Sat.

誘いのうたその3  

 赤、と呼ぶには少々褪せたような、違う色が絶妙に混ざっているかのような羽毛。
 同じ色の髪の毛は長く風に靡いており、さやさやと不思議な衣擦れに似た音を立てている。
 上空から舞い降りたその異形の鳥の娘は、丸い眼をゆっくりと瞬かせて彼を見つめていた。
「う……」

 それに呑まれたように、彼はニ、三歩後退する。

「るるりら りろりろ りろりら~♪」

 後退してしまった彼を惹きつけるかのように、鳥の娘――ハーピィは甘い声で囀った。
 だが…胸にあった南瓜が仄かに瞬き、本人も知らぬうちに彼は歌に抵抗していたのだった!

(と、とりあえず俺はまだ正気…だよな?となれば、ここは相手を引きつけて…)

 ぴくり、とハーピィの右の眉が上がる。

「……?」

 ロンドの殺気に気づいたのか、ハーピィがわずかに怪訝の表情を強めた。
 ヤバイ――と焦った心で、ロンドはすぐさま得物を――普通の道具に見せていた、焔を上げるスコップを振るう――!

「はあああッッ!!」
「――…!」

 しかし、ほんのわずかに相手が速かった。
 ロンドのスコップの切っ先は、ハーピィの翼を掠っただけに留まる。
 舌打ちをしたロンドは、すぐさま武器を構え直し、さらにハーピィへ追撃を行なおうとした。
 その瞬間――耳栓をしていてもなお聴こえる、つんざくような怪鳥音に、慌てて踏み止まる。

「ぐ……ッ?」

 ハーピィの謎の行動に警戒を強めるも、ロンドには特に何も起こらない――ように見えた。
 ふと、上空が翳る。

「は……はあああああッッ!?」

 それも道理、なんと今の怪鳥音でハーピィは6匹もの仲間を呼び寄せたのである。

「オイ……ハーピィが七匹もいるなんて聞いてねえええッッ!!」

 突如として現れた大量のハーピィに、ロンドは泣きそうになった。
 いつもなら強敵は彼にとって嬉しい贈り物でしかないのだが、今回の相手は勝手が違いすぎる。
 力押しよりも搦め手でかく乱してくる上、何しろ、狙われているのが自分の貞操――それも捧げ終わったら食われてしまうのだ。
 こればかりは勘弁して欲しかったが、目前の無情な現実は変わらない。
 一方、その様子を遠距離から発見していた仲間達も、ハーピィが複数現れたことに対して慌てていた。

「ちょっと!ハーピィがあんなにいるなんて聞いてないわよ!」
「なるほどのう。だから、何度も村人を攫っておったんじゃな……」
「婆ちゃん、それより早く兄ちゃんに加勢しないと」
「少々待たれい」

 テアは頭の中で素早く計算をめぐらし、誤爆の少ないこの場で何名かがロンドへの援護を行ないながらハーピィに近づくよう指示をした。
 今のロンドは、いつもの分厚い鎖帷子ではなく、村人の服しか装備していない。
 そんな状態で幾度もハーピィの爪の攻撃を受ければ、仲間が辿り着く前に倒れてしまう。
 そうならないよう援護をするものと、真っ先に攻撃目標を散らすために駆けつけるものとに分かれてほしいと言うのだ。
 ウィルバーがすかさず言った。

「ではこちらが魔法による援護をしましょう。遠距離攻撃なら私の得意です」
「頼むぞ。では他の者は――」
「一刻も早くあの場に駆けつける、と。よし、行きましょう皆!」

 仲間たちの戦闘指令が定まったその時、ロンドはぴよぴよと泣きながら近づこうとするハーピィたちを睨みつけ、必死に間合いを計っていた。

(落ち着け…大丈夫だ、いつだって俺はピンチを潜り抜けてきた。それに、きっと皆来てくれる!)

 深呼吸をひとつ。
 それだけで、頭が明瞭に澄み渡る。
 先ほどまでとは違う高揚感が湧き上がる。

誘いのうた5

「俺を簡単に殺れると思ったら大間違いだぜッッ!!」

 幾度も眠らされ、魔法により貫かれ、爪で引っかかれ……。
 ウィルバーの必死の援護もなんのその、7対1の戦いはロンドをボロ雑巾のように引き裂いた。

(こんなもん…テーゼンとの殴り合いに比べたらッ!)

 ハーピィの一匹が放った【魔法の矢】で貫かれ、大きな体が吹っ飛ぶ。
 それでも彼は懸命に急所へ当たらぬよう攻撃を逸らし、傷を庇い、血だらけになりながらもなお立ち上がったのである。

(テア婆さんとウィルバーさんが、こんな俺を放置するような真似はしない…!)

 鉤爪つきの蹴りを顎に食らい、がくん、と意識が沈みそうになる。
 歯を食いしばってそれを我慢していると、今度は横から嘲笑混じりにタックルされ、体を丸めて勢いをぎりぎりまで殺した。
 鼻から溢れている血を乱暴に拭う。
 今のロンドには防具と呼べる物もないが、何とか持ち前の生命力の強さで斃れずに済んでいた。

(そろそろ……来いよ、シリー、アンジェ!!)

 彼への救いの手は――。

「お待たせ、ロンド!」

 果たして金髪の聖北教徒の姿として、もたらされた。

2016/04/09 12:36 [edit]

category: 誘いのうた

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