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Thu.

時の囚われ人その3  

 シェトともう一度話し合うために階下を訪れた一行だったが、その際に呼びかけられた声に導かれ、あの巫女がいるはずの東の通路ではなく、北の通路を選んで向かって行った。
 突き当たりには、シェトがいた部屋の本棚のような家具らしきものは一切ない。
 ぼんやりと白く煙る人影が柱の間から現れ、シシリーがハッとなった。

「亡霊……!?」

 しかし、案外と朗らかでいたずらっぽい声で、人影は旗を掲げる爪へ呼びかけてくる。

「ああ、やっぱり!空気が動いたから、誰か来たんだってわかったのよ」
 白い人影はそう言ってから、段々とはっきりした姿を取るようになってきた。
 ほっそりした姿は女性らしく、セピア色にぼやけた髪は長く背中を覆っており、衣装は先ほど見たシェトと同じように古風なものである。
 テアが質問する。

「おぬし、幽霊じゃろ。こんなとこ彷徨っておっていいのか?」

時の囚われ人5

「失礼しちゃうわね。まあ、確かに幽霊だけどさ。あんたたちだって、死んだらこーなるかもしれないんだし。人のこと言ってる場合じゃないわよ」
「お迎えが近いことくらいは、百も承知じゃよ。わしは死んだら行き先がもう決まっておるから、おぬしのように場所に縛り付けられたりはせんがな」

 幽霊と堂々とやり取りをしているテアの後ろで、感心したようにロンドが腕を組んだ。

「透けてるくせに、ずいぶんと勝気なヤツだな…」
「ずけずけと言ってくれるじゃない。せーっかく私が、神殿脱出のお手伝いをしてあげようかなーなんて思ってるのに」
「……あのう、あなたは一体、どなたなんですか?」

 脱出の二文字に目を輝かせたウィルバーだったが、彼はそれと悟られないよう用心深げに目の前の女性へ尋ねる。

「ん?わたし?わたしはねー、封印を施した巫女のうちの1人なんだな、これが。もう死んでるってことは、シェトから聞いてるよね?」
「確かに聞いたがよ……」

 テーゼンが翼をゆっくりと開いたり閉じたりしながら思案している。
 神殿を脱出するということは、禍神を閉じ込めている封印を解除することに繋がる。
 せっかく巫女が命と引き換えにまで成し遂げた封印を解くのであれば、禍神も復活するはずだ。
 悪魔の青年がその点を巫女の亡霊に問い質すと、彼女は透けて向こう側の柱が見えている手を、気楽な調子でひらひらと動かした。

「へーき、へーき!だって、あの神呼ばわりされている化け物は、あんたたちが倒してくれるんでしょう?」
「まあ、そうだけどよ……巫女と言う割に過激な奴だな。あのシェトとは似ても似つかん」
「実はさ、手伝う代わりにお願いなんだけど……シェトを元気付けてやって欲しいのよ」
「元気付けるとは……どのようにしろと?」
「……封印の術の最中、1人の巫女が『この凝縮された力を禍神に向ければ倒せるかもしれない』って考えたの。その巫女は、”封印”の力を”攻撃”に転じて禍神に放ったのよ。ところが、突然の方向転換にバランスが崩れて”力”のみが暴走してしまった……」
「それが3人の巫女が肉体を消失した原因だったのですか……」
「うん。その3人が、必死に暴走を止めて”力”の軌道を修正し、なんとか禍神を封印することで落ち着いたけど…」
「該当の巫女たちは死んでしまったと。そういうこったな?」

 言葉を途中で引き取ったテーゼンが確認する。
 果たして、彼女は首肯して事実を告げた。

「3人の巫女のうちの1人が私。禍神を倒そうとして、力を暴走させたのが……シェトよ」
「おやおや、なんてことだろうね。それじゃ、シェト殿がここで大人しく何千年も見張り番をしているのは、その当時からの罪悪感ということかえ?」
「私が……私たちが、シェトのやったことで命を失ったのは事実だけど……だけど、これっぽっちも恨みになんか思ってないわ。シェトは運命を変えようとして、失敗してしまっただけ」

 巫女の亡霊は重たげなため息を吐き、アンジェはお化けもため息つくんだなと密かに感心した。

「その失敗であのコ、すっかり臆病になっちゃって……。もう一度、自分で運命を切り開いていくことの大切さと勇気をあのコに思い出させてやりたいんだ。どうかな。協力してもらえる?」
「もちろんよ」
「彼女のことは、僕らに任せてくれや」

 間髪いれずに肯定した一行に、亡霊はほっとした様子で封印の仕組みを説明した。
 禍神は石像の中に封印されていること。
 魔法機械を使って神殿を通常の時空から切り離したこと。
 魔法機械の動力は石像の中にいる禍神の力であること。
 最後に、石像と魔法機械のある部屋に続く階段は現在閉ざされていること…。

「全てを解除するには、逆にやっていけばいいわけ。階段を開いて、魔法機械を停止させる。そして石像を砕いて…」
「禍神を倒す、と。そういうことね?」
「正解!」

 巫女の亡霊は、頼もしげにシシリーを見つめ、話を続けた。
 彼女の言によると、閉じている階段を開くには4人の巫女の鍵が必要となる。
 ここと同じように西や南にも亡霊と化した巫女がいるので、まずは彼女たちから鍵を貰わなければ話にならない。

「かぎ?あたしじゃ開けられないの?」
「鍵とは言っても形はないのよ。うーん……強いて言うなら、『許可』とでも言うのかしら。とりあえず私の鍵はあげとくわね」

 北の通路の巫女が指を複雑な形に組むと、その印に黒く小さな光が生まれ、そこから伸びた光が6人の額を射抜いた。
 しかし、痛みもなければ、自分たちが何か『変わった』様子も見られない。

「こんなんでいいの?」
「いいのいいの。そういうものよ。それより、魔法機械を停止させる権限は私たちにないから力ずくの作業になるけれど、『時の欠片』っていうのを取り出しておいてね。でないとエネルギーが充填されて、自分で勝手に修復しちゃうからね」
「古代のカラクリのあり様は、無駄がないですね……」

 ウィルバーは感に堪えぬように首を横に振った。
 大体の説明を終えた北の通路の巫女が、不意に黙り込む。
 それに一同が怪訝そうな顔を向けると、そろそろ限界だと彼女は明かした。

「そろそろ……自我を保てなく……なってきた……みたい……」
「未練である禍神のことを託したから、この世に縛り付けられる理由がなくなったんじゃな」

 テアの言葉に、他の仲間達がもう彼女と別れる時が来たのだと察した。
 わずかに微笑みの見える薄れていく姿に、それぞれの思いを含んだ視線が走った。

「……鍵を渡したことで……私の……役目も……終わり……」
「あなたのおかげで、私たちも禍神と戦うまでに、どうしたらいいのかが分かったわ。ありがとう」
「神とやらを倒し、ちゃんと脱出してみせる」
「大変…な…こと……押し付けて……勝手に……消えちゃって……ご……めん……ね………」
「いえ。必ず、あの人を……シェトを、元気付けてみせましょう」
「シェトを…………よろしく……ね…………」

 かつての時代にその明朗さで他の巫女たちを結び付けていたのだろう亡霊は、最後にそう言い残すと天へと還っていった。
 通路には何の痕跡もない。
 それでも、ウィルバーは何かを拝命するように杖を持っていない手を胸にやり、頭を下げた。
 東の通路に戻り、北の巫女の――ちなみに、シェトによるとガイラという名前だったらしい――”鍵”となる徴を持っている彼らを見たシェトは、もし旗を掲げる爪が南と西の鍵を手に入れることが出来たなら、その時に自分の鍵もお渡ししましょうと約束した。
 それはつまり、封印を解除し、禍神を倒すのに協力するということである。
 彼女の言葉に励まされ、意気揚々と他の巫女たちの”鍵”を得る為に東奔西走――いや、この場合は西奔南走か――していた冒険者たちだったが、彼女たちの許可を得るのに困難な課題へ取り組む羽目になった。

「婆ちゃんがいなかったら、あたしたち大変だったよね……」
「吟遊詩人がいてくれて、これほど良かったと思った事はない」

 真剣な顔で頷き合うアンジェとロンドが言うとおり、西の巫女の課題は「歌を思い出させて欲しい」であった。
 彼女が持ち込み、”力”の暴発の際に神殿の何処かへ飛び散った楽譜を集めて一つの曲とするのが、彼女の願いだったのである。
 そのため、一行は幸いにして竪琴を爪弾きながら楽譜を組み立てたテアのおかげで、彼女の願いを叶えてやることが出来た。
 西の巫女は、

「そう……そうよ、この歌よ……!思い出したわ!!これは、あの人がくれた……ああ、イサーク……私も……あなたの元へ……」

と愛しい者への言葉を口にした。
 その後、組んだ指から白く輝く光を冒険者たちに授け、昇天してくれたのだった。
 一方、南の巫女は猛々しいと言うか、実力第一主義であったようで、禍神を殺すつもりなら自分と立ち会ってみろと、赤い狼のような生き物を従え、旗を掲げる爪と一戦交えたのである。

「実体をあえて自分につけてフェアにしてくれたのはともかくとして、準備しないままの戦闘って……辛いぜ……」

時の囚われ人6

「おぬしは物理的な攻撃をほんとど避け続けておったじゃないか。一番痛かったのは、新しい技で隙を見せてしもうたおちびちゃんや、足の遅いわしの方じゃ」
「砂漠の女狼って……すごい物騒な二つ名の巫女もいたもんですよね……」

 三頭の赤い狼の牙による怪我をどうにか回復しつつ、攻撃を巫女に集中させたのが良かったのだろう。
 彼女は自分が倒されると、感心したように一行を褒め称えた。

「肉体を失うてより久しいとはいえ……。見事じゃ」
「これだけ強いんだったら、あんただって神殺しは出来ただろうに」
「……私はしょせん、禍神に立ち向かう勇気のなかった臆病者……」

 スコップを下ろしたロンドが巫女に言うと、彼女は苦々しい笑みで首を横に振った。

「私にはもはや叶わぬが、そなたらに託すぞ、我が……我らが願い。そなたらの……うえに……栄光……あれ……」

 今にも消え去ろうとしていた巫女の突きつけた指から放たれたのは赤い閃光であり、光はやはり彼らの額を貫いた。
 アンジェが自分の産毛の生えたおでこを撫でながら言う。

「これで全部集まったんだね?」
「そのようね。…ロンドは、何か貰ったみたいだったけど……?」
「ああ。何か熱持った曲刀くれた。止めを刺したのが俺だったからかな」

 ≪サンブレード≫と銘打たれたそれは、恐らくは南の巫女の愛用する武器だったのだろう。
 古代には大いなる力があったに違いないが、さすがに数千年の時を経たせいか、今ロンドが武骨な手で鞘から抜いた刀身は陽炎を立ち昇らせるくらいである。
 ロンドはいざ禍神に止めを刺す時が来たら使おうと、それを鞘に戻しベルトに手挟んだ。

「それじゃシェトの所に行きましょう、皆さん。彼女の”鍵”を得て、神を倒さなければ」

 ウィルバーの言葉に、一同が頷いた。
 似たような色調の柱の立ち並ぶ中を、駆けるようにして生きている巫女の元へ戻る。
 いよいよ――シェトからの許可を得て、神と戦うのだという緊張感が彼らを包んでいた。

「鍵を集めたようですね」

 仮面のように凍りついたかのような清楚な面だったが、それに同様の気配も見せずにシェトは言った。

「さあ、約束だぜ。アンタの鍵を渡してもらおうか」
「……それには及びません」
「どういうこと?」

 アンジェがきょとんとした表情でどんぐりのような目を瞠っているのに、シェトはそっと応えた。

「……私も共に行きます」
「ちょっと、シェト!分かってるの?私たち、あなたがあんなに恐れていた禍神と戦いに行くのよ!?」
「これらの鍵は、イェルマの、ガイラの、ティスの、想いです。皆があなた達を……未来を切り開くことを選んだのです。私だけ知らぬ顔はできません」
「運命を、自分の手で変えるおつもりですか?」
「……これは私の運命にも大きくかかわることです」

 直答は避けたものの、シェトのウィルバーの質問に対する意図は明らかだった。
 彼女もまた、これから自分で道を切り開くつもりなのである。
 2人の間に余人には分からない目配せが交わされた後、シェトはリーダーであるシシリーに向き直った。

「ご迷惑とは思いますが、どうか一緒に…」

 シシリーは数千年の決着をつけようという並々ならぬ覚悟を感じ取って、シェトの同行にゆっくりと首肯した。
 彼女は自ら先に立ち、スッと腕を上げて行き先を示した。
 その声は凛と通路に響いた。

「さあ、行きましょう。封印した階段は、この階の十字路にあります」

2016/04/14 13:11 [edit]

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