいきなり自爆する。

「うおっ!?」

 多少の針は、事前にウィルバーが唱えておいた【飛翼の術】による羽が防いでくれたものの、いくらかはそれを通過して太ももに突き刺さる。
 ちくちくした痛みは大したことはないが、これを視界内にいるウニモドキが全部やり始めるとなると……ロンドは嫌な想像を振り払うように頭を振って、手近な敵を叩き潰した。
 作戦としては、ウィルバーを他の全員が守るようにして、彼に【凍て付く月】という氷系の最大攻撃呪文を唱えてもらうつもりである。
 一度放てば、火晶石で吹っ飛ぶような生命体なら全滅は間違いないだろうが、詠唱が長いために、魔法が完成するまでに時間を稼がなくてはならない。
 そのため、攻撃を盾や鎧の厚い部分で受け流しながら、隙を見てはウニモドキを叩いているものの、中には叩かれて爆発するものまでおり、アンジェやシシリーも腕に針が刺さり始めている。
 一番厄介なのはあまり回避能力に長けていないテアで、テーゼンが気遣わしげに彼女の無事を確認した。

「ばあ様、大丈夫か?」
「【魔法の鎧】のフィールドがまだ効いておるからの。それより、よそ見して顔に針を受けたりするなよ」
「やべ、まずい爆発するぞ!」
「またなの!?」
「もー、やだー!」

 まさに阿鼻叫喚である。
 それでもどうにか、ウィルバーが≪海の呼び声≫の先端にある宝珠へ冷気を湛える魔力を集め終わると、それを一気に敵陣へと押しやった。
 たちまち、黒く針を蠢かせた団体が極寒の氷の地もかくやという冷風に切り裂かれ、カチカチに凍りつき、生き残りの全てがその生命活動を停止した。
 がくりとロンドが膝をつき、針の傷みに声をあげる。

「終わ……った……いてえ!」
「翼に刺さった……」

 愚痴を言いながら針を抜き終わったテーゼンが、仲間達を見やった。

「……さあ、町長に報告しようぜ」
「……ん?ちょっと待て、黒蝙蝠」
「なんだ、白髪男」
「どうしたの、ロンド?」

 また口喧嘩が始まったら面倒だと、シシリーも口を挟む。
 だが、ロンドの意識は悪魔ではなく、浜辺の砂に埋もれるようにして光っていた物体に向けられていた。

「これ……」

 彼が太い指で摘みあげたのは、花の意匠がついた可愛らしいデザインの銀の指輪だった。
 アンジェが腕に刺さった針を抜きながら言う。

「あ、それ!酒場の人が言ってた落し物じゃない?」
「そういや、そんなこともあったな。報酬貰ったら、届けておくか」

 彼はそれをポケットに入れると、仲間達を促した。

「さて、今度こそ帰ろうか」

 その後……。

ウニ退治5

「一匹残さず、全て退治しました」

と、浜辺を覆い尽くすほどの凄まじい猛吹雪を発生させた人物が、ケロリとした顔で町長に報告し、報酬を受け取った。
 また、酒場にいた男に指輪を返却すると、顔に似合わず丁重に礼を言われた。
 ずいぶんと可愛らしい女性の好むデザインだと思っていたら、実は母親の形見だったらしい。
 彼からは、浜辺に流れ着いた美しい輝石を貰った。
 売れば金の足しになるだろう、という彼の言葉どおり、その透き通った石は海が凝縮したような不思議な蒼さを持っている。
 いい物を貰ったと、冒険者たちは喜び――その日、町長や町民の好意で、彼らはシーサイドベッドで一番可愛らしい外装の宿に一泊した。

2016/05/09 12:14 [edit]

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