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赤い花は三度咲くその2  

「はぁ、はぁ……っ!なんだ、これ……!」

 ロンドは戦いの激しさではなく、異様な産まれ方をした敵の様子に肩で息をつく。
 女性の腹部から出てきた朱の塊は、冒険者たちに襲い掛かったものの返り討ちになり、ただの肉塊として彼らの足元に横たわっていた。
 女性の体はもはやピクリとも動かず、柘榴のように破裂した子宮を寝台の上に晒している。
 シシリーは既に彼女の息がないことを確かめ、悼むように十字を切った後、そっと恐怖と痛みに見開いたままの目を閉じた。
 絨毯に広がる血の染みから慌てて下がるようにして、カルサイトはごくりと喉を鳴らす。

「い、今のは……一体……」
「孕まされていたことは、間違いないね……。コランダムに」

 現実的なホビットの娘の言に、ロンドは上ずった声で反応した。

「に、人間じゃないのか、そのコランダムってやつは!?今のどう見ても化け物だろ!?」
「コランダムの研究成果を孕まされたってこと」
「しかし……おちびちゃんの言うとおりなら……」

 醜い容貌を依頼主に向け、テアは厳しい眼差しで質問を発する。

「……カルサイト殿。まだ何か話してないことがおありのようじゃな?最期に彼女が呼んだのは、おぬしの名前だった。あなたは何者じゃ?」
「ばあ様。この人、搭の代表なんだろ……?そこまで聞く必要があんのか?」
「ウィルバー殿ならそこまで聞くとも、きっとな。冒険者の依頼は信頼で成り立つんじゃ」

 老婆と悪魔のやり取りの合間に、しばし顔を下方に向けていたカルサイトだったが、白い面を上げて苦々しげに応えた。
 その苦々しさは恐らく、冒険者に向けたものではなく、己自身に向けたものなのだろう。

赤い花三度3

「……私は、コランダムの実子です。今しがた亡くなった彼女は――」

 カルサイトはそこでひとつ息をつくと、重々しく吐息を吐いた。
 一言を絞り出すのに気概を呼び起こすかのように。
 窓から差し込む青白い光は、今や彼らの居る部屋を非現実的なもののように見せている。

「私の、恋人でした……。親同士の関係は元々悪かったので、私たちだけの内密な関係でしたが」
「父親と恋人、両方に、裏切られた、ってこと……」

 呆然とした態のシシリーに、彼は顔を歪めて訴えた。

「この愛憎、一言では言い表せませんよ。父の死、それだけが今の――私の、望みです」
「なるほど、ね」
「むごい事だよ。のう、ウィルバー殿と合流した方が良くないかのう?」

 これだけの特殊な魔術師相手であれば、つい近年まで搭の所属であったウィルバーの知識が必ず役に立つだろう。
 そう予測した老婆は、仲間たちに欠けた一人を呼び戻す提案をした。
 襤褸切れでスコップから正体不明の”何か”の体液を拭き落としたロンドは、やれやれとでも言いたげに肩を竦めてから言った。

「……そうだな。そろそろ、ちゃんとこっちから謝るか。俺がウィルバーさんを探してくる。先に用意をしててくれないか?」
「オッケ。コランダムのいる村の場所も確認しておくぜ」
「コランダムのいる村は、ギベオンという村です。地図と馬車の手配をしておきます」

 彼らがバタバタと支度を始めた頃――。
 ウィルバーはリューンの路地を歩いていた。
 普段から人通りの少ない路地で――以前には、アンジェがひたすら猫と仲良くなろうと試行錯誤を繰り返していた場所でもある。

「はー……」

 薄い黒のコートを暖かな風にはためかせつつ、彼は深いため息をついた。

(分かってるんです……。ロンドが叔父とも慕う私を、想って助けてくれたことは。しかし、もしロンドが私のせいで死んだりしてしまったら……私は、ちゃんと世話をするだろうと彼を預けてくれた兄に、どうあっても顔向けが出来ない)

 そもそも、孤児院出身の三人組とウィルバーは、冒険者になる前には、たまに顔を合わせて交流するだけの間柄だった。
 院長であるウィルバーの兄は、それこそ本当の父親もかくやという信頼を孤児たちから向けられているが、ウィルバー自身はたまの休みに書物や食べ物などのお土産を携えて訪れる、『たまに来てくれる親戚の叔父さん』くらいの距離を保っていた。
 それは彼が子供と言う存在に慣れていない、ということもあったろう。
 賢者の搭に来る低年齢の魔術師見習いなどは、孤児院の子供たちと違って、才走っていたり理性の勝っている子がほとんどで、大人に対しても冷めた反応をすることが多い。
 ゆえに、無邪気でむきつけな反応を返してくる孤児たちに、どことなく隔たりを感じていたのである。
 それがどういうわけか、シシリーとロンド、アンジェの三名だけを預かることになった。

(愛していた女性に別れを告げられ、自暴自棄になっていたとは言え…冒険者を目指す彼らの身柄を預かったのは、決して軽い気持ちからじゃなかった。それでも、彼らを言い訳にしていたのは確かだ)

 気分を変える必要があった。ただ、それを冒険に求めたのは間違いだったのではないか。
 ウィルバーは自分の現状に迷っていた。
 徐々に彼ら三名との距離が縮まるにつれ、危険がつきものの冒険者稼業で孤児たちが傷ついていくことに過敏になってきたのである。
 それのいい例が、猫と仲良くなろうとしてた頃に怪我をしそうになったアンジェであり、こないだ死霊によって危うくあの世に逝きかけたロンドであった。
 このまま、若い彼らを引き連れて、危険に身を投じていて良いのか――今のウィルバーには判断がつきかねた。
 もうひとつ重いため息を吐き出した、その時。
 甲高い悲鳴が彼の耳に届く。
 ウィルバーが慌てて顔を巡らすと視界の端に、10歳前後の少女がチンピラらしき男たちに手首をつかまれている現場が映りこんだ。
 少女は必死で手首を抜こうとしているようだが、拘束がきつくて抜けられないらしい。
 チンピラ達は、見られていることに気づいていないのか、勝手なことを言っている。

「暴れなきゃいたくしねぇって、な?辺り一面花ばっかの村に案内してあげるからよォ。ギベオンって名前の村でよ、キレーなとこだぜぇ」
「阿呆。軽率に村の名前を出すんじゃねぇ」
「困るのはあの、薄気味悪い魔術師野郎だけだって、兄貴。俺たちにゃ関係ないさ」
「そういう軽率さが、後々自分たちの首を絞めるんだ。力づくで構わんから連れて行くぞ」
「へーい。オラッ、大人しくこねぇと捌いちまうぞ!」

 ぐいと手首を引かれるのを、懸命に堪えて少女は叫ぶ。

赤い花三度4

「やだっ!はなして!!」

 やや頭の薄くなりかけた平凡な容姿の中、その様子へ注がれた瞳は恐ろしく鋭かった。

「……。この機嫌の悪いときに視界に入るなんて」

 カツカツ、と石畳を鳴らして彼は近寄った。
 手をかけるのも嫌だったので、≪海の呼び声≫の先端をチンピラの1人の肩に置く。

「あなた方、おやめなさい」
「あァ!?なんだてめぇは!邪魔すんのか!?」
「気分が悪いんですよ。ザコの虚勢は大変見苦しい」
「な、なんだとぉ!!」

 肩に杖を置かれた男がそれを払い、腰の後ろに手をやりながらウィルバーに向き直る。
 チンピラの常として、そこにナイフを仕込んでいるのだろう。
 一気に引き抜いて突き出そうと――そうすれば、こんな平凡そうな優男など物の数ではないと、男は思っていた。
 だが、刃物を取り出すはずの手が、もう1人の手によって押さえつけられた。

「何するンだ、兄貴!」
「やめろ。……お前、≪狼の隠れ家≫のウィルバーだな?」
「おや。ご存知で?」

 にこりと微笑んでいるものの、ウィルバーの目は油断なく男たちの動きを観察している。
 その様に、荒事に慣れているはずの2人の背筋に、ぞくりと蟻走感が伝った。
 ≪狼の隠れ家≫のウィルバーと言えば、慎重さに裏打ちされた知性で知られる魔術師である。
 仲間を止めた方のチンピラの耳にも、彼の操る氷の術で仕留められた≪赤い一夜≫の一味や、聖北教会から手配されていた死霊術師の噂は入っていた。

「アンタのような強い奴に見咎められちゃ、止めるしかねぇ。代わりといっちゃなんだが見逃してくれねぇか。……おい!」

 兄貴分から短剣の切っ先を押し付けられるような声で促され、少女の手首を掴んでいたチンピラは舌打ちしながらも手を離した。
 少女がウィルバーの腰のあたりにすがり付いてくる。
 彼が大きな手を頭に置くと、その体が震えていることが感じ取れた。

「怖かったでしょう。一緒に向こうまで行きましょう」

 彼が半歩、路地から抜ける方向へ体を向けた時である。

「……ってワケにはいかねぇんだよ。有名冒険者さんよ。おい、例のものを開けろ!!」
「へ、へい、兄貴!」

 そのセリフに嫌な予感を刺激され、とっさにウィルバーは【凍て付く月】の詠唱を開始する。
 ≪海の呼び声≫の先端に煌めく宝玉に魔力が集中した時、彼の耳にコルク栓を抜く音が聞こえた。
 立ち昇るが煙のごとく、しかしてその勢いは風のように――煙が人の形を取った。

「街中で魔法生物……ですか!?チンピラのくせに、面倒なモノ出さないで欲しいですね!」

 ウィルバーは詠唱を氷の最大火力から【理矢の法】に切り替え、さらに子供を自分の後ろに追いやった。
 ちょうど3人分、魔力の矢が彼の周りを巡ろうとした瞬間、煙は手を魔術師の方へと差し伸べ――。
 それから、さらに1時間後。
 日は既に傾きつつあり、ウィルバーへ謝罪しに行ったはずのロンドが1人のまま、≪狼の隠れ家≫に沈痛な面持ちをして戻ってきた。

「連れ去れたぁ!?マジかよ、おいおい……」

 伝えたこっちがたじろいでしまうほど大きな声で反応したのは、テーゼンである。

「路地にいた子の話や抱えていた本からすると、ウィルバーさんで間違いない。ポケットに入ってた飴玉で気を落ち着かせつつ、詳しい話を聞いてきた」

赤い花三度5

 彼は机の上に一冊の書物を乗せた。
 金糸で綴られたそのタイトルは、先刻ウィルバーへ投げつけたものである。

「その誘拐犯から子供を守ろうとして、魔法を使ったようなんだが……」
「妙な煙に捕まって、動かなくなったと。そうじゃな?」
「ああ。魔法に反応する魔法生物だってよ。……畜生。俺がその場にいたなら!」

 ダン!と大きく武骨な手が、丈夫が取り柄のはずのテーブルを殴りつけて軋ませる。
 慌てたアンジェが、太い腕にしがみ付いて止めた。

「ちょっと兄ちゃん、壊れちゃうってば!」
「おお、すまない。…それで、子供の話じゃ確かにギベオン村と言ってたそうだ」
「おっちゃんの行き先が、依頼の目的地と重なってて助かったよね。いっぺんで用事が済ませられるよ」
「そんな気軽な問題なの?それに……カルサイトさんの話が本当なら、彼を人体実験に使うつもりで誘拐したのかもしれないわ」

 リーダーの容赦ない指摘に、仲間たちがつかの間、動きを止めた。
 テアが唸るように声を出す。

「たとえ命があったとしても、救い出すまでの過程で辛い思いをしてるかもしれん。早く救出するに越したことはないだろうね」
「用意ならもう済ませてあるじゃない。さっさと迎えに行こうよ」

 アンジェはさっさと裏口に近づくと、仲間たちに呼びかけた。

「おっちゃんは頭いいもん。無駄に変なことをして、自分を危険に晒す真似はしないよ。あたしたちに出来るのは、おっちゃんが誘拐犯に利用される前に助け出すこと」
「……至言じゃの」
「だが、アンジェの言うとおりだぜ。白髪頭、ほら行くぞ」

 仲間の促しに、厳つい体をせかせか動かしながら彼はこくりと首肯した。

2016/05/07 11:56 [edit]

category: 赤い花は三度咲く

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