--.

スポンサーサイト  

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--/--/-- --:-- [edit]

category: スポンサー広告

tb: --   cm: --

Sat.

提琴弾きの依頼その3  

 恐らく買値より高く売れる掘り出し物の書物と、魔除けの効果のあるスパイスを使った羊肉のケバブ5本セットを買い込んだ旗を掲げる爪は、なんとジャムシードが昼間、大図書館の人目につかない書架の裏で寝ているという情報を貰って道を引き返した。
 結局最初の建物へ逆戻りになったことに、各々がため息をつきながら教えられた場所――魚の料理本のコーナーを覗き込むと、隅の方でうずくまっている人間がいる。
 ロンドが分厚い掌でその肩を掴み、

「もしもーし」

と声変わりのすっかり終わった低音ボイスで声をかけた。
 ざらついたその声音に、書架にもたれかかって眠りこけていた男は、うっすらと目を開く。
 年の頃は恐らく20代半ば、まだ張りのある特有の浅黒い肌には、服の皺の痕が昼寝のせいでついていたため、それに気づいたアンジェが後ろを向いて笑いを堪えた。
 人の良さそうな黒瞳が3度瞬き、ようやっと焦点を結んだ。
 ウィルバーがしゃがみ込んで彼と目線を合わせ、そっと発言する。

「お休み中のところ、すみません。あなたが、ジャムシード・ダーイーさん?」
「そうだけど…君たちは?」
「リューンの冒険者です」
「リューンから…それはわざわざ…」

 男は崩れていた体勢を整え、座り直してから一同を見回した。

「こんな場所と格好で申し訳ないけど…今日は何を占って欲しいんだい?」

 未来か、恋愛か、人生相談か――矢継ぎ早にそう訊ねたジャムシードだったが、慌てて首を横に振ったシシリーから否定された。

「ああ…いえ、占って欲しいわけじゃないんです。この街の調査を依頼人から頼まれていて…」
「あなたが詳しいと聞いたから、この街の地理や歴史について教えてもらいたいんだ」

 ロンドが説明を添えると、ジャムシードは感心したように顎を左手で撫でた。

「へぇ…。君たちにこの街のことを教えるのは構わないんだけど…」
「だけど?」
「代わりに僕の依頼を受けてくれないかな?報酬はこの街に関するあらゆる情報ってことで」
「あら」

 シシリーは思いがけない話の流れに軽い驚きを覚え、頬に手を当てた。
 ロンドが犬のように低く唸ってから言った。

「内容によるな。ハイリスクローリターンなら、この話自体をご破算にするか、追加報酬をいただくことになるが」
「そんなに難しいものでもないよ。サバークの西の外れに白亜の神殿があるんだけど、そこから曲刀を取ってきて欲しい。祭事に必要なんだ」
「その神殿とやら、未踏破だったり、魑魅魍魎が跋扈してたりするのかの?」

 テアは眉根を寄せ、以前にチャレンジしてとんでもないことになった、禍神を封じていた神殿を思い返しながらジャムシードに質問する。

「以前行った時は、仕掛けが一つあるぐらいだったけど…何でだい?」
「いえ…それなら自分で行った方が早いんじゃないかと…」
「うむ、シシリー殿もそう思うか?」
「だよねー。ジャムさん、なんでそうしないの?」
「そうしたいのは山々だけど、先日僕の占い結果に憤慨した御仁に、後頭部を思い切りごつんとやられてしまってね」
「……どこかで聞いたような話ですね……」
「砂漠の街でもリューンの宿でも、トラブルメイカーって大体同じ運命を辿るのかもしれねえな」

 ターバンの下に巻いた包帯を、ほらほらと言いながら見せる占星術師に思わず冒険者たちは半眼になってしまったが、歴史上の本当にあった話からサバークの最新流行パワースポット、観光客を狙ったボッタクリ店まで全部教えてくれるというのだから、神殿が近場で戦う危険がないのであれば、まあお使い代わりとしては妥当な報酬である。
 仕掛けの具体的な内容については「行ってからのお楽しみ」というだけで教えてくれないものの、決して命の危険があるようなタイプのものではないらしい。
 行くだけ行ってみるか、ということになり、占星術師から神殿への道を記した地図を貰った旗を掲げる爪は、神殿へ向かうことにした。
 ぴょん、と砂埃の立つ道を跳ねるようにアンジェが歩く。

「長話のために、コーヒー(カフワ)を用意してくれるって!結構親切だね、ジャムさんて」
「そう決め付けるのもどうでしょうね……。親切は親切でも、ああいうタイプは悪気なく地雷を踏んで歩くこともありますから」
「占い結果で殴られたみたいに、か」

 呟いたロンドが、ベルトに挟んだ曲刀に手をやる。

「あの人が言ってた曲刀って、この≪サンブレード≫よりも小さいんだろ?」
「ええ、そうらしいわ。祭事に使うだけで、実戦へ用いることはないんでしょうね」
「おや……あの建物じゃないかえ?」

 テアが指差したのは、ずいぶんと豪奢な造りの白亜の建物だった。
 使用用途は不明だが、”神殿”という名称、祭事に使われている剣が奉納されていることから、このサバークの宗教に深く関わってくる場所なのだろう。
 振り返ると、まだ視界には大図書館の屋根が見えた。

「結構近かったわね」
「さて…さっさとお使いを済ませて帰りますかね」

と言って神殿の入り口を潜ろうとしたテーゼンが、くるりと仲間たちの方を向いて言った。

「中から水の音が聞こえる」
「……ふむ。祭事に水を用いることがあるのかもしれませんね」
「とにかく、ここで留まっていても仕方ないわ。皆で入りましょう」

 神殿へと立ち入ると、テーゼンの言うとおり他の者の耳にも涼しげな水の流れる音が届く。
 この建物にはドアもないため、そのまま下の方が膨らんだ柱の間を通り抜けていくと、通路の両側になみなみと水が張られていることに気づいた。

提琴弾き6

 この街の乾いた気候からは想像しがたい、豊富な水量である。
 水のある風景は、この熱砂のなかにおいてひんやりとした体感を与えてくれる。
 そんな中でも、アンジェはリスのように忙しなく動き回り、何事もないことを確認し終わると仲間たちへ合図を送った。
 魔除けの象徴なのか、犬のようにも狐のようにも見える動物の石像が、一定の距離を保って置かれていく中を進んでいく。

「……静かね」
「あたしが見た限りじゃ、盗賊よけの罠みたいなものは全然ないね」
「仕掛け、とやらはどのようなものなんじゃろうの……」

 神殿内部は上手く太陽の光を取り入れる設計となっているようで、今のところ光精たちの出番もない。
 午後の強い光が届く中、四方に伸びる通路の中央に、石版・天秤・壺が置かれている。

「ばあ様が気にしてたのは、これのことかもしれないな」

 テーゼンが先に進んで、石版を覗き込んだ。
 少し眉をひそめている。

「蠍…蛇?ちょっと待って、よく分からねえな……」
「どれ、私が見てみましょう」

 場所をテーゼンと後退したウィルバーが、すらすらと石版の内容を読み上げた。

「『蠍・蛇・蜥蜴のコインはいずれか1種類(3枚とも)が金貨であり、残り2種類(6枚)は偽物である。』…おや、これはもしかして…」
「リドルだね!」

 意気揚々と声を上げたアンジェと対照的に、ロンドがどっかりと床に腰を下ろしてため息をついた。

「謎解きは俺の性分じゃないんだよな……」
「何言ってんだ、白髪頭。かぼちゃ屋敷の時は1人で謎解きしてただろうがよ」
「あれはヒントを他の皆がくれたからどうにかなったけど、こういう、数学的に頭を使わなきゃならないことは嫌いなんだよ」

 犬猿の仲の二人が話しこむ中、ウィルバーが深く響く声で読み上げた内容は、重さの各々違うコインの中から、天秤を一回だけ使って本物の金貨を当てろということであった。

「あ、壺の中には何もないよ」
「……まだ通路があるから、そこから金貨を持って来いってこと?」
「そういうことなのでしょう。どれ、私がここで解き方を考える間、皆さんでちょっとコインを探してきてください」
「1人で危なくないか?いいのか?」
「焦点具に力を込めても、引っかかる邪な力はないようですし…。ジャムシードさんが仰っていた仕掛けとやらがこれなら、襲われることはないと思いますよ」

 魔神すらも騙しとおした男の言葉である。
 仲間たちはそれを信じて、各通路から図柄の刻印された金貨の袋を集めてきた。

2016/04/16 11:24 [edit]

category: 提琴弾きの依頼

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。