Wed.
In the mirrorその5 
そこは――どう形容すればよい場所なのだろう?
シシリーにとっては、暗い背徳の教会のように感じられた。
テーゼンにとって、そこは魔力で編みこんだ出来損ないの蜘蛛の巣のようであった。
テアはそこを巨大な化け物の胎内のように思った。
ウィルバーは、己の術である【凍て付く月】の魔力構造を目で捉えられるようにしたら、ちょうどこんな感じになると思った。
他の仲間達が様々な感想を持つ中で、アンジェのどんぐり眼が見つめる先に鏡がある。
シシリーにとっては、暗い背徳の教会のように感じられた。
テーゼンにとって、そこは魔力で編みこんだ出来損ないの蜘蛛の巣のようであった。
テアはそこを巨大な化け物の胎内のように思った。
ウィルバーは、己の術である【凍て付く月】の魔力構造を目で捉えられるようにしたら、ちょうどこんな感じになると思った。
他の仲間達が様々な感想を持つ中で、アンジェのどんぐり眼が見つめる先に鏡がある。
だが驚いたのはそこではない――――その、後ろ。
「兄ちゃん!」
叫んだアンジェの声が、キィイイン…と響いた。
羊水の中の胎児の様に体を丸めるロンドを、隙間なく飾るようにして氷塊が覆っている。
ごくり、と誰かの喉が鳴った。
「……眠っているのですか?」
近寄ろうとしたウィルバーの腕を、傍にいたテアが引いて止める。
老婆が目を細めたのは、鏡から現れた人影に気づいたからであった。
「そう簡単に、助け出させてはくれないわけですか」
悔しげに吐き出す魔術師の視界の中で、人影は足先から徐々に色を取り戻し、やがて――。

「………」
彼らのよく知る、そしてまったく知らない表情でこちらを見るロンドの姿になった。
彼の顔は冒険者たちを酷く疎ましがっているように、またノコノコと入ってきた獲物を馬鹿にするように、左右非対称に歪んでいる。
音も立てずに腕輪から鋼糸を引き出したアンジェが、宣戦布告した。
「兄ちゃんに手を出したこと。あたしらに関わってしまったこと。……後悔させてあげる」
確かな敵意で持って相対するアンジェに向け、鏡の魔物はにたぁと口を広げて見せた。
笑いに呼応するように、4つの氷塊が浮き上がって輝く。
ひゅ、と毬のように弾んだ身体から糸が奔った。
「砕けろっ!!」
アンジェの【黄金の矢】が糸を通して氷塊から現れ出でたばかりの魔物に突き刺さる。
ただの一撃で仕留められたのを見て、鏡の魔物がロンドの顔に似合わぬ表情で舌打ちした。
続けて氷塊から現れた化け物も、次々にテーゼンの槍やウィルバーの放つ魔力の矢に貫かれ、その数を減じていく。
蛙のグランツや妖精のムルも、それぞれに敵へと飛びかかっていった。
「おのれぇっ!」
鏡の魔物は二つの剣をかざし、それぞれに炎の魔力と氷の魔力を這わせてシシリーへ襲い掛かった。
赤と青に彩られた軌跡が、苛烈なまでの勢いで迫ってくる。
「姉ちゃん!」
「くっ!」
とっさに≪Beginning≫を脇腹の急所の辺りまで引き上げ、その斬撃を辛うじて逸らしはできたものの、防ぎきれなかった刃は革鎧ごと彼女の腹をざっくりと薙いだ。
ぼたぼたと滴り落ちる朱に、ウィルバーはまるで自分が攻撃を受けたかのように顔の血の気を失くすが、テアが始めた演奏が体力を回復する【安らぎの歌】であることに気づき、さらに彼女への攻撃を防ぐため、自らは【飛翼の術】を唱え始める。
それと気づいたものか、アンジェの短剣を腹部に受けながら、痛い様子も見せずに無理矢理前進した鏡の魔物が、双剣を旗を掲げる爪に振るう。
防ごうとしたテーゼンの槍は一歩届かず、剣は魔術師の脚や老婆の肩、テーゼン自身の腕を傷つけた。
もしこの時、そのすぐ後にテアが【安らぎの歌】を発動させなかったら、もしかしたら誰かが倒れてしまったかもしれない。それほどに大きな傷であった。
よく訓練された喉から無事に発動した呪歌は、刻まれた仲間たちへの傷を薄くしていく。
それに力づけられたテーゼンが吼えた。
「どけよっ、偽モンのくせに白髪頭並みの体力しやがって!」
「……」
さらに振り下ろそうとした剣を、がっきと槍が組み合って止める。
そうして動きの止まった相手を狙い、シシリーが腕に集めた法力を熱へと変換して、身体を回転させるようにして【劫火の牙】を放った。
「……?」
【劫火の牙】の一撃を受けた魔物の姿が歪んでいる。
「こいつ、熱に弱いんだわ……!」
「なるほどな。よし、この偽モンは僕とシシリーで相手しよう。他の皆は、さっさとあのガタイが良すぎる眠り姫を、氷から回収してくれっ」
テーゼンはそう叫ぶと、矢のような素早さで偽者のロンドを貫こうとした。
得物をいつの間にか大剣に持ち替えた魔物は、鋭い穂先を呆れるほど大きな刀身で防ぎ、そのまま氷塊へ走り寄ろうとしていたウィルバーに向けて、重量を乗せた斬撃を繰り出す。
「くはっ……」
「ウィルバー殿っ」
テアが彼の身体を支えながら、苦しい体勢で演奏し得た【赫灼の砂塵】により、魔物や氷塊に砂塵の熱によるダメージを与えた。
ぱりん、という最後の氷塊が砕ける音がして、その下にいたロンドを素早く滑り込んだアンジェが慌てて揺り動かす。
「兄ちゃん!」

「……っ!?あ、え……俺!?」
目を白黒させながら、自分と同じ顔をした相手に驚いている少年に、アンジェはすかさず小さな体に見合わぬ気合で喝を入れた。
「惚けてないで戦ってよ!誰の為にここまで来たと思ってんのさ!」
「あ、あぁっ!」
「しっかりしてね、兄ちゃんの武器の出番なんだよっ」
ロンドが気絶から回復したせいで力を失ったのか、魔物の傍を飛び交っていた小片がさらさらと崩れていく中、テーゼンが複雑なステップを踏み、ウィルバーが滔々と呪文を唱えた。
【切ない秋】と【魔法の鎧】による防護を得たロンドは、曲刀をかざして魔物に襲い掛かった。
双剣と曲刀、同じ顔の左右反転した2人が、まるで目まぐるしいダンスを踊るかのように位置を変えながら、激しい攻防を繰り広げている。
何合打ち合った後であろうか、双剣がまるで曲芸のように複雑な軌道を描き、ロンドの首筋を目がけて突き出されそうになり、とっさにテーゼンが味方を突き飛ばして庇った。
「てめっ」
「うるせーんだ……よ。文句言える立場か、アンタが」
深く肩に突き刺さった剣先を、無造作に掴んだ手で抜いた悪魔は、赤い血を流しながらロンドの隣でへたり込んでいる。
猶予はない、仲間たちを早く治療せねば――。
孤児院出身の三人――シシリーとアンジェとロンドの視線が、つかの間交錯する。
声に出さずとも、その意図は伝わった。
フェイントを含んだステップで近づいたアンジェが、トンボを切り短剣で背中を裂く。
その落下速度を利用した攻撃によろめいた所を、ロンドが熱を伴う曲刀を剛力に任せて振り下ろして、鏡の魔物の腕を断ち切った。
「かはっ……な、何故……たかが、冒険者に……」
瀕死の中、己の間近に迫った敗北を信じたくない魔物を一刀両断したのは、≪Beginning≫の鋭い唐竹割りであった。
「その侮りが、あなたの敗因よ……ロンドは返してもらうわ」
見慣れたはずの身体が地に伏せると同時に、湖の底のような蒼く暗い世界を引き裂くように、白く透明な線が奔る。
どうしても自らの終わりに納得がいかないのか、ロンドの姿をもはや保ち続けることが困難になったそれは、額からひび割れている身体を抱え、憎々しげにこちらを睨み付けた。
目を眇め、それを見下ろしたホビットの娘は、よく手に馴染んでいる短剣を振り上げて――!
その後。
気がつけば、全員が揃って宿の部屋に倒れていた。
ベッドサイドに置いていたはずの鏡は跡形もなく、ただコップ一杯ほどの水が、端から滴り落ちているのみだった。
結局あの後、件の鏡について説明させられたロンドは、仲間たち(主に年長組み)からこっぴどく叱られた。
不用意に曰くあり気なものを買うな、興味本位も大概にしろと、老婆と壮年の男が彼を正座させて、懇々と叱りつけたものである。
内心、それを聞いてロンドは酷く安らいでいたのだが。
もしも――もしも、そのまま気づかれなかったら。
魔物と己が入れ替わっていることに誰も気がつかず、あのまま独りで氷の中に封じ込められていたとしたら。

降って湧いた妄想に肝を冷やされると同時に、くだらない妄想に終わらせてくれた仲間と出会えた幸運を噛み締めていたのだ。
部屋に隠していた品も全てウィルバーとアンジェによって回収され、テアの交渉によって700枚の銀貨へ変換されてしまった……案外と、掘り出し物が混ざっていたらしい。
これ以上進めば、”一ツ葉”通りを抜けてしまうという地点で、ロンドは足を止めた。
事件後にいくら足を運んでも眠る黒猫は見つからず、露店のあった路地はどこにも見つからなかった。
「………」
ふと気づいた事実に、彼の肌が粟立つ。
そもそも、何度も足を運んだはずなのに、あの店主の姿を思い出せないのは何故だろうか?
瞼の裏に浮かぶのは、三日月形に弧を描く薄紅色だけだった。
※収入:報酬700sp
※支出:見習いの研究室(罪深い赤薔薇の人様作)にて≪銀色の薔薇≫7つ購入
※その他:風来土方様のリューン再発見にて”不思議な搭2F””不思議な搭4F””不思議な搭6F””不思議な搭8F””不思議な搭10F”をクリアし、報酬340spと≪魔法薬≫≪悪魔の水晶≫≪天使の水晶≫≪星の金貨≫×30入手。金貨一枚でこんなことができる(甲蟹様作)にて≪星の金貨≫を【愛の手管】≪緑曜石≫に変換。魔術師の工房(Niwatorry様作)にて≪緑曜石≫を≪障壁の手袋≫に変換。月夜の庭にて(hisase様作)にて≪月守アミュレット≫を購入。
※つちくれ様作、In the mirrorクリア!
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■後書きまたは言い訳
37回目のお仕事は、つちくれ様のIn the mirrorを選ばせて頂きました。
つちくれ様は、ごく最近(2016年4月現在)ギルドへシナリオを投稿され始めた作者さんの一人なんですが、シナリオのテーマに合わせた背景素材や効果音の選択が素晴らしい方です。
シナリオ自体は「凍える湖城(梨野様作)」に影響を受けて制作したとリードミーにあるのですが、それを抜きにしても、魔法の仕掛けの美しさが際立っているような……この巧さ、ぜったいつちくれ様はシナ作初心者じゃないな……。
6-7レベル対象シナリオの中で、リスに変わっちゃったり竜に選ばれちゃったりするトラブルメイカーさんがいるパーティには、オススメの作品です。
何しろ、私も「このシナリオやるんだったら、やっぱり巻き込まれ役はこいつだよな…」と、一番の前衛にも関わらず、迷いなくロンドを選びましたので。
……いやあ、一番の戦力が封じられている戦いって結構スリリングですね……。
自分が作った双剣技が炸裂するたび、「ひいい!死ぬ死ぬ」と言って慌てていたのは秘密です。
今回、ロンドの過去をちらりと書いておりますが、彼はさる上流家庭の愛人の子息です。母親の身分はかなり低く、本妻からは憎い女の産んだ子供ということで、犬をけしかけられたりしておりました。
さすがに見かねた父親が、そっと孤児院に預けたというのが事の真相です。
よほどのことがなければ書くこともないかなー、と思っていたのですが、書いていくうちにシシリーが結構過去を暴露してましたね……。
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。
「兄ちゃん!」
叫んだアンジェの声が、キィイイン…と響いた。
羊水の中の胎児の様に体を丸めるロンドを、隙間なく飾るようにして氷塊が覆っている。
ごくり、と誰かの喉が鳴った。
「……眠っているのですか?」
近寄ろうとしたウィルバーの腕を、傍にいたテアが引いて止める。
老婆が目を細めたのは、鏡から現れた人影に気づいたからであった。
「そう簡単に、助け出させてはくれないわけですか」
悔しげに吐き出す魔術師の視界の中で、人影は足先から徐々に色を取り戻し、やがて――。

「………」
彼らのよく知る、そしてまったく知らない表情でこちらを見るロンドの姿になった。
彼の顔は冒険者たちを酷く疎ましがっているように、またノコノコと入ってきた獲物を馬鹿にするように、左右非対称に歪んでいる。
音も立てずに腕輪から鋼糸を引き出したアンジェが、宣戦布告した。
「兄ちゃんに手を出したこと。あたしらに関わってしまったこと。……後悔させてあげる」
確かな敵意で持って相対するアンジェに向け、鏡の魔物はにたぁと口を広げて見せた。
笑いに呼応するように、4つの氷塊が浮き上がって輝く。
ひゅ、と毬のように弾んだ身体から糸が奔った。
「砕けろっ!!」
アンジェの【黄金の矢】が糸を通して氷塊から現れ出でたばかりの魔物に突き刺さる。
ただの一撃で仕留められたのを見て、鏡の魔物がロンドの顔に似合わぬ表情で舌打ちした。
続けて氷塊から現れた化け物も、次々にテーゼンの槍やウィルバーの放つ魔力の矢に貫かれ、その数を減じていく。
蛙のグランツや妖精のムルも、それぞれに敵へと飛びかかっていった。
「おのれぇっ!」
鏡の魔物は二つの剣をかざし、それぞれに炎の魔力と氷の魔力を這わせてシシリーへ襲い掛かった。
赤と青に彩られた軌跡が、苛烈なまでの勢いで迫ってくる。
「姉ちゃん!」
「くっ!」
とっさに≪Beginning≫を脇腹の急所の辺りまで引き上げ、その斬撃を辛うじて逸らしはできたものの、防ぎきれなかった刃は革鎧ごと彼女の腹をざっくりと薙いだ。
ぼたぼたと滴り落ちる朱に、ウィルバーはまるで自分が攻撃を受けたかのように顔の血の気を失くすが、テアが始めた演奏が体力を回復する【安らぎの歌】であることに気づき、さらに彼女への攻撃を防ぐため、自らは【飛翼の術】を唱え始める。
それと気づいたものか、アンジェの短剣を腹部に受けながら、痛い様子も見せずに無理矢理前進した鏡の魔物が、双剣を旗を掲げる爪に振るう。
防ごうとしたテーゼンの槍は一歩届かず、剣は魔術師の脚や老婆の肩、テーゼン自身の腕を傷つけた。
もしこの時、そのすぐ後にテアが【安らぎの歌】を発動させなかったら、もしかしたら誰かが倒れてしまったかもしれない。それほどに大きな傷であった。
よく訓練された喉から無事に発動した呪歌は、刻まれた仲間たちへの傷を薄くしていく。
それに力づけられたテーゼンが吼えた。
「どけよっ、偽モンのくせに白髪頭並みの体力しやがって!」
「……」
さらに振り下ろそうとした剣を、がっきと槍が組み合って止める。
そうして動きの止まった相手を狙い、シシリーが腕に集めた法力を熱へと変換して、身体を回転させるようにして【劫火の牙】を放った。
「……?」
【劫火の牙】の一撃を受けた魔物の姿が歪んでいる。
「こいつ、熱に弱いんだわ……!」
「なるほどな。よし、この偽モンは僕とシシリーで相手しよう。他の皆は、さっさとあのガタイが良すぎる眠り姫を、氷から回収してくれっ」
テーゼンはそう叫ぶと、矢のような素早さで偽者のロンドを貫こうとした。
得物をいつの間にか大剣に持ち替えた魔物は、鋭い穂先を呆れるほど大きな刀身で防ぎ、そのまま氷塊へ走り寄ろうとしていたウィルバーに向けて、重量を乗せた斬撃を繰り出す。
「くはっ……」
「ウィルバー殿っ」
テアが彼の身体を支えながら、苦しい体勢で演奏し得た【赫灼の砂塵】により、魔物や氷塊に砂塵の熱によるダメージを与えた。
ぱりん、という最後の氷塊が砕ける音がして、その下にいたロンドを素早く滑り込んだアンジェが慌てて揺り動かす。
「兄ちゃん!」

「……っ!?あ、え……俺!?」
目を白黒させながら、自分と同じ顔をした相手に驚いている少年に、アンジェはすかさず小さな体に見合わぬ気合で喝を入れた。
「惚けてないで戦ってよ!誰の為にここまで来たと思ってんのさ!」
「あ、あぁっ!」
「しっかりしてね、兄ちゃんの武器の出番なんだよっ」
ロンドが気絶から回復したせいで力を失ったのか、魔物の傍を飛び交っていた小片がさらさらと崩れていく中、テーゼンが複雑なステップを踏み、ウィルバーが滔々と呪文を唱えた。
【切ない秋】と【魔法の鎧】による防護を得たロンドは、曲刀をかざして魔物に襲い掛かった。
双剣と曲刀、同じ顔の左右反転した2人が、まるで目まぐるしいダンスを踊るかのように位置を変えながら、激しい攻防を繰り広げている。
何合打ち合った後であろうか、双剣がまるで曲芸のように複雑な軌道を描き、ロンドの首筋を目がけて突き出されそうになり、とっさにテーゼンが味方を突き飛ばして庇った。
「てめっ」
「うるせーんだ……よ。文句言える立場か、アンタが」
深く肩に突き刺さった剣先を、無造作に掴んだ手で抜いた悪魔は、赤い血を流しながらロンドの隣でへたり込んでいる。
猶予はない、仲間たちを早く治療せねば――。
孤児院出身の三人――シシリーとアンジェとロンドの視線が、つかの間交錯する。
声に出さずとも、その意図は伝わった。
フェイントを含んだステップで近づいたアンジェが、トンボを切り短剣で背中を裂く。
その落下速度を利用した攻撃によろめいた所を、ロンドが熱を伴う曲刀を剛力に任せて振り下ろして、鏡の魔物の腕を断ち切った。
「かはっ……な、何故……たかが、冒険者に……」
瀕死の中、己の間近に迫った敗北を信じたくない魔物を一刀両断したのは、≪Beginning≫の鋭い唐竹割りであった。
「その侮りが、あなたの敗因よ……ロンドは返してもらうわ」
見慣れたはずの身体が地に伏せると同時に、湖の底のような蒼く暗い世界を引き裂くように、白く透明な線が奔る。
どうしても自らの終わりに納得がいかないのか、ロンドの姿をもはや保ち続けることが困難になったそれは、額からひび割れている身体を抱え、憎々しげにこちらを睨み付けた。
目を眇め、それを見下ろしたホビットの娘は、よく手に馴染んでいる短剣を振り上げて――!
その後。
気がつけば、全員が揃って宿の部屋に倒れていた。
ベッドサイドに置いていたはずの鏡は跡形もなく、ただコップ一杯ほどの水が、端から滴り落ちているのみだった。
結局あの後、件の鏡について説明させられたロンドは、仲間たち(主に年長組み)からこっぴどく叱られた。
不用意に曰くあり気なものを買うな、興味本位も大概にしろと、老婆と壮年の男が彼を正座させて、懇々と叱りつけたものである。
内心、それを聞いてロンドは酷く安らいでいたのだが。
もしも――もしも、そのまま気づかれなかったら。
魔物と己が入れ替わっていることに誰も気がつかず、あのまま独りで氷の中に封じ込められていたとしたら。

降って湧いた妄想に肝を冷やされると同時に、くだらない妄想に終わらせてくれた仲間と出会えた幸運を噛み締めていたのだ。
部屋に隠していた品も全てウィルバーとアンジェによって回収され、テアの交渉によって700枚の銀貨へ変換されてしまった……案外と、掘り出し物が混ざっていたらしい。
これ以上進めば、”一ツ葉”通りを抜けてしまうという地点で、ロンドは足を止めた。
事件後にいくら足を運んでも眠る黒猫は見つからず、露店のあった路地はどこにも見つからなかった。
「………」
ふと気づいた事実に、彼の肌が粟立つ。
そもそも、何度も足を運んだはずなのに、あの店主の姿を思い出せないのは何故だろうか?
瞼の裏に浮かぶのは、三日月形に弧を描く薄紅色だけだった。
※収入:報酬700sp
※支出:見習いの研究室(罪深い赤薔薇の人様作)にて≪銀色の薔薇≫7つ購入
※その他:風来土方様のリューン再発見にて”不思議な搭2F””不思議な搭4F””不思議な搭6F””不思議な搭8F””不思議な搭10F”をクリアし、報酬340spと≪魔法薬≫≪悪魔の水晶≫≪天使の水晶≫≪星の金貨≫×30入手。金貨一枚でこんなことができる(甲蟹様作)にて≪星の金貨≫を【愛の手管】≪緑曜石≫に変換。魔術師の工房(Niwatorry様作)にて≪緑曜石≫を≪障壁の手袋≫に変換。月夜の庭にて(hisase様作)にて≪月守アミュレット≫を購入。
※つちくれ様作、In the mirrorクリア!
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■後書きまたは言い訳
37回目のお仕事は、つちくれ様のIn the mirrorを選ばせて頂きました。
つちくれ様は、ごく最近(2016年4月現在)ギルドへシナリオを投稿され始めた作者さんの一人なんですが、シナリオのテーマに合わせた背景素材や効果音の選択が素晴らしい方です。
シナリオ自体は「凍える湖城(梨野様作)」に影響を受けて制作したとリードミーにあるのですが、それを抜きにしても、魔法の仕掛けの美しさが際立っているような……この巧さ、ぜったいつちくれ様はシナ作初心者じゃないな……。
6-7レベル対象シナリオの中で、リスに変わっちゃったり竜に選ばれちゃったりするトラブルメイカーさんがいるパーティには、オススメの作品です。
何しろ、私も「このシナリオやるんだったら、やっぱり巻き込まれ役はこいつだよな…」と、一番の前衛にも関わらず、迷いなくロンドを選びましたので。
……いやあ、一番の戦力が封じられている戦いって結構スリリングですね……。
自分が作った双剣技が炸裂するたび、「ひいい!死ぬ死ぬ」と言って慌てていたのは秘密です。
今回、ロンドの過去をちらりと書いておりますが、彼はさる上流家庭の愛人の子息です。母親の身分はかなり低く、本妻からは憎い女の産んだ子供ということで、犬をけしかけられたりしておりました。
さすがに見かねた父親が、そっと孤児院に預けたというのが事の真相です。
よほどのことがなければ書くこともないかなー、と思っていたのですが、書いていくうちにシシリーが結構過去を暴露してましたね……。
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。
2016/04/20 11:54 [edit]
category: In the mirror
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