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 それは春風がリューンの市街を吹き抜ける、気持ちのいい午後のことだった。

「ばあ様は何を書いてるのさ?」

 他の仲間達が宿を留守にしている中、テーゼンはひょいとテアの書き綴っている楽譜を覗き込んだ。
 彼女が冒険を元に新しい歌を作っているのは、事あるごとに話を聞いていて耳に胼胝ができる寸前だったりするのだが、そこに書かれているのはどう見ても――。

「これって、白髪頭のこと?」

 テーゼンとは犬猿の仲である相手のことのように思えた。

「おお、そうとも。クドラ相手の時といい、こないだの死霊術師相手の時といい、どうにもあの男が果たす役割がこんな風に思えてな。ちょうどいいから、詩を書いてみたのだよ」
「……葬儀屋の歌。なんていうか、景気いい歌っぽくはないね」
「何を言う。ロンド殿がスコップを振り回すたび、死者が量産され、実体を持たない不死者すら天に還っていくじゃろ。葬儀屋(アンダーテイカー)という二つ名で歌を創作するのも、なかなか面白いのではないか?」

 そこに書かれていたのは、生きている敵もアンデッドとなった敵も、彼の作る墓穴へと放り込まれていくという恐るべき戦士についての歌であった。
 長剣と盾を構えて竜などの危険なモンスターに対する騎士の伝承とは、かなり趣を異にしているのだが、少なくとも、ロンド自身が発表して仲間からこき下ろされた、ベタというか14歳あたりが妄想をこじらせたような創作ノートよりは、第三者にたいして受ける確率は高い。
 自分について書いてはくれないのか、とはテーゼンは言わなかった。
 下手に注目を浴びるようなことになれば、再びどこかからか聖北教会の過激派に嗅ぎつけられて、追われることになるかもしれない――まあ、返り討ちにすればよいだけだが。
 そのことを察しているのであろう老婆は、喉の奥を鳩のように鳴らして笑った。

「それにしても、ボロ雑巾のように落ちていたおぬしを拾ってからこっち、これほど詩人として活動し甲斐のある仲間と出会うことになるとは、思いもせんかったわ」
「……ボロ雑巾で悪かったな。確かに空腹だわ怪我してるわ服が破れてるわで、そのまま放置されてたらろくな結果になってなかったとは思うけど」
「わしに拾われて良かったじゃろ?」
「はいはい。名前まで貰ったしね」

 テーゼンは形の良い肩を竦めた。
 テアは彼のそんな様子を、目を細めて見守っている。

「ま、わしの魂をおぬしが旦那のいる所まで案内するのは確定しておるからな。わしがやった分の恩返しはしてもらうぞ」
「……どう考えても、真っ当な悪魔の取引じゃねえ気がするんだけど……」

 本来の悪魔との取引は、自分の魂や大事な存在などと引き換えに、人の世界においての栄誉や出世、金銭の要求をするものである。
 悪魔を先に助けておいて、死後の魂を案内しろなどというのは、確かに規格外と言えるだろう。

「それは仕方なかろう。そもそも、行き倒れた方が悪いんじゃ」
「悪魔よりいい性格してるよ、ばあ様。あと三十年は死なないんじゃない?」
「たわけ。そんなに長生きしたら、わしは100歳近くなってしまうではないか」
「ばあ様ならやりかねないよ……」

 テーゼンはため息を吐きつつ、翼を2回はためかせた。
 人間などが及びもつかないほど永い時を生きる悪魔にとって、今の冒険者をやっている時間はあっという間に過ぎ去ってしまうはずだ。
 だが、叶うならば、こんな他愛ない時間が出来るだけ長く続けばいいと――そんな風に思った。

2016/04/15 13:58 [edit]

category: 小話

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