「いらっしゃい……」

 暗く、細々と灯されている蝋燭が頼りなげに揺れている。
 ≪狼の隠れ家≫よりは新しいのだろうが、質素というか、雑貨屋の割に飾り気の無い店であった。
 窓の少ない室内のせいだろうか、どうにも陰鬱な印象を受ける店主だったが、入り口から入ってきた少女の姿を認めると、たちまち声が一オクターブ上がる。

「ってシシリーじゃん。どしたよ今日は?」
「ええ、実はね…」
 このまったく第一印象の違う2人が、実は聖北教会のバザーで知り合い、シシリーがここの飴玉を自分やアンジェのおやつにしょっちゅう買って懇意にしているということは、ここへ辿り着くまでの道のりでウィルバーに語った話である。
 こないだ花の化身に誘拐された際も、ここの店に寄っていたくらいだ。
 店主はシシリーが冒険者をやっていることも、≪狼の隠れ家≫の所属であることも知っており、彼女が包み隠さず誕生日パーティのことを告げると、

「ふ~ん。あの親父の誕生日ねえ…」

と呟いた。

ある日の一日3

「ってかあの親父、一体何歳だよ。ウン十年前からあの姿のまんま変わってないんだけど」
「それは≪狼の隠れ家≫の七不思議のひとつだからね」
「そういやそうだったな。他にはあの宿、何があったっけ?」
「ああ……改造され続ける地下室とかありますね……」
「ネタに事欠かない所だよ……ま、それはそれで置いといて。誕生日プレゼントだっけ」
「うん、そうなの」
「あんま大したもん置いてないけど、それで良けりゃ見てってよ」

 店主は2人を分類の決まっていない雑貨の棚へと案内した。

「あの……」

 棚を見ていたウィルバーが、躊躇いがちに店主へ声を掛ける。

「ああ。なんだ?」
「この店なら普通の店に置いてないような、面白そうな物があるとシシリーに聞いていたんですが……」

 ビッ!と指をある場所に突きつける。

「なんだって、しゃれこうべやら白いカラスやらがいるんです!?」
「しゃれこうべはただの目覚ましだよ」
「目覚まし!?」
「起きたい時間分、叩いてセットすんの。例えば4時間後に起きたきゃ4回叩く。一時間後としかセットできんのが難点だが」
「いやいやいやいやいや、なんでこのビジュアルにしたんです!」
「え、他にも呻き声や悲鳴、絶叫にも変更できるぜ?」
「マニアックすぎですよ!」

 店主はしれっとした様子で言った。

「インパクトがあったほうが売れるかなって」
「インパクトの問題じゃないと思うのよね、さすがに私も」
「そうでしょう!?それに、先ほどからこのカラス、めちゃくちゃウズウズしてるんですが」
「いやその…カラスの方は俺が作ったゴーレムなんだが、どこどう間違ったのか…メーター振り切れんばかりにテンション高くなっちまってな」
「オレサマ オマエ マルカジリ!!マサニ ゲドウ!!!ヒャハー!!」

 白いカラスはその場でぐるぐる回りながらシャウトしている。
 店主はその様子を見守りながら……いや、呆れながら一応解説を付け加えた。

「普通の鳥みたいに、言葉を覚えていく機能もついてる」
「言葉を覚えるとか、もうそんな範囲で収まらないくらいに喋り捲ってますけど……」
「ペットが欲しいが、あんま世話したくねえって奴にはいいんじゃねえかな………煩いけど」
「コノスバラシキ キンニクヲ ミロ!!」
「親父さん、これ以上のペットはさすがに要らないかしら?」
「あなたも結構動じませんね、シシリー…」

 何かどっと疲れたウィルバーだったが、雑貨を見て回るうち、ふと一つの品物に目が留まった。
 それは、一見するとなんてことのない羽ペンに見えた。
 だが、首から提げた竜の牙による焦点具からは、これが魔法のかかった品であることが伝わってくる。

「これは……?」
「ああ。合言葉を唱えると魔法が発動して、持ち主の代わりに代筆してくれるんだ」
「へえ。結構便利かもしれませんね」

 感心した様子のウィルバーのやや後ろで、シシリーが店主へ質問する。

「この魔法の効果は永久的なものなの?」
「いや、永久的じゃないが…でも1年は持つと思うぞ。魔法が切れたって、自分で書けば普通に羽ペンとしても使えるしな」
「あら、残念。でも依頼書を書くのがちょっとは楽になるだろうし…」
「ええ。これはおいくらでしょうか?」
「そいつは銀貨200枚だな」
「ふむ。期限付きの魔法が掛かってる品としては適正価格でしょうね」
「ウィルバー、これにしましょうか?」

 少なくとも、摂取すると幻覚症状を起こす茸や怪しい魔法生物を買うよりは、宿の亭主にとってはいい贈り物になることは間違いない。
 仕事でも長く使っていける品でもあるし、こういった小物に高い金を支払うのは、ある一定以上の年齢の男性には相応しいだろうと、彼ら2人はこれを買う事を決断した。

「まいど。…ちょっと待ってな、包んでやるから」

 店主は慣れた手つきで小さな木箱に魔法の羽ペンを収め、布の切れ端を念の為に詰めふたを閉めると、丁寧に梱包する。
 ウィルバーの差し出した銀貨を受け取ると、小箱をそっとシシリーに渡した。

「じゃあまたな。親父にもよろしく言っといてくれ」
「はい」
「それじゃあまたね」

 2人が連れ立って≪狼の隠れ家≫に戻ると、宿の中には甘い匂いが漂っていた。
 さすが年の功というか、給仕娘が渡したレシピだけで、テアは順調にケーキを作成中であるらしい。
 今は、手先の器用なアンジェにフルーツの飾り切りと、泡立てた生クリームの塗りを任せていた。
 厨房に顔を出した仲間に、テアはにっこりと笑いかけた。

「おお、2人とも戻ったか。ご苦労じゃったの」
「ただいま。そっちも大丈夫そうね?」
「おお、おちびちゃんの苺の切り方と来たら、なかなか堂に入ったもんじゃったよ。もっとも、ものすごく細かく計測するんで、間に合うかヒヤヒヤもんじゃったがな…」

 テアの話によると、アンジェは小数点以下の単位で小麦粉や砂糖を正確に測ろうとしたらしい。

ある日の一日4

 それはさぞ時間の掛かったことだろう、とウィルバーは内心で思った。
 確かにお菓子作りは材料を正確に計測しなければ成功がおぼつかないが、小数点単位まで考慮する必要は無い…舞い散る細かい粒子まで、ボウルに入れるわけにはいかないのだから。
 アンジェはそんな意見も耳に入れず、戻ってきた仲間に対して無い胸を張って自慢している。

「おっちゃん、姉ちゃん、おかえり!ほらほら、綺麗に出来てるでしょ?」
「ええ、想像以上ですよ。では私たちも、いつものテーブルに移るとしましょうか」

 飾り付けの終わったロンドは、なぜか泣き顔になって井戸で必死に曲刀を洗っていたが、彼の武器の手入れがやっと終わって酒場に戻ってきたところで、宿の亭主が店へ帰ってきた。

「ただいま」
「「「「誕生日おめでとう!!」」」」

 色とりどりの紙ふぶきが舞い、”クラッカー”と呼ばれるパーティ用の小さな玩具が景気の良い音を鳴らす。

ある日の一日5


「わっ!?な、なんだいきなり…びっくりした…」
「お父さんお帰りなさい!今日はお父さんの誕生日でしょ。みんなで待ってたのよ」

 にっこりと笑ったリジーがそう告げると、

「そうか…すっかり忘れてたよ」

と、亭主は目を丸くして辺りを見回した。

「綺麗になってるな。掃除してくれたのか」
「親父さん。これ、私たちから」

 進み出たシシリーが買ってきた木箱を渡すと、亭主はしっかり礼を言って受け取った。

「開けてみてもいいか?」
「もちろんですよ」

 魔術師の言葉に梱包を解いた亭主は、中から出てきた代物に目を細めた。
 ためつすがめつ色んな角度から、何の変哲もなさそうな羽ペンを観察している。

「羽ペン?…変わった魔力を感じるな」
「その羽ペンには魔法が掛かっていて、あるコマンドワードを唱えると代筆してくれるそうです」
「ほう!便利だな」
「ですが効果は永久的なものじゃないらしいです。おおよそ、一年ほどだとか」
「忙しいときに重宝するな。気に入ったよ、ありがとう」

 盗賊らしく音も無く席を外したアンジェが、厨房からケーキを運んでくる。
 リジーが色白の頬を喜びの桃色に染めて、彼らがケーキを作った旨も説明した。
 誇らしげにケーキを掲げたホビットが、にやりと笑って付け足す。

「自信作だよ!」

 それをリジーが人数分に切り分け、順番に皿に乗せて回していく。
 誕生日パーティはたけなわになってきていた。
 その時……。
 身分の高そうな男が1人、≪狼の隠れ家≫のドアを開けた。 

2016/05/01 11:41 [edit]

category: とある日の一日後のあの日から20日後

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