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Thu.

時の囚われ人その1  

「どうしようか。あと銀貨が400枚とちょっとしかない…」
「ちょっとって言うか、404枚しかない…」

 どよーんとした顔でパーティの共有財産用の財布を見ているのは、アンジェとロンドである。
 このたびの旗を掲げる爪たちの財政は、いつにないピンチを迎えていた。

時の囚われ人

 上がった実力に合わせて、各自の技術を色んな店で買い漁ったのだが、高価なものを購入してしまったがゆえに、残りの銀貨が上記2人の言うとおりになってしまったのである。
 アンジェはキッと兄同然の男の顔を見上げた。

「他人事みたいに言わないでよ!兄ちゃんだって1800枚も使ってきたじゃない!」
「……お前だって、定価より100枚上の値段を払った技術だったんだろ?」

 ついには額を突きつけて睨み合い始めた両者の襟首を、無造作に掴んで引き剥がすに至った。

「ひどいよ、姉ちゃん!痛いって!」
「首絞まった…ガってなって息できなかった…」
「2人とも、いい加減にしなさい。全員で技術習得してたんだもの、そりゃお金は減るだろうと予測してたわよ。むしろ、借金までいかなくて助かったじゃないの」
「でもでも、これじゃツケ生活になっちゃうよー!」
「だから、それを回避するために仕事やるんでしょ!……どう、テーゼン、テア。いいのあった?」

 宿の亭主と綿密な相談の上、羊皮紙の束を分割して捲っていた2人だったが、テーゼンが訝しげな顔になって優雅な白い手を止めた。

「ん?この貼り紙、依頼じゃないようだな」
「ああ、それか。お前たちが出かけてるときに出ていた依頼のものだよ」

 亭主の返事に興味をおぼえ、テアもその用紙を覗き込む。

「見たところ、遺跡の発掘調査のようなんじゃが…」
「トトゥーリア地方で、遺跡が見つかったんだよ。かなり大規模なものらしくて、研究チームが組まれ、人数が揃ったとたん、すっとんでったってわけだ」
「トトゥーリア地方…聞いたことないな」
「確か、今はよく知らんが、昔は砂漠のあるところだったと思うんじゃが…」

 首を傾げるテーゼンが疑問を投げかけると、テアは楽器ケースから自分の新しく習得した楽譜を取り出した。

「ほれ、この【赫灼の砂塵】を作ったのが、そのトトゥーリア地方の出身者だったはずじゃ」
「へえ、砂漠の土地か。今まで行ったことねえな」
「そういえばそうね。私たち、結構色んなところに出かけていると思ってたけど」
「でもなあ…話を効く限りじゃ、俺たちが稼げるような仕事ではないんじゃないか?」
「わりと近いし、依頼とは関係なく、他の冒険者たちも出かけているぞ」

 ロンドの言葉を耳にした亭主が口を挟んだ。
 この貼り紙における人員募集は終了しているが、これにより遺跡の存在を知った目端の利く冒険者のパーティが、いくつか現地に向かっているそうである。

時の囚われ人1

「そうか。まだ発掘の手が入っていないところだったら、なにか面白いものが見つかるかもしれないしな」
「お前たちも行くか?」
「えっと、ちょっと待って。おっちゃんってどこ行ってるの?」
「ウィルだったら、テーブル山天体観測所って所に行ってる。そこで新しい魔法を習ってくるんだって」
「ちなみに、ウィルバーも1800枚銀貨持ってったわ…」

 半分目が死んでいる状態のシシリーが言った。
 どうやら、金額について互いに相当やり合った後だったらしい。
 その様子にちょっと引きつつも、アンジェはフォウであるスピカや妖精ムルに声をかけてみた。

「ね、砂漠行ってみない?暑くて砂がいっぱいなんだって」
「私は、ご主人様が赴かれる土地ならどこにでも行きます!」
「砂がいっぱい……森とは全然違う風景のようですね。興味があります」
「良かった!姉ちゃん、皆大丈夫だってー」
「……お前たちのパーティは、魔術師の意見は聞かないことになってるのか?」
「言うてくれるな、親父殿。おちびちゃんたち3人がこう、と決めたことを覆すのは、あの男には重責というだけなんじゃ…」
「そうか……まあ、行くなら早くした方がいいぞ。掘られちまった後じゃ、瓦礫くらいしか手に入らないからな」

 亭主によると、トトゥーリアは交易都市リューンから10日くらいの距離にあるという。
 頑張っていいものをゲットして来い、と励ましてくれる見慣れたハゲ頭に感謝しながら、彼らはウィルバーの到着を待ち、出発することにした。
 道中、いきなり大雨に見舞われて郊外の村で足止めされたものの、それも3日ほどで交通可能となり、旗を掲げる爪はトトゥーリア地方へと入った。
 トトゥーリアは、かつて砂漠だったというテアの話の通り、なるほど緑は少なく、黄色の地肌があちらこちらに露出している。
 雨は引いたもののまだ太陽は隠れており、曇天の重さが際立つために、良い景観とは言いがたかった。
 ずるずると足を取られる地面に、テーゼンが眉をひそめる。

「このへんは、ほとんど雨が降らないと聞いてたんだが……ついてないな、まったく」

 貼り紙にあった遺跡も、すでに調査団や関係のない冒険者たちが各自で調査(あるいは物色)しており、宝であれなんであれ、同じ場所で探索しても成果は期待できそうにない。
 ひとしきり辺りを見てきたアンジェやテーゼンの報告に、スコップを地面に深く突き刺したロンドが唸るような声をあげてから言った。

「さぁて……どうするか。このまま手ぶらで帰るのもつまらないしな」
「とはいえ、他の人たちと同じ所をウロウロしても意味ないし……。そうね、遺跡があるくらいだから、その周辺にも何かあるかもしれないわね。ちょっと探してみる?」

 リーダーの言葉に仲間たちは首肯した。
 研究チームとは離れた、山の麓……遺跡のある辺りや他の平地と比べ、多少は植物も多く茂っている。
 植物など見られないのだろう、と予測していたムルなどは、意外と生息していた緑の様子に目を見張っている。
 故郷の森とは大分違う植生のはずだが、それでも街中で過ごしていてはなかなか見られない木々の様子が嬉しかったのに違いない。
 あちこちを物珍しそうに観察する妖精と、ひらひらと舞うランプさんを引き連れて探索をしていたアンジェだったが、やがて泥に汚れた潅木をかき分けていると、洞窟の入り口を発見した。
 おそらく、近年まれな大雨が周りの土砂を流したせいで、地表に現れたものだろう。

時の囚われ人2

「見つけたわ!こんなところに、洞窟が!!」

 子供の歓声を聞きつけて、他のメンバーも集まってくる。
 アンジェは全員が集まる前に、ランプさんにお願いして入り口から少し奥を照らしてもらったが、まだまだ行き止まりや扉、階段などが見える様子はなかった。

「けっこう深そうね…どうする?」
「どうするもなにも、入るに決まっているだろう」

 一番近くにいたために、すぐ彼女の方へとやって来たロンドが応えた。
 そのちょっと後方には、一緒に探索していたらしいウィルバーも向かってきている。

「未知の洞窟があるっていうのに、ここで引き返したら、冒険者の名が廃る」
「賛成です。…というか、危険かどうかすら、まだ我々には分かりませんからね」
「そうだね。あ、姉ちゃん、婆ちゃん」
「入り口ってこれ?」
「ほほう……なるほど、雨で隠れていたのが出てきたんじゃな」

 ふわり、と彼らの視界が翳った。
 上を見やると、ちょうどテーゼンが空から降りてくるところである。
 彼は人形のように端整な面に微笑みを浮かべると、他の冒険者たちはこっちに来る様子はない、と仲間たちに告げた。

「あら、どうして?」
「研究チームのほうは研究チームで、何やら碑文ぽい物が見つかったって大騒ぎさ。あの辺りに何かお宝があるんじゃ!って気になってるから、とてもこっちまで足は伸ばさねえだろうよ」

 他の同業者たちがその様子なら、旗を掲げる爪がじっくり調査をしても、ここにやって来て妨害される心配はないだろう。
 隊列をアンジェ・テーゼン・ロンド・テア・ウィルバー・シシリーの順に決めると、シシリーは先を照らす役目をスピカに、パーティの上方を照らす役目をランプさんに振って、洞窟へ入ることにした。
 洞窟の入り口は乾いていて、手をついた部分からさらさらと砂利が壁を伝う。
 そして驚いたことに、入り口こそただの洞窟ではあったが、中に入ると、そこは明らかに人の手によって作られた建築物であることが分かった。

「でかっ。中、思ったより大きいっ」
「ははあ、古代遺跡のようですね……私が学んだ、一般的な遺跡とは違う様式のようですが……」

 金色がかった石で出来た大きな柱が立ち並んでいるのを、罠がないのを確認してもらってからウィルバーが撫でる。

「これは……すごいですね。全て同じとまではいきませんが、なるべく違和感を感じさせないよう、揃った色調の石を選んで作ってあります。しかもかなり丁寧な仕事のようですよ」
「見て、精緻な細工。あんなことが人間に出来るのかしら…」

 シシリーが指摘した床や、あるいは壁・天井に至るまで、実に細やかに装飾が施してあった。
 しかも数百年……あるいは数千年も前の遺跡のはずなのに、古びてはいるものの、朽ちている様子はまるでない。

「でもね、ここら辺には隠し部屋とかないみたい。奥へ行こうよ」
「そうだな。ほら、ウィルバーさん、シリー」

 ロンドの促しに同意し、一向はさらに奥へと歩を進めた。
 一度右への曲がり角を通り、装飾の多い床をしばらく行くと地下への階段を見つけた。
 外のむっとするような熱気は進むほど感じなくなってきていたが、地下はさらに室温が低くなっているようである。
 旗を掲げる爪が、足を滑らせないよう注意し合いながらゆっくりと下りていくと、最初に降り立ったエリアは十字路となっていた。
 アンジェがすぐ床の様子を調べてはみたが、特にどちらが磨り減っているとか、泥がついているとかいう様子は見られない。
 どちらに行くべきかしばし迷っていると、テーゼンがふと顔を上げてじっと一方を睨み付けた。
 彼の白い美貌は、東の方を向いている。

「どうしたの、羽の兄ちゃん?」
「……なんだかよく分からんが、人間じゃないっぽいのがこの奥にいる」
「ええっ!?」

 驚いたシシリーが金の聖印を握り締め、法力を集中させて【正邪感知】を行なったものの、それにひっかかる気配はない。
 竜の牙から作られる焦点具にも何の反応もないことを確認したウィルバーは、危険なものなのかとテーゼンに問うた。

「いや…そんな危ないヤツじゃねえみたいだ」
「では、そちらに移動してみましょう。話が通じる相手であれば、人でなくとも貴重な情報を仕入れることができるかもしれません」
「うーん。…まあ、【正邪感知】にも引っかからないのだし、そうしてみましょうか」

 テーゼンが感じた気配が何であるかは不明のまま、一同は用心しながら東への通路を進むことにした。

2016/04/14 13:01 [edit]

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