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 青い空に薄い雲のたなびく、ある日の朝のことだった。
 熟練の冒険者パーティは、ほとんどが出払っている。
 旗を掲げる爪は、既にシシリーやテアなど早起きが習慣になっている者が1階のいつものテーブルについていたが、今しがた起きだした面子も、ゆっくりと階段を下りてくる所だった。
 先頭に立って大きな欠伸をしているのはテーゼンである。

ある日の一日
「ふわぁぁ~」

 忙しなく給仕に立ち働いている娘が、目ざとく彼らを見つけて声を掛ける。

「あ、テーゼンさんたち!おはようございます」
「おはよう。ふわぁ…僕まだ眠いなぁ」
「娘さん。何か適当にお願いします」
「は~い!ちょっと待っててくださいねっ」

 今日はもう1人のウェイトレス(既婚者)が厨房で奮闘中らしく、彼女は1人で全員分の朝食を運んできた。

「はい、どうぞ。お待たせしました~」

 彼女の細腕で支えられる木製の盆の上では、ホクホクとフィッシュ&チップスが湯気を上げている。
 真っ白なサワークリームに相好を崩したロンドが、手を拭くのもそこそこに、ポテトへ手を伸ばしてたっぷりとそれをすくった。

「あ、ちょっとロンド。行儀が悪いですよ」
「白髪頭はこれだから…。犬みたいに『待て』もできねえのかよ」
「うるさいな、黒蝙蝠。好物は一番に手をつける!とっといたら、他に取られるに決まってるだろ」
「だからって兄ちゃん、机に置かれる前に手を伸ばしちゃダメだよ……」

 既に朝ごはんの済んでいるシシリーとテアが、軽いため息をついてその光景を眺めている。

「賑やかなのはいいけど、ねえ……」
「うむ。朝くらいは、もう少し落ち着いて食べるべきじゃろうな」
「あのー……」
「うむ?」

 テアが見やると、給仕の終わったはずの娘が、なぜかもじもじしながら彼女の脇に立っていた。

「ちょっと話を聞いてもらえませんか?」
「ふむ、リジー殿の話とな?」
「私たちで構わないのなら。どうぞ、そっちに座って」

 近くにあった椅子を引いて促すと、娘――本名はエリザベスと言うらしい――は、素直にそれに腰掛けてから口を開いた。

「旗を掲げる爪の皆さんって、今日は確かお仕事なかったですよね?」
「ええ。お休みですが?」
「それなら!皆さんに是非手伝ってほしいことがあるんですけど」
「手伝ってほしいこと……とな?」
「今日、実はお父さんの誕生日なんです」

 お父さん、と彼女は語っているものの、宿の亭主はリジーの実の親ではない。
 ある事情があって、まだ小さな頃に冒険者の手によって≪狼の隠れ家≫に連れて来られ、それ以降は養女としてここで暮らしている。
 そういった事情も、聞くとはなしに彼ら旗を掲げる爪の耳にも入っていたが、そのセリフに義理の親子だという違和感や遠慮は感じ取れなかった。
 血の繋がった親子以上に仲が良いからだろう。
 小耳に挟んだテーゼンやウィルバーが、振り返ってリジーを見つめる。

「え、親父の?」
「というか、あの方に誕生日なんてものがあったんですねえ」
「そりゃあるよ、おっちゃん。親父さん、一応人間なんだろうからさ…」
「はい。それで、テーゼンさんたちもお父さんをお祝いしてあげてもらえませんか?」

 昔捨てたコカトリスの後処理を任せてきたり、たまにとんでもない依頼を押し付けてきたりと色々あったが、基本的に亭主に対して敵意を持っているわけではない。
 それどころか、一行は熟練の冒険者が多いこの宿ならではの依頼を適切にさばく宿の亭主を、ある意味では尊敬すらしていた。
 なので、あっさりとシシリーは首肯したのである。

「ええ。いいけど。親父さんにはいつもお世話になってるし…」

 ロンドが、ふと何かに気づいたように顔を皿から上げた。

「あれ?その親父さんは?」
「寄合所に出かけてます。たぶん、夕方まで帰らないんじゃないかな」

 彼女の言う寄合所とは、リューンの中に多々ある”冒険者の店”の寄り合いのことである。
 以前は出不精であったため滅多に行くことは無かったのだが、寄合所においてさる他の宿の亭主と意気投合し、宿間の情報交換も兼ねて、寄り合いが開かれるたびにいそいそ出かけるようになったのだ。

「それでですね、ささやかですけどパーティを開こうと思って…」
「なるほどね。親父さんがここを不在にするのって寄り合いくらいだろうし、サプライズするのなら確かに今のうちでしょうね」
「ええ、それでお父さんが帰ってくるまでに用意しておきたいんです」

ある日の一日1

「それじゃ、何か贈り物でも用意しましょうか」
「そうじゃな。買いに行くか。ついでに…この古い宿も、飾りつけたら少しは華やかになるんじゃないかの?」

 ≪狼の隠れ家≫は、さすがに100年とまではいかないものの、数十年単位で経営され続けてきたちょっとした老舗であり、かなり堅牢に作られている。
 ただし、建物自体の古さは否定しようが無い。
 テアが指摘したのはその点であり、リジーもそれに同意したのかこくこくと首を縦に振った。

「ケーキも焼かないといけないんですけど、私1人じゃ今日一日の食事の支度で手一杯なので、誰かケーキを焼いてもらえませんか?」

 シシリーが机に頬杖をついて唸る。

「結構やること多いわね…夕方までに間に合うかしら?」
「全員で動くことはないでしょう。やることは3つ。分担すればいいんです」

 ぴょこぴょことフォークを動かしてウィルバーが言った。
 そのフォークの先を、アンジェがどんぐり眼で見つめて目を回しそうになっている。

「プレゼントを買いに行く、ここを飾り付ける、ケーキを作る…それぞれ、2人ずつのペアを作ればいいでしょう」
「あ、なるほどな。なんなら、くじでも作ろうか?」

 気軽な様子で言ったロンドに、すかさずシシリーが待ったをかける。

「ちょ、待ってロンド!」
「え、え?何か悪かったか?」
「忘れたの、兄ちゃん?羽の兄ちゃんに…台所を任せる気なの?」
「………くじは止めよう」

 料理下手を通り越してデスコックと称えられる(?)男にそっと視線を向けていた3人組は、互いの顔を見合わせて一つ力強く頷いた。
 この悪魔の青年は、ただのスープを作ろうとして、スライムのような粘性のべとべとした物体を生み出すような、ある意味とても種族的な腕前を料理に発揮するのである。
 その嫌な記憶を打ち払うように、アンジェがことさら元気な声をあげた。

「まずはプレゼントを買いに行く2人を決めようか」
「買い物ですからねえ…私でしょうか」
「荷物持ちなら私もついていくわ。いい修行になるだろうし…ここの飾りつけは誰がやるの?」
「仕方ねえ、高いところの物なら僕がやるのが一番いいだろ」
「重いもん動かすなら、俺もやるとするか。掃除は孤児院で散々仕込まれたしな」

 テーゼンとロンドの申告に、シシリーは一瞬だけ嫌な予感がしたのだが、とは言っても高所の飾り付けにテーゼンほど便利な相手はいないだろうし、こないだ謎の雑貨屋で化け物を封じられた鏡を買ってきたロンドに、買い物を任せる気にはならない。
 やむを得ず、彼らに一任するしかなかった。

「ではおちびちゃんは、わしと一緒にケーキを作るとしようかの」
「うん、分かった!お婆ちゃんとなら、上手く出来そうな気がするよ」
「……うん。よし、決まったわね」

とシシリーが言った時、ちょうど朝食を取っていた4名もフォークを置いたところだった。
 さっそく取り掛かろうと言うリーダーの少女に、全員が同意する。
 他の4人がそれぞれの場所に向かう中、

「…ぼちぼち始めるとするか」
「だな」

と椅子から立ち上がったテーゼンとロンドは、掃除用具の置かれている物置から道具を取り出した。
 脳みそ筋肉だのなんだのと罵倒されることのあるロンドだが、掃除における手際はかなりいい。
 あまり家事をやったことのないテーゼンのために、まずはたきの掛け方などを教えながら、休むことなく手を動かしている。
 高いところの埃落としを翼のある青年に任せ、自身は床に落ちてきた埃やごみを掃き清め、モップで隅々まで磨いた。

「よし!僕の掃き掃除終わり!」
「こっちも拭き掃除終わったぜ。…ってことは、次は横断幕を作ろうか」
「布なんかあったか?」

 首を傾げるテーゼンに道具を片付けておくよう頼み、ロンドは倉庫に行って布を探すことにした。
 重い体重に軋む階段を全て上がり、屋根裏部屋に到達する。
 以前にはウィルバーが不審な書の解読を行なった場所であり、その後にはシシリーが他の仲間と顔を合わせるのを拒んで篭った部屋でもある。
 相変わらず、色んなものがごたごたと置かれていた。

「ええと…」

 重い木箱を苦もなく動かし物色すると、白っぽい布が見えたので手を伸ばしたが、これは昔使ってダメにしたテーブルクロスだったらしく、大きな穴と幾つかの焦げ跡がついていた。
 これはその昔、宿の亭主が勘違いでヒートアップし、金狼の牙パーティと一戦交えた時のものだったのだが、そんな事とは彼は知らない。

「ん~…」

という唸り声を上げながらさらに物色を続けると、装飾に使えそうな紙が見つかった。
 それを後で持っていけるよう除けておこうとした時だった。

ある日の一日2

「――殺気!?」

 ロンドが腰の曲刀を構えた時、黒光りする影が4つ、彼の前に躍り出てきた。
 ロンドにはゴキブリの言葉など分からないが、何やら尋常でない気迫を発していることだけは察せられる。

「お……おわあああぁ!?」

 特にゴキブリが大嫌いというわけでもなかったが、こちらの顔に向かって飛んでこようとする虫など、あまり好く人間がいるとは思えない。
 熱を持つ曲刀――砂漠の遺跡で貰ったありがたい宝物が、一匹を見事一刀両断した。
 白く吊り上がった眉が、ぎゅっとひそめられる。

「ああ、やべえ…巫女さん、あの世で怒ってるんじゃないだろうか」
「ロンド!」

 道具を仕舞い終わったテーゼンが、ロンドの叫び声を聞きつけて部屋に入ってきた。

「遅いから様子を身に上がってきたら、声が……アレと戦ってたんだな」
「おう。何かいきなり出てきた」
「さっさと片付けるぞ!飾り付けの時間がなくなる!」
「おう!」

 近くに落ちていた古本(朽ちすぎて中身の文字すら読めない)を丸めて構えると、テーゼンは手首のスナップを利かせて飛ぶ一匹を叩き落した。
 残りの一匹も、ロンドとテーゼンの連携で潰されたが………。

「……アンタ、その刀、他の奴らが戻る前に清めとけよ」
「……おう。そうだな」

 2人はゴキブリの体液がついた刀身を、悲しげに見つめた。 

2016/05/01 11:35 [edit]

category: とある日の一日後のあの日から20日後

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