「死霊術師との戦いって、これで何回目だっけ?」
「覚えているだけで3回目ですかね。アンジェ、そんな恨めしげな目で私を見るのはお止めなさい。親父さんと娘さんも、ご馳走は取っておけるだけ取っておくと約束してくれたじゃないですか」
「だってさ~。うちの宿の不始末じゃないのに、よりによって親父さんの誕生日の時に頼んでこなくたって…」

 アンジェがしきりに愚痴るのも無理はなかった。
 宿の亭主の誕生日パーティが盛り上がって、乾杯を繰り返していた時に転がり込んできたのは、リューン近郊に土地を持つ領主だったのである。
 彼は突如現れたという炎の悪魔を、他の冒険者の店で雇ったパーティに対処させていた。
 しかし数日後、今度は別荘に死霊術師が現れたということで、何度かその手の術者とやりあった経験があるという旗を掲げる爪を探し出し、依頼を持ち込んできたのである。

あの日から20日後
 貴族階級の依頼はとかく厄介か面倒な依頼が多いものだが、思わぬ伝手となることもあり、そう簡単に断っていいものではない。
 その死霊術師の正体について領主から伝えられた一行は、苦い顔をしていたが……。

「…仕事は仕事じゃ。それに、このままにしておく方が気の毒じゃて」

という老婆の意見に同意し、ここまで来ることにしたのである。
 テーゼン・テア・ウィルバーの3名で、領主の別荘の二階へと上がる階段を睨みつけながら、戦闘の前に援護の魔法や踊り、呪曲を行なった。

あの日から20日後1

 テアの楽器はいつもの竪琴から、リューン市内のある店で芸術の魔術師と呼ばれる美女から貰ったバイオリンに変わっている。発声について年々不安になってきたという理由で、普段の吟遊詩人の活動では竪琴を使い、冒険者の仕事の時にはバイオリン、と使い分けをすることにしたらしい。
 最近では心配していたリュウマチもあまり症状が出ないので、今まで歩行補助に使っていた≪海の呼び声≫はウィルバーに譲っている。
 ≪万象の司≫を倉庫に戻したウィルバーは、マリナーの秘宝と称えられる青い杖を、自分の魔法の発動体としてありがたく使わせてもらっていた。
 そんな杖を振り上げ【飛翼の術】や【理矢の法】を唱え終わったウィルバーは、上へ行くことを促した。
 全員で顔を見合わせ頷く。
 移動中を強襲されないよう、用心しながら階段を上がりきると――。

「……」

 ルーン文字の細かく刺繍されたローブを纏う、顔色の悪い男が見たこともない魔法陣の中央に立っている。

「悪いんだがなァ、兄さん。ここでアンタの思い通りにさせるわけには、いかないんだよ!」

 死霊術師の周りに飛交う霊魂に気づいたテーゼンが、翼を使って部屋の奥へと場所を移動する。
 そちらに一瞬だけ気を取られた術師の隙をつき、ロンドはスコップを掲げて【葬送花】を使った。
 敵陣へ歌とともに献花を捧げるこの技は、落ちてきた花弁によって不浄な者へダメージを与える。
 赤い花びらが鎮魂歌の響く中で霊魂に触れると、たちまちありふれた装備を纏った冒険者たちの姿を取っていた魂たちは浄化されていった。

「ア………アアァァ!!!」

 まるで自分の胸を刺されたかのように、術師が悲痛な叫び声を上げる。
 アンジェはそれに顔を歪めながら、左側面から胸へ向かって短剣を突き立てようとした。
 狙いが反れたのは――身をよじられたからだった。

「―――!?」
「あっ!?」

 腕から血を流した死霊術師が、指だけで印を作って何かの”力”を発散させる。
 たちまち、旗を掲げる爪の動きが束縛された。

「うっ………そんな、馬鹿な……!」

 幸いにして束縛される時間は短かったものの、これでは迂闊に仕掛けることができない。
 ウィルバーの脳がフル回転する。
 賢者の搭で教える【蜘蛛の糸】に代表される束縛の魔法は、そう簡単に発動できるものではない。
 それを、ただ印を結んだだけで短時間だけでも実行できるということは、呪文に変わる何かの術式を、別の場所に設置しているからではないだろうか?
 例えば――いかにもの魔法陣の横にわだかまっている、濃厚な魔力の気配。

「……傍らに置いてある陣の幾つかは、ひょっとしたらその力を発揮するためのものかもしれません」
「ウィルバーさん。あれを始末しないと、奴自身をやっつけられないってことか?」
「その可能性は高いです。少なくとも、陣を解除する必要はありそうですね」

 話を聞いていたテアがそっとバイオリンに弓を置いた。

「ならばそれは、わしの仕事じゃろうの」
「ええ、お願いします。他の人たちは、彼に直接手を出さずに、こちらの意図を読ませないよう…」
「動き回れってことだね。オッケイ」
「ハッ!そら、いくぞネクロマンサー!」

 勢いよく飛び出したアンジェと、反対側から飛んできたテーゼンが、急所を狙うと見せかけた巧妙なフェイントを術師へ仕掛ける。
 ロンドはシシリーのお下がりの盾をかざし、わざと敵の視界を遮った。
 そんな中、シシリーは己の武器を握りこみ、油断なく彼の一挙手一投足を見張っていた。

(……動きが読めない……表情が少しでも変わってくれれば……)

 ふと、シシリーが死霊術師の右手に視線を走らせた。
 さり気なく袖の下にある手が、少しだけ動いている。

「……気をつけて、皆!そいつ、何か持って……」

 その言葉と同時に、タイミングを図ったテアの【破魔の歌】が、辺り一帯の魔力を解除していた。
 事前に掛けておいた支援魔法とともに、相手の作っていた魔法陣や魔力の貯蓄場なども吹っ飛ぶ。
 死霊術師はその時を待っていたに違いない。

「―――!!」

 右手に掲げた札から、封じられていた不浄な気が迸って一同を薙ぎ倒した。
 シシリーの右手の甲が裂け、ウィルバーの切れた額から血が流れる。

「きゃああ!」
「うおっ………」
「やばっ……ばあ様!」

 赤い華が、黒い翼の生え際に咲いた。
 テーゼンは痛そうな呻き声を上げながら、老婆の体をそっと自分の胸から離した。
 あの唐突な攻撃の一瞬前、テーゼンはテアの体を魔力波から庇ったのである。
 シシリーは手をかざし、重傷とまではいかないまでも、かなり大きな傷を負ったテーゼンの治療を【癒身の法】で行なった。
 柘榴が弾けたような傷跡が、柔らかな光の中で徐々に塞がった。

「なかなかやりますね…ここまで手練れだとは」

 ウィルバーがため息をついて、再び【魔法の鎧】を張り直す。
 その斜め前方まで移動していたアンジェは、隣に立つ重戦士にちらと視線を向けた。

「でも、やるしかないよ。兄ちゃん」
「おう、任せておけ」

 ロンドとアンジェは比較的傷の浅い方で、反撃も素早かった。
 ロンドが行なった背を使った突進技が相手を崩し、動きの鈍くなったところを、アンジェが腕輪から放った鋼糸で拘束したのである。

あの日から20日後2

 ビイイィイイン……と、限界まで張られた糸が四肢を絡め取るのを、術師は防ぐことが出来なかった。
 慌ててもがく男の様は、まるで蜘蛛の巣に捕まってしまった蝶のようだった。
 ロンドが曲刀を振るい、アンジェが短剣を突き刺す。
 それでもまだ、近くに漂う魂を操って魔力へ変換しようとする術者の心臓を、聖なる鋼で作られた穂先が真っ直ぐに貫いた。

「ハアッ……ハアッ。これで、終わりだな」

 傷が塞がった後に、ずっと溜め込んでいた気を穂先に乗せて放った【龍牙】。
 テーゼンの必殺に近い一撃だった。

「―――っ…………」

 痛みと悔しさに見開かれた死霊術師の瞳は、すぐに色を失った。
 がくり、と首がうな垂れるのを見届けたウィルバーが、そっと彼の瞼を閉じ、髪をひと房切り取る。

「死者を弄ぶネクロマンサー。これが禁忌に手を染めた者の末路ということでしょうね」

 ウィルバーは彼の首級をロンドに任せ、残った体を聖水で清めた。

「ウィルバーさん、この人……」
「ええ。依頼人への報告を済ませたら、彼の遺髪をこの人の常宿に届けてあげましょう」

 かつて冒険者であった死霊術師のことを思い、彼はそう言った。
 炎の悪魔との戦いにより、共に活動していた愛する仲間を全て失いただ一人生き残ってしまった男は、ここで何を考えていたのだろう――かの霊魂たちの中には、喧嘩相手も、好意を持つ者も、ひょっとしたら恋人とていたのかも知れない。
 骨まで焼き尽くされた仲間に対して、霊魂を現世に留めて置くことしかできなかった術師の願いを推測し得ただけに、ウィルバーはそれ以上掛ける言葉も見つからなかった。
 自分たちも……もし同じことが起きたら。
 ある一つの死霊術を知る自分が、同じ轍を踏まないと断言できるだろうか?
 ウィルバーには分からなかった。
 しかし、今、自分たちはちゃんと生きている――そのことを噛み締めて、一行は帰途に着いた。

※収入:報酬0sp
※支出:≪魔法の羽ペン≫購入200sp
※黒猫様作、とある日の一日・しろねこ様作、あの日から20日後クリア!
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■後書きまたは言い訳
41回目のお仕事は、黒猫様のとある日の一日と、しろねこ様のあの日から20日後という二つのシナリオを、一日の出来事として書かせていただきました。
あの日から20日後、20コンテンツシナリオの中でかなり好きなんですが……悲しいかな、当たり前の話ですがリプレイとして書き切るには短過ぎました。そりゃそーだ。
なので、ちょっと息抜きの出来るシナリオから緊迫する戦闘に持っていけば、長さ的にもストーリーの流れとしてもちょうどいいんじゃないかな……と探していたら、6人専用の短編ギャグシナリオと銘打たれた、とある日の一日を発見したのでした。
結果として、仲良く親父さんを祝う冒険者パーティが、もしかしたら迎えるかもしれない一つの結末を垣間見るという、『ありえるかもしれない嫌な未来』を感じさせることが出来たのではないかと思います。

とある日の一日は飾り付けや買い物、料理担当をランダムでも手動でも選べるので、あえてデスコックついているテーゼンを厨房にやることもできたのですが……。
それやっちゃうと、さすがに親父さんの寿命が縮むというか、可哀想な結果にしかならないので、物凄く惹かれたのですが止めておきました。
済印がつかず何度でもやり直し出来るんで、今度プライベートでやってみます(笑)。
ちなみに、プレゼントも選択肢によっては面白いことになりますので、狙いたい人は狙って楽しんでいただけると思います。

そうそう、プレイに当たって一つだけ。
後者のシナリオは報酬発生がないので、お金求めて頑張ってるパーティはご注意願います。
もっとも、自分の仲間にも死霊術師いるよ!というパーティなら、色んな意味でオススメできるかと。
屍の恋人(うた様作)が好きなプレイヤーさんなんかは、ニヤニヤ出来るのではないでしょうか。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2016/05/01 11:45 [edit]

category: とある日の一日後のあの日から20日後

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