Sat.

提琴弾きの依頼その4  

「蛇のコインが2枚、蜥蜴のコインが1枚。これで……」

 天秤の皿に金貨を乗せて分銅で重さを量ったところ、305グラムであった。

「ああ、これではっきり分かりましたね。アンジェ、蛇の金貨を壺へ投げ入れて下さい」
「はーい!」
 アンジェが蛇の図柄が彫られた金貨を投げ入れると、ズズズ……と重たい石が動くような音と共に、床へ人間2人分の幅の口が開き、地下へ続く階段が現れた。

「さすがウィルバーさん。やるなあ」
「ふっふっふ、こういうのなら得意なんです。さ、この階段を下りましょう」

 さすがに灯明が必要になったので、ランプさんとスピカをベルトポーチから解放し、階下へと進む。
 光の精霊たちが照らした空間は、テーゼンとは違う形の翼を背から生やした人の緻密な彫刻が壁に刻まれている、20メートル四方ほどの部屋であった。
 色の違う敷石を絨毯の紋様のように並べており、地下に封じられているにも関わらず、彩なす場所となっている。
 部屋の中央には台座があり、上に一振りの曲刀が置かれている。
 罠がないことをざっとアンジェが確認し、ウィルバーがそっとそれに手を伸ばした。

「ジャムシードさんから伺ったとおりの形状ですね。この剣で間違いなさそうです」
「さて、これで依頼達成だな。彼のところに戻ろう」

 階段の現れる仕掛けは、どう戻したらいいのか分からなかったのでそのままにし、冒険者たちは依頼人が待つ家へと向かった。
 旗を掲げる爪の姿を見たジャムシードは、

「おや、もう戻ってきたのかい?」

と目を瞬かせている。
 冒険者たちが一度立ち入った部屋の中には、コーヒー(カフワ)豆を焙煎している香ばしい匂いが漂っていた。

「曲刀は見つかった?」
「ええ。ここにちゃんとありますよ」

 ウィルバーが祭事用の曲刀を占星術師に手渡すと、彼は人の良さそうな微笑みを浮かべて受け取った。

「確かに。どうもありがとう」
「いいえ、これが仕事ですもの」
「それにしても、君たち頭いいんだねぇ。あのコインと天秤の問題を、初見で解いちゃうなんて」
「うちの頭脳役が優秀だったものですから」

 シシリーは家族を誇るような表情でウィルバーを見やった。
 その雰囲気をぶち壊しにしたのが、ぴょんぴょんと香りの源を覗き込んでいるアンジェであった。

「ああ、約束のコーヒー(カフワ)だよ。そちらでは常用するのかな…?」
「あのねー、一部地域では結構広まってるみたいなんだけど、リューンではたくさん輸入はしてないから一般的じゃないみたいなんだよね」
「アンジェときたら、話を聞いたときから飲みたがってたんだよ」

 ロンドがすっぱ抜いたのに、ジャムシードはくつくつと笑い声をあげた。

「なるほどね。どうぞ、適当にかけて。今並べるから……お茶請けも用意してみたんだ」

 赤い敷布の上で車座になった一行に、占星術師は手際よく器を並べていく。
 コーヒー(カフワ)の入ったカップには受け皿がついており、そのスペースへ小さな林檎のパイのような物が乗せられていた。

「クルチェって言うんだ。甘いよ」
「…これって、林檎パイだよな?」
「クルチェだよ」
「どう見ても林檎パ……」
「クルチェだよ」

 満面の笑みでテーゼンとアンジェを黙らせた男へ、いささかの不安を覚えたシシリーが問うた。

「あの……サバークの話は聞かせてもらえるのですよね?」
「約束だからね、勿論だよ。まあ、コーヒー(カフワ)で一息つきながら、気楽に聞いてってことで。お菓子も食べれば、いい土産話になるんじゃない?」

 外出ですっかり砂のついた手を布で拭き清め、ありがたく飲み物とお菓子に手をつけた一行を満足げに見やったジャムシードは、彼らが一息ついたタイミングで口火を切った。

「さて。お待ちかね、砂漠の街・サバークのガイドに移らせていただくよ」

 彼の声はのんびりとした眠たげなものから、いつの間にか耳殻に心地良い響きを持つ朗々としたものに変わっている。

「サバークは都市として大きすぎず、小さすぎず、その歴史も長くはなく、また浅くもない。そんな凡庸な砂漠の一都市だが、街の至る所に”物語”の断片が散りばめられている」

 ジャムシードは意味ありげに指を振り立てると、賢者の搭の導師連に劣らぬ熱心さで語り始めた。

提琴弾き7

「何故、この地では天文学が盛んなのか。あの大図書館の成り立ちは?蔵書はいつ頃、どこから集められてきたのか?…物語には光と影が付き物。その光と影、双方が織り成す魅惑の世界にご招待いたしましょう」

 占星術師の話は多岐にわたり、彼らが商人から購入した千夜一夜……とまではいかないものの、それ相応の時間を費やした。
 しかし、彼の話は不思議と飽きることはなかった。
 眠気覚ましにもなるコーヒー(カフワ)のせいなのか、占星術師の話術によるものなのかは、さしもの彼らも知る由もない。
 そしていつしか日が暮れ、夜の帳が下り、話が一区切りついたところで夜伽話は幕を閉じた。
 翌日はサバークからリューン方面へ向かう隊商に合流させて貰い、一緒に移動することとなった。
 隊商を脇から護衛しているシシリーが、隣のウィルバーに話しかける。
 
「……貴重な話をいっぱい聞けたのは嬉しかったし、面白かったんだけど……」
「そうですね、シシリーの言いたいことは分かりますよ」

 ふっ、とため息にもならない小さな吐息を吐き出したウィルバーの視線の先に、猛然とラクダの上で腕を動かしている老婆の姿がある。

「思うに、あのルージュ・ポワゾンが傑作とやらを書き終わる前に、うちのテアさんの方がトトゥーリア遺跡の体験を基に、砂漠についての歌の新作を作っちゃうんじゃないでしょうかね」
「そうよね。うちのお婆ちゃんだって吟遊詩人なんだから、珍しい体験をしたらそれについて書き起こさないわけないんだもの…」
「あのバイオリン弾き、そこまで考えてなかったんだろうか?」
「考えてたら、僕らにこんな依頼をしてくるわけないだろ、白髪頭」

 テーゼンはあっさりと否定する。

「それでも、あいつの依頼を引き受けるだろう冒険者なんて僕らだけだったんだし、ポワゾンは自分の意思で旗を掲げる爪に依頼をしてきたんだろ?じゃ、自業自得なんじゃねえの」
「これで銀貨1000枚、貰っちゃっていいのかしらね…」
「仕方ないよ、姉ちゃん。あたしたちに曲を作るな歌を作るなとは契約に入ってないし、それはそもそも無理だもんね」

 アンジェは愉快げにコブの間で体を揺らしながら言った。

「こっちはいつだって命懸けだったんだもん。ちょっとくらい思い出を振り返るものを作ったって、バチは当たらないと思うな」
「まあ……そうね。依頼を完了すれば、いい曲になるかどうかは、彼の才能如何なんだし」

 ≪狼の隠れ家≫に戻った旗を掲げる爪は、ポワゾンへサバークで見聞したこと、得た情報を余すことなく伝えた。
 話の内容の濃さに感激したバイオリン弾きは、魅惑のメロディが次々と湧き起こってきたと報酬を銀貨1200枚まで引き上げて払ってくれたのだが、自分の宿泊する部屋に戻った老婆が、1週間後に新作を発表することをまだ知らない。

※収入:報酬1200sp、≪千夜一夜物語≫、≪ケバブ≫×5
※支出:≪千夜一夜物語≫購入1000sp、≪ケバブ≫×5購入20sp
※あめじすと様作、提琴弾きの依頼クリア!
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■後書きまたは言い訳
36回目のお仕事はまた砂漠方面で、あめじすと様の提琴弾きの依頼でした。
あめじすと様はブログでシナリオの感想を書いてくださっている方で、Leeffesも色々「おおっ、こんなシナリオがあるならぜひやらねば!」などと楽しませて頂いてるのですが、プライベートで発表なさっているシナリオも軽い感じのものからガチ戦闘が発生するものまで、色々と遊ばせて貰っています。
ルージュ・ポワゾンの出てくる作品はまだあるので、これからも旗を掲げる爪で遊ぶ予定です。

依頼自体は戦闘の発生するものではなく、軽くリドルに頭を悩ませるだけなのですが、サバークの街の住民たちの生き生きとした様子に、またこの場所へ訪れたくなります。
冒険者たちの財布に余裕があれば、もう少しここで買い物したかったんですが、あいにくと本やケバブ買うのが精いっぱいでした。
買い物時のリプレイは書いてありませんが、もし飛行キーコードをまだ持っていないパーティがあれば、1500spを持ってサバークへ向かうのも手だと思います。
飛行や浮遊キーコードのつく絨毯は所有時に回避+2効果があるので、持っていると色々と便利です。
私が旗を掲げる爪に買わせた本は、1000spで買って1500spで売り飛ばすということができるので、「絨毯も欲しいし本も欲しい」というプレイヤーさんがおられましたら、自分のパーティに2500spまで稼がせてから赴かれると良いでしょう。
ケバブは……何となく、現地の食べ物って買ってみたくなりませんか?
ただ、この商人さん、親切なことに本気で何も買わなくても占星術師の居所は教えてくださいますので、貧乏なんだよね…ってパーティでも安心してチャレンジは可能です。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2016/04/16 11:26 [edit]

category: 提琴弾きの依頼

tb: --   cm: 2

コメント

あめじすとさんの作品はキラリと光るユーモアが感じられて素敵ですね。
今回リプレイを読んでいて一貫して砂漠のイメージが浮かんできて、世界観の作りも魅力的だなと思いました。
テアさんはポアゾンとは浅からぬ因縁のある仲になりそうだ。

URL | ハテナ #- | 2016/04/19 18:10 | edit

コメントありがとうございます!

>ハテナ様
たびたびの丁寧なコメント、ありがとうございます。
おっしゃるとおり、あめじすと様のシナリオはきらっとしたユーモアが光る作品が多いですね。
今回出たサバークの街は、残念ながら続きのシナリオには登場しないのですが、それ以外の作品でも、面白い登場人物や魅力的な街が待ち構えておりますので、未プレイの方にはぜひぜひやって頂きたいな、と思います。
婆ちゃんはポワゾンを嫌ってるわけではないと思うのですが…自分の芸については厳しい人なので、同業にも同じ水準を求めがちなのかもしれません…でも、実の息子がこんなだったらやっぱり嫌かもしれない(笑)。

URL | Leeffes #- | 2016/04/20 12:18 | edit

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